勿忘草 ~記憶の呪い~

夢華彩音

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第六章 安積織絵

~家族1~

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「朝比奈 織絵…」

あたしと、同じ名前。
玲香はうなずいた。
「最初はびっくりしたよ。お姉ちゃんと同じ名前だったから。まぁでも、そんなに不思議なことではないけどね」
「お姉さんに会ってみたいな…だめ?」

織絵の一言で、玲香は顔を伏せた。
「ごめん…無理」
「そりゃあそうだよね。ごめん」
玲香は首を振った。
「そうじゃなくて…お姉ちゃんはもういないの」
「え?」
「もう、死んじゃったから。」
玲香は微笑んで言った。 
泣きそうになるのを堪えているような、悲しい笑顔。

織絵は何て返せばいいか分からなかった。
可哀想。
とか、ごめん。
では玲香を傷つけてしまいそうで…

きっと、そう言われることを玲香は望んでない。
そう言われたくて話してくれたわけではないだろう
「お姉さんのこと…好き?」

考えて出した言葉は、とてもありきたりであまりにも普通だった。
しかし、玲香は嬉しそうにうなずいた。
「うん。大好きだよ」
織絵は思った。
玲香は、あたしよりも強い。

玲香の部屋で、織絵は家族の話を聞いた。
「私のお姉ちゃんはね、11歳の夏休みに亡くなったの」




私は幼い頃からお姉ちゃんと凄く仲が良かったの。
お姉ちゃんは本当に優しかったし、私は大好きだった。
けど…ある日からお姉ちゃんはあまり外に出なくなった。外に出なくなってから、よく写真を撮るようになった。お姉ちゃんは相変わらず優しかったけど、どこか影があって…

手を離したら消えてしまうような気がしてならなかった。あんなに近くにいたのに、本当の意味で近くにはいけなかった。
お姉ちゃんはいつしか、感情を捨ててしまった。
私がそう感じただけなんだけど…
怒ることも、泣くことも、笑うことすらしなかった。
そして、
“その時が来たら、終わる”
とよく言うようになった。
お姉ちゃんは自分が死ぬことを分かっていたんだと思う。もうすぐ死ぬから…何をやっても意味がない。
もうすぐ死ぬから…自分が生きた証として写真を残そうとした……。

最後に話をした日、お姉ちゃんは私に写真を全部あげると言った。
あの日が私と会う最後の日だと分かっていたから。
私は何も知らなかった。
最後だと分かっていたなら
……もっとお別れらしい話ができたのに。
今更何を言っても遅いけど。
そして1度も会わないまま、突然お父様からお姉ちゃんが死んだと聞かされた。

何も言えなかった。
ショックだったというのもあったけど…

一番強く思ったのは、後悔。

心のどこかで分かっていた。お姉ちゃんが私の前から消えてしまうのではないかって不安でたまらなかった。
私の思い過ごしだと…そう決め込んでいた

そう思わないと、怖くなるから。
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