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魚釣り
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「ユアン、遊ぼ!」
窓の外から聞こえてきた幼馴染の声に、ユアンは読んでいた本を閉じてため息をついた。
知的そうな藍色の瞳に、青みがかった黒髪。パーツだけ見れば将来期待できそうなものを持ち合わせているのに、いかんせん、その体はとても七歳児とは思えないほど、よく肥えていた。
貫禄重たそうな体を揺らしなが、窓のところまで行く。
「キール、来るときは窓からじゃなくて玄関からにしてくれよ」
面倒臭げにそういいながら窓を開ける。
「サンキュー、ユアン」
窓が開くのを見て、クルクルよく動く活発な緑の瞳が嬉しそうに煌めく。
そして慣れた手つきで、窓の近くの木からユアンの部屋に飛び込んだ。
赤銅色の髪とその身のこなしは、まるでリスか子猿である。
こんな礼儀作法のレの字も知らないような少年だが、キールは代々王宮に仕える騎士を選出しているチェスター伯爵家の四男である。
「キール他の屋敷ではやってないよな」
「やってないよ」
返事を聞いてユアンは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
だがユアンは知らない。
確かに今はやってないが、少し前までは同じように友達の屋敷に忍び込んでいたことを。
そして「うちの子にこんな野蛮な子供を近づけないで頂戴」と友達の母親に家に怒鳴り込まれたことを。
そして、ユアンの父親にも、木を登ってる姿を見られていることを。
だがユアンの父親は「まったく父親そっくりだな」と怒るどころか大笑いしながら去っていったことを。
だからキールはこの屋敷が大好きになった。
そして、文句をいいつつも窓を開けて自分を招き入れてくれるユアンのことも。
「うわ、寒っ。今日は外では遊ばないぞ」
窓からキールと共に入ってきた冷気に、ユアンがブルリと身震いをするとそう宣言する。
「いいのかそんなこといって」
しかしキールはニヤリと微笑を浮かべると後悔するぞとばかりにもったいぶった態度をとる。
「なんだよ」
興味を引かれ我慢できずに訊ねる。
「今日は川にササケラが大量に上がってきているらしいぞ」
ササケラとは普段は海にいる魚なのだが、産卵の時だけ生まれた川を登ってくる魚だ。
「ササケラだって」
案の定それを聞いたユアンは、ササケラの塩焼きでも思い浮かべているのだろう、じゅるりとよだれでも垂らしそうな顔をしている。
「まあ、キールがそこまでいうなら」
口ではめんどくさいといいながら、手はクローゼットの中から釣り竿と網を引っ張り出している。
「ユアンお兄様」
その時扉を開けてひょこり顔を覗かせる者がいた。ユアンの一つ下の妹のルナである。
「よう、ルナ」
「あっ、キール様こんにちは」
もう少しで肩に届きそうな短い髪を二つに分けて結んだいるルナがペコリと挨拶をする。
「ユアンお兄様どこかにいくのですか?」
「ちょっと川まで」
「ルナも行きたいです」
「だめだよ、ルナはまだ六歳になってないだろ。それに川まではとても遠いんだぞ、疲れたっておんぶなんてしてあげないんだぞ」
この国では六歳になっていない子供は大人と一緒じゃないと外出をしてはいけない決まりがある。
「ルナは、ほぼ六歳です」
誕生日が遅いせいで、同じ学年の子が次々に一人で遊べるようになっているのに、ルナはまだ保護者同伴じゃないと遊べないことに、日々不満を募らせていた。
「ルナも連れて行ってください」
「ダメだ」
「じゃあ、ユアンお兄様が昨夜こっそりクッキーを食べていたことをお母さまにいいつけます」
ギクリとユアンの贅肉が揺れる。その姿にルナがフフンと意地悪気に鼻を鳴らした。
「僕が良くても、なぁキール」
引きつった笑みを浮かべたまま、キールに助けを求めるが──
「別にいいんじゃねぇ、俺は五歳の時には家の中になんていなかったからな」
爽やかにとんでもないことを告白する。
そんなことバレたら怒られるだけでなく、チェスター家に罰金が言い渡されるぞ。
「キール、そのことはもう誰にも話すなよ」
頭を抱えながらユアンが忠告した。
キールは首をかしげながら、なぜそんなことを言われたのかわからないという表情をしている。
それをみて再びユアンは深いため息をついた。
「細かいことはいいから早く行こうぜ」
そういうと腰に下げていた鞘からサバイバルナイフを得意げに抜き
「いざとなったらこれで、二人とも助けてやるからさ。大丈夫だ」
自信満々に言い放った。
それは昨年キールが六歳の誕生日にもらったものだった。
本当は兄が携えているような騎士の剣が欲しいと言ったのだが、まだ早いと却下された。だが外で焚き火をしたり、小さな獲物などをしとめてさばくには十分な機能を持っていたので、今ではキールのお気に入りである。
「さすがキール様、ユアンお兄様とは違いますわ」
裏切り者を見るような目でユアンが睨みつけているが、キールは素知らぬ顔でルナとハイタッチを交わしている。
「わかったよ。そのかわりクッキーのことも、今日のことも絶対に内緒だぞ」
「はーい」
ルナが返事だけは可愛らしく答えた。
窓の外から聞こえてきた幼馴染の声に、ユアンは読んでいた本を閉じてため息をついた。
知的そうな藍色の瞳に、青みがかった黒髪。パーツだけ見れば将来期待できそうなものを持ち合わせているのに、いかんせん、その体はとても七歳児とは思えないほど、よく肥えていた。
貫禄重たそうな体を揺らしなが、窓のところまで行く。
「キール、来るときは窓からじゃなくて玄関からにしてくれよ」
面倒臭げにそういいながら窓を開ける。
「サンキュー、ユアン」
窓が開くのを見て、クルクルよく動く活発な緑の瞳が嬉しそうに煌めく。
そして慣れた手つきで、窓の近くの木からユアンの部屋に飛び込んだ。
赤銅色の髪とその身のこなしは、まるでリスか子猿である。
こんな礼儀作法のレの字も知らないような少年だが、キールは代々王宮に仕える騎士を選出しているチェスター伯爵家の四男である。
「キール他の屋敷ではやってないよな」
「やってないよ」
返事を聞いてユアンは少しだけ安堵の表情を浮かべた。
だがユアンは知らない。
確かに今はやってないが、少し前までは同じように友達の屋敷に忍び込んでいたことを。
そして「うちの子にこんな野蛮な子供を近づけないで頂戴」と友達の母親に家に怒鳴り込まれたことを。
そして、ユアンの父親にも、木を登ってる姿を見られていることを。
だがユアンの父親は「まったく父親そっくりだな」と怒るどころか大笑いしながら去っていったことを。
だからキールはこの屋敷が大好きになった。
そして、文句をいいつつも窓を開けて自分を招き入れてくれるユアンのことも。
「うわ、寒っ。今日は外では遊ばないぞ」
窓からキールと共に入ってきた冷気に、ユアンがブルリと身震いをするとそう宣言する。
「いいのかそんなこといって」
しかしキールはニヤリと微笑を浮かべると後悔するぞとばかりにもったいぶった態度をとる。
「なんだよ」
興味を引かれ我慢できずに訊ねる。
「今日は川にササケラが大量に上がってきているらしいぞ」
ササケラとは普段は海にいる魚なのだが、産卵の時だけ生まれた川を登ってくる魚だ。
「ササケラだって」
案の定それを聞いたユアンは、ササケラの塩焼きでも思い浮かべているのだろう、じゅるりとよだれでも垂らしそうな顔をしている。
「まあ、キールがそこまでいうなら」
口ではめんどくさいといいながら、手はクローゼットの中から釣り竿と網を引っ張り出している。
「ユアンお兄様」
その時扉を開けてひょこり顔を覗かせる者がいた。ユアンの一つ下の妹のルナである。
「よう、ルナ」
「あっ、キール様こんにちは」
もう少しで肩に届きそうな短い髪を二つに分けて結んだいるルナがペコリと挨拶をする。
「ユアンお兄様どこかにいくのですか?」
「ちょっと川まで」
「ルナも行きたいです」
「だめだよ、ルナはまだ六歳になってないだろ。それに川まではとても遠いんだぞ、疲れたっておんぶなんてしてあげないんだぞ」
この国では六歳になっていない子供は大人と一緒じゃないと外出をしてはいけない決まりがある。
「ルナは、ほぼ六歳です」
誕生日が遅いせいで、同じ学年の子が次々に一人で遊べるようになっているのに、ルナはまだ保護者同伴じゃないと遊べないことに、日々不満を募らせていた。
「ルナも連れて行ってください」
「ダメだ」
「じゃあ、ユアンお兄様が昨夜こっそりクッキーを食べていたことをお母さまにいいつけます」
ギクリとユアンの贅肉が揺れる。その姿にルナがフフンと意地悪気に鼻を鳴らした。
「僕が良くても、なぁキール」
引きつった笑みを浮かべたまま、キールに助けを求めるが──
「別にいいんじゃねぇ、俺は五歳の時には家の中になんていなかったからな」
爽やかにとんでもないことを告白する。
そんなことバレたら怒られるだけでなく、チェスター家に罰金が言い渡されるぞ。
「キール、そのことはもう誰にも話すなよ」
頭を抱えながらユアンが忠告した。
キールは首をかしげながら、なぜそんなことを言われたのかわからないという表情をしている。
それをみて再びユアンは深いため息をついた。
「細かいことはいいから早く行こうぜ」
そういうと腰に下げていた鞘からサバイバルナイフを得意げに抜き
「いざとなったらこれで、二人とも助けてやるからさ。大丈夫だ」
自信満々に言い放った。
それは昨年キールが六歳の誕生日にもらったものだった。
本当は兄が携えているような騎士の剣が欲しいと言ったのだが、まだ早いと却下された。だが外で焚き火をしたり、小さな獲物などをしとめてさばくには十分な機能を持っていたので、今ではキールのお気に入りである。
「さすがキール様、ユアンお兄様とは違いますわ」
裏切り者を見るような目でユアンが睨みつけているが、キールは素知らぬ顔でルナとハイタッチを交わしている。
「わかったよ。そのかわりクッキーのことも、今日のことも絶対に内緒だぞ」
「はーい」
ルナが返事だけは可愛らしく答えた。
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