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第2幕 逃亡劇の果てに
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深く頭を下げる悠斗。
その紳士な態度におふくろは怒りを鎮め、普段通りの顔付きになる。
「あら、そうだったの? 私もうっかりだわ。悠斗君の家に確認するの忘れていて。それより具合って大丈夫なの?」
「人混みに酔っただけなんで大丈夫ですよ。ホテルがあまりにも快適だったので、そのまま寝てしまって。僕の責任です」
「具合が悪かったなら仕方ないわね。悠斗君が一緒なら安心だけど、次回からは気を付けるのよ」
「うん。……心配掛けてごめん」
じとっと悠斗を見やり、先ほどのおふくろとのやり取りについて追及する。夕飯を食べながら、おふくろから根掘り葉掘り聞かれたのだ。その度に悠斗は優等生な回答をしていた。
そのおかげもあって、おふくろは上機嫌で仕事へと出かけていった。
「お前、よくあんな嘘パッと思い付くよな……」
「でも半分は本当だから」
「助かったけどさ……。あーあ、なんか家に帰って来たら、どっと疲れた~」
「そうだね。もうひとりで動けそう?」
「んー。なんとか。……てかお前、少しは手加減できないのかよ!」
「手加減はしたよ? あれでも凄く我慢したのにな」
恐ろしいことを言い出す悠斗に、比較対象がない俺はセックスとは命がけでするものなのかと青ざめた。通常子供を作るための行為だ。命を誕生させるには、それぐらいの覚悟が必要なのかもしれないと、勝手な解釈をする。
「それはそうと……瀬菜……」
悠斗は神妙な面持ちで俺の両手を握ると、瞳を伏せ口を閉ざした。
「──なん、だよ……」
「うん……奴隷解放までにはまだ早いけど……」
おいおい、まだその設定だったのかよ。
いい加減もう奴隷じゃなくていいだろが……。
悠斗の顔をチラチラ窺っていると、手の甲に恭しくキスをされた。それから真っ直ぐに俺を見据え、意を決した様子で言ってきた。
「──俺と付き合ってください」
「…………へっ?」
身構えていた俺は、すっとんきょな声を上げる。悠斗は俺の反応にガクリと肩を落とし、はぁーっと深いため息を漏らした。
「……うん。瀬菜だもんね。俺が悪かった」
「だからなんだよ。本当に分かりにくいやつだな」
「俺の恋人になってくれませんか?」
これでどうだと苦笑いで微笑む悠斗が、あまりにも格好良くて見とれてしまう。黙り込む俺の様子に、不安そうに瞳を彷徨わせる悠斗。その意味を理解した俺は、コクンと頷きみるみる頬を赤らめた。
「ちゃんと言葉で安心させて?」
溶けるような笑顔で悠斗は俺を抱きしめた。
「……ん。俺、悠斗の恋人になる……」
ギュっと力を込める悠斗に、俺も腕を絡めて抱きしめ返す。もうそういう関係なのだと思っていたが、改めて言われるとなぜか嬉しくて恥ずかしくて幸せな気持ちになる。
「瀬菜、嬉しい……愛してる」
「俺も、悠斗……あ、あああぃ……る」
さらりと愛情を訴える悠斗に対し、俺はまだ羞恥心で上手く伝えられない。けれど悠斗はそんな俺にも喜び、興奮気味に可愛い可愛いと連呼し、顔中にちゅっちゅと啄むキスをしてくる。
「……お前、順番ぐちゃぐちゃ。普通先に告白して恋人同士になったら、カラダの関係持つだろが……」
「ふふっ、俺も色々余裕なかったから許して? 奴隷ごっこのペナルティーはこなせたけど、不発に終わっちゃったし今度ちゃんとやろうね?」
「馬鹿か! 今回ので十分だ!」
ケラケラと一頻り笑い合うと、ゆっくりと唇を重ねた──。
その紳士な態度におふくろは怒りを鎮め、普段通りの顔付きになる。
「あら、そうだったの? 私もうっかりだわ。悠斗君の家に確認するの忘れていて。それより具合って大丈夫なの?」
「人混みに酔っただけなんで大丈夫ですよ。ホテルがあまりにも快適だったので、そのまま寝てしまって。僕の責任です」
「具合が悪かったなら仕方ないわね。悠斗君が一緒なら安心だけど、次回からは気を付けるのよ」
「うん。……心配掛けてごめん」
じとっと悠斗を見やり、先ほどのおふくろとのやり取りについて追及する。夕飯を食べながら、おふくろから根掘り葉掘り聞かれたのだ。その度に悠斗は優等生な回答をしていた。
そのおかげもあって、おふくろは上機嫌で仕事へと出かけていった。
「お前、よくあんな嘘パッと思い付くよな……」
「でも半分は本当だから」
「助かったけどさ……。あーあ、なんか家に帰って来たら、どっと疲れた~」
「そうだね。もうひとりで動けそう?」
「んー。なんとか。……てかお前、少しは手加減できないのかよ!」
「手加減はしたよ? あれでも凄く我慢したのにな」
恐ろしいことを言い出す悠斗に、比較対象がない俺はセックスとは命がけでするものなのかと青ざめた。通常子供を作るための行為だ。命を誕生させるには、それぐらいの覚悟が必要なのかもしれないと、勝手な解釈をする。
「それはそうと……瀬菜……」
悠斗は神妙な面持ちで俺の両手を握ると、瞳を伏せ口を閉ざした。
「──なん、だよ……」
「うん……奴隷解放までにはまだ早いけど……」
おいおい、まだその設定だったのかよ。
いい加減もう奴隷じゃなくていいだろが……。
悠斗の顔をチラチラ窺っていると、手の甲に恭しくキスをされた。それから真っ直ぐに俺を見据え、意を決した様子で言ってきた。
「──俺と付き合ってください」
「…………へっ?」
身構えていた俺は、すっとんきょな声を上げる。悠斗は俺の反応にガクリと肩を落とし、はぁーっと深いため息を漏らした。
「……うん。瀬菜だもんね。俺が悪かった」
「だからなんだよ。本当に分かりにくいやつだな」
「俺の恋人になってくれませんか?」
これでどうだと苦笑いで微笑む悠斗が、あまりにも格好良くて見とれてしまう。黙り込む俺の様子に、不安そうに瞳を彷徨わせる悠斗。その意味を理解した俺は、コクンと頷きみるみる頬を赤らめた。
「ちゃんと言葉で安心させて?」
溶けるような笑顔で悠斗は俺を抱きしめた。
「……ん。俺、悠斗の恋人になる……」
ギュっと力を込める悠斗に、俺も腕を絡めて抱きしめ返す。もうそういう関係なのだと思っていたが、改めて言われるとなぜか嬉しくて恥ずかしくて幸せな気持ちになる。
「瀬菜、嬉しい……愛してる」
「俺も、悠斗……あ、あああぃ……る」
さらりと愛情を訴える悠斗に対し、俺はまだ羞恥心で上手く伝えられない。けれど悠斗はそんな俺にも喜び、興奮気味に可愛い可愛いと連呼し、顔中にちゅっちゅと啄むキスをしてくる。
「……お前、順番ぐちゃぐちゃ。普通先に告白して恋人同士になったら、カラダの関係持つだろが……」
「ふふっ、俺も色々余裕なかったから許して? 奴隷ごっこのペナルティーはこなせたけど、不発に終わっちゃったし今度ちゃんとやろうね?」
「馬鹿か! 今回ので十分だ!」
ケラケラと一頻り笑い合うと、ゆっくりと唇を重ねた──。
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