王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第26幕 iの意味

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「──ッ悠斗‼︎」

 キッチンでランチの用意をする悠斗の背中に、ハァハァと息を乱しながら声をかける。

「ふふっ、さっきの続き? 瀬菜のふざけるなぁ~! って声、ちゃんとここまで聴こえてたよ?」
「……ちがっ……くて……」
「ん? なんだ裸エプロンじゃないの? カレシャツってのも唆るけど♡」

 ブカブカなシャツを羽織る俺を眺める悠斗に、そんなことはどうでもいいと握りしめた手を悠斗の前に突き出す。

「これ……」
「あぁ……もう見つけたの?」

 包丁をまな板の上に置くと、突き出した俺の握り拳をそっと包み込んできた。カチカチに握り締めた手のひらは、中々開かず金縛りにでもあったようだ。

「クスッ……そんなにギュッとしてたら、手のひらが傷ついちゃうよ?」
「だって……これ……俺が持っていて……いいの?」
「もちろんだよ? 瀬菜にあげたものだもん、また持っていてくれたら嬉しいけどな」

 それは俺が壊してしまった悠斗からの初めてのプレゼント。
 しっかり治されたそれは形を変え、今はブレスレットではなく家の鍵がついていた。

「ブレスレットに治そうと思ったけど、大学卒業したらしにくいかなって思って勝手にキーホルダーにしちゃった。気に入ってくれたらいいんだけど……」

 S☆PSCSR☆Y

 瀬菜へ
 Peach貴方に夢中貴方の虜 
 Sunflower貴方だけを見つめてる 
 Cuckoo私は永遠に貴方のもの
 Statice変わらぬ誓い永遠に変わらぬ心
 Rose貴方を愛してます
 悠斗より

 それは英単語でもない悠斗の俺への気持ち。エスの文字は二つあったが、ひと粒はユウの首輪のチャームに使用していたはずだった。
 けれど手の中のキーホルダーには、しっかりと九粒のキューブが揃っている。ひとつ違うのはエスが抜け、代わりに異なるアルファベットが増えていることだ。

 S☆PCSRi☆Y

 やはり読むことはできないスペル。『i』は小文字で点の部分には石が嵌められていた。キラキラと輝く宝石はダイヤなのだろうか。

「……意味……新しいアルファベットの意味はなに?」
「意味は……なんだろうね?」
「教えてくれないの?」
「ふふっ……内緒♪」

 ニコニコと楽しそうにする悠斗は、意味を教えてはくれそうになかった。花言葉とは沢山あり、アイから始まる花を探すだけでも苦労しそうだ。
 このキューブは悠斗の想いが詰まった特別製なのだ。俺の頭では答えはしばらく出そうにない。

「意味が大切なのに……考えるもん。エスは……ユウにあげちゃうの?」
「ユウもうちの家族だからね? お裾分け」
「自分でつけたけど、ちょっとユウに嫉妬しそう」
「可愛いこと言って」
「……大切にする」

 ギュッと悠斗の胸に抱きつき、スリスリとしながら喜びを全身で伝える。『愛してる』と想いを込めて……。

「よかった。喜んでもらえて」
「うん、絶対手放さない」
「なくしたら家入れなくなっちゃうしね?」
「へへっ、本当だな!」

 二人の家に戻るための鍵。
 前りよも太い鎖で細工されたキーホルダー。
 簡単には壊れることも、簡単に失くすこともないだろう。

 一度は自分の手から離れた贈り物。
 今はなにも返せないけれど……。
 せめて…………。

「悠斗、ありがとう。大好き!」

 そうハッキリとした言葉で想いを乗せながら、とびきりの笑顔を贈った。





❥ 大学生編【閉幕】──終幕へ── ❥
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