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第三章 セプタンブル地区“申”

9話 マイペースなお嬢様

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「次に行く地区は決めているの?」
馬に乗ってアプリル地区を出た辺りでラピヌが話しかけてきた。
「ん~…まだ決めてない。ひとまず近いところから行こうかな」
「決めてないのね。だったらいい所があるわ」
「いいところ?」
「もっと仲間がいた方がいいでしょ?」
「そうだけど……心当たりがあるの?」
「もちろんよ。」
「ん~」
ミネはプランツェとグラセに問いかけた。
「どうしよう」
「ミネのしたいようにすればいいよ」
グラセは優しい口調で言った。
プランツェも頷いている。
「俺達が拒否する理由は無い。そもそも、そこのお嬢様は聞く耳を持たないだろうし」
そう言って、プランツェはラピヌに目をやった。
ラピヌは楽しそうに言った。
「よく分かっていらっしゃるわ」
「じゃあ、ラピヌに任せる」
ミネは馬に乗ったまま、ラピヌに地図を渡した。
「セプタンブル地区に行きましょ。あそこには私の大切な人がいるのよ。もちろん“十二支”のね。火属性だから頼りになるわ」
「セプタンブル地区か…」
ミネはセプタンブル地区がある方角をじっと見つめた。






セプタンブル地区に到着した4人は馬から降りた。
折角新しい地区に来たのだからゆっくり歩いてみたい。
セプタンブル地区は山を切り開いて作られた土地で、長い坂と階段が沢山ある。
建物や道路はほとんどが石造りで、所々に色とりどりの花が植えられている。
家と家の境には必ず塀で仕切られており、遠目で街並みを見るのが一番美しいだろう。
アプリル地区とは雰囲気が全然違う。
「旅っていいね。ソレイユ地区にずっと住んでたから知らなかった」
ミネは思いきり伸びをした。
そういえば……旅に出てからは胸のつかえが無くなったような気がする。
人目を避ける必要もないし、何も言われないし。
まるで自分が新しく生まれ変わったみたい。
まぁ、だからといって急に性格が変わるわけではないけど。
「ミネ、早く行きましょうよ」
ラピヌは急かすように言った。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「早く会わせたいのよ。ほら、早く早く」
「ちょっと待って」
早足で歩き出したラピヌを、ミネ達は慌てて追った。
「マイペースなお嬢様だな」
プランツェは顔をしかめた。
「楽しくていいじゃん。人数が増えるとミネに負担をかけずに済むし」
グラセは笑顔で言った。




「着いたわ」
ラピヌは嬉しそうに言った。
追いついたミネは肩で息をした。
「ちょっと…早いよ…」
「ミネは体力が無いのね。道理でマギアも弱いはずだわ。」
「体力関係あるの…」
「もちろんよ。」

いつの間にかプランツェとグラセも追いついている。
ラピヌはインターホンを鳴らした。

『どちら様でしょうか?』
「私よ。ラピヌ。……グノンはいるかしら?」
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