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ロムスタ伯爵、弱る
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使用人に連れられ、父であるロムスタ伯爵の私室に向かう。
思えば、父の姿を見るのは書斎か食卓ばかりで、父の私室に入るの初めてだった。
野望を隠さない精力家の父は、今まで私室に引きこもる事などしなかったからだ。
ウォルフはふと奇妙な感覚に陥った。
実の息子であるウォルフとて、父ロムスタ伯爵の悪い噂は聞いている。
学友だったり、教会関係者からだ。
王国を壟断する血も涙もない狡猾な野心家、裏と繋がりの噂の絶えない人物。
父は王国にどれだけ多くの不幸をつくって来たのだろうか。
ウォルフとの親子の関係にも、優秀だから付き合うという打算が垣間見えていた。
それは、兄達に接する態度でも変わらない。
そんな父が、果たして、次兄が死んだくらいで私室に引きこもるだろうか。
だいたいにして、王都に飛び交う噂が本当なら、父はどの面を下げて、息子に起きた不幸を悲しんでいるのだろうか。
情の薄い冷酷な父、それがウォルフの持つ父ロムスタ伯爵へのイメージだった。
「モールド伯爵に対する欺瞞かもしれない」
つい口が動いたが、今、父が引きこもってモールド伯爵を騙したとして、ロムスタ伯爵家に得になる事は一つもないように思える。
「バカな事を考えたな」
ウォルフは顔を振った。
兄の言う通りに、父は次兄の死を悼んでいるだけかもしれないのだから。
「父上、ウォルフです」
ノックをするが部屋から返事はない。
何度目かのノックの後、ウォルフはロムスタ伯爵の私室の扉を開いた。
昼にも関わらず、カーテンは閉め切っており部屋は薄暗く、中からは濃い酒精の香りが漂ってくる。
「父上」
そこには、胡乱げな目をして椅子に座り込み、放心しているロムスタ伯爵が居た。
「…ウォルフか。頼む、一人にしてくれ」
暫しの静寂の後、ウォルフの存在に気づいたロムスタ伯爵の言葉は紡がれた。
それは弱々しい、掠れた老人のような声だった。
「フォックス兄さんが死んだと聞いて来ました。遺体をこちらに戻せないとも」
「お前や、如才ないリオンなら、何処に出そうとも死ぬことはなかったろうな。フォックスめ…最後まで手間をかけさせおって」
声を震わせたロムスタ伯爵の目からは、はらはらと涙が頬を伝っていた。
「執事からは、フォックス兄さんだけでなく、リオン兄さんも危うく死ぬところだったと聞いております」
「リオンは生き残るだろうさ。小さい頃からそうだった。兄弟の中では、フォックスだけは出来が悪く、同じ事をやらせても危ない結果ばかり出したのだ。だからこそ、裏方の安全な任務に送ったのだがな」
寂しそうに、まるで独り言のように呟くロムスタ伯爵。
「フォックス兄さんは父上に愛されていたのですね。父上はリオン兄さんではなく、フォックス兄さんに伯爵家の後を継がせたかったのでしょうか?」
「…馬鹿な事を。フォックスではこの家は持たんよ。ただ親が出来の悪い息子の先を案じた、それだけの事だ」
出来損ないの息子を持つからこその肩入れ。
そこにはウォルフの知る、冷徹で果断な判断をするロムスタ伯爵の姿は無かった。
「父上、リオン兄さんもフォックス兄さんと同じように扱う事は出来なかったのですか? …そうすれば兄弟の諍いも無く、件の戦でも協力出来たのでは」
父の偏執的な肩入れもあり、フォックスとリオンの仲は最悪だった。
せめて父ロムスタ伯爵がもう少し息子達に公平であれば、フォックスの死を悼む者も増えた事だろう。
ロムスタ伯爵の後継者は誰だろうと訝しみ、リオン側についた故に素直にフォックスの死を悼めない家臣もいるのだから。
「ウォルフ。お前には頼られない親の気持ちはわからなかろう。リオンは生まれた時からそうだ。リオンにとっては、自身の立身に、他の誰の手も必要としていないのだ。この私さえな」
そう父ロムスタ伯爵に言われると、ウォルフは、何故、父ロムスタ伯爵は幼い頃から早々に父に見捨てられ、独り立ちせざるを得なくなった、子供の気持ちが解らないのだろうかと思った。
子供の才能の差、ただそれだけが家族に亀裂を生むこともある、ウォルフは世界の不条理に思いを馳せずには居られなかった。
「父上。たとえ親が子供に頼られずとも良いのです。真に大事なのは、父上が頼られる事ではなく、家族であることの関係なのですから。出来ればこれからは、父上がリオン兄さんを頼って差し上げてください」
ロムスタ伯爵はウォルフの言に小さく顔を振ると、フォックスを思い出したのか、手で目を覆い、涙声でウォルフに退室を促した。
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