転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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新人の冒険者三人組

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市民街にあるモールド伯爵家別邸。
広い中庭を備えるその邸宅は豪商が住んでいたせいもあって、市民街の中では貴族の応接も出来る豪華なつくりになっている。
情報屋のニコラスさんに紹介してもらった家だ。
私が今日市民街の別邸に来た理由は、アロンソさんに紹介してもらった新人の冒険者たちに挨拶するためである。
普通、冒険者たちは三人から五人のチームを組む。
前衛が二人、中衛が一人。
全員がまだ若い男性。
それがアロンソさんから紹介してもらった、新人の冒険者チームだった。

「私が雇い主のマリアです。皆さんこれから、よろしくお願いします」

アロンソさんによると、自分たちには他に仕事があるため、直接戦力は貸せない。
少なくともモールド伯爵家自らが、特別な力を持つような冒険者を育てた実績がなければ。
という事なので、これから私たちはこの三人を育てる事になる。
モールド伯爵領式トレーニングによって手に入るであろう実力を、三人が気に入るかどうかにもよるが、とりあえずは長期契約だ。

「私はストーン。剣士をやっています」

「ウッドだ。槍使い」

「斥候のグラス。よろしく頼むぜ」

三人は同じ出身なのか、エキゾチックな民族衣装を身にまとい、同じブラウンの髪型をしている。
礼儀正しそうなのが、ストーンさん。
寡黙で一人だけ背の高いのがウッドさん。
明るい性格のグラスさんだ。

「彼がこれからあなた達を育てる教官ですわ。トール、出来るわよね?」

雪は溶けて、風は暖かくなり、春の芽吹きがしている。
王立学園への入学の迫っているこの時期、彼らを訓練している時間は私にはなかった。
そのため、トールが身分を隠して、彼らの教官をしながら、共に冒険者活動をする予定だ。

「僕がトールです…。よろしくお願いします」

背丈は小さく自信のなさそうなトールを見て、意外そうな顔を向ける冒険者の三人。

「「「よろしくお願いします、剛剣のトールさん」」」

「…剛剣?」

「アロンソの兄貴に聞きました! とんでもなく、荒々しい剣を使う騎士がいるって!」

「ペレスさんに勝っちまうなんて! トールさんは俺達の憧れっス!」

「えぇ…」

興奮してトールをまくし立てる冒険者の三人。
トールは人となりが弱気だから、ちょっと心配だったけど、どうにかなりそうだね。

「はい。話はそこまで。今からあなた達を強くするため、必要な質問をします。良いかしら?」

私の言葉に無言で頷く冒険者の三人。

「皆さんきちんと答えてくださいましね? 下手をすれば命に関わりますので。今まで悪い事をした事はあります? 具体的には犯罪の類いです」

私がそう聞くと、冒険者の三人は顔を見合わせる。

「私は無いぞ? ストーン、グラスお前たちはどうだ?」

「少しだが物盗りならやった事がある」

「王国の定める法に反する事か? 細かい事ならあるかもな。そもそも俺たち孤児だぜ? そんなに上品な類いの生活なんてしていない」

冒険者の三人は孤児で、ストーンさんは大丈夫と言い、ウッドさんとグラスさんは身に覚えがあるらしい。
反省なく重い犯罪をしていると耐トレーニング秘薬は使えないが、軽い犯罪なら矯正はできる。
多分大丈夫かな?

「三人はどこの出身なのかしら?」

「セントロです。私たちがまだ小さい頃、大きな寒波で家畜が沢山死に、セントロにはたくさんの難民が生まれました。その混乱で親を無くした孤児がたくさん出来たんです」

ストーンさんが3人の代表として話すようだ。
王国の北には、セントロと呼ばれる草原が広がっていて、決まった国家を持たない複数の民族が住んでいる。
彼らはそこの出身らしい。

「それは大変でしたわね。それでセントロから、この王都まで来たんですの?」

「はい。村と仲の良い商人に連れられ、運よく王国の孤児院に入りました」

「王都の孤児院を私は知らないけれど、良いところなのかしら。アロンソさんとは孤児院でお知り合いになりましたの?」

「孤児院は良い先生が居るので。俺たちの恩人です。アロンソさんは孤児院に支援してくれて、時々戦い方の指導もしてくれるんです。孤児にはつける仕事があまりないので、こうして冒険者をやっています」

ストーンさんは周りの人に感謝してる事を口にする。

「素敵な孤児院ですのね。皆さんが悪い人では無さそうなのは、わかりましたわ。トール? 命の心配までは無さそうです。さっそくトレーニングしてみましょう」

「さっきも聞きましたが、命の心配ですか…?」

「セントロにはスエナレの聖人メガバイト様の言い伝えはありませんの? 悪行を重ねた人に女神は決して奇跡を起こさない」

「セントロにも言い伝えはありますが、ただのおとぎ話だと思っていました」

「モールド伯爵家のトレーニングで使う特別なポーションは、女神様の祝福を残した物です。悪人は苦しみ、時に命を落とすこともあります」

私の言葉を聞いたストーンさんは、ウッドさんとグラスさんに目をやる。

「お前ら、本当に大丈夫だよな?」

「大丈夫だ…多分」

「女神様に断罪されるのかよ…。俺はちょっとヤバいかもしれねぇ」

不安そうな冒険者の三人。

「これが耐トレーニング秘薬(淡)です。ちょっと危ないかも程度の罪なら、ほんのりと苦しいだけで大丈夫です。いつか品行方正な冒険者に生まれ変われます」

「苦しんで生まれ変わるって…」

私は後ろに控えるロッゾから薬を受け取り説明する。
ドン引きする冒険者の三人。
うんうんと深く頷くトール。

「では、モールド伯爵家のトレーニングに必須のこのお薬。皆さん、一度飲んでみてください」

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