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第21幕 卒業旅行は終わりで始まり
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朝早かったこともあり、みんなにエッチしていたのはバレずに済んだ。けれど結局あの馬鹿みたいに太いゴツゴツしたゴーヤを昨夜使用したかは、有耶無耶にされてしまった。そのおかげで俺は朝から挙動不審だ。
この旅行中に毎日のように口にしていた緑の物体は、皿の脇で生い茂る山となっていた。実千流はそんな俺の行いを、白い目で静かに見つめていた。
「……瀬菜、ゴーヤ、なんで避けているの?」
「……別に……もう、いっぱい食べたかなって……。てかさ、俺昨日なにかあった?」
「覚えてないの? まぁそっか……あれだけ飲んだらそうなるよね。これだよ。ストレートで全部ひとりで飲んじゃった」
実千流にドンとテーブルの上に空の瓶を置かれた。その瓶は見覚えがある。透明で銘柄が『幻の琉球水』と書かれており、沖縄限定の天然水だと思っていたのだ。
「それは飲んだ覚えあるぞ? チェーサー代わりに飲んだんだ。ちょっと癖はあったけど」
「味音痴もいいとこじゃない? 本当に瀬菜ってドジだね! ほらよく見て? どこに水って書いてあるの?」
ラベルをよく見ると、かなりの度数が記載されていた。こんなややこしい名前をつけるなとクレームを言いたくなるが、全ては俺の狂った味覚のせいなのだ。
「悠斗さんは面倒見るの大変だったと思うよ~。あれだけ飲んで二日酔いになってないのが奇跡だよ。今後はそういう機会も増えるし気を付けなよ?」
「……うぅぅ、なにも言えねぇ……」
今日も朝からビーチバレーで対戦する悠斗を、部屋の中から眺め、残りわずかな滞在中は迷惑を掛けないようにしようと誓ったのだった。
*
ざわめく人混みの中、壁際で邪魔にならないようにひと息つき、皆スマホを見ながら帰りの電車を検索していた。床には旅行バックと沢山のお土産を置き、いかにも楽しんで来ましたというように肌がこんがりと焼けていた。
空港は時期のせいか学生が多い。俺たちもそのグループだ。無言でどう別れを切り出そうか思い倦ねいていると、環樹先輩がいつもの軽い調子で場を和ませてくれた。
「トラブルがあったにせよ、無事到着~♪ みんな家に着くまでが旅行だからね~♪ 次に会えるのを楽しみにしてるよ~♪」
引率者の環樹先輩は、旅行中誰よりもよく働いてくれた。ゲストで来てもらったのに、先輩なりに気を遣ってくれたようだ。
「あー、楽しかったー。しばらく会えないのかー」
「だな、次は大学生活が落ち着いた頃、また会おうぜ」
「けど、なにか困ったことがあれば連絡な。特に瀬菜! お前は要注意人物だからな」
「へへっ、なるべくそうする。俺、大学に馴染めるか今から憂鬱だよー」
「ふふっ、初めてのことだからね。みんなそれは同じだよ?」
「うんうん。だぁね~。それじゃ、時間も時間だし解散しますか! みんな元気でね!」
みんなで視線を合わせ頷き合う。荷物を持ち照れ臭そうに笑い合うと、「またな」と呟き背を向ける。
多澤と由良りんは、帰ってからひとり暮らしの準備をするらしい。村上は家から通うらしく、ひょっこり会うかもねと話していた。
実千流は旅行中に、環樹先輩と近々同棲することが決定した。先を越されるとは思っていなかったが、嬉しい知らせだった。落ち着いたら遊びにおいでと言ってくれた実千流の幸せそうな笑顔が、ちょっぴり羨ましかった。
四泊五日の卒業旅行は、こうして瞬く間に終わってしまった。それぞれ違う方向に別れていく。五日間ずっと一緒に過ごしたせいか、みんなの背中を追いかけたくなってしまう。
「瀬菜、荷物持とうか?」
「ううん、いいよ。この重みを忘れたくない」
「そっか……またねは……さよならじゃないよ?」
「うん……悠斗にはいっぱい迷惑かけたけど、楽しかったな!」
「ふふっ、またみんなで行こうね?」
「そうだな。次はどこに行くか決めないと!」
「クスッ……なら、北海道かな?」
「おぉ~~! 日本列島制覇するのもいいな!」
次に会えるのを糧に、俺たちはそれぞれの道へと進んでいった──。
❥ 三年生編【閉幕】──大学生編へ── ❥
この旅行中に毎日のように口にしていた緑の物体は、皿の脇で生い茂る山となっていた。実千流はそんな俺の行いを、白い目で静かに見つめていた。
「……瀬菜、ゴーヤ、なんで避けているの?」
「……別に……もう、いっぱい食べたかなって……。てかさ、俺昨日なにかあった?」
「覚えてないの? まぁそっか……あれだけ飲んだらそうなるよね。これだよ。ストレートで全部ひとりで飲んじゃった」
実千流にドンとテーブルの上に空の瓶を置かれた。その瓶は見覚えがある。透明で銘柄が『幻の琉球水』と書かれており、沖縄限定の天然水だと思っていたのだ。
「それは飲んだ覚えあるぞ? チェーサー代わりに飲んだんだ。ちょっと癖はあったけど」
「味音痴もいいとこじゃない? 本当に瀬菜ってドジだね! ほらよく見て? どこに水って書いてあるの?」
ラベルをよく見ると、かなりの度数が記載されていた。こんなややこしい名前をつけるなとクレームを言いたくなるが、全ては俺の狂った味覚のせいなのだ。
「悠斗さんは面倒見るの大変だったと思うよ~。あれだけ飲んで二日酔いになってないのが奇跡だよ。今後はそういう機会も増えるし気を付けなよ?」
「……うぅぅ、なにも言えねぇ……」
今日も朝からビーチバレーで対戦する悠斗を、部屋の中から眺め、残りわずかな滞在中は迷惑を掛けないようにしようと誓ったのだった。
*
ざわめく人混みの中、壁際で邪魔にならないようにひと息つき、皆スマホを見ながら帰りの電車を検索していた。床には旅行バックと沢山のお土産を置き、いかにも楽しんで来ましたというように肌がこんがりと焼けていた。
空港は時期のせいか学生が多い。俺たちもそのグループだ。無言でどう別れを切り出そうか思い倦ねいていると、環樹先輩がいつもの軽い調子で場を和ませてくれた。
「トラブルがあったにせよ、無事到着~♪ みんな家に着くまでが旅行だからね~♪ 次に会えるのを楽しみにしてるよ~♪」
引率者の環樹先輩は、旅行中誰よりもよく働いてくれた。ゲストで来てもらったのに、先輩なりに気を遣ってくれたようだ。
「あー、楽しかったー。しばらく会えないのかー」
「だな、次は大学生活が落ち着いた頃、また会おうぜ」
「けど、なにか困ったことがあれば連絡な。特に瀬菜! お前は要注意人物だからな」
「へへっ、なるべくそうする。俺、大学に馴染めるか今から憂鬱だよー」
「ふふっ、初めてのことだからね。みんなそれは同じだよ?」
「うんうん。だぁね~。それじゃ、時間も時間だし解散しますか! みんな元気でね!」
みんなで視線を合わせ頷き合う。荷物を持ち照れ臭そうに笑い合うと、「またな」と呟き背を向ける。
多澤と由良りんは、帰ってからひとり暮らしの準備をするらしい。村上は家から通うらしく、ひょっこり会うかもねと話していた。
実千流は旅行中に、環樹先輩と近々同棲することが決定した。先を越されるとは思っていなかったが、嬉しい知らせだった。落ち着いたら遊びにおいでと言ってくれた実千流の幸せそうな笑顔が、ちょっぴり羨ましかった。
四泊五日の卒業旅行は、こうして瞬く間に終わってしまった。それぞれ違う方向に別れていく。五日間ずっと一緒に過ごしたせいか、みんなの背中を追いかけたくなってしまう。
「瀬菜、荷物持とうか?」
「ううん、いいよ。この重みを忘れたくない」
「そっか……またねは……さよならじゃないよ?」
「うん……悠斗にはいっぱい迷惑かけたけど、楽しかったな!」
「ふふっ、またみんなで行こうね?」
「そうだな。次はどこに行くか決めないと!」
「クスッ……なら、北海道かな?」
「おぉ~~! 日本列島制覇するのもいいな!」
次に会えるのを糧に、俺たちはそれぞれの道へと進んでいった──。
❥ 三年生編【閉幕】──大学生編へ── ❥
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