出ていってください!~結婚相手に裏切られた令嬢はなぜか騎士様に溺愛される~

白井

文字の大きさ
8 / 89

招待状

しおりを挟む
「はあ……」
 
驚きすぎて今にも腰が抜けそうだったがなんとかイヴェットは矜持を絞り出して床ではなくソファに座り込んだ。
 珍しく荒々しい様子で出ていったヘクターに使用人たちも驚いていた。

「奥様、大丈夫ですか?」

 トレイシーが急いで白湯を持ってきてくれた。カップを持つだけで少しほっとする。

「なあに、あの子を怒らせたの? 優しいあの子を」

 そこへやってきたのはダーリーンだった。扇をひらめかせて、意味深にほほ笑む。

(今一番会いたくない人だわ)

 しかし弱みをみせたくないイヴェットは優雅に立ち上がり微笑んだ。

「お加減はどうですかお義母様。寝込まれていたようですけれど」

「あら、もうすっかり平気よ。明日はまたサロンに広間を使うから、準備をお願いね」

「……承知いたしましたわ」

 親子ともどもイヴェットの事を使用人だと思っているようだ。
 お酒と食事の準備を急にするのも大変なのだから控えてほしい、などと言おうものなら当たり散らすのでイヴェットは大人しく我慢した。

「それにしてもあの子も可哀そうね」

 玄関をちらりと見るダーリーンが何を言っているのか分からなかった。

「男一人繋ぎ留められない女を妻にして、退屈でしょう」

(なっ)

 一瞬で頭に血がのぼる。ダーリーンは息子の不貞を知っていたのだ。
 その上でイヴェットが悪いと貶めている。

「奥様」

 トレイシーが見えないようにドレスを引っ張ってイヴェットを落ち着かせようとする。

「まあ貴族男性にはよくある事ですものね。あなたがつまらないとしても気にすることではないわよ。あーっはっは!」

 言うだけ言うとダーリーンは扇で自身を煽ぎながら去っていった。嵐のようだった。

「なんだったんでしょう」

「分からないわ。お酒が抜けて楽しくなったんでしょう。後は宴の指示」

 自室に戻ったイヴェットは商会からの報告書とは別にいくつかの手紙がある事に気付いた。

「これは招待状ね」

 オーダムは歴史ある男爵家だ。
 結婚後すぐに父が亡くなりバタバタしていた為パーティーに呼ばれる事もなかったのだが、忌明けも済みしばらくしたので気を遣ってくれているのだろう。
 屋敷の中にいたら気が滅入りそうだった今のイヴェットにはありがたい誘いだった。

「ヘクターは了承してくれるかしら」

 未亡人でもない既婚の女性が一人でパーティーに参加する事はあまりない。
 参加するにはヘクターにエスコートしてもらわなければならないのだが、さき程の会話からして素直に応じてくれるだろうか。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

平穏な生活を望む美貌の子爵令嬢は、王太子様に嫌われたくて必死です

美並ナナ
恋愛
類稀なる美貌を誇る子爵令嬢シェイラは、 社交界デビューとなる15歳のデビュタントで 公爵令息のギルバートに見初められ、 彼の婚約者となる。 下級貴族である子爵家の令嬢と 上級貴族の中でも位の高い公爵家との婚約は、 異例の玉の輿を将来約束された意味を持つ。 そんな多くの女性が羨む婚約から2年が経ったある日、 シェイラはギルバートが他の令嬢と 熱い抱擁と口づけを交わしている場面を目撃。 その場で婚約破棄を告げられる。 その美貌を翳らせて、悲しみに暮れるシェイラ。 だが、その心の内は歓喜に沸いていた。 身の丈に合った平穏な暮らしを望むシェイラは この婚約を破棄したいとずっと願っていたのだ。 ようやくこの時が来たと内心喜ぶシェイラだったが、 その時予想外の人物が現れる。 なぜか王太子フェリクスが颯爽と姿を現し、 後で揉めないように王族である自分が この婚約破棄の証人になると笑顔で宣言したのだ。 しかもその日以降、 フェリクスはなにかとシェイラに構ってくるように。 公爵子息以上に高貴な身分である王太子とは 絶対に関わり合いになりたくないシェイラは 策を打つことにして――? ※設定がゆるい部分もあると思いますので、気楽にお読み頂ければ幸いです。 ※本作品は、エブリスタ様・小説家になろう様でも掲載しています。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結】追放された私、宮廷楽師になったら最強騎士に溺愛されました

er
恋愛
両親を亡くし、叔父に引き取られたクレアは、義妹ペトラに全てを奪われ虐げられていた。 宮廷楽師選考会への出場も拒まれ、老商人との結婚を強要される。 絶望の中、クレアは母から受け継いだ「音花の恵み」——音楽を物質化する力——を使い、家を飛び出す。 近衛騎士団隊長アーロンに助けられ、彼の助けもあり選考会に参加。首席合格を果たし、叔父と義妹を見返す。クレアは王室専属楽師として、アーロンと共に新たな人生を歩み始める。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

虐げられていた次期公爵の四歳児の契約母になります!~幼子を幸せにしたいのに、未来の旦那様である王太子が私を溺愛してきます~

八重
恋愛
伯爵令嬢フローラは、公爵令息ディーターの婚約者。 しかし、そんな日々の裏で心を痛めていることが一つあった。 それはディーターの異母弟、四歳のルイトが兄に虐げられていること。 幼い彼を救いたいと思った彼女は、「ある計画」の準備を進めることにする。 それは、ルイトを救い出すための唯一の方法──。 そんな時、フローラはディーターから突然婚約破棄される。 婚約破棄宣言を受けた彼女は「今しかない」と計画を実行した。 彼女の計画、それは自らが代理母となること。 だが、この代理母には国との間で結ばれた「ある契約」が存在して……。 こうして始まったフローラの代理母としての生活。 しかし、ルイトの無邪気な笑顔と可愛さが、フローラの苦労を温かい喜びに変えていく。 さらに、見目麗しいながら策士として有名な第一王子ヴィルが、フローラに興味を持ち始めて……。 ほのぼの心温まる、子育て溺愛ストーリーです。 ※ヒロインが序盤くじけがちな部分ありますが、それをバネに強くなります ※「小説家になろう」が先行公開です(第二章開始しました)

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

処理中です...