620 / 716
第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
08
しおりを挟む
『お前たち……本当に思い合ってんの?』
二ヶ月前にみんなで行った沖縄旅行をふと思い出す。由良りんに言われた言葉が、なんとなく繋がった気がした。
由良りんのあの言葉はきっとこのことだ。けれどそれよりももっと前だ。悠斗がバイトを始めると教えてくれたよりも、もっと前に決まっていたはずだ。
それは……いつから?
思い返しても思い返しても、全てが偽りだったのではと、幸せだったはずの思い出の数々が、ドロリと歪んで黒く塗り潰されていく。
気まずい空気が俺たちを包み、会話をすればするほど悪態を吐いてしまう。
「──っ全部、嘘だったんだな。俺を騙して楽しかったか?」
「騙してるつもりはないよ。隠していたことは謝る。けど瀬菜が寂しい思いをするの、俺はイヤなんだ。留学することを知ったら毎日気にさせてしまう。あと何日って数えさせてしまう。瀬菜の笑顔が見れなくなっちゃう。瀬菜に……嫌われる。それが怖くて言えなかった」
「そうだな……俺は気にしいだから。いつも俺は置いてけぼりだ。お前が悩んでいても、俺は助けることもできずに馬鹿みたいにヘラヘラしてたんだ。でも、こんなの、あんまりだ……」
悠斗は俺の前を歩き、俺はそれを追い掛ける。けれど近付いたと思った途端に、バサリと切り捨てられる。
俺たちはこれから上手くやっていくことができるのか……そう悪いほうにしか考えが傾かない。
「悠斗、俺は……いや、今日はもう帰ってくれ……」
言いたいことが山ほどある。けれどどの言葉も罵倒にしかならない。これ以上話をしても、なんの意味もない探り合いだ。喚きたい言葉をグッと飲み込むと、「帰れよ……」と悠斗に静かに伝えた。
悠斗もこの状況がよくないと感じたのか、「……瀬菜、嫌な思いさせてごめんね。また明日話をしよ?」と、何度も振り返りながら部屋を出て行った。
◇
それから何日間か話という名の言い合いをした。悠斗は宥めるような優しく切ない声で、俺は一方的に怒気を孕んだ声で……。
ひとりになっても冷静になることはなかった。イライラばかりが募り、最終的に悠斗の顔を見るのも億劫になっていた。
──俺は今なにをした……なにを言った?
ハッと我に返ると、悠斗の今にも泣きそうな顔があった。苦しそうに堪え、なにか言いたそうに口を開閉させ諦めたように顔を背けた。
その回りでカチンカチン……と、光るキューブが彼方此方に散らばり跳ねていた。銀色の細い鎖が手首に垂れ下がり、シャラリと鎖さえも手首を離れ床に落ちていく。
初めて誕生日にプレゼントされたブレスレットと、二度目の誕生日にもらったリングだった。鎖が千切れバラバラに散らばり、行き場を探すように転がっていた。
「……瀬菜……、また……明日……」
拾い集めたキューブを悠斗は俺の手のひらにそっと置くと、声を震わせながらそう言い、静かに扉を閉め部屋をあとにした。
また明日……それはもう数日しかない。
銀色のアルファベットが刻まれたキューブを、グッと握り締めストンとその場に座り込む。息を詰め嗚咽を吐き出しカタカタと肩を震わせていた。
二ヶ月前にみんなで行った沖縄旅行をふと思い出す。由良りんに言われた言葉が、なんとなく繋がった気がした。
由良りんのあの言葉はきっとこのことだ。けれどそれよりももっと前だ。悠斗がバイトを始めると教えてくれたよりも、もっと前に決まっていたはずだ。
それは……いつから?
思い返しても思い返しても、全てが偽りだったのではと、幸せだったはずの思い出の数々が、ドロリと歪んで黒く塗り潰されていく。
気まずい空気が俺たちを包み、会話をすればするほど悪態を吐いてしまう。
「──っ全部、嘘だったんだな。俺を騙して楽しかったか?」
「騙してるつもりはないよ。隠していたことは謝る。けど瀬菜が寂しい思いをするの、俺はイヤなんだ。留学することを知ったら毎日気にさせてしまう。あと何日って数えさせてしまう。瀬菜の笑顔が見れなくなっちゃう。瀬菜に……嫌われる。それが怖くて言えなかった」
「そうだな……俺は気にしいだから。いつも俺は置いてけぼりだ。お前が悩んでいても、俺は助けることもできずに馬鹿みたいにヘラヘラしてたんだ。でも、こんなの、あんまりだ……」
悠斗は俺の前を歩き、俺はそれを追い掛ける。けれど近付いたと思った途端に、バサリと切り捨てられる。
俺たちはこれから上手くやっていくことができるのか……そう悪いほうにしか考えが傾かない。
「悠斗、俺は……いや、今日はもう帰ってくれ……」
言いたいことが山ほどある。けれどどの言葉も罵倒にしかならない。これ以上話をしても、なんの意味もない探り合いだ。喚きたい言葉をグッと飲み込むと、「帰れよ……」と悠斗に静かに伝えた。
悠斗もこの状況がよくないと感じたのか、「……瀬菜、嫌な思いさせてごめんね。また明日話をしよ?」と、何度も振り返りながら部屋を出て行った。
◇
それから何日間か話という名の言い合いをした。悠斗は宥めるような優しく切ない声で、俺は一方的に怒気を孕んだ声で……。
ひとりになっても冷静になることはなかった。イライラばかりが募り、最終的に悠斗の顔を見るのも億劫になっていた。
──俺は今なにをした……なにを言った?
ハッと我に返ると、悠斗の今にも泣きそうな顔があった。苦しそうに堪え、なにか言いたそうに口を開閉させ諦めたように顔を背けた。
その回りでカチンカチン……と、光るキューブが彼方此方に散らばり跳ねていた。銀色の細い鎖が手首に垂れ下がり、シャラリと鎖さえも手首を離れ床に落ちていく。
初めて誕生日にプレゼントされたブレスレットと、二度目の誕生日にもらったリングだった。鎖が千切れバラバラに散らばり、行き場を探すように転がっていた。
「……瀬菜……、また……明日……」
拾い集めたキューブを悠斗は俺の手のひらにそっと置くと、声を震わせながらそう言い、静かに扉を閉め部屋をあとにした。
また明日……それはもう数日しかない。
銀色のアルファベットが刻まれたキューブを、グッと握り締めストンとその場に座り込む。息を詰め嗚咽を吐き出しカタカタと肩を震わせていた。
2
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
【完】君に届かない声
未希かずは(Miki)
BL
内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。
ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。
すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。
執着囲い込み☓健気。ハピエンです。
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
制服の少年
東城
BL
「新緑の少年」の続きの話。シーズン2。
2年生に進級し新しい友達もできて順調に思えたがクラスでのトラブルと過去のつらい記憶のフラッシュバックで心が壊れていく朝日。桐野のケアと仲のいい友達の助けでどうにか持ち直す。
2学期に入り、信次さんというお兄さんと仲良くなる。「栄のこと大好きだけど、信次さんもお兄さんみたいで好き。」自分でもはっきり決断をできない朝日。
新しい友達の話が前半。後半は朝日と保護司の栄との関係。季節とともに変わっていく二人の気持ちと関係。
3人称で書いてあります。栄ー>朝日視点 桐野ー>桐野栄之助視点です。
【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする
獏乃みゆ
BL
黒髪メガネの地味な男子高校生・青山優李(あおやま ゆうり)。
小学生の頃、外見を理由にいじめられた彼は、顔を隠すように黒縁メガネをかけるようになった。
そんな優李を救ってくれたのは、幼馴染の遠野悠斗(とおの はると)。
優李は彼に恋をした。けれど、悠斗は同性で、その上誰もが振り返るほどの美貌の持ち主――手の届かない存在だった。
それでも傍にいたいと願う優李は自分の想いを絶対に隠し通そうと心に誓う。
一方、悠斗も密やかな想いをを秘めたまま優李を見つめ続ける。
一見穏やかな日常の裏で、二人の想いは静かにすれ違い始める。
やがて優李の前に、過去の“痛み”が再び姿を現す。
友情と恋の境界で揺れる二人が、すれ違いの果てに見つける答えとは。
――トラウマを抱えた少年と、彼を救った“王子”の救済と成長の物語。
─────────
両片想い幼馴染男子高校生の物語です。
個人的に、癖のあるキャラクターが好きなので、二人とも読み始めと印象が変化します。ご注意ください。
※主人公はメガネキャラですが、純粋に視力が悪くてメガネ着用というわけではないので、メガネ属性好きで読み始められる方はご注意ください。
※悠斗くん、穏やかで優しげな王子様キャラですが、途中で印象が変わる場合がありますので、キラキラ王子様がお好きな方はご注意ください。
─────
※ムーンライトノベルズにて連載していたものを加筆修正したものになります。
部分的に表現などが異なりますが、大筋のストーリーに変更はありません。
おそらく、より読みやすくなっているかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる