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第26幕 iの意味
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「……そんなことないよ」
「ん? そうかな?」
蛇口を捻り俺の泡だらけの両手を悠斗が掴み、洗い流していく。
「まだ終わってないよ……」
「うん、ねっ、ちょっとだけ飲み直さない?」
濡れた手を拭き取られ、悠斗の誘いにコクリと頷いた。
ソファーに座ると、悠斗がお酒を作ってくれる。琥珀色の液体が炭酸に溶け、シュワシュワと小さな気泡を立てている。
村上がお土産に持ってきてくれた自家製の梅酒は、トロリとしており甘過ぎず炭酸によく合うお酒だった。
「それじゃ改めて、乾杯」
「乾杯……」
カチンッとグラスを合わせ乾杯すると、コクンとひと口飲み込む。炭酸が口の中で弾け梅の香りが広がっていく。
「この梅酒、美味しいね」
「俺もこれ甘さ控え目で好き。ロックでも飲みやすいかも」
「そうだね。今度、村上君のおばさんにレシピもらおうか」
「うん!」
グラスをテーブルに置き笑顔で頷くと、悠斗が俺をジッと見つめていた。ドキッとして顔を背けるとそっと手を取られた。
「最近、瀬菜が洗い物してくれて助かってるよ? 昔からキッチンの片付けはよくしてくれたよね」
柑橘系の匂いが仄かに漂う。手元に視線を向けると、ハンドクリームを取り出した悠斗が、マッサージをしながら俺の手をケアしてくれる。
「そっちの手も出して?」
「うん……」
「ねぇ、瀬菜……もしかして爺様が言ってたこと、気にしているの?」
クリームを塗りながら悠斗が俺の図星を突いてくる。答えずにいると、察しのいい悠斗は苦笑いをしていた。
「そっか……やっぱり……」
「……だって、悠斗。俺、お前に……知らなかったじゃ済まないよ。全部俺と一緒に居るために、ずっと我慢して……言えなくて、俺より何倍も苦しかったはずで……なのに俺!」
「瀬菜……瀬菜は知らなかったんだよ。それでいいでしょ? 瀬菜は『知らなかった』からこその苦しみや悲しみがあって、俺は『知っていた』からこその苦しみや悲しみがあった。どっちのほうが苦しい辛い……なんて比べられるものじゃないよ」
「──ッ、でもッ!」
「でも……なに?」
ブワリと涙が溢れポロポロと頬を伝って落ちていく。悠斗はゆっくりと俺を引き寄せると、胸の中に抱き込んだ。
「瀬菜が負い目を感じるのは……そうだね、仕方ないか。瀬菜は優しいからね」
「……ヒグッ……優しくッ……なぃ」
「クスッ……泣くってことは、そういうことでしょ? 確かに二年分、瀬菜の成長を見られなかったのは残念でならないけど。それ以上の時間を、これからは過ごせるんだよ? 苦しみだけじゃなく、喜びだっていっぱいこれからあるよ? そう思うとね、我慢したことだって報われる」
「……うぅ……ごべんッ……ごべんッ!」
「そうだ、瀬菜の写真見せて? 毎日撮っているって聞いたよ? 瀬菜の見て来た二年間を俺も感じたい」
俺を元気付けるためなのか、二年分の写真を見たいと言ってくれた。俺が毎日撮っていることを、部長にでも聞いたのだろう。
毎日同じようでも角度や天気によって景色は変わる。悠斗は今どうしているのか……悠斗に逢いたい……悠斗が戻ったら見せたい……。
そんな気持ちで毎日シャッターを切っていた。カメラの中だけは、俺が気持ちを曝け出せる唯一の場所だった。
「ん? そうかな?」
蛇口を捻り俺の泡だらけの両手を悠斗が掴み、洗い流していく。
「まだ終わってないよ……」
「うん、ねっ、ちょっとだけ飲み直さない?」
濡れた手を拭き取られ、悠斗の誘いにコクリと頷いた。
ソファーに座ると、悠斗がお酒を作ってくれる。琥珀色の液体が炭酸に溶け、シュワシュワと小さな気泡を立てている。
村上がお土産に持ってきてくれた自家製の梅酒は、トロリとしており甘過ぎず炭酸によく合うお酒だった。
「それじゃ改めて、乾杯」
「乾杯……」
カチンッとグラスを合わせ乾杯すると、コクンとひと口飲み込む。炭酸が口の中で弾け梅の香りが広がっていく。
「この梅酒、美味しいね」
「俺もこれ甘さ控え目で好き。ロックでも飲みやすいかも」
「そうだね。今度、村上君のおばさんにレシピもらおうか」
「うん!」
グラスをテーブルに置き笑顔で頷くと、悠斗が俺をジッと見つめていた。ドキッとして顔を背けるとそっと手を取られた。
「最近、瀬菜が洗い物してくれて助かってるよ? 昔からキッチンの片付けはよくしてくれたよね」
柑橘系の匂いが仄かに漂う。手元に視線を向けると、ハンドクリームを取り出した悠斗が、マッサージをしながら俺の手をケアしてくれる。
「そっちの手も出して?」
「うん……」
「ねぇ、瀬菜……もしかして爺様が言ってたこと、気にしているの?」
クリームを塗りながら悠斗が俺の図星を突いてくる。答えずにいると、察しのいい悠斗は苦笑いをしていた。
「そっか……やっぱり……」
「……だって、悠斗。俺、お前に……知らなかったじゃ済まないよ。全部俺と一緒に居るために、ずっと我慢して……言えなくて、俺より何倍も苦しかったはずで……なのに俺!」
「瀬菜……瀬菜は知らなかったんだよ。それでいいでしょ? 瀬菜は『知らなかった』からこその苦しみや悲しみがあって、俺は『知っていた』からこその苦しみや悲しみがあった。どっちのほうが苦しい辛い……なんて比べられるものじゃないよ」
「──ッ、でもッ!」
「でも……なに?」
ブワリと涙が溢れポロポロと頬を伝って落ちていく。悠斗はゆっくりと俺を引き寄せると、胸の中に抱き込んだ。
「瀬菜が負い目を感じるのは……そうだね、仕方ないか。瀬菜は優しいからね」
「……ヒグッ……優しくッ……なぃ」
「クスッ……泣くってことは、そういうことでしょ? 確かに二年分、瀬菜の成長を見られなかったのは残念でならないけど。それ以上の時間を、これからは過ごせるんだよ? 苦しみだけじゃなく、喜びだっていっぱいこれからあるよ? そう思うとね、我慢したことだって報われる」
「……うぅ……ごべんッ……ごべんッ!」
「そうだ、瀬菜の写真見せて? 毎日撮っているって聞いたよ? 瀬菜の見て来た二年間を俺も感じたい」
俺を元気付けるためなのか、二年分の写真を見たいと言ってくれた。俺が毎日撮っていることを、部長にでも聞いたのだろう。
毎日同じようでも角度や天気によって景色は変わる。悠斗は今どうしているのか……悠斗に逢いたい……悠斗が戻ったら見せたい……。
そんな気持ちで毎日シャッターを切っていた。カメラの中だけは、俺が気持ちを曝け出せる唯一の場所だった。
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