転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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僕が騎士になる理由

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冒険者として登録するため冒険者ギルドの前に立つと、自然と僕が騎士になると決めた理由を思い出した。


☆  ☆  ☆  ☆


モールド伯爵領に隣接する魔の森には、危険とはいえ豊富な森の恵みがある。
そして、森の恵みを頼りに生きる狩人の村があるのだ。
僕の生まれた村はそんな狩人の村の一つだった。

「お姉さんはだれ? はじめて見るから、むらのひとじゃないよね? ぼくのなまえはとーる」

「あら、見つかっちゃった? わたし町に住んでるの。名前は…、マリ! 」

モールド伯爵領には町は一つしかない。
領都とも言えない規模のその町は、魔の森近くにある要塞都市になっている。
だから僕の村で町といえば、その要塞都市の事だった。
モールド伯爵領では、要塞都市の騎士と狩人の村が連携して、魔の森の魔物に対処するのだ。
僕がマリアお嬢様と出会ったのは、僕がまだ小さな頃だった。

「まり? へぇ、まりお姉さんはまちに住んでるんだ? すごいね! ぼくまちに行ったことないな。だれと村にきたの?」

「ちょっと秘密で一人で来たの。だから村の大人の人には私のことはナイショね? はい、これあげるから約束」

マリは僕にドライフルーツの欠片を渡してきた。

「ひとりで! あぶないよ? さいきんは、村の近くでまものもでるんだ」

「そうね、最近森がザワザワしてるから。だから私が魔物を倒しに来てるの。私とても強いんだから? 一人でも平気よ?」

「へー。そんなんだ」

僕より歳上とはいえ、女の子が一人で魔物を倒せたりはしない。
父や母がよく妹に注意しているので、僕は魔物の強さを知っているのだ。
魔物は屈強な村の狩人が人数をかけて倒す物なのだと。
その時、僕はマリのことを変わったお姉さんだなと話を聞き流すだけだった。
それからマリは、ちょくちょく領都を抜け出して僕の村に来ていた。
こそこそと村に来るマリを見つけては、僕はドライフルーツを貰った。
その度にマリは何故僕に見つかるのか、不思議がるのだった。

ある日、魔の森から魔物が溢れた。
原因はわからない。
普段から魔物を減らしてはいるけれど、広大な魔の森では何かが起これば、結局の所、魔物は溢れる。
長い歴史では、魔の森から魔物が溢れる事はよくある事だ。
その度に狩人の村は危機に瀕するのだ。

足の早い魔物に人の足は敵わない。
魔物の溢れる兆候がはっきりしていて、城塞都市に逃げ込めれば運が良い。
兆候もなく、逃げ込むのが遅れれば、粗末な自分の家か、守りの固い村長の家に籠城するしかないのだ。

子供たちの集まる村の外れで妹の面倒を見ていた僕は、魔物溢れを告げる鐘の音をまだきちんと覚えていなかった。
年長の子達の反応で、何か危機が迫っていると察した僕たちは、家に帰る道中魔物に襲われた。
人の身体は脆い。
人の死はあっけなく訪れる。
村の子供の一人が突如現れた魔物に噛まれると、僕たちはワッと方々に散った。
少し走って、僕はふと妹のスルーズを連れて来た事を思いだし振り返る。
スルーズは大きな牛の魔物の足の下にいて、もうぴくりともしていなかった。

「あ…、ああ…」

誰かと誰かと誰かの悲鳴の中、僕の心臓の音だけが大きくなっていく。
大きくなる心臓の音の代わりに、大きな牛の魔物がやけに小さくなっていくように感じた。

「このやろう!」

僕は村へと続く道をとって返して、妹の下へと走りはじめた。

「トール! 止まれ!」

僕たちの中で一番年長の子が叫んで僕を羽交い締めにしてくる。

「離せ!」

「あんなのに敵う訳ないだろ! 一番足の早いお前が大人を呼んでくるんだ」

妹の方を見れば、足の遅い他の子が牛の魔物に襲われている。
妹は倒れたままだ。

「早くいけ! みんなを殺したいのか!」

「でも…スルーズが…」

「スルーズだけじゃない」

年長の子の顔を見れば、彼は泣き顔でぐしゃぐしゃだった。
両拳に力がこもる。
あぁ…僕が、僕が何とかしなければ。
あの時、僕の中にあるのは抑えきれない怒りだった。
妹や友達を襲った魔物への怒り。
その強大な牛の魔物より、遥かに弱いハズの年長の子を振りほどけない僕への怒り。
そんな僕たちに涼やかな声がかけられる。

「今日は、私が見つける番だったみたいだね」

頭をひと撫でされる感触がすると、魔物に向かって猛然と走りだした見知った誰かの背中が視界に入った。
少し歳上の女の子の背中は、魔物と比べてとても小さく、頼りなく見えた。

「マリお姉さん!」

信じられない事に、マリお姉さんは素手で牛の魔物と互角に戦い始めたのだ。
魔物に吹き飛ばされて、ボロボロになっても、マリお姉さんは魔法の光と共に立ち上がる。

決して諦めない勇気。

あの頃より物を知った今ならば、不屈と表現するだろうマリお姉さんの勇姿は小一時間続き、僕たちは呆然とその戦いを見守った。


☆  ☆  ☆  ☆


何もかもを失い、せめて身近にある物だけは守れるよう、マリお姉さんことマリアお嬢様にお願いし、騎士になるのだと決めたあの頃。
自分の小っぽけな怒りでは、何も解決しないと知ったあの時を思い出す。
これから魔物と対峙する職になると思えば、知らずと抑えて来たあの時の怒りが滲み出してきた。
そして僕は冒険者ギルドの扉を開く。

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