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ならず者の介入
しおりを挟むモールド伯爵家は、闘技場の催しと同時に、生活に困窮した子供たちに施しをしている。
そんな噂が王都を駆け巡るのに、時間はかからなかった。
「モールド伯爵家が王都で慈善事業をしていると、王都の人たちに見られるのは悪くないけれど、この数は多すぎるわ」
本日はサクラコさんは王立学園に出席するのでお休みだ。
私は、隣に控える執事のロッゾに愚痴る。
闘技場には受付には、王都中の困窮した子供たちが列をつくっていた。
先日闘技場に挑戦したアルフレッド君は、両親が行方不明になっているそうで、今は妹ちゃんと一緒にうちの邸宅に取り敢えず従者見習いとして住み込んで貰って、小さすぎる妹ちゃんはお留守番。
彼は受付で列を並べるのを手伝っている。
モールド伯爵家から子供に施しがあったのは確かだけれど、アルフレッド君が闘技場で苦労した噂は流れなかったのだろうか?
「…王都周辺の政治は、ここの所、安定していませんでしたからな。しかし、こうなる事は、お嬢様の目論見通りでは?」
「アルフレッド君を助ける時に、モールド伯爵家の評判を上げる打算が無かったとは言わないけれど、ここまで大規模になるのは想定外だわ。内容を考えれば、誰にでも施しを与える訳でもありませんし」
モールド伯爵家の主催する闘技場で、貧しい格好をした子供が、モールド騎士に勝利し賞金を得た。
最近負け無しと噂のモールド伯爵家は、貧しい子供を助けるために、あえて勝利を譲ったのだ。
如何にも庶民受けしそうな美談だが、美談には裏がある。
アルフレッド君は、モールド伯爵家の騎士との闘いで認められ、何とか正当な権利を勝ち取ったのだ。
真実を知れば、誰もが簡単に施しを受けられるとは思わないだろう。
「ふむ。でしたら、あそこに並んで居る妙な怪我をしている子供らも、お嬢様の想定外という事で?」
ロッゾに問われ、私はロッゾの視線を追う。
ロッゾの視線の先には、闘技場に参加する前から、顔に痣をつくり、怯えた顔をした子供たちの集団が居た。
私は、オホホと目を細めながら、左手で歪む口を隠した。
闘技場が一瞬しんと静まり、参加者の何人かはこちらに目線を向ける。
「お嬢様、殺気が漏れております…」
ロッゾも目を細めて、笑顔のまま私に対応する。
「当家の催しに、水を差したい輩が居るようです」
「ロムスタ家の差し金かしら?」
「小悪党なら誰でも思いつくやり方ですので…、確認しなければわかりません。しかし、催しを邪魔する輩を釣り出せました。たとえ意図した事でなくとも、お見事にございます」
「世辞は良いわ。子供に暴力を奮って物乞いの真似をさせるなど、モールド領ではあり得ない事よ」
「発展し過ぎた王都ならではの事情かと」
「予期していたという答えね。黒幕を摘発する準備は終えていて?」
私とロッゾは殺気を抑え、目を細めながら、視線を交わす。
ロッゾは心得ておりますと右手を胸に当てお辞儀をした。
「万事滞りなく」
☆ ☆ ☆ ☆
「おいおい、そいつらを何処に連れていくつもりだ?! あんたら王都で人でも拐う気か?」
怪我をしている子達をまとめ、アルフレッド君がモールド伯爵家の邸宅に連れていこうとすると、柄の悪い男たちが闘技場の受付に文句を言ってきた。
即座に、柄の悪い男たちより更に凶悪な顔をしているアロンソさん一味の人がさっと現れ、彼らの肩を叩いた。
文句を言ってきた男たちは、アロンソさん一味の顔を見て後ずさる。
みんな二歩くらい。
「あんちゃん達、ここがモールド伯爵様の主催する闘技場だって知らないで邪魔しに来たのかい? 何故、あの子供らは妙な怪我をしてるんだ。ありゃあ、子供を脅して怪我させて、無理やり闘技場に参加させたがる奴がいるからだろうな」
異様に目をギラつかせて、ならず者たちに問いかけるスキンヘッドの強面はペレスさんだ。
「お、俺たちは知らない! 何も!」
「アァ?! 一目見りゃ誰でもわかる事に説明なんぞ、要らんだろうが? モールド伯爵様がやろうってのは人拐いじゃねぇ、怪我した子供らの保護だ! それを邪魔したがる奴なんて、子供を脅してる奴しか居ねぇだろうが!」
「お、王都のガキってのは怪我してるのが普通なんだ! 俺も小さい頃はああだったんだ!」
「うるせぇ! あの子供らの怯えてる目を見ろ! お前らは子供を痛めつけてまで、貴族様の興行を台無しにしようってんだ。モールド伯爵様はお前らの目論見なんぞ全部お見通しよ。俺はモールド伯爵家に依頼されて来てんだからな。貴族様から報復される、その覚悟は出来てるんだよな!? アァ?!」
「し、知らない。俺は頼まれて…。知らなかったんだ」
ペレスさんに問われて、膝から崩れ落ちる男たち。
「チッ。頼まれただけにしても、お前らはあの怪我した子供の姿を見て見ぬ振りしていたんだろうが。同罪だよな。…おい! 連れて行きな。良い所にナァ」
「ひ、ヒィ…」
アロンソ一味の人たちは、まるで何処かの騎士団のように手際よく男たちを拘束して、何処かに消えていく。
ざわざわと困惑する闘技場の観客たち。
ペレスさんは右手を突き上げ、ドスを効かせた声を張り上げた。
「騒がせたな。ちょっとオイタをする奴をとっ捕まえただけだ。後は楽しんでくれ。くれぐれもお貴族様に迷惑をかけないようにな」
闘技場は静かになるが、静寂を突き破る声があがった。
「良いぞ! よくやった! 子供は王国の宝だからな! 子供も食いもんにする奴は許せねえ」
挑戦者の冒険者のうち一人が叫んだのだ。
冒険者は貧困からのし上がった人が多い。
彼も傷付いた子供たちに同情する、そんな一人なのだろうか。
次々にペレスさんを称える声が上がり、やがて、闘技場は手拍子で沸き立った。
そんな盛り上がりの中、コソコソと闘技場をあとにする人物がチラホラと見える。
困ったわねと私は頬に手を当てた。
「ロッゾ、人手は足りるのかしら?」
「先日から手に入れた戦力を試す良い機会かと」
「…そうね」
これは人知れず手に入れた、元教会の戦力の忠誠を試す良い機会かもしれない。
「でも、帰る所のない子供たちはどうしようかしら」
困窮した全ての子供たちに、親が居れば良いのだけれど。
寄辺のない子供たちが、例えお金を与えられても悪い大人の食い物になるだけだ。
彼らは経験が足らず、お金に関しても何も知らないのだから。
そして、彼らを追い詰めた王都の環境は、きっと彼らに味方しないだろう。
「お嬢様、ついでに今回捕まえた不届き者たちの処遇も決めなければなりません。彼らは貴族の興行の邪魔を表立ってしたのですから」
「…そうね」
モールド伯爵家の面子のために、闘技場で捕まったならず者たちを、簡単な罰で済ませてはならない。
それは、ロムスタ伯爵に関係があるないに関わらず。
「ウチで使うとしても、とても使える戦力ではないわ」
ならず者たちを犯罪奴隷としてこき使うにも、私には犯罪奴隷の必要な所は思いつかない。
今、お父様は引きこもっているし、モールド伯爵領を取り仕切っているのはアーロン騎士団長か。
「…この件、アーロン騎士団長に丸投げしたら、怒られるかしら?」
少し考え、ロッゾは断言する。
「命じられれば、どんな難題でも熟そうとする男ですので。存外に良いアイデアを出すかもしれません」
「では、事情次第ですが、子供たちを含めて彼らの処遇は、モールド伯爵領にて、アーロン騎士団に命じることにします」
「畏まりました」
モールド伯爵大本営としては、諸問題を領地に送りつけ、アーロン騎士団の活躍に期待する事大である。
なお、援軍は当面無い。
私は、ひっそりとモールド伯爵領の人材の薄さに冷や汗を流した。
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