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インサイト
しおりを挟む「ここに何の用だ? 俺たちゃこの屋敷の護衛を頼まれてるモンだ。用がないなら、ちぃと離れてくんねぇか?」
俺は長めの棒きれを片手に持って客人に威圧する。
腰には剣もあるが、警備の緩い市民街とはいえ、人通りもある王都でいきなり刃物を振りかざしたりはしない。
不良冒険者たちはニヤニヤとしながら、近づいてくる。
中にはローブを来た魔術師っぽいのも居る。
部下たちもワラワラと集まってきた。
「おいアンタ。見た所、教会のモンか? 教会が王都の治安を乱すつもりか?」
俺は黒い法衣の二人に尋ねてみた。
まぁ、黒い法衣なんて見た事は無いんだが、色は違えど教会の法衣と変わらない物なのだから、コイツらはきっと教会関係者なんだろう。
俺の問にピクッと表情を変えた黒い法衣の二人は、腰の刃物に手をかける。
おいおい、マジでやる気なのか。
教会の関係者の方が不良冒険者より、血の気が早いってどういう事だ。
連中が同時に踏み込み、間合いに入る瞬間、棒きれを投げつけて、俺も腰の剣を抜く。
棒きれを切り防ぎ、勢い良く飛び込み突きを放ってくる黒い法衣の片割れと、いつでも飛び込めるよう上段に剣を構えたもう一方の姿が目に入ってくる。
どうもいかん。
飛び込みの速度を見る限り、相手の力量は副団長の俺と同等以上だ。
「チィッ。どうして最近はこんな隠れた強者が出てくるもんかね」
俺は愚痴を零しながら、黒い法衣の片割れの放つ突きを巻き取るように剣を切り上げた。
思ったより重い威力の突きを何とか防ぐも、次の瞬間飛び込んでくるもう一方の片割れの袈裟斬りは防げそうにない。
鎖帷子は着込んである、素材は良いものなので一撃は防げるだろう。
俺は回避を諦めて眉をしかめ衝撃に備える。
「おっと」
ガチと音を鳴らして、モーニングスターで袈裟斬りを防いだのは部下の中で一番若いサンソンだ。
腕の方はまだまだだと思っていたが、今のを防ぐとは機転が利くじゃねえか。
「用件も言わずにかかってくるとはだ? お前らこの屋敷の持ち主であるモールド伯爵様に喧嘩売ってるって事で良いな。ってことはだ。お前らはモールド伯爵様と争ってるロムスタ伯爵の子飼いでいいか?」
奇襲を防いだ俺は、勝ち誇った顔をして、相手の所属の確認を取る。
魔術師っぽい奴が頭のローブを脱いで答えてくる。
そいつの顔を見て俺は目を細めた。
宮廷魔術師のウィズダムを兄に持つ、今売り出し中の名うての冒険者だからだ。
名はインサイト。
確か、使う魔法の属性は兄と同じ火属性。
「お前たち、スラム街のクズ共を恐れてるんじゃないだろうな。『不可視』が行方知れずになった今こそ、ロムスタ伯爵の子飼いで一番になるチャンスだ。手柄を挙げてみろ。A級冒険者も夢じゃないぞ」
インサイトの掛け声と共に、不良冒険者共が飛びかかってきて乱戦になる。
『不可視』とはロムスタ伯爵が囲っていた凄腕の冒険者だ。
姿を消し、どんな所にも入れるという噂だったが、聞く限り行方不明らしいな。
頼みにしていた上級冒険者が居なくなっていたなら、ロムスタ伯爵としては苦しいだろう。
実際『不可視』がここに来ていたら、警備の甲斐なく屋敷には入られていただろうしな。
乱戦とは少し離れた所でインサイトと黒い法衣の男が会話をしている。
「しかし、存外『教会』もだらしがない。スラム街の不良と互角とは」
「いつの世も例外は付き物。強い奴はいるもんさ。それに俺は聖園騎士でも下位なんでな。期待するな」
「…魔法の時間を稼げばヤツは俺が仕留める。約定分くらいは働いてくれ」
「魔法か。奴に効くのか?まぁ良い、いくぞ」
黒い法衣の連中は会話を終え、乱戦に参加してきた。
不味い。
スラム街の不良と名乗ってる手前、インサイトの使ってくる魔法に対して、大っぴらに魔法を使って相殺は出来ない。
そんな事が可能なのは大半が貴族だからだ。
魔力さえあれば、魔法に対する抵抗は上がるが、ある程度までだ。
宮廷魔術師である兄のウィズダムと同じ狙撃の魔法は、直接受けたい物ではない。
俺は黒い法衣の片割れの強い方と対峙しながらも、インサイトの魔法を警戒する。
若手のサンソンはもう片割れの相手だ。
「…消し炭になれ、ファイアラ…っ?!」
黒い法衣の男たちが時間稼ぎをしている間に、インサイトの詠唱が完了し、ヤツの得意魔法であるファイアランスが俺に向けて放たれようとした。
その瞬きの間、小さな氷のトゲがインサイトに降り注ぐ。
魔法を中断し、氷のトゲを回避するインサイト。
「こんな子供騙しの魔法を…。誰だ、執事…?」
インサイトが呟く。
助かったぜと氷のトゲの出所を見れば、芯の通った背筋に、深い青色の髪をオールバックにした壮年の燕飛服の男が、氷よりも冷たい目線でこちらを見ていた。
俺とも面識のある、モールド伯爵家の筆頭執事ロッゾだ。
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