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女スパイ。カリン
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「はぁ、魔王様が目覚めたって聞いたのに、またどこに身を隠したのよ」
普通の学生が一人暮らしをするには少し豪勢な部屋で魔族が一人。天井に向かって愚痴をこぼしていた。
鏡にうつるその姿は、人間のような顔だが頭には小さいが黒光りするツノがあった。そこだけ見れば普通の悪魔族かと思うが、タンクトップと短パンから覗く手足は毛深くツノの横にはまるで猫のような耳とおしりにも猫のような尻尾がはえていた。
そう彼女は、もとは獣悪魔と呼ばれる悪魔族の娘カリンであった。
獣悪魔とは悪魔族の中で、人型より獣に姿が近くそして悪魔としての能力のない悪魔族をさす蔑称である。もちろんカーストも一番低い、カリンも7歳ごろまで悪魔としての能力はなく、見た目もほぼ獣系の容姿だったため、身売りされかけたのだが、その時に悪魔の能力の一つである”魅了”と”変身”の能力を発揮したため悪魔族の中では獣悪魔よりワンランク上のキメラと認定された。そして父であった悪魔族に引き取られることになったのだ。
そして、この国の宰相が獣好きということで、完全に獣系に変身でき魅了も使えるカリンが、スパイとして送りこまれたのだ。そして今インターンシップの生徒の振りをしてこの魔王都市に潜伏中であった。
”魔王の子種を奪ってこい”
父親の命令が頭に浮かぶ。
幼少期の厳しい生活。そしてキメラとして利用されるために育て上げられた日々。
魔大に入って数か月は、悪魔族の領地とあまりにも違う環境、獣に近い姿だというだけで侮辱され蔑まされてきたカリンにとって、のほほんと過ごしてきたのだろう平和ボケした獣系魔族たちを妬み恨んだりもした。しかし、そんなこともこの三年間の生活で変わった。
「はぁ、もう亡命したい。いや亡命するべきだよね私」
屋敷では、顔以外ほとんど獣の姿であったカリンは、他の兄弟や屋敷に仕える使用人さえ、まるで虫けらでも見るような目で見られてきた。
でも魔都市に近いカリンの入れられた魔大には悪魔族の子供はほとんど通っていない、いても人型でない悪魔族の子息だった。
悪魔族の歴史は古い、そして悪魔族は他の魔族とは起源が別と悪魔族は主張しているが、そんなものを信じて、いまだに古い格式にとらわれているようなものは今の魔界にはほとんどいなかった。
皆平等。多少の身分差はあるが、カリンの育った領地のように、奴隷のような扱いを受けてている者やそれを見たことがある魔族はいないような場所だった。
初めこそ、平和ボケしたそんな生徒や教師たちを呪い殺したくなるほど憎んだこともあった、しかし、そんな感情は長くは続かなかった。
ここでカリンは絶大の人気を博していた。
普段は完全に猫魔族の振りをして全身獣の姿をしているのだが、”魅了”を発揮しているため、獣系爬虫類系だけでなく人型のオークまで生徒も教師も、カリンに甘くやさしかった。
”魅了”の能力は悪魔族同士では通じない能力だが、この大学に来ているような悪魔族の子息は偏見があまりないのか、獣系の振りをしているカリンにも優しかった。
ようするにみんながカリンに優しかったのだ。
「わざわざ、屋敷に帰る必要ないんじゃない、ここにいたら、私超人気者じゃん」
でも、下手に亡命してそれが受け入れられなかった場合、皆をだましていたのがバレたらさすがに平和ボケした魔大生たちも何を起こすかわらからない、なのでカリンはいまだ父の命令に従っているふりをしている。
「とりあえず魔王様に会えないなら、宰相様を私の魅力で落としてしまえば、なんなら私がこの国で一番偉い存在になるんじゃないかな」
魔王はあと500年は眠ったままという話だった。
「だいたい500年も眠っているおじいちゃん相手に、子供作ってこいなんて、お父様も最低よね」
命令を受けた時はなにも感じなかったが、ここに来てからカリンは自分で考えて行動するということを知った。そして、父親の命令がいかに理不尽で、娘であるカリンの気持ちなど全く考えていない身勝手なものだということがよくわかった。
「まぁ、私のことなんて娘となんて思っていないんでしょうけど」
悪魔族はあらゆる種族を好み手を出す癖に、見た目が自分たちと同じ人型以外はたとえ自分の子でも奴隷と同じぐらいの扱いのされ方が普通であった。
能力が発揮されていなければ、7歳の時点で、カリンもどこぞの変態悪魔に売られしまっていただろう。
任務が失敗すればきっとカリンなど、再びどこかに売り飛ばされることだろう、しかし任務を成功させることはこの上なく難しい。何より、自分で考えることを知ったカリンには成功もなにも、この任務自体拒否したいのだ。
「せめて宰相様が格好良ければ宰相様を落として亡命。そうでなければ、権力がありそうな魔族を落として、父親から守ってもらう。それがいいかな」
生き延びるためのプランを立てる。
「宰相様って確か龍神よね? 龍神って、ヘビかトカゲの進化系だってお父様から聞いたけど、鱗とか残ってたらちょっとやだな。獣系なら好きになれる自信はあるのだけど」
そうして一人「爬虫類系かぁ」とため息をついたのだった。
普通の学生が一人暮らしをするには少し豪勢な部屋で魔族が一人。天井に向かって愚痴をこぼしていた。
鏡にうつるその姿は、人間のような顔だが頭には小さいが黒光りするツノがあった。そこだけ見れば普通の悪魔族かと思うが、タンクトップと短パンから覗く手足は毛深くツノの横にはまるで猫のような耳とおしりにも猫のような尻尾がはえていた。
そう彼女は、もとは獣悪魔と呼ばれる悪魔族の娘カリンであった。
獣悪魔とは悪魔族の中で、人型より獣に姿が近くそして悪魔としての能力のない悪魔族をさす蔑称である。もちろんカーストも一番低い、カリンも7歳ごろまで悪魔としての能力はなく、見た目もほぼ獣系の容姿だったため、身売りされかけたのだが、その時に悪魔の能力の一つである”魅了”と”変身”の能力を発揮したため悪魔族の中では獣悪魔よりワンランク上のキメラと認定された。そして父であった悪魔族に引き取られることになったのだ。
そして、この国の宰相が獣好きということで、完全に獣系に変身でき魅了も使えるカリンが、スパイとして送りこまれたのだ。そして今インターンシップの生徒の振りをしてこの魔王都市に潜伏中であった。
”魔王の子種を奪ってこい”
父親の命令が頭に浮かぶ。
幼少期の厳しい生活。そしてキメラとして利用されるために育て上げられた日々。
魔大に入って数か月は、悪魔族の領地とあまりにも違う環境、獣に近い姿だというだけで侮辱され蔑まされてきたカリンにとって、のほほんと過ごしてきたのだろう平和ボケした獣系魔族たちを妬み恨んだりもした。しかし、そんなこともこの三年間の生活で変わった。
「はぁ、もう亡命したい。いや亡命するべきだよね私」
屋敷では、顔以外ほとんど獣の姿であったカリンは、他の兄弟や屋敷に仕える使用人さえ、まるで虫けらでも見るような目で見られてきた。
でも魔都市に近いカリンの入れられた魔大には悪魔族の子供はほとんど通っていない、いても人型でない悪魔族の子息だった。
悪魔族の歴史は古い、そして悪魔族は他の魔族とは起源が別と悪魔族は主張しているが、そんなものを信じて、いまだに古い格式にとらわれているようなものは今の魔界にはほとんどいなかった。
皆平等。多少の身分差はあるが、カリンの育った領地のように、奴隷のような扱いを受けてている者やそれを見たことがある魔族はいないような場所だった。
初めこそ、平和ボケしたそんな生徒や教師たちを呪い殺したくなるほど憎んだこともあった、しかし、そんな感情は長くは続かなかった。
ここでカリンは絶大の人気を博していた。
普段は完全に猫魔族の振りをして全身獣の姿をしているのだが、”魅了”を発揮しているため、獣系爬虫類系だけでなく人型のオークまで生徒も教師も、カリンに甘くやさしかった。
”魅了”の能力は悪魔族同士では通じない能力だが、この大学に来ているような悪魔族の子息は偏見があまりないのか、獣系の振りをしているカリンにも優しかった。
ようするにみんながカリンに優しかったのだ。
「わざわざ、屋敷に帰る必要ないんじゃない、ここにいたら、私超人気者じゃん」
でも、下手に亡命してそれが受け入れられなかった場合、皆をだましていたのがバレたらさすがに平和ボケした魔大生たちも何を起こすかわらからない、なのでカリンはいまだ父の命令に従っているふりをしている。
「とりあえず魔王様に会えないなら、宰相様を私の魅力で落としてしまえば、なんなら私がこの国で一番偉い存在になるんじゃないかな」
魔王はあと500年は眠ったままという話だった。
「だいたい500年も眠っているおじいちゃん相手に、子供作ってこいなんて、お父様も最低よね」
命令を受けた時はなにも感じなかったが、ここに来てからカリンは自分で考えて行動するということを知った。そして、父親の命令がいかに理不尽で、娘であるカリンの気持ちなど全く考えていない身勝手なものだということがよくわかった。
「まぁ、私のことなんて娘となんて思っていないんでしょうけど」
悪魔族はあらゆる種族を好み手を出す癖に、見た目が自分たちと同じ人型以外はたとえ自分の子でも奴隷と同じぐらいの扱いのされ方が普通であった。
能力が発揮されていなければ、7歳の時点で、カリンもどこぞの変態悪魔に売られしまっていただろう。
任務が失敗すればきっとカリンなど、再びどこかに売り飛ばされることだろう、しかし任務を成功させることはこの上なく難しい。何より、自分で考えることを知ったカリンには成功もなにも、この任務自体拒否したいのだ。
「せめて宰相様が格好良ければ宰相様を落として亡命。そうでなければ、権力がありそうな魔族を落として、父親から守ってもらう。それがいいかな」
生き延びるためのプランを立てる。
「宰相様って確か龍神よね? 龍神って、ヘビかトカゲの進化系だってお父様から聞いたけど、鱗とか残ってたらちょっとやだな。獣系なら好きになれる自信はあるのだけど」
そうして一人「爬虫類系かぁ」とため息をついたのだった。
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