転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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眠眠なんとか

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「旦那様。戦後処理の決済に続いて、ロムスタ伯爵に勝った我が領と交易を広げたい領、そして商人共の挨拶が立て続けに予定に入っております」

ロッゾは決裁書の山を執務机におく。
どさりと、重い音がなった。
これらの処理に、いったいどれだけの時間がかかるだろうか。

「それと、今回の事でお嬢様との婚約を望む領が一気に増えました。もっとも魔の森深部の素材を流した辺りから増えつつありましたが」

「勢いのついた領主とは難儀な物だな。娘を政略で考えなねばならくとは。しかし、マリアの婚約は誰とも認めぬ」

私は、ため息をついてロッゾに答える。

「仮にでも一人決めてしまえば、良い盾になりますかと」

ロッゾがパンパンと手を鳴らせば、元孤児の騎士であるバッシュが紙の山を抱えて入ってきた。
どさりと執務机に置かれる、更なる資料の山。

「お嬢様と婚約を望む商人や貴族のリストです」

「商人もか? …見るだけで一苦労ではないか。ロッゾ、私は今、精霊の実体化に時間をかけねばならぬ」

私は顔をしかめた。
我がモールド伯爵家は、魔の森深部の魔物の素材を扱うまで、貧乏な名ばかり伯爵だった。
そのような追い詰められた貧乏貴族に、血縁を求める成り上がり商人が婚姻を申し込むのだ。
しかし、モールド伯爵家は魔物の素材を扱うようになり、今では財政は改善され、伯爵位の中でも豊かと言えるほどになりつつある。
商人に娘をやる必要はない。

「国外からの打診もあり、厳選してこの量となってしまいました。お目通しをお願いします」

ロッゾが有無を言わさぬように私を説得してくる。
厳選してこの量だと…。
元はいったいどれほどの量だと言うのだ。
何時の間にか愛娘のマリアはモテ期に入ったようだ。
これは王立学園で、駆除しなければならない害虫の量も増えるだろうな。
私の心に怒りの炎が薄暗く灯った。

「それに…精霊魔法ですか、旦那様」

ロッゾはそう呟くと、胸のポケットから大きな葉っぱの傘を持つ小人の少女を取り出し、執事机に置いた。
異国の民族衣装を来た薄紫色の髪をしたその小人の少女は、ロッゾに向かって万歳をしている。
どうやら、小人は胸ポケットに帰りたいようだ。

何時の間に精霊の実体化に成功したのだ…。
それは自慢のつもりか? ロッゾ。
だが、私は屈しないぞ。
私も直ぐに精霊の実体化に成功してみせるのだから。

「コルコニ。人を倒せるような精霊魔法は使えますか?」

小人の少女は両手を広げ、空中に雪の結晶を発現させる。
ひんやりとした空気が私に流れてきた。
そうして小人の少女はロッゾの質問に首を振り答えた。

「旦那様、精霊魔法はお嬢様の使う物以外は、児戯に等しい魔法。訓練のいかんによってはわかりませぬが。それよりも今は…」

ロッゾは再びパンパンと手を大きく叩いた。

元孤児の騎士であるドーガと、トール。
他のマリア親衛隊の面々も執務室ゾロゾロと入ってくる。
いずれも私に劣らぬ屈強な騎士たちだ。
私は何事かと目を細めた。

「探せ。持っているハズだ」

ロッゾは、マリア親衛隊に何かを探すように命じた。

「失礼致します、ご当主様」

「な、なにをする!」

私が内ポケットに隠していたソレは、あっけなくマリア親衛隊の手に渡った。
耐トレーニング魔力回復薬SP。
精霊の実体化の練習に必須な魔力を、即時回復してくれる魔法の秘薬だ。
ちょっと一時的に気分がハイになって政務が出来なくなってしまう副作用はあるが、精霊の実体化に挑戦したい騎士団の中で奪いあいになっている物を秘密裏に確保し、隠し持っていたのだった。

「か、返せロッゾ! 私は精霊の実体化に成功せねばならぬのだ! 父としての威厳のためにも!」

「ここにも有りました!」

「ここにも!」

「こんな所に!」

「旦那様…。政務が終わるまで、全ての秘薬と大剣は預からせていただきます。というか何故、大剣を執務室に持って来ているのですか」

精霊付きの武具がなければ、精霊とは離れ離れになる。
精霊付きのロングソードをロムスタ伯爵に奪われたルークのように。

「ダメだ! トータスは寂しがりなんだぞ! 私とトータスは離れられないんだ!」

「…持っていけ」

哀れトータスの住み家と秘薬は、マリア親衛隊の一人に持っていかれてしまう。
マリア親衛隊とロッゾと私、そして政務に必要な資料や決裁書の山だけが執務室には残された。
呆然とする私。
ロッゾは遠くを見るような目で私に告げてくる。

「旦那様、お嬢様から政務用に調整した、何日徹夜でも仕事の続けられる特別な秘薬を預かっております…。その名も眠眠レッド・リポモンス⚪ター秘薬」

「なんだ、その、この世の悪夢が全て詰まったような秘薬の名前は! そのような効能があってたまるか!」

「ささあ、御当主様。グイっとひとのみに」

マリア親衛隊の面々が、私の身体を抑えて、悪夢の詰まった秘薬を手に持たせてくる。
いやだ、いやだ、いやだ。
そんな薬あってたまるか!

「ロッゾ! 裏切ったな! ロッゾ」

「旦那様…。ロムスタ伯爵さえ攻めて来なければ…本当にお痛わしい」

気づけば、肩に乗せた小人の少女に慰められながら、ハンカチを手にロッゾも涙を流してした。
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