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ニコラスさん
しおりを挟む「なんでこいつがここに居るんじゃ?」
「アロンソさんは、私たちの話し合いにどうしても参加したいそうなんですの」
「硬い事言うなって。一匹狼のニコラス爺さんじゃ、情報網の作り方なんてわからないだろ?」
「不良崩れが…。何が一匹狼じゃ。お前さん、情報網なんて欠片も想像出来ん癖に」
商人ギルドから紹介された物件には伯爵家に相応しい物はなく、モールド伯爵家の王都の邸宅はこじんまりとした物になった。
もっとも、私としては希望通りだったりするのだけれど。
これだけでは手狭と、私たちは市民街にも別館を買った。
市民街の別館を紹介してくれたのは、情報屋のニコラスさんだ。
背筋はピンして、くすんだブロンド髪と、もっさりとした白髭を蓄えた、飲んだくれのお爺さんがニコラスさん。
ニコラスさんは大店のご隠居さんで、色々なところにコネを持っていて、趣味で幅広く情報を取り扱っているそうだ。
情報を取り扱うのはあくまで趣味なので、情報を貰えるかどうかは、私がニコラスさんのお眼鏡に叶わなければならなかった。
そこでアロンソさんに紹介されたニコラスさんと私が話した所、妙に気に入られて、情報のやり取りだけでなく、王都でのモールド伯爵家の情報網をどう構築したら良いか相談し合うようになったのだ。
どうも私は商人に好かれる体質らしい。
ニコラスさんが通い易いよう、話し合いは、市民街の別館でするようになった。
そして今回、私とニコラスさんの話し合いをどこから聞きつけたのか、アロンソさんが別館での話し合いに参加したいと申し出てきたのだった。
「…お嬢様、追い出しましょうか?」
「それなら私にお任せあれです」
青髪のオールバック。
渋おじのモールド伯爵家の執事ロッゾが怪訝な顔で私に聞いてくる。
黒髪黒目、長身の美少女侍女のユリシーズがにこにこと実力行使なら、自分に任せろと主張してくる。
それはそうだ。
私とニコラスさんの話し合いとは、つまるところ、モールド伯爵家が王都での情報網をどう構築するかを話し合う、秘密の会議なのだから。
本来アロンソさんはお呼びではない。
「大丈夫ですわ。アロンソさん、モールド伯爵領の秘密のお話し合いを聞くからには、何か協力をしてくれるのでしょう?」
「そりゃ無料って訳にはいかねぇだろうが、俺はいつの間に仲間ハズレになったんだい?」
「そりゃ、始めからに決まっとる」
「アロンソさんは、得体の知れない貧民街の主ですから」
私とニコラスさんが深く頷きあい、アロンソさんが顔をしかめる。
「そのニコラスを紹介したのは俺なんだが…?」
「紹介の報酬は払いましてよ? その後ニコラスさんと私がお友達になったのは、アロンソさんがお金で紹介して下さったからではなく、私の人柄故にです」
「貴族から金を貰って情報屋を紹介しただけで、いきなり貴族の仲間入りにはならんだろう。バカ垂れめ」
「はいはい、お二人とも随分息があってるようで」
ニコラスさんを紹介したんだから俺も仲間だろという主張が検討違いだと指摘されて、ニコラスさんは、肩を竦めて両手をあげた。
「で? 嬢ちゃん。俺は話し合いに参加するのに、いったい何を協力したら良いんだい?」
「私、ニコラスさんから、貴族が情報網の構築するには、一般的には商人か冒険者を利用すると聞きまして」
「…そりゃそうだろうな」
「そうなると王都では、商人ギルドと同じように、冒険者ギルドもロムスタ伯爵の息がかかってる事になるでしょう?」
商人ギルドは、モールド伯爵家に王都の邸宅をまともに紹介しなかった。
その裏はもう取れた。
今は商人ギルド内のいったい誰が、モールド伯爵家と敵対したいのかを絞り込む段階だ。
では、二大情報網の片割れである商人ギルドがダメなら、もう一方の冒険者ギルドはどうなのだろう?
ロムスタ伯爵が商人ギルドに手を出したのに、王都の冒険者ギルドに手を出していないなんて事はあるのだろうか?
「カッカッカ。マリアさんは実に良い物の見かたをする。なぁアロンソ、面白いじゃろ?」
ニコラスさんは我が意を得たりと笑い出す。
「…王都の冒険者ギルドが? まさか。冒険者ギルドってのは、自前の武力を持ち、国々を跨いだ国から独立した組織なんだぜ? 冒険者個人ならともかく、冒険者ギルドが一貴族の思い通りになる訳が無ぇだろ」
「それは王都の商人ギルドの掲げる看板も同じ事ですわ。たとえそれが建前だとしても」
商人ギルドは、各国に武力を持ち込まない事によって、その活動を保障されているのだ。
武力を持っている貴族の影響を受けやすいのは間違いないけれど、各国から独立した組織であるという名目は、冒険者ギルドだけではなく、商人ギルドにもあるのだ。
「だが商人とは違って自前で武力を持つ冒険者ギルドが…。いや、そうなのか? ニコラス」
「わからん。ワシは想像もしてなかった。しかし、ロムスタ伯爵がこの国の情報を一手に管理したいとなると、商人ギルドと同じように、冒険者ギルドを狙うのは必然だとマリアさんに気づかされてな」
「…それで? 俺には何を求めるんだ?」
「もしも冒険者ギルドがロムスタ伯爵の手先になっているならば、冒険者ギルドに匹敵する新しい冒険者の組織が必要になるとは思いませんか、アロンソさん?」
「もしもって…、そん時はウチの国だけ冒険者ギルドと別の組織をつくるってのか? そのもしもなんて事が、無ければ良いな」
「ですので、冒険者ギルドがロムスタ伯爵家と繋がっていないかを調べるため。そして、もしもの時は冒険者ギルドに匹敵する組織を作れるような、力ある冒険者がモールド伯爵家には必要なのです」
「ウチの組員に冒険者になれっていうのか? 強さにはまぁ自信はあるが…、一流の冒険者ってのは本当にとんでもねぇ化け物だらけなんだぜ嬢ちゃん? 知らねえだろ?」
「その点は心配なく。モールド伯爵家が責任を持って、アロンソさん一家を鍛え直しますから」
人を強くするトレーニングに自信はある。
私はアロンソさんににこりと微笑んだ。
「鍛え直す程度で…。まぁ良いか。それでモールド伯爵に敵対した商人ギルドは? モールド伯爵は商人ギルドをいったいどうするつもりだ?」
「それはこれから集める情報次第ですわ。もっとも、表立って貴族と敵対したからには、責任の取り方という物がありますけれど」
「…商人ギルドはやり過ぎたな。戦で負けたロムスタ伯爵のために、モールド伯爵家を王都で虚仮にして、いったい商人が何を手にするというのか」
ロムスタ伯爵が、どのような手を使って商人ギルドの上層部と繋がりを持ったのかはわからない。
そして現状、王都に大きなコネのないモールド伯爵家には、商人ギルドに思い直しを諭すことも、商人ギルドに匹敵する組織を作る事も出来ない。
選択肢は一つしかなかった。
「商人ギルドへの報復か…」
「もし商人ギルドが今回の落とし所を考えていなければ、当然そうなりますわね」
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