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1章
0歳 -火の陽月5-
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拠点を作る場所は決まったものの、どんな家(設備)を・何処に・どうやって作るかは精神世界で相談です。私が快適に過ごす為のアレコレを三太郎さんたちと一緒に知恵を出し合って考えています。母上や兄上をはじめとした皆には申し訳ないけれど私基準です。私がストレス溜めない生活環境が欲しいのです。自重なんて欠片もしませんよ。本当に街中とかに住むんじゃなくて良かった。流石に他人の目があるところで自分の快適さだけを求めて悪目立ちするのは悪手ですしね。
「このあいだ見つけたあの泥湯だけど……。
こんな感じで沈殿させて、上澄みだけ流し込む感じにすればどうだろう?」
そういって三太郎さんたちに絵を描いて説明します。まぁ特別絵が上手な訳ではないので、最終的には前世の映像を見せて、近い形状のモノを探します。見つけたのはタジン鍋。あれの蓋のように円錐形になった中央の先からお湯を地肌を滑らせるように流せば外気に晒されてお湯の温度が下がるだろうし、その流れたお湯をトンガリの周囲に作ったドーナツ状の堀(プール)に流れ込んで泥を沈殿させて上澄みだけを浴槽に更に流し込めば浦さんの浄水に頼らずともいけそうな気がします。
そうお願いしたら、試しにやってみようと明日にでも金さんと浦さんが向かってくれる事になりました。浴槽は岩を使って岩風呂に……と希望を伝えようかなとも思ったけれど、まずは湯量が確保できるか、沈殿ができるかを見極める方が先決なので、それだけをしっかりと確認してきてもらう事に。
そうやって金さんと浦さんが日中に居なくなったりしながらも、夜には揃って報告と相談です。今夜の議題は家の間取りについて。
「トイレは絶対に何がなんでも必須!! これは譲れないから!!
その関係で地下に排水管と浄化槽も絶対にいるでしょ……。
お風呂わきには脱衣場も欲しいし、納戸とかの収納も多い方が嬉しい。
それから台所と各個人の部屋も当然必要だし、皆が集まる居間も欲しい。
だから居室は個室9個と大部屋1つが最低ラインかなぁ?」
「はっ?! 9個っておかしくないか?!」
桃さんが大きく目を開いて、かなり吃驚している様子。
この世界の家は私の感覚でいえば家というより小屋といった感じで、あまり大きくないうえに部屋が一つあるだけです。それは華族を含めた上流階級でも基本的には同じなのです。まぁお大尽な彼らはとても大きくて豪華な一棟を一人で使うのですけれど。イメージとしては寝殿造りが近いかもしれません。父親の住まいである寝殿を中心に東対、西対、北対があり、それぞれに妻だったり子供だったりが住むのです。何にしても一部屋がそのまま一つの家というのがこの世界の常識で、そんな寝殿造りのようなモノしか知らない三太郎さんたちにとって9個の部屋はそのまま9個の建物と思ってしまったようなのです。そこは即座に一つの建物の中に部屋をいくつも作る前世風の建物である事を伝えて訂正。でも……
「ここに客人を呼ぶことはないのだろう?
ならばそんなに必要だとは思えんのだが……」
と、金さんが訝し気に尋ねてきます。確かに現在の碧宮家の人がお客さんを呼ぶなんてありえませんし、私にもそのつもりはありません。
「だって母上、叔父上、兄上、橡、山吹、金さん、浦さん、桃さんで9……
あれ?8個で良かったのかな?」
「ちょっと待ちなさい。私達の名前がありましたが?」
「あたりまえじゃない? だって一緒にいてくれる……んだよね?
えっ、どこか行っちゃうの??」
驚きに目を大きく開いた浦さんの問に、私は最初きょとんとしてしまったのですが、すぐにある可能性に気付いて愕然としてしまいました。ずっと一緒にいてくれると思っていた三太郎さんたちだけど、確かに以前に精霊は人間を守護をするといってもずっと一緒にいる訳じゃないって教えてもらっています。それを思い出した途端にサーーーっと全身の血の気が引いていきます。ふと見れば自分の手が小刻みに震えているのが見えて、そっと悟られないように背後へと隠しました。
「一緒に……いてほしいんだけど……ダメかな?」
一気に不安に飲み込まれそうになる私に浦さんは一つ溜息をつきます。
「はぁ……。あなたみたいな危なっかしい子を放っておけるわけないでしょうが。
それにあなたが作るもの、もたらすモノをもっと見てみたいとも思っています。
なのであなたのそばを離れるつもりはありませんよ」
溜息混じりなのに、どこか優しい浦さんの声。
浦さんはいつも日々の細々した事を注意してくれます。こちらの世界の常識を知らない私をフォローしてくれるのは大抵の場合浦さんです。その中性的な見た目も相まって、私は時々彼がお母さんのようにすら思えます。
「浦の野郎と一緒なのは気に喰わねぇが、
俺様だってお前の傍を離れる気はないからな!」
そんな桃さんの変わらない元気いっぱいな声。
実は三太郎さんたちの中で一番一緒にいる時間が長い桃さん。彼は気性も口調も確かに荒いのですが悪意は全く無く(浦さんが相手の時は除く)、気の良いお兄ちゃんのような感じです。
「我とて同じだ。そして……一つ足りぬぞ。櫻、お前の名だ」
とても低く穏やかで落ち着いた声は金さん。
金さんはそう言いながら、背後に隠していた私の手を取って優しく包むように握ってくれました。良い事は良いと、駄目な事は駄目としっかり線引きをしてくれる金さん。口調は厳つい感じですし他の2人に比べてもあまり感情が顔に出ません。でもさりげなく浦さんや桃さんの間を取り持ってくれたり、そっと私を支えてくれたりする縁の下の力持ち、お父さん的な感じなのです。
後になって桃さんに「精霊が住む部屋を用意する変わり者」と言われて、初めて浦さんたちの驚きの意味を知った私でしたが、あの時は何の躊躇いもなく……。むしろ「家族なんだから、一緒に暮らすんだから部屋は必要!」とすら思っていたような気がします。無意識だったので断言はできませんが……。でも、ただあの時も、そして今も三太郎さんたちの部屋を用意する事は当然だと思っています。
その後……。
泥湯は、浦さんと金さんの手により十分お風呂に使えるだけの湯量がある事が確認されました。正確には少々足りなかったそうなのですが、二人の手により途中に詰まっていった泥を全て除去して湯の通りを良くしたのだとか。そうしたら吃驚するぐらいに湯量が増えたのだそうです。
そして肝心の泥の沈殿なのですが、当初予定していたサイズの堀一つでは沈殿しきれず。最終的に3重の堀を作って沈殿に沈殿を重ねてようやく泥湯ではなく濁り湯程度に落ち着きました。しかも3重にしたことでお湯の温度もちょうど良くなって一石二鳥です。ただこれ、こまめに堀の泥を除去する必要がありそうです。それはそれで大変かもしれませんが、まぁお風呂に入る為なら多少の苦労は仕方がありません。
さぁ! 念願の浴場づくりです。脱衣場すら後回しです。
浴槽というか岩風呂の材料となる岩はそのあたりにあったモノを金さんにお願いして成形して作ってもらいました。金さんの成形のレベルはそこまで高くないので複雑な形はできないのですが、一つの面をまったいらにするぐらいならできます。そうやって成形した岩を幾つも使って円形に並べて大きな浴槽を作りました。床部分には平な面が上に来るようにして、一部には金さんに探査(金属)で見つけてきてもらった鉄を仕込んでおきます。
えぇ、忘れてませんよガタロ対策。
かなり大きな浴槽で直径10mぐらいはありそうです。子供なら泳げるぐらいの大きさです。まぁ、流石に泳ぎはしませんけどね。
現在、同時進行している家の設計も同様なのですが、自重する気は全くもってありません。その自重には技術的な意味合いも当然ありますが、それ以外にも前世での夢というか願望をこれでもか!と詰め込んでいるのです。この大きなお風呂も願望の一つです。お祖父ちゃんの家のお風呂が小さかった訳ではないのですが大きくもなかったので。
本当は湯口と言えば良いのか、お湯が浴槽に流れ込む場所をライオンの頭にして、口からお湯がだばーーーっと出るアレにしたかったんだけど、金さんから「無茶を申すな」と駄目出しをされました。金さんの成形レベルでは無理みたいです。
後はシャワーが欲しいです。子供の貧弱な腕力と小さな手で桶で湯を汲んで、頭からかぶるって至難の業です。でもシャワーホースになりそうなものに心当たりが無さ過ぎます。
アレ、何で出来ていたんだろう?
もっと詳しく見ておくんだった……。
そうは思っても後の祭りです。色々と悩んだうえで出した結論が晩夏の向日葵シャワーでした。壁からにょっきりと生えて下向いた向日葵の花みたいな、洋画なんかで見かけるあのシャワーです。正式名称は知りませんが、あれなら何とかなりそうです。
そして更なる試練、水栓ってどうなってるんだろう??
とりあえず以前見つけていたもう一つの泥湯の湧口。そこからお湯を引っ張ってくるとして、こっちは浦さんに浄水をお願いして綺麗なお湯のシャワーにしたいのです。でも常時浦さんに「浄水」を使ってもらうのも現実的じゃないし、シャワー問題は少し時間がかかりそうです。
「このあいだ見つけたあの泥湯だけど……。
こんな感じで沈殿させて、上澄みだけ流し込む感じにすればどうだろう?」
そういって三太郎さんたちに絵を描いて説明します。まぁ特別絵が上手な訳ではないので、最終的には前世の映像を見せて、近い形状のモノを探します。見つけたのはタジン鍋。あれの蓋のように円錐形になった中央の先からお湯を地肌を滑らせるように流せば外気に晒されてお湯の温度が下がるだろうし、その流れたお湯をトンガリの周囲に作ったドーナツ状の堀(プール)に流れ込んで泥を沈殿させて上澄みだけを浴槽に更に流し込めば浦さんの浄水に頼らずともいけそうな気がします。
そうお願いしたら、試しにやってみようと明日にでも金さんと浦さんが向かってくれる事になりました。浴槽は岩を使って岩風呂に……と希望を伝えようかなとも思ったけれど、まずは湯量が確保できるか、沈殿ができるかを見極める方が先決なので、それだけをしっかりと確認してきてもらう事に。
そうやって金さんと浦さんが日中に居なくなったりしながらも、夜には揃って報告と相談です。今夜の議題は家の間取りについて。
「トイレは絶対に何がなんでも必須!! これは譲れないから!!
その関係で地下に排水管と浄化槽も絶対にいるでしょ……。
お風呂わきには脱衣場も欲しいし、納戸とかの収納も多い方が嬉しい。
それから台所と各個人の部屋も当然必要だし、皆が集まる居間も欲しい。
だから居室は個室9個と大部屋1つが最低ラインかなぁ?」
「はっ?! 9個っておかしくないか?!」
桃さんが大きく目を開いて、かなり吃驚している様子。
この世界の家は私の感覚でいえば家というより小屋といった感じで、あまり大きくないうえに部屋が一つあるだけです。それは華族を含めた上流階級でも基本的には同じなのです。まぁお大尽な彼らはとても大きくて豪華な一棟を一人で使うのですけれど。イメージとしては寝殿造りが近いかもしれません。父親の住まいである寝殿を中心に東対、西対、北対があり、それぞれに妻だったり子供だったりが住むのです。何にしても一部屋がそのまま一つの家というのがこの世界の常識で、そんな寝殿造りのようなモノしか知らない三太郎さんたちにとって9個の部屋はそのまま9個の建物と思ってしまったようなのです。そこは即座に一つの建物の中に部屋をいくつも作る前世風の建物である事を伝えて訂正。でも……
「ここに客人を呼ぶことはないのだろう?
ならばそんなに必要だとは思えんのだが……」
と、金さんが訝し気に尋ねてきます。確かに現在の碧宮家の人がお客さんを呼ぶなんてありえませんし、私にもそのつもりはありません。
「だって母上、叔父上、兄上、橡、山吹、金さん、浦さん、桃さんで9……
あれ?8個で良かったのかな?」
「ちょっと待ちなさい。私達の名前がありましたが?」
「あたりまえじゃない? だって一緒にいてくれる……んだよね?
えっ、どこか行っちゃうの??」
驚きに目を大きく開いた浦さんの問に、私は最初きょとんとしてしまったのですが、すぐにある可能性に気付いて愕然としてしまいました。ずっと一緒にいてくれると思っていた三太郎さんたちだけど、確かに以前に精霊は人間を守護をするといってもずっと一緒にいる訳じゃないって教えてもらっています。それを思い出した途端にサーーーっと全身の血の気が引いていきます。ふと見れば自分の手が小刻みに震えているのが見えて、そっと悟られないように背後へと隠しました。
「一緒に……いてほしいんだけど……ダメかな?」
一気に不安に飲み込まれそうになる私に浦さんは一つ溜息をつきます。
「はぁ……。あなたみたいな危なっかしい子を放っておけるわけないでしょうが。
それにあなたが作るもの、もたらすモノをもっと見てみたいとも思っています。
なのであなたのそばを離れるつもりはありませんよ」
溜息混じりなのに、どこか優しい浦さんの声。
浦さんはいつも日々の細々した事を注意してくれます。こちらの世界の常識を知らない私をフォローしてくれるのは大抵の場合浦さんです。その中性的な見た目も相まって、私は時々彼がお母さんのようにすら思えます。
「浦の野郎と一緒なのは気に喰わねぇが、
俺様だってお前の傍を離れる気はないからな!」
そんな桃さんの変わらない元気いっぱいな声。
実は三太郎さんたちの中で一番一緒にいる時間が長い桃さん。彼は気性も口調も確かに荒いのですが悪意は全く無く(浦さんが相手の時は除く)、気の良いお兄ちゃんのような感じです。
「我とて同じだ。そして……一つ足りぬぞ。櫻、お前の名だ」
とても低く穏やかで落ち着いた声は金さん。
金さんはそう言いながら、背後に隠していた私の手を取って優しく包むように握ってくれました。良い事は良いと、駄目な事は駄目としっかり線引きをしてくれる金さん。口調は厳つい感じですし他の2人に比べてもあまり感情が顔に出ません。でもさりげなく浦さんや桃さんの間を取り持ってくれたり、そっと私を支えてくれたりする縁の下の力持ち、お父さん的な感じなのです。
後になって桃さんに「精霊が住む部屋を用意する変わり者」と言われて、初めて浦さんたちの驚きの意味を知った私でしたが、あの時は何の躊躇いもなく……。むしろ「家族なんだから、一緒に暮らすんだから部屋は必要!」とすら思っていたような気がします。無意識だったので断言はできませんが……。でも、ただあの時も、そして今も三太郎さんたちの部屋を用意する事は当然だと思っています。
その後……。
泥湯は、浦さんと金さんの手により十分お風呂に使えるだけの湯量がある事が確認されました。正確には少々足りなかったそうなのですが、二人の手により途中に詰まっていった泥を全て除去して湯の通りを良くしたのだとか。そうしたら吃驚するぐらいに湯量が増えたのだそうです。
そして肝心の泥の沈殿なのですが、当初予定していたサイズの堀一つでは沈殿しきれず。最終的に3重の堀を作って沈殿に沈殿を重ねてようやく泥湯ではなく濁り湯程度に落ち着きました。しかも3重にしたことでお湯の温度もちょうど良くなって一石二鳥です。ただこれ、こまめに堀の泥を除去する必要がありそうです。それはそれで大変かもしれませんが、まぁお風呂に入る為なら多少の苦労は仕方がありません。
さぁ! 念願の浴場づくりです。脱衣場すら後回しです。
浴槽というか岩風呂の材料となる岩はそのあたりにあったモノを金さんにお願いして成形して作ってもらいました。金さんの成形のレベルはそこまで高くないので複雑な形はできないのですが、一つの面をまったいらにするぐらいならできます。そうやって成形した岩を幾つも使って円形に並べて大きな浴槽を作りました。床部分には平な面が上に来るようにして、一部には金さんに探査(金属)で見つけてきてもらった鉄を仕込んでおきます。
えぇ、忘れてませんよガタロ対策。
かなり大きな浴槽で直径10mぐらいはありそうです。子供なら泳げるぐらいの大きさです。まぁ、流石に泳ぎはしませんけどね。
現在、同時進行している家の設計も同様なのですが、自重する気は全くもってありません。その自重には技術的な意味合いも当然ありますが、それ以外にも前世での夢というか願望をこれでもか!と詰め込んでいるのです。この大きなお風呂も願望の一つです。お祖父ちゃんの家のお風呂が小さかった訳ではないのですが大きくもなかったので。
本当は湯口と言えば良いのか、お湯が浴槽に流れ込む場所をライオンの頭にして、口からお湯がだばーーーっと出るアレにしたかったんだけど、金さんから「無茶を申すな」と駄目出しをされました。金さんの成形レベルでは無理みたいです。
後はシャワーが欲しいです。子供の貧弱な腕力と小さな手で桶で湯を汲んで、頭からかぶるって至難の業です。でもシャワーホースになりそうなものに心当たりが無さ過ぎます。
アレ、何で出来ていたんだろう?
もっと詳しく見ておくんだった……。
そうは思っても後の祭りです。色々と悩んだうえで出した結論が晩夏の向日葵シャワーでした。壁からにょっきりと生えて下向いた向日葵の花みたいな、洋画なんかで見かけるあのシャワーです。正式名称は知りませんが、あれなら何とかなりそうです。
そして更なる試練、水栓ってどうなってるんだろう??
とりあえず以前見つけていたもう一つの泥湯の湧口。そこからお湯を引っ張ってくるとして、こっちは浦さんに浄水をお願いして綺麗なお湯のシャワーにしたいのです。でも常時浦さんに「浄水」を使ってもらうのも現実的じゃないし、シャワー問題は少し時間がかかりそうです。
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