悪役令嬢の弟は姉を溺愛している

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姉と幼少期

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レオンバルド公爵家。それはロアーゼ国建国時から続く由緒正しき貴族である。代々宰相の地位につき、王家に、国に仕えてきた。その権力は今では王家に次ぐものとなっているが、決してそれを振りかざすことがない。

そんな公爵家に、とても可愛い女の子が産まれた。名をグレース。その子は純粋に、素直にすくすくと成長した。2年後には男の子で跡継ぎであるウィリアムも産まれ、2人は大きな病気にかかることもなく健やかに育った。

グレースは5歳になる年の春。父に連れられ、王妃主催のお茶会に参加した。そのお茶会は、社交会の練習のようなもので顔合わせとして貴族の子供たちが集められていた。
その時、同い年である王子に一目惚れされたグレースは王子の仮の婚約者となった。仮というのも、まだ両者とも幼く婚約者を確定してしまうのは早いと両陛下とレオンバルド公爵で話し合った結果である。だがその日から、グレースは礼儀作法から帝王学、近隣諸国の言語、歴史などありとあらゆることを学び始めた。全ては、この国の為。父の為。王子の為。未来を見据えての事だった。幼いながらに賢く聡いグレースは王子に惚れられたということを正しく理解したのである。
余談だがグレースは令嬢がすることは殆どない剣術まで習おうとしたとき、全力で止めたレオンバルド公爵父親だった。必死の形相を見て諦めたグレースである。

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「おねーさま!おはようございます!ぼくも、きょうでもう5さいになりました!!おねーさまといっしょに、おべんきょうします!!」

5歳の誕生日を迎えた日の朝、真っ先に姉の部屋へ行き、宣言するウィリアム。

「ウィル、おはよう。そして、誕生日おめでとう」
「ありがとうございます!!」

いつも通り朝早くに起きて勉強していたグレースは突然駆けて来た弟に驚きながらもニコニコと笑うウィリアムの頭を優しく撫でた。

「それでウィル?どうして5歳になったからとお勉強するの?まだ早いのではなくって?」
「おとーさまにききました!おねーさまは5さいからりっぱなレディになるためにおべんきょうをはじめたと!だからぼくもおねーさまみたいになりたいから、きょうからはじめるのです!!」
「うふふ、そうなのね。じゃあ一緒にお勉強しましょう。でも、明日からにしましょ?今日は貴方の誕生日なんだから」
「うぅ…わかりました…」

眉を下げてしゅん、としてしまったウィル

(捨てられた子犬のようね…可愛い…)

グレースはそんな弟が愛おしくなりぎゅっと抱きしめた。

「んぅ…?おねーさま、ぎゅーっ!!」

しゅんとしていたウィリアムは、抱きしめられたことが嬉しくて強く抱きしめ返すのであった。


そして、次の日から宣言通りウィリアムも毎日勉強する日々が始まったのだ。

ウィリアムもグレースと同じくとても優秀ですぐになんでも吸収した。一度教えたことを完璧に理解し、7歳になる頃には大学入学レベルにまで達していた。この国では飛び級は2年までという決まりがあるので、大学への入学はできないが、姉と同学年になることはできるのだ。ウィリアムはグレースと少しでも長く一緒にいたいが為に学園入学時にはその飛び級を使うつもりだ。

学園とは、10歳以上の国民の子供たちが通う教育機関である。初等部、中等部、高等部に別れており、それぞれ3年ずつ学ぶのだ。通うことを義務付けされてはいないが、貴族は横のつながりを持つ為、庶民は生活をより良くするためほとんどの国民が通うのだ。貴族と庶民では必要な学が違うので、学舎はわかれており、庶民は基本的に無償で教育を受けられるようになっている。また、希望者は食事付きの寮に入ることもできるので通学が不便な庶民の多くは入寮している。その為、近隣諸国の中で1番国民識字率は高く、商売の交渉もとても上手くいき、国民の生活の質も格段に高いものとなっている。

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グレースが10歳になる年。正式にグレースと王子の婚約が発表された。
その次の日。学園の入学式である。

「ウィリアム・レオンバルド」
「はい」
「其方は学園創立から初めての飛び級入学者である。周りは全員年上ばかりで何かと苦労するかもしれぬがよく励むように。」

ウィリアムは無事、グレースと共に入学することができた。父は最後まで渋っていたが、母に諭されて渋々折れた。


(入学できたはいいけど、お姉様の交友関係を邪魔してはいけないな…僕自身も公爵家跡取りとして付き合う人はよく考えないと。うーん、あまりお姉様と関わる時間は取れなさそうだな…)

ウィリアムは8歳だが、ありとあらゆる知識を身に着けていくうちに子供らしさはなくなってしまっていた。

「ウィル!」
「はいっ!おねーさま!どうしたのですか?」
「1人で大丈夫?クラスも離れてしまったようだし、お姉様は心配だわ…」
「ぼくは、だいじょうぶです!おねーさま、しんぱいしてくれて、ありがとうございますっ!」

姉の前では例外だが。
グレースの前では年相応の可愛い弟である。

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