482 / 716
第14幕 季節外れの天使ちゃん
33
しおりを挟む
配布用の資料はクリアフォルダーに入れられ配り易くはなっている。だがしかし……意外と分厚く、ツルツルと滑る素材がバランスを崩してくれるのだ。
すぐそこだと思い横着して箱詰めにしなかったのが問題だったのかもしれない。多澤は平衡感覚が抜群なのか、俺とは違い余裕であった。俺よりも多めに持っているのに、さらに負担を掛ける訳にはと、俺なりに奮闘しつつ歩いている訳です。
「顔真っ赤にしながら大丈夫とか……意地っ張りめ」
「……ううぅ……真剣だからちょっと黙ってて」
この微妙なバランスが……。
腕がつりそう~~‼︎
体育館の入り口が見えると、気分は少し軽くなる。入り口のちょっとした段差は厄介だと、注意を払い足を上げたはずが……見事にコケた……。
「──うぉっ‼︎ ぎゃふっ‼︎」
「……ああ……予想通り……やっぱ大丈夫じゃねぇじゃん。本当に瀬菜はトロイな……」
腕の中の資料達は滑りを借りてコントのように、これまた滑る綺麗にワックス掛けされた床をスライディングして散らばっていく。そんな俺も見事にべちゃんと万歳状態で倒れ込んだ。
椅子を並べザワザワとした体育館内は、俺の見事な転倒具合に注目を集め静まり返っていた。
……やべぇ……恥ずかし過ぎて起き上がれない……。
人間というのは急なトラブルに瞬時に対応ができない生き物だ。思考は停止し、次にどの行動を取ったらいいのか頭が真っ白になる。
そんな俺の後方から心配そうな声が掛けられた。
「……君……大丈夫かい?」
「えっ……あっ……」
混乱していると年配の紳士が覗き込み手を差し伸べてくれる。
「……怪我はしていない?」
渋い優しい声が俺の上体を起こしながら、俺の恥ずかしさを振り払ってくれる。
「……すみません……」
「ふふっ……お鼻が少し赤いね。保健室に行ったほうがいいかな?」
「ははは……いつもこうなんで大丈夫です」
「そうかい? 折角の可愛い顔なのにね?」
高齢だが若々しい五十代後半ぐらいの紳士は、笑顔で散乱した資料集めを手伝ってくれた。きっと来賓で早くに到着してしまったのかもしれない。
「……これで最後だね」
「あの、本当にありがとうございます」
ペコリと深くお辞儀をし、迷惑を掛けてしまったことにお礼をすると、また優しい笑顔で首を横に振り「いいんだよ」と応えてくれる。
「少し早くに着いてしまってね。いい時間潰しになった。ここに来たのは初めてでだが、生徒も明るくていい学校だ。それに……可愛い子にも会えたしね」
「あっ、いや……今日は来賓で来られたんですか?」
「そうだね。来賓としてもだが……友人に会いにね。それと……君にも……」
……ん? これは……あれか?
俺……口説かれてる⁉︎
ピキンと固まる俺に、多澤が割って入ってくる。悠斗に俺を頼むと言われた多澤は、少し警戒しつつ来賓客に粗相がないように質問をした。
「……あの……俺、多澤雅臣と言います。失礼ですが……」
「ふふっ、礼儀正しい子だね。本当にいい学校じゃないか。私はこういう者だ。怪しくないと思うよ?」
多澤は紳士が丁寧に差し出した名刺を受け取ると、何度も名刺と紳士の顔を見て驚愕の表情を見せる。声すら発さない多澤のいつもと違う様子に首を傾げると、紳士は俺にも同じように名刺を差し出してくれた。
受け取った俺も多澤と同じように、驚きながら身体中からジワっと嫌な汗を背中に感じていた。一文字ずつ書かれた文字を凝視し、声を出すこともできずにいた。
──『リッカグループ 株式会社リッカ 代表取締役 会長 立花優宇貴』──
すぐそこだと思い横着して箱詰めにしなかったのが問題だったのかもしれない。多澤は平衡感覚が抜群なのか、俺とは違い余裕であった。俺よりも多めに持っているのに、さらに負担を掛ける訳にはと、俺なりに奮闘しつつ歩いている訳です。
「顔真っ赤にしながら大丈夫とか……意地っ張りめ」
「……ううぅ……真剣だからちょっと黙ってて」
この微妙なバランスが……。
腕がつりそう~~‼︎
体育館の入り口が見えると、気分は少し軽くなる。入り口のちょっとした段差は厄介だと、注意を払い足を上げたはずが……見事にコケた……。
「──うぉっ‼︎ ぎゃふっ‼︎」
「……ああ……予想通り……やっぱ大丈夫じゃねぇじゃん。本当に瀬菜はトロイな……」
腕の中の資料達は滑りを借りてコントのように、これまた滑る綺麗にワックス掛けされた床をスライディングして散らばっていく。そんな俺も見事にべちゃんと万歳状態で倒れ込んだ。
椅子を並べザワザワとした体育館内は、俺の見事な転倒具合に注目を集め静まり返っていた。
……やべぇ……恥ずかし過ぎて起き上がれない……。
人間というのは急なトラブルに瞬時に対応ができない生き物だ。思考は停止し、次にどの行動を取ったらいいのか頭が真っ白になる。
そんな俺の後方から心配そうな声が掛けられた。
「……君……大丈夫かい?」
「えっ……あっ……」
混乱していると年配の紳士が覗き込み手を差し伸べてくれる。
「……怪我はしていない?」
渋い優しい声が俺の上体を起こしながら、俺の恥ずかしさを振り払ってくれる。
「……すみません……」
「ふふっ……お鼻が少し赤いね。保健室に行ったほうがいいかな?」
「ははは……いつもこうなんで大丈夫です」
「そうかい? 折角の可愛い顔なのにね?」
高齢だが若々しい五十代後半ぐらいの紳士は、笑顔で散乱した資料集めを手伝ってくれた。きっと来賓で早くに到着してしまったのかもしれない。
「……これで最後だね」
「あの、本当にありがとうございます」
ペコリと深くお辞儀をし、迷惑を掛けてしまったことにお礼をすると、また優しい笑顔で首を横に振り「いいんだよ」と応えてくれる。
「少し早くに着いてしまってね。いい時間潰しになった。ここに来たのは初めてでだが、生徒も明るくていい学校だ。それに……可愛い子にも会えたしね」
「あっ、いや……今日は来賓で来られたんですか?」
「そうだね。来賓としてもだが……友人に会いにね。それと……君にも……」
……ん? これは……あれか?
俺……口説かれてる⁉︎
ピキンと固まる俺に、多澤が割って入ってくる。悠斗に俺を頼むと言われた多澤は、少し警戒しつつ来賓客に粗相がないように質問をした。
「……あの……俺、多澤雅臣と言います。失礼ですが……」
「ふふっ、礼儀正しい子だね。本当にいい学校じゃないか。私はこういう者だ。怪しくないと思うよ?」
多澤は紳士が丁寧に差し出した名刺を受け取ると、何度も名刺と紳士の顔を見て驚愕の表情を見せる。声すら発さない多澤のいつもと違う様子に首を傾げると、紳士は俺にも同じように名刺を差し出してくれた。
受け取った俺も多澤と同じように、驚きながら身体中からジワっと嫌な汗を背中に感じていた。一文字ずつ書かれた文字を凝視し、声を出すこともできずにいた。
──『リッカグループ 株式会社リッカ 代表取締役 会長 立花優宇貴』──
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
231
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる