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第七章 第四の復讐
25話 最低な人
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私は今、江藤海斗と一緒に食事をしている。
何故かというと、1時間ほど前に話しかけられたからだ。
私は一人で街を歩いていた。今日は執事も皐月もついて来ていない。
時々、無性に1人になりたくなる事がある。
本当ならもっとラフな格好で普通の人混みの一部として紛れていたかったが、杠家に恥をかかせることは出来ないから仕方がない。
そんな事を考えながら商店街にさしかかった時に声をかけられた。
「あの、おひとりですか?」
振り向くと江藤海斗が立っていた。あの日から何も変わっていなかったから、すぐに分かったのだ。
「…1人ですが、何か?」
「よろしければ、お茶でもどうかと思いまして」
「………」
この人はナンパには縁がない人間かと思っていた。かつて私がこの男に好意を寄せていた時には、彼が完璧な人のように見えていた覚えがある。
あくまで、昔の話だ。
今の私には、彼がごく普通の冴えない男にしか見えない。
「えぇ。喜んで」
私はにっこりと微笑んでやった。
近くの喫茶店に入ると、私達は軽く自己紹介をした。彼は意外にも杠家のことを知らなかった。
私と彼がいたあの街でも知っている人が多いだろうに。
「乙葉さんは、この辺りに住んでるんですか?」
海斗は期待を込めた目で私を見た。
それにしても、いきなり下の名前で呼ぶとはね。
「そうですね。近いといえば近いです。あなたもこの辺りに?」
「俺は旅行で来たんです」
「おひとりで?」
「はい。おかげで乙葉さんに会うことができました」
「そう…ですね」
その後はひたすら自分の自慢話と口説き文句を交互に言い始めた。
私はため息をつきそうになった。私にその気は全く無いというのに。復讐という目的を果たしたら、もうあなたに用はない。
面倒くさくなってきた私は、話を切り替えることにした。
「突然で申し訳ないけれど、私の友人の話を聞いてもらえる?」
「勿論です」
「私の友人は、同じクラスに好きな人がいたの。彼はとても優しかったんですって。だけど、いざ告白すると『少し優しくしただけでそう思うんだ。お前なんかを好きになる奴がいる訳ないだろ』って返されたらしいの。あなたは…どう思う?」
「そんな奴は最低だ。少なくとも俺ならちゃんと返事してた」
海斗は力強く断言した。
「……そうね。それが普通の反応だわ」
私は笑顔で頷いた。
あなたが言う“最低な奴”はご自分のことよ。
私に隠していい人を演じているのか、それとも本当に忘れているのか定かではないが、何故か傷つくことはなかった。
それどころか、私はこう思った。
復讐する理由を増やしてくれてありがとう、と。
何故かというと、1時間ほど前に話しかけられたからだ。
私は一人で街を歩いていた。今日は執事も皐月もついて来ていない。
時々、無性に1人になりたくなる事がある。
本当ならもっとラフな格好で普通の人混みの一部として紛れていたかったが、杠家に恥をかかせることは出来ないから仕方がない。
そんな事を考えながら商店街にさしかかった時に声をかけられた。
「あの、おひとりですか?」
振り向くと江藤海斗が立っていた。あの日から何も変わっていなかったから、すぐに分かったのだ。
「…1人ですが、何か?」
「よろしければ、お茶でもどうかと思いまして」
「………」
この人はナンパには縁がない人間かと思っていた。かつて私がこの男に好意を寄せていた時には、彼が完璧な人のように見えていた覚えがある。
あくまで、昔の話だ。
今の私には、彼がごく普通の冴えない男にしか見えない。
「えぇ。喜んで」
私はにっこりと微笑んでやった。
近くの喫茶店に入ると、私達は軽く自己紹介をした。彼は意外にも杠家のことを知らなかった。
私と彼がいたあの街でも知っている人が多いだろうに。
「乙葉さんは、この辺りに住んでるんですか?」
海斗は期待を込めた目で私を見た。
それにしても、いきなり下の名前で呼ぶとはね。
「そうですね。近いといえば近いです。あなたもこの辺りに?」
「俺は旅行で来たんです」
「おひとりで?」
「はい。おかげで乙葉さんに会うことができました」
「そう…ですね」
その後はひたすら自分の自慢話と口説き文句を交互に言い始めた。
私はため息をつきそうになった。私にその気は全く無いというのに。復讐という目的を果たしたら、もうあなたに用はない。
面倒くさくなってきた私は、話を切り替えることにした。
「突然で申し訳ないけれど、私の友人の話を聞いてもらえる?」
「勿論です」
「私の友人は、同じクラスに好きな人がいたの。彼はとても優しかったんですって。だけど、いざ告白すると『少し優しくしただけでそう思うんだ。お前なんかを好きになる奴がいる訳ないだろ』って返されたらしいの。あなたは…どう思う?」
「そんな奴は最低だ。少なくとも俺ならちゃんと返事してた」
海斗は力強く断言した。
「……そうね。それが普通の反応だわ」
私は笑顔で頷いた。
あなたが言う“最低な奴”はご自分のことよ。
私に隠していい人を演じているのか、それとも本当に忘れているのか定かではないが、何故か傷つくことはなかった。
それどころか、私はこう思った。
復讐する理由を増やしてくれてありがとう、と。
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