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こちらダンジョン
しおりを挟む世にも珍しい精霊付きのロングソードの刃を立て、大柄な人型の化け物に袈裟斬りで切りかかる。
珍しいといっても、精霊付きのロングソードに武器としての特別な能力はない。
普通の武器より多少頑丈で、魔力を流せば修復される程度の物だ。
元が名刀ならともかく、数打ちのロングソードに、精霊が付いた物なら威力の程もお察し程度しかないのだ。
肉を断ち切れない、鈍い感触が手に伝わる。
直ぐにロングソードを引いて突きを人型の化け物に繰り出すも、皮膚を突き破る感触はなく、肉の弾力に阻まれ押し戻される。
「アイゼン先輩!」
俺をフォローしてくれるのだろう、後輩の声が側面から聞こえた。
「…次の攻撃の後、下がる!」
俺が分かりやすく横薙ぎを繰り出す構えをすれば、大柄な人型の化け物は相討ちも厭わずに棍棒を俺の頭へと叩きつけてきた。
「アイゼン、強サダケナラ騎士ノ試練、受ケル資格アル」
ロングソードから聞こえる声を無視して、降りかかる棍棒に横薙ぎをぶち当てる。
一瞬の膠着の隙を見て、後ろにステップを繰り返せば、詠唱は既に終えたのか後輩の右手には可視化された魔力が集まっていた。
「アイスランス!」
極寒の冷気を帯びた一条の氷が縦に広がりながら、化け物へと伸びていく。
たどり着いた氷が化け物の肩肉を切り裂き、傷口の周りを凍らせていく。
俺は氷の魔法に驚く化け物の視線の反対側へと移動し、ロングソードを上段に構え、走りだした。
「オオオォっ!」
気合い一閃。
化け物の首筋にロングソードを叩き込んでやる。
ちょうど良い具合に入ったのか、化け物の傷からは黒い血が吹き出した。
「アイゼン先輩…。久しぶりのダンジョンなんですから、もっと良い武器使ってください」
勝負あったと、安堵した声をあげながら俺を批難する後輩は、王立学園騎士部の部長であるリチャードだ。
リチャードは強力な氷魔法の使い手で、子爵家の出身にも関わらず実力だけで伝統ある騎士部の部長になった。
その天才君は、ボロボロと黒く崩れる人型の化け物から何かドロップがないか確認している。
現役の王立学園の騎士部に頼み込んで、王都のダンジョンに挑戦したというのに、この体たらくだ。
より良い武器を使えば、楽に勝てたろう。
後輩の批難は、至極真っ当な物だった。
「すまんな。ロムスタ公からの命令なんだ」
俺は片手で謝る。
俺だって、本来ならこんな数打ちのロングソードなんて使いたくないんだけどなぁ…。
「それに悪い武器でもないんだぜ?」
「付与魔法ですか? どんな効果がついてるんです?」
「…頑丈と修復だが」
騎士の道を説いてくれるゴブリンの精霊がついているんだよ…とは言えんよなぁ。
この精霊付きのロングソード、ロムスタ伯爵陣営で精霊を使える騎士が俺の他には居なかった。
なので珍しい物として王家に献上する前に、精霊付きのロングソードに何か秘密がないか、実戦で試すようロムスタ伯爵に依頼されているのだ。
出来ればモールド伯爵軍の強さの秘密に繋がる何かが出てくれば良いのだが。
「見ててひやひやしましたよ。噂に聞く冷徹のアイゼンも腕が落ちたんじゃないかってね」
遠巻きで他の魔物を警戒していたシーカーのポールと前衛のヘッジも、戦闘が終わると集合してくる。
ポールは軽口を俺にかけてくる。
俺が現役学生だった時代にはまだ入学してなかったポールとヘッジの二人だが、その腕を買われて騎士部部長のパーティーに入っているそうだ。
「冷徹と聞いてるなら、俺が褒められてるのが腕っぷしじゃない事くらい解っているだろう?」
「部長はべた褒めでしたけどねぇ…」
「やめろポール。アイゼン先輩に失礼だと思わないのか」
「まぁ良いんだが…」
騎士部と俺のやりとりを見守っていた軽装の男が、うんざりした声で俺達を注意する。
ロムスタ伯爵の監視役だ。
名前ではなく、影と呼ぶように言われている。
影は俺が死んでもロングソードを持ち帰るように言われているのだろう、気配は薄いが腕は立つようだった。
「余裕があったようだが、もっと強力な魔物と戦ってみないのか?」
俺は分かりやすいよう、騎士部の連中に肩をすくめて見せる。
「階層が深くなればなるほど、魔物は表皮がどんどん硬くなっていきます。騎士部としても、強力な装備を使えない人は当てにならないので無理は出来ないのですが」
リチャードが影に分かりやすく説明してやる。
もっと言ってやれ。
影は今の戦闘を見ていなかったのだろうか?
どう見てもこのロングソードが通じる階層は、ここら辺が限界だ。
「アイゼン…、力足ラナイ? モット騎士ノ働キスレバ、オレ扉少シ開ケレル」
ゴブリンが小声で俺に語りかけてくる。
扉が何か知らないが、足らないのは俺の力じゃない。
なにせ学生時代、俺はもっと深部に到達していて、腕だって衰えているとは思ってないんだからな。
戦場でロムスタ伯爵に使い捨てにされないよう戦う力は隠していたのに、これで台無しだ。
まぁ王都の後輩連中が関わるなら仕方ない。
俺の実力は知れわたっていて隠せるような環境にないからな。
というか足らないのは俺の力じゃない、お前の付いているロングソードの威力なんだ。
「ロムスタ伯爵の依頼だ。ギリギリまでは潜ってみるが」
「ならば早く次に行こう」
俺の疲労も考えない、職務に忠実すぎる軽装の男の言に俺はやれやれと首を振った。
「ポール、どうやらそういう事らしい。先導を頼む」
「はいはい、なるべくでっかいのを探して来ますよ。それかもっと深部に進むんですね?」
「すまんな」
そうして、俺達は再びダンジョンの奥底へと進み始めた。
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