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第5幕 噂の姫乃ちゃん
01
しおりを挟む夏休みはあっという間に過ぎていった。最後の三日間は案の定宿題漬け。それもこれも悠斗との甘い時間にどっぷり浸かってしまったからだ。一ヶ月間はそれは色々とあった。その色々の割合は七割方エッチで占められていたような気もするが、順風満帆なお付き合いということで良しとしよう。
オヤジとおふくろも海外旅行から無事帰国し、家族らしい日常もそれなりに過ごせた。俺のベッドがデカくなったことにオヤジは雄叫びを上げ暴れていたが、そんなオヤジを悠斗が宥め最終的には納得したようだ。
「瀬菜、なんとか宿題終わったね。明日からまた学校だし帰るね?」
「あ、うん。そうだよな……」
悠斗は隣の子。帰るのはあたり前なのだ。少し寂しいが駄々を捏ねても仕方がない。普段の生活に慣れて行かなければと自分を叱咤する。
「瀬菜……そんな悲しそうな顔しないで? また明日迎えに来るね?」
「べ、別に……悲しくなんてしていないだろ!」
「素直じゃないんだから。俺は寂しくて堪らないよ?」
「お前……そういうこと言うなよ……俺、我慢して強がっているのに……」
ブスッと頬を膨らませ視線を逸らす俺を、悠斗は満面の笑みで抱きしめてきた。
「瀬菜……もう、なんでそんなに可愛いの? んー、離れられなくなっちゃう前に本当に帰るよ」
「ははは~~、また明日な! ゆっくり休めよ!」
玄関まで悠斗を見送ると、ぽっかり穴が開いてしまったようにジワジワと寂しさが増していく。そんな寂しさを紛らわせるために、しばらくリビングで両親から旅行話しを聞き、気持ちを紛らわせていた。
風呂に入ってから部屋に戻り、ひとりで寝るには大き過ぎるベッドを見ると、また寂しさが込み上げてくる。
悠斗は隣の家に居るっていうのに……。
なんでこんなに俺ってば乙女モードなんだか……。
早く普通の日常に戻さないとな……。
そう思いながら明日の学校へ行く準備を済ませ、悠斗におやすみのメッセージを送りながらベッドに横になった。すぐに返信があり『おやすみ♡』と送られてきた。そのあとにもう一通受信する。その文面を見て口元を綻ばせる。
『夢で逢えるといいね♡』
ププっと思わず吹き出す。
「ばーか……ヘヘっ♪」
悠斗のメッセージにそうひとり呟き、ふわりと胸が温かくなる。それだけで幸せになれる自分は現金だ。瞼を閉じ夏休み中の出来事を思い浮かべながら眠りについた。
***
「せーな。起きよ? 今日は早めに行かないと」
ちゅっちゅっと瞼にキスをされ、久々の朝のお迎えに幸せ気分で覚醒する。
「うーー、はよ……。とうとう学校始まっちゃった。あーー行きたくないぃっ!」
「ふふっ、あっという間だったね。ほら、頑張って支度して?」
尻を叩かれ朦朧としながら制服に着替えネクタイを締める。久々に着けるからか上手くいかない。もたついていると見兼ねた悠斗が手際よく締め直してくれる。
「ヘヘッ、ありがとう。これも着けて?」
手にしたブレスレットを渡すと、嬉しそうにしながらフックを掛けてくれる。
「なんだか誓いの儀式みたいだね。朝のルーティンにしようかな」
「俺はやってもらえて助かるから、朝の悠斗のお勤めな!」
「可愛いお勤めだね」
「学校ではクラスも別々だからさ。これしていると、悠斗を近くに感じられるんだ。俺、これ貰って良かった!」
二パッと笑顔で返すと悠斗は抱きしめて唇を奪っていく。深い口付けは朝には刺激的で腰に響いてしまい、それを察した悠斗はクスッと笑い唇を離していく。
「ちょっと刺激しすぎた? でも瀬菜が悪いんだよ?」
「うっ……バカ! 俺のせいにするなよ……」
朝のイチャイチャを済ませると、朝食を済ませ普段より早めに家を出た。
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※主人公はメガネキャラですが、純粋に視力が悪くてメガネ着用というわけではないので、メガネ属性好きで読み始められる方はご注意ください。
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※ムーンライトノベルズにて連載していたものを加筆修正したものになります。
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