転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう

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土が重要なんですよって

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私がサクラコさんとカフェ漬けになって2週間が経った。
ウォリス様とウォルフ様もカフェが気に入ったらしく、時折ご一緒する仲になった。
話をしていく内に、私がモールド伯爵令嬢である事と、サクラコさんがタカツカサ男爵令嬢であることも話した。
ウォリス様とウォルフ様の表向きの爵位は、コンバラリア子爵。
ロッゾに指示して調べさせれば、コンバラリア子爵は教会関係の貴族が保持する爵位だった。

「あら。それじゃモールド伯爵領のナレの花は農作物と同じように育てるのね」

「そうです。ナレの花の効能を強くしようと考えると、土の栄養バランスをどう調整するかに突き当たります。それ自体は普通の農作物と特に変わりません」

「普通の農作物…。マリアさんはナレの花以外も育てるのねぇ。私には経験ないわ。土ってそんなに大事なのかしら」

前世の授業で私は三大肥料を習った。
窒素、リン酸、カリウムである。
当然の事ながらと言うべきか、私が物を知らないと言うべきか、三大肥料をどう手に入れればいいか私は知らない。
この世界に来てから、初めて農作業に関わるようになり、私は自分自身の物の知らなさを再確認した。
肥料については名前以外何もわからないし、農法についても焼き畑農業と三圃制度が辛うじてわかるくらいだ。
しかもこちらの世界ときたら、魔法の要素まであるのだ。
枯れかけた植物は魔法の力で立ち直らせる。
魔法は土に作用しているのか、それとも植物に作用しているのか?

私主導の様々な実験の結果、ナレの花は非常に育てやすい植物だという事がわかっている。
もし私が王都育ちの令嬢なら、土に触れる機会を与えられなかっただろう。その点で、モールド伯爵家の教育は寛容だった。
そして、私の生まれが農民なら、お金になるかわからないナレの花の研究なんかしなかっただろう。
なんといっても、ナレの花は何処にでも育つような花なのだから。
その花の効能を高める研究なんて、どこかの富豪の趣味でしかないのだ。
もしかしたら、この世界には作物の品種改良、薬草の効能を高められるという発想さえないのかもしれないけれど。
研究の中でわかった事と言えば、ナレの花の効能は土の栄養バランスと、魔術要素で決まるという事だ。

魔術要素、ナレの花が求める呪術的な要素に私はそう名付けた。

ナレの花は、人の血肉に溜まる精神的な魔力の淀みや、魔物の生来持つ魔力の淀みを肥料として非常に好むのだ。
それは一見するとまるで呪いを好むようでもあり、教会の定める聖なる花としての位置付けと相反する特性である。
ナレの花の持つその呪術的な要素は、そのまま呪術要素として名付ければ、誰の目にも反発は必至だった。
その事情からモールド伯爵家は、ナレの花の呪術的な特性を隠しながらも、便宜的な理由で魔術要素と言うようにしている。
ウォリス様にナレの花の魔術要素を話す必要はないだろう。

「植物にとっての水と光が、私たちにとってのパンやワインだとしたら、土は家ですもの。家が良いものに変われば、そこで育つ人も変わるとは思いませんか?」

「生まれる家が変われば、私もナレの花を育てたりしなかったかもしれないわねぇ」

「家格が変われば…、しかし、人ならば血筋も重要だろう? 植物も血筋は大切な物なのだろうか?」

いつもは静かに甘いものを咀嚼しているだけのウォルフ様が話に加わってくる。
血筋…。
ウォルフ様の言う血筋は貴族的な高貴な物で、多分、遺伝の事ではないわよね。
ウチのナレの花なんて、それこそ、道端で採取した物が元になってる事が多いし。

「私が育てた事のある作物は、ナレの花を含めて、全てがモールド伯爵領で取れた作物が元になっていますので、血筋…までは、考えたこともありません。でも、植物だって血筋の影響もあるのかもしれませんわね」

気づけば、ウォリス様も前のめりで聞いていたけれど、植物にとって、または作物をつくる人にとって大事なのは、有利な遺伝の形質であり、血筋の正統性でない。
私は血筋もあるのかもしれませんねと、適当に濁して答えた。

「ブランド野菜…。美味しいお芋食べたい」

「美味しいお芋」

サクラコさんが何かを呟いているが、現代レベルの農作物の改良には、遺伝子学の基礎となるメンデルの法則の発見が必要になる。
メンデルの法則以前の改良しか出来ないこの世界では、革新的な農作物の改良は起こらないだろうなと私は思った。
そして、メンデルの法則を知っている私やチェルシー様はといえば、充分に美味しい物を食べられる立場なのだから、このままの食生活でも何も文句はないのだ。

「土が変われば味も変わるだなんて…、ナレの花育成のためには、まずは土づくりねっ」

両拳を握って納得するウォリス様。
いや、普通にそこら辺の土でナレの花を育てればいいんじゃないかなぁ、と心の中で突っ込む私。
水と光だけで育てるなんて無茶な事をしないでね?

「お芋がおすすめです」

育てるならとウォリス様に芋をすすめるサクラコさん。
この世界の芋の食味はじゃがいもに近い。
調理方法は色々あるから、確かに美味しいんだろうけどと考えながら、私はさつまいもを思い出した。
前世では色んな種類の芋があるけれど、この世界にさつまいもはあるんだろうか?

「芋? 育てるならやはり果物じゃないのか? それも、ここのスイーツに合うような果物だ」

植物にとっての血筋を聞いてきた時より真剣な目で、ウォルフ様が果物を提案する。

「うふふ。じゃあウォールとサクラコさん二人の分の畑も用意しないとならないわねぇ。必ず美味しい物が出来るわ」

ウォリス様は何か考えついたようで、自信満々に二人の畑を用意すると宣った。
私はウォリス様の畑仕事に付き合う事になるのかしら?
少し疑問に思っているとウォリス様はにこりと私に微笑みかけた。

「畑、マリアさんもいるかしら?」

正直いらない。
せいぜいプランターで充分です。
とは言えないのが、元日本人の美徳だ。

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