底辺家族は世界を回る〜おじさんがくれた僕の値段〜

ROKUMUSK

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第三章

またね、ごめんな、待っている

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 4人は街での手続きや換金を終わらせて、ラディッツおすすめの茶屋に足を運んだ。

 ザハルビークはヒルバルの隣国として、その恩恵を一番得ている国だろう――そうアルベルトは、質の良い茶を飲みながら考える。

 木造や土壁、脆い煉瓦造りの建物の多い他の予備国とは違い、しっかりと作られた煉瓦やモルタル、鉄筋を使った建物。そして、何よりも街の雰囲気が明るく、行き来する人々は笑顔だった。

「アル、何でこの街は……他の町よりたくさんお店があるんだ?」

 薬草茶を飲みながら、乾物果物を咀嚼しつつ、街行く人にアルベルトは視線を移す。

「……ここはヒルバルにとって無くてはならん国だからな。その分、投資額も大きい」

「投資?」

「ああ。この国が見窄らしければヒルバルの面子が潰れるし、金を注ぎ込むことでヒルバルはザハルビークの首に鎖をつけられる」

「?」

「まあ、出資、投資、投機……ここら辺は追々教えてやる」

 不衛生さは無いものの、荒くれ者のようでもあった以前と違い、服屋でヘアセットまでさせられたアルベルトは、貴族と言われても遜色ないほど、清潔で品の良さを兼ね備えていた。

「アルをみんな見てるね」

 店内や外を歩く女性や男性がちらちらと彼らを見ていて、その視線にユリアーナは何だか落ち着かず、視線をうろうろとさせている。

「あははは! アルベルトもご主人様も素敵になったからねー!」

 そう言うラディッツに、ミーセスは「ほとんどお前に向けてだろうが」と言いたかったが、調子に乗りそうだと口を噤んだ。

「……くだらん」

 アルベルトは眉間に深い皺を寄せて嫌悪感を露わにしつつ、いくつかの書類や木札をテーブルに並べては順番を変えたり、破って木札と共に袋に詰めたりしていた。

「何してる?」

「使えなくなった物を捨てただけだ」

 その言葉に、破棄された物の意味を知るミーセスとラディッツは、アルベルトの覚悟を思い知った。

「アルベルト、俺は中央で別れるつもりだったが……ここからイグラドシアへ向かう」

「……そうか」

「えっ⁉︎ミーセスおじさん行っちゃうの⁉︎」

 ミルクの入っていたカップをテーブルに慌てて置いて、ユリアーナはミーセスの側に駆け寄り理由を問い質す。しかし、ミーセスは困った顔でユリアーナの頭を優しく撫でるばかりだった。

「ねぇってば! 行っちゃうのか? 一緒にカッカドールには行かないのか?」

 ちらりとアルベルトを見るミーセス。しかし、アルベルトは何も言わず、黙々と証文の確認をしていた。

「悪いな、アルベルトからの依頼を早めに終わらせてぇからよ……行くわ」

「そうなん……だ。……ねぇ、また会えるか?」

 ミーセスの新しい服には、綺麗な貝で出来た釦があって、ユリアーナはそれをじっと見た。そうでなくては泣いてしまいそうだったから。

「ああ、会いに行くよ……カッカドールで俺を出迎えてくれるか?」

「うん!……でも……ミーセスおじさんがいないの寂しいよ」

 アルベルトはその決断が自分に起因するものなのか、そう問うような目を向けた。しかし、ミーセスは首を横に振ってユリアーナを抱きしめた。

「ちょっとなー……会わなきゃなんねぇ奴が居るんだよ」

「誰?」

「んー? まあ、昔馴染みだ」

「そう」

 ラディッツは窓の外を眺めつつ、欠伸を一つして鞄から小さな指輪をミーセスにテーブルの下で差し出した。

「イグラドシアに用事って、どーせアイツに会うんだろ?」

「おっ! やっぱりお前も繋がってたか!」

「まーね……だからここからイグラドシアに向かうんでしょ」

 その言葉に、アルベルトはダンッとテーブルに鞄を置くと立ち上がった。そして「ここで待っていろ」と言うと店から出て行った。

「アル?」

 急に不穏になった空気に、ミーセスは頭を抱えてラディッツを横目で見た。

「まさか、アルベルトの傷はアイツか?」

「正解」

「クソッ!」

 何のことを言っているのか分からないまま、ユリアーナはアルベルトの出て行った先を見つめた。

「何のこと?」

「ユリアーナには言えないこともあるんだ。言っても理解できない……それはお前が女だからって理由じゃない。騎士や兵士側の……辛さを理解できないからだ」

 ラディッツは頬杖をつき、豆茶を飲み干すとユリアーナを手招きした。

「ご主人様、人を絶対的に従わせる方法分かる?」

「んーん? 分かんない」

「徹底的に人としての尊厳を奪い、希望を砕いて絶望を味あわせる。もしくはご主人様みたいに、相手を惚れさせるかのどっちかなんだ♪」

「そんげん?」

「簡単に言えば、恥ずかしいって思いや、男や女という性別が持ってる自信みたいな物かな」

「それを奪うのか? どうやって?」

「ラディッツ!」

「人間を動物のように扱ったり、暴力で意思を奪ったりね……方法は様々さ」

「それ、アルは奪われたのか⁉︎」

 ラディッツは微笑み、ミーセスは苦々しい顔をしている。そんな2人にユリアーナは振り返り、アルベルトの出て行った先を見つめた。

 しばらくして、アルベルトが戻ってきた。そしてミーセスに紙を2枚手渡した。

「……」

「シェリフに会うのだろう?」

「……ああ……」

「俺は人買いを辞めた。当然、俺に後ろ盾はない。だが、シェリフにそれを頼むつもりは無い……」

「……みたいだな」

「エッケルフェリアとの縁も今回で切るつもりだ」

 エッケルフェリア。それはアルベルトが傭兵をしていた時に属していた中央特区最大の、武力を売り物にした商会で、アルベルトはたった1年であったが、契約金の最高額を叩き出した過去があった。それを縁に、人買いとして色々と情報を得たり、与えたりと、協力関係にあった。

「どうやってこれから生きていくんだ」

「俺自身で商会を立ち上げるつもりだ」

「簡単じゃないだろ」

「まあ、容易ではないだろうが……出来なくはない」

「で、この金は何だ」

「お前も、シェリフと繋がるくらいならこの金で別の人間を使え……シェリフは必ずお前の目の上の瘤になるぞ」

 ミーセスが何をしようとしているのか、それをアルベルトは正確には理解していない。しかし、イグラドシアの海運商会の会長を務めるシェリフを使うことの危険を知っておくべきだと言った。

「シェリフに会うのは……確認したい事と、お前のために後ろ盾を頼むつもりだったからだ……それは要らぬお節介だった様だ……お前のことを除いても、会うことは必要な事なんだ」

 アルベルトは聖金貨10枚分の小切手をミーセスに握らせ、「金で買われるなよ」と言った。

「仕方ないなあ」

 それまで黙っていたラディッツが声を上げた。そして小切手をミーセスから奪い取るとアルベルトに突き返した。

「俺がミーセスと一緒に行くよ。俺はシェリフと月一で会ってるから」

 その言葉にアルベルトは怒りを滲ませたが、何も知らないミーセス1人でシェリフという狡猾で、権力も持ち合わせた人間に会わせるくらいなら、ラディッツが伴となる方が安全だろうと黙認した。

「え、ラディッツも行っちゃうのか?」

「お仕事終わったら俺もカッカドールに行くからさー……待っててよご主人様。俺もさー……そろそろ人間になりたくなったんだー」

 まるで、今は人間ではないような、全てを諦めているかのようなラディッツにユリアーナは堪らない気持ちになった。

「ミーセス、ラディッツ……生きて帰ってくるなら……カッカドールでお前達を……待っている」

 ラディッツはその言葉に目を丸くした。しかし、涙をその目に浮かべて笑った。

「今まで……ごめん、アルベルト……ミーセスと一緒に行ってもいいか?」

「……ああ」

 ミーセスとラディッツは、結局ヒルバルに入る前に、アルベルトとユリアーナと別れることになった。
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