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第九章
番外編 大門 瑞葵 (Rー18)
◇ 大門 ◇
整体院の戸締りをしながら、すっかり冬景色にかわった駅前を窓から見下ろす。
クリスマス商戦が始まっているからだろう。いたるところにサンタやトナカイが飾られている。先程、待合のテレビで初雪が降るかもと言っていた。
冬が来る。
大門はあまり冬が好きではない。暑いのは我慢できるが、寒いのは身に応える。筋肉質だからあまり寒さを感じなさそうだと言われるが、あまり重ね着をしたくない大門にとってはやはり冬は寒い。
あれはどうなんだろうと上の階にいる瑞葵を思い浮かべる。
大門と違い筋肉質ではない。ただ体をしなやかな筋肉が覆っている。柔らかい筋肉だ。
「……強情が」
大門が整体院の鍵を閉め階段を上がる。整体院の定休日の前日、瑞葵は大学からまっすぐにこのビルの三階にある自分の部屋に戻る。
最近、竹内が借りた部屋だ。その部屋を瑞葵は自分の部屋として使うようになった。
「……鍵くれりゃいいのに」
三階まで上がり玄関で頭を掻く。どうも、インターホンを鳴らすというのが慣れない。
なんというのだろう……。ひどく照れくさい。
だいたい、大門宛の封筒にここの鍵が入っていたのだ。それなら、鍵は自分の物だろうがとも思うが、部屋を借りたのは竹内だから大門も何も言えなくなる。
ままよ、といちいちおかしな覚悟をしてインターホンを鳴らすと、ぱたぱたと音がして、ガチャっと鍵が開けられ、扉が開く。
「おかえり」
この、おかえりも……。嬉しいんだが、照れくさい。
新婚さんだな。
涼風が先日そう言って大門をからかったが、まさしくそうなので、大門は口を押えて、小さくただいまと返事をした。
◇
テーブルの上に夕食が並んでいる。簡単な物しかできないと最初に言われたが、それでもきちんとした食事だ。涼風と二人暮らしをすることが決まった時に、有川に習ったらしい。
「でも、あいつは飯があって当たり前って顔するから、すごい、むかついて」
最近、瑞葵はよく話すようになった。以前は聞かれたことのみと言う感じだったが、涼風に言わせるとうるさいぐらいに小言をいうタイプらしい。
「んで、昼飯ずっと菓子パンにしてやったんだろ?」
ぐぅ、と瑞葵が箸を噛んで唇を尖らす。その顔がおかしくてくく、と笑う。
瑞葵はちょっと驚くぐらいの甘党だが、涼風はどちらかといえば辛党だ。その辛党の涼風が毎日、毎日、甘いパンばかりだったと愚痴をこぼしたのだ。
メロンパン、ジャムパン、クリームパン……パンの種類を聞いただけで、辛党の大門は頭が痛くなる。
「一年ちょっとか」
「それくらいかな」
執念深い。だが、二年に上がった夏前ぐらいから匠が昼飯を準備するようになったらしい。
「だが、すごいな」
「ん?」
大門が刺身を取りながら、聞いた話を思い出す。
「偶然が偶然を呼んだって、そう、うまくいくもんじゃないだろう」
まさか、涼風が生まれた日に、その家の裏で匠が土砂災害に巻き込まれ、生死をさまよった。
結果、匠の中になにか涼風にまじないをかけていた男の魂が入って、匠の魂と同化してしまった。その男は匠と同じ土砂災害に巻き込まれ命を落とした。
それが十六年後、まさか隣同士の高校と職場で出会い、恋仲になるなど、おとぎ話ここに極まれり、だ。
「まあ、涼風は一年、自分が張ったまじないのせいで、近づけなかったみたいだけどね」
大門がくくと笑う。一年、無駄にしたんだか、なんなんだか。
「でも、よかったんだよな」
大門が瑞葵にビールを注ぎながら頷く。瑞葵がそうか?と軽く眉をしかめるのを見て、だろうよと睨む。
「一年、早まられてみろ。俺はまだ整体院のめどもついていないし、ここは空き物件じゃなかっただろう」
瑞葵がグラスを口に当て、ぱちくりとなる。だが、すぐにまた、面白くないと言う顔をしたので大門はくくっと笑った。
「……涼風に感謝するのはいやだ」
振り回されているばかりの兄ちゃんとしては複雑なのだろう。大門が下を向いた瑞葵の顎を手を伸ばして持ち上げてやる。
「……絶対に、どこかで会ってたさ」
瑞葵は少し目を見開いて大門を見たが、ん、と小さく頷き、花みたいに笑った。
◇
今日は、どうしようか。
先に風呂に入った大門がベッドの上で目を細めて考える。瑞葵は今、風呂だ。
先日、久しぶりに昔バイトしていたSMバーに顔を出した。三年以上ぶりだった。
オーナーがちょうど豚を相手している最中だったので見学させてもらう。見学させてもらってやはり自分はSだなと強く思う。オーナーが手を振り上げるたび、おかしなぐらい気持ちが昂る。
何しに?とカウンターの中にいたMがおずおずと大門に聞いてきた。客に物を聞いたと、ここで働いていた時は、問答無用でプレイに引きずり出したが、今はどうやら少し緩いらしい。
だが、大門のきつい目にMはひっと悲鳴を上げて奥に引っ込んでしまった。
「怖がらせんじゃないよ」
「んなつもりはないです」
オーナーが汗だくで戻ってくる。これで六十過ぎているのだからすごいとしか言いようがない。
口に煙草を咥えたので、大門が足下にいた豚を蹴る。豚は飛び上がって慌ててオーナーの煙草に震える手で火を点けた。
「なんの用だ?ここにはもう、来ないかと思ってたが」
「一式揃えようかと」
一式とオーナーが口の中で呟き、くっ、と笑った。
「なんだ?M、見つけたのか?」
プライベートで?そりゃめでたいと足下の豚の背中でヒールをこね回す。豚がおかしな悲鳴を上げる。
「痛い方かい?それとも辛い方かい?」
「……辛い方っすね」
悲鳴がうるさいと口に靴先を突っ込めば、ぐふぐふと泣き出す。下肢を見てみれば喜んでいたので気にしない。
「M」
オーナーが声を掛けると、Mがすっ飛んできた。緊張した顔でただ頷く。ここでは、働くMは皆、『M』と呼ばれる。
「おもちゃ系をそろえてやんな」
あ、とオーナーにもう一つと指をあげる。
「二セット、いいですか」
「あん?」
そりゃなんだ?と目で聞かれたので、余計な世話焼きですと肩を竦めた。
◇
辛い方とオーダーしたが、さすがだとバッグの中を見て笑った。快楽漬けのグッズがぎっしりと入っていた。
それも、きちんと持ち運びに便利な二つのボストンバッグに入れて。代金を支払おうとしたら、開院祝いだと煙草を吸いながらオーナーが言った。礼を返せば、ふんと鼻で笑われる。
これで孫がいるというから恐ろしい。いや、関係ないが。
家に持ち帰り、バッグの中身を取り出して並べてみた。そして、ディルド、バイブ系と拘束具、器具系と分けた。
大門には用のないディルド系は再びバッグに戻す。ついでに外人サイズのゴムと粘り気が強いアナル用のローションも入れておいてやる。
おもちゃは使わないかもしれないが、ゴムとローションは必要だろうと言う親切心だ。
そして、もう一度、器具系を並べる。大門が好きな物ばかりだ。見ているだけで、ぞわっとする。
拘束具、器具系に消毒液、ゴム手袋……綿花も入れておく。他に何を入れようか。少し考えてアナルビーズを取り出しバッグに入れた。
まあ、あとは、おいおい……。
そのバッグが目の前にある。クローゼットにしまっておいた物を取り出した。
瑞葵のクローゼットだ。もし、瑞葵がいやなら捨ててしまうだろうと任せたのだが、ちゃんと、しまわれたままだった。瑞葵も中身は知っている。
いかがわしいというのは分かるのだろうが、いまいち、何に使われるのかわかっていないと言うところだろう。
「……何で遊ぶか」
手首を戒める拘束具。口を閉じられなくする開口器……これは嫌いだと言っていたな。口を閉じたまま喋られなくなるのはいいらしいが、口を開けたままなのはいやらしい。大門は瑞葵が嫌だと言った器具をバッグ戻す。
別に拘束具を使わなくてもいいか。
そう思っていたら、寝室のドアが開いた。瑞葵が顔を覗かして……ベッドの上を見て、ドアを閉める。
「……ん?」
今日はそんな気分じゃなかったか?大門が慌ててベッドから下りると、瑞葵はキッチンで水を飲んでいた。
「どうした?」
尋ねてきた大門に瑞葵がちらと視線を向ける。目元はきちんと赤いので、欲情はしているのだろうが……。
「何?」
ちゃんと言ってと大門が瑞葵の腰を引き寄せながら耳に囁く。綺麗に赤くなった耳を唇で啄む。
「……最近、ずっとあればっかりだ」
「え?」
あればっかりと言われて、ん?となる。あれというのはベッドの上の物のことだろう。そう言えば、もらってからなんだ、かんだと使っていたなと思い出す。
「あ、いやだった?」
いやだった?と聞かれた瑞葵はちょっと複雑そうな顔をした。いやではないのだろうが……。
「俺ばかり、なんか変になる」
おおっと、と大門が心の中で両手を上げる。瑞葵の言うとおりだ。と言うより、瑞葵を快楽漬けにしたくてしてる。ぐずぐずに溶けていく瑞葵が綺麗で手加減を忘れる。
「……大門はサドなのか?」
おや?と瑞葵を見直した。瑞葵の口から出るとは思わなかった単語だ。
「調べた?」
「……涼風が一応、調べとけって」
あの、くそったれが!大門が心の中で罵る。恩をあだで返しやがって!もう一つのバッグをあげた恩人に何してくれやがる!
「何で調べた?」
「……ネット」
便利な世の中になったもんだ……。そうか……と大門はキッチンのテーブルに腰を預けて考えこんだ。
瑞葵はそれを聞くまでは、ここから動かないと言う顔をしている。
「……俺が、サドだったら……瑞葵はどうする?」
大門の質問に瑞葵が困った顔をする。『サド』と言う言葉は分かってもだから……だから、どうしたとは言えないのだろう。
「俺は……その、マゾなのか?」
ん?と大門が顔を上げる。瑞葵がひどく困惑している。大門がサドと言うより、自分がマゾなのだろうかという疑念の方が強いらしい。
ふーんと心の中で笑みを浮かべる。自分の性癖に困惑している瑞葵はひどく加虐心をそそる。
この間見た豚と同列になるはずがない。
こんなに綺麗な存在なのに。
大門の手の中の……宝石なのに。
それなのに、大門は瑞葵をいじめたくて仕方がない。
「パソコン、持ってこれる?」
「え?」
いきなり、パソコンと言われ瑞葵が顔をしかめる。大学からの帰りなら、ノート型のパソコンを持って歩いていることを大門は知っている。
「俺も、そのサイト見たい。持ってきて」
良い子の瑞葵はよくわかっていないのに、甘えた大門の口調に素直に寝室に入って行った。
「本当に……可愛い」
大門の口端に笑みが浮くが、目は笑っていなかった。
◇
キッチンのテーブルの上にパソコンがある。
どのサイトを調べたのか、教えてと大門が瑞葵を椅子に座らせ、後ろから覗く。
瑞葵は少しぎこちなかったが、検索サイトを開き、そこにあった履歴から引っ張り出した。
「……ふーん」
だが、どうも検索が甘い。なぜだ?と思っていると、検索設定でセーフモードがかけられていた。お子様禁止だ。
有川もそこまでしないだろうから、おそらくパソコンが最初からこの設定だったのだろう。
これじゃあ、どうしようもない。眺めても、単語の説明ぐらいだ。
ふん、と大門が後ろからマウスを使って自分が知っているSMサイトを引っ張り出す。
瑞葵は椅子の上でもう固まっている。
「SMの世界も広い。俺が知っているのも全部じゃない」
それはそうだ。性癖など一人一人違って当たり前なのだから。
「Sがご主人様、女王様と言われることが多いが、実質、SはMの為に存在していると考えていい」
「……マゾの為に?」
「俺はあまりマゾという言葉は使わない」
俺は『M』と呼ぶと瑞葵の耳に囁くと瑞葵がびくっと跳ねた。サドは『S』と簡単に言う。
もともと、店がそうだった。オーナー、S、M。店で働くのはこう呼び、客は好きなように呼ばせてた。
「どういうのを想像してた?」
大門が瑞葵の顔の側で優しく聞く。瑞葵は真っ赤になりながら綺麗な指先で、ディスプレイの中の一枚の写真を指した。
そこには綺麗な女が鞭を持っていた。
大門が笑う。いかにもだ。大門に笑われて瑞葵が真っ赤になって俯く。その横顔が綺麗でかわいい。
「悪いが、俺はゲイだ。女はお断りだな」
今の写真は駄目だと言われ、また、瑞葵の指がさまよう。今度は、少し迷った後、ラバーで拘束されている男の写真を指さした。ガタイがいい。だが、Mなのだろう。尻に何本か赤い痕がある。
「……不思議だよな」
大門が今度は否定せず、その写真にカーソルを移動させる。クリックするとばらばらと何枚か写真が出てきた。
瑞葵がひっと小さく悲鳴を上げる。
「俺みたいにガタイが良くても……こうされて嬉しいって顔だろ?」
鞭打ちの最中。ヒールに踏まれている一枚。
舌を摘ままれている一枚。顔出しはNGだったのだろう。モザイクで見にくいが、大きく口を開けている写真で喜んでいるのが分かる。
「……い」
瑞葵が小さな声で何かを言った。何?と聞いてやると真っ赤な顔で目に涙を溜めて「痛いのは……いやだ」という。
「痛い事なんてしたことないだろう?」
そう言って思い出した。そういえば写真と同じ事を瑞葵にしたことがあった。
大門に関係ないという言葉を使った時だ。
「……痛かった?」
大門が指で舌を摘ままれている写真を指さして聞く。瑞葵は首を小さく横に振り「怖かった」と答えた。
「まぁ、怒ってたしな」
怒っていたと言われて、また瑞葵が震える。本当に怖かったのだろう。その顎を取り、キスをしてやる。瑞葵が体を捩らせてしがみついてくる。
舌を絡ませると積極的に絡ませてきた。
その仕草が可愛い。必死だ。
「も、いい……」
瑞葵がもう見ないとパソコンを押しやった。なんで?と聞くと怖いと言われる。
「SとかMのこと、知りたかったんじゃないの?」
大門がネットを切り、パソコンの電源を落としながら聞くと、瑞葵が首を横に振った。
「……大門がすることがいい。それ以外は……やだ」
瑞葵の言葉に一瞬唖然とする。言葉を理解する前に、大門の下肢に甘い蜜が熱を持って溜まる。
知らぬ間に口を押えていた。この綺麗でかわいい存在は……今、自分が言ったことを分かっているのだろうか。
「……寝室、行ける?」
少し掠れた大門の声に気づかず、瑞葵は、ん、と頷いた。
◇
ベッドの上で瑞葵がしがみついてくる。その体をまさぐりながら、キスをねだるだけしてやる。瑞葵が着ていたパジャマ はベッドの下だ。
「怖いの、は、や……」
キスの合間に瑞葵が必死に懇願してくる。うん、と聞いてやる。だが、しないとは絶対に言わない。言うはずがない。大門の口端に笑みが浮かぶ。だが、瑞葵は気が付いていない。
「痛いのも……やだ」
うん……と言いながら、陥没してない方の乳首を軽く摘まむ。瑞葵の顔を見ながら、どのくらいまでが限度かとゆっくりと力を入れていく。
「う……」
摘ままれた乳頭が潰されていく。やだ、と首を横に振るが、胸を大門に預けたままふるふると震えている。
「ひっ?!」
指先をぱちんと鳴らすようにして乳頭を一度、強く潰して弾いてやる。痛みが走ったのだろう、背を丸めた瑞葵がやだと泣く。それに吸い付く。
「……あ、う」
潰されてじんじんしている場所を、尖らせた舌先でくすぐってやると敏感になっている分、刺激が強い。
う、あと背中を震わせて大門の肩に縋り付く瑞葵に口を離して聞いてやる。
「痛いだけだった?」
瑞葵が口に腕を押し当て、うーっと唸る。痛いのとくすぐったいのが混在して気持ちが良いはずだ。
「も、いい……」
離れてと言われ許してやる。体も瑞葵から離して両手を上げる。
「……え」
大門がベッドの上で胡坐をかいて待つ。その顔を瑞葵がどうしたんだろうと涙が浮いた目で見つめる。
「次、どうしたらいい?」
大門の言葉に瑞葵がわからないとくしゃりと顔を歪ませる。幼子のようだ。
「どう……って」
「瑞葵が言ってくれたことを俺がする」
やだ、と瑞葵が両手をベッドについて肩を震わせた。流されるセックスに慣れてしまった瑞葵は自分からおねだりをした事がない。
言わせてみたい。
瑞葵が幾度も首を横に振る。大門は明日は休みだから幾らでも待てる。
「言って?教えて?キスがいい?それとも……ここ?」
大門が指を伸ばして瑞葵の半分勃ちあがった陰茎の先端を弾く。敏感な場所を弾かれ、瑞葵がや、とそこを押さえる。
「い、いじわる、だ」
「今更」
くすくす笑いながら、瑞葵が言い出すのを待つ。その時、ベッドの隣にある机の上でスマホが鳴った。
瑞葵が飛び上がる。大門が誰が邪魔しやがったと画面を見ると、匠とある。
なら、出ない。
スマホを机の上に投げると、いったん切れたが、今度は瑞葵自宅から電話がかかってくる。
画面を睨む大門に瑞葵が誰?と不安そうだ。それはそうだ。大人の時間だ。電話をかけてきて許される時間ではない。だが、瑞葵の自宅には涼風がいる。
大門はスマホを手に取ると、瑞葵の耳にして欲しい事考えててと囁いて、ベッドを下りた。
◇
電話の向こうで匠がうるさい。
『何、渡してんだ!』
何もくそもあるか。親切心だろうに、何、怒ってんだ?
どうやら、涼風に渡したバッグが見つかったらしい。だが、見つかって何の問題があるのかがわからない。
それに、涼風には一人で使うなと教えてある。おもちゃだが突っ込む以上、怪我をする可能性があるからだ。
だが、涼風は遊ばないだろとも思っていた。自分を可愛がってくれる匠のモノを見慣れていれば、日本の標準サイズのディルドもバイブもふーんで終わるだろう。
まぁ、準備が楽になるアナルプラグは使ってもいいと教えたが。
まだ、なんかぎゃんぎゃん言っている。いい加減、こちらもイライラしてくる。
早くベッドに戻り、瑞葵の口からおねだりを言わせたいのに。
「返すなら未使用品で返せよ」
返品するなら当たり前の事を言うと、ぐっ、と向こうで何かを言うのを堪えた。あれ?と思う。涼風、出したんだろうか?
それ以上、何か言う様子もなかったので、このまま切れと言ってやると、素直に切れた。
一体、何だったんだ?
スマホを見ながら考える。だが、緊急ではなかったのは瑞葵に伝えてやらないと、心配しているかもしれない。
「くそ……」
せっかく、色々言わせてやろうと思っていたのに。瑞葵が白けてしまったら、今日は普通のセックスで終わりかもしれない。セックスをしないという選択は大門にはない。
まぁ、寝てしまっていたら……仕方がないか。
これ以上、邪魔されないようにスマホはキッチンに置いておく。点けたままだった灯りを消して寝室に戻り、扉をそっと開けた時、くちゅくちゅと小さな水音がした。
◇
ベッドの上で瑞葵が一人でしていた。待ちきれなかったのだろう。体を丸め足を揃え両手でくちゅくちゅと陰茎を扱いている。
これはこれは。思ってもいなかった光景にしばらく扉の陰から様子を窺う。
「……あ、ん」
瑞葵は性に淡白だ。いや、淡白というよりあまり触れてはならないものという認識がある。貞操観念が強い。その瑞葵が精を吐き出すためだけではなく、気持ち良さの為だけに自分の陰茎をいじっている。
手を止めて、体をびくびくっと震わせるとふぅと小さく息を吐く。そして、またくちゅくちゅと音がし始める。
「んっ、……んっ」
薄暗い部屋に白い体が浮かぶ。大門は部屋に入り、そっと瑞葵の肩にキスをした。
「あ……」
瑞葵が濡れた目で大門を見上げ、見られたと泣きそうな顔をする。
その目に唇を落としてやりながら大門が手を瑞葵の手に重ねてやる。
「あ……や……んっ」
「一人ですると時もそうすんの?」
「……しない」
はぁと熱い吐息を零しながら大門の手の下でくちゅくちゅと音を立てる。恥ずかしいが、気持ちの良さに勝てないのだろう。
「電話……誰?」
「ぎっくり腰の患者。別のとこ、行くって」
ほうっと瑞葵が深い溜息を吐く。もしかしたら、何かあったのかと心配だったらしい。
まぁ、嘘だが、あっちはあっちでどうにかする問題だろう。
「……こっちは?」
重ねていた手を放し、後ろに回す。瑞葵がはっと大門の腕を掴んで体を強張らせた。大門の指が後孔に触れる。
「しな……い」
風呂で準備まではしてきたのだろが、後孔に触れるのは抵抗があるらしい。
「なんで?」
なんでと聞かれ瑞葵が首を横に振る。怯えが見える。
「気持ちいいの知ってるだろ?」
「だ……大門が、して」
ん?と瑞葵を見る。そう言えば、さっき何をされたいか考えててと言って外に出た。聞こえなかったふりをして、何?と優しく聞いてやる。
「……大門が……して」
ちゃんと言っていると瑞葵が大門をどうにか睨もうとする。その顔が可愛い。
「ん。してやる……足、開いて」
次から次に……色々言われているが、瑞葵はもう理解ができないのだろう。言われるがままに、ベッドの上でしどけなく足を開いた。
その間に体を入れ、瑞葵の腰の下にバスタオルを畳んだものを入れてやる。大門の目の前に絶景が現れる。
色が白いのに、ここだけはやはり大人の色だ。柔らかい双球に先程までいじられていた陰茎がぐしょりと濡れている。
手で足を広げさせると少し嫌がったので、陰茎を握りしめてやる。ぎゅうと力を入れていくと、怖いのかゆっくりとだが、足が開く。
「ひ、う……」
よくできたと内股を舐め上げ、足の付け根の柔らかい所を吸い上げる。そして、御褒美だと言うように、陰茎を口の中に入れてやる。
「あ……ああっ!」
ひっと瑞葵の腰が跳ねた。今までじらすような手淫で堪えていたのに、いきなり強い刺激を与えられたのだ。ひとたまりもない。
「あ、ぐ……ああっ!」
大門が舌を巻きつけぐっ、ぐっと扱き上げるように吸い上げる。喉奥で潰され、吸い上げられ瑞葵が体を仰け反らせて大門の喉に精を吐き出していしまう。躊躇いなくそれを飲み込む。
「ご……ごめ……」
大門は瑞葵の精液を飲むことに抵抗はないが、瑞葵はひどく嫌がる。自分が一度、大門の精液を口にして吐きそうになったからだ。甘党の瑞葵にはきつかっただろうと大門が笑う。
一度、吐精してしまったからか、瑞葵の体がぐたっと弛緩する。その間に大門が自分の指にローションを纏わせる。その時、床に落としたバッグが目に入った。そういえば、まだ、あれで遊んだことがなかったとアナルビーズを取り出す。
「……や、だ」
見ただけで何に使うのか分かったらしい。それはいやだと首を横に振るが、足を閉じようとはしない。
大門が瑞葵の目の前で、そのビーズにたっぷりとローションを塗る。
「やだ……」
「痛くない。怖くないだろう?」
丸いボールが先端から連なっているだけだ。根元は大きいが先端は小さい。大門がその先端のボールを瑞葵の後孔に押し当ててやる。
「だいも、んのがいい……」
「これで瑞葵の好きなとこゴリゴリしてやる」
想像したのか、あ、と瑞葵が小さな悲鳴を上げる。その悲鳴が耳に心地い。さらに、悲鳴を上げさせようとつぷっとボールを瑞葵の中に沈める。あ、あ、と瑞葵が続けざまに短い悲鳴を上げる。
「痛い?」
痛いわけがないと分かっていながら耳を噛みながら聞く。瑞葵は小さく首を横に振って、腰を微かに捩らせた。
逃げようとしている。
無駄な抵抗をする瑞葵を耳を舐めることで動けなくさせる。瑞葵の体を左腕で軽く拘束し、右手でアナルビーズの取っ手を握る。
「ひ、う……」
瑞葵の目が大門の右手から離れない。何をされるのか分かっているのに、動けないという顔を大門が舌で舐め上げる。
なんて、おいしいんだろう。
「して、いい?」
瑞葵に選択権などない。それなのにさらに追い詰める。瑞葵が怯えながらも小さく頷く。
なんて、かわいんだろう。
「あつ、ああっ……、あっひっいっ!」
最初から手加減などしない。陰茎の裏を潰す勢いでビーズを動かす。あまりの刺激に瑞葵が悲鳴を上げ、体を跳ねさせる。それを左腕だけで戒める。
「いやっ!いやっ!強いっ……だいもっ、強いぃっ!」
とうとう足までばたつき始めた。体は跳ねるだけ跳ねるのに、可哀そうにさっき射精した陰茎は先からとろとろと濁った精液を跳ね散らすだけだ。前立腺の刺激が強すぎて射精がずっと続いている感じだろう。
「後ろだけで達ってみるか?」
「ひっ……やっ、あれ、やっ!」
「なんで」
「怖いっ!」
叫ばれて笑う。怖い事はしないでとそう言えば言っていたなと笑う。
「気持ち良すぎて、怖いんだろ?」
瑞葵が唸る。それは怖いうちに入らないと囁くと、瑞葵がふえっと嗚咽を上げる。ぐちゅぐちゅと次第に右手を激しくしていく。びくびくと瑞葵が喉を仰け反らして震えだす。
「あ……あ……も、うっ、……うっ、わ……あっ」
大門の腕に瑞葵がしがみつき爪を立てる。その痛みに顔をしかめながらも、瞬きもできずに瑞葵の顔を覗き込む。
大門の下肢が痛いほど張りつめる。プレイでは考えられない事だ。
瑞葵が体を突っ張らせた。声も上げられない。瑞葵の下肢に力が入る寸前、一気にビーズを抜き取る。
追い打ちをかける。
息すら止めて。
瑞葵は大門の腕の中で激しい快楽に堕ちた。
◇
後は優しく抱いてやった。泣きじゃくる瑞葵をあやしながら、ぐずぐずに溶けた瑞葵の中に押し入り、思う存分瑞葵の体を味わう。
どこもかしこ蕩けている。
怖いほどの快楽を与えられた後、優しく抱かれ瑞葵も腕を絡めて大門の体を貪る。
「大門……だけでいい……」
もう、自分が何を言っているのか分かっていない。
「大門が……いい」
腰を瑞葵の下肢に打ち付けながら、かわいい事を言う瑞葵にキスをやる。
「もっ、と……」
体をくねらせ、もっとと大門を奥にねだる瑞葵に汗を散らし大門が瑞葵の望むままに奥に先端を叩き付ける。
「あー……」
瑞葵がうっとりと目を閉じて体の中で大門を味わう。おいしいと喜ぶ。
大門が瑞葵の陰茎を握りしめてやる。自分と一緒に達かせようと扱き上げる。
「あ、はっ……」
瑞葵が嬉しそうに体を跳ねさせた。その薄く笑みを浮かべた瑞葵の顔を見下ろしながら、大門も笑みを浮かべて体を震わせる。瑞葵の最奥で精を吐き出す。
二人でしばらく物も言えずにベッドに崩れ落ち……。瑞葵がそろそろと腕を上げ、荒く息を吐く大門を抱きしめた。
◇
瑞葵を送ってきた時、まだ、匠がマンションにいた。大門が昨日の電話はなんだと顔をしかめると、向こうは向こうで顔をしかめた。
だいたい、涼風は瑞葵と違い性に奔放な所がある。そういう事を楽しめるなら、楽しんだもん勝ちだろうと思うが、意外に匠の方が頭が固いのかもしれない。やれやれだ。
ところが、涼風が面白いことを言った。下腹……ちょうど臍の下の辺りを押さえ、ここなんだと聞いたのだ。
腹痛でトイレに籠っていたから、そこが痛いのかと聞けば、どうやら昨夜、そこまで匠のが入ってしまったらしい。
思わず、煙草を探してしまう。
それは、それはと言うしかない。涼風は気持ちが良いとかのレベルではないと言ったが、その通りだろう。しかも、匠の一物でそこをこじ開けられれば、意識が飛ぶ。
まあ……そこは当人同士で話し合う事だが……。ただ、後ろでばかり達く癖がつくと、陰茎から射精がしにくくなるとは教えてやる。
大門は抱いている人間が陰茎から堪えきれずに精液が飛び出すのを見るのが好きなので、後ろにはこだわらないが。
「どうした?」
リビングで人数分のお茶を準備していた瑞葵が廊下での騒ぎに首を傾げる。大門は肩を竦め、痴話げんかだと答えて、そう言えばと瑞葵の肩を抱く。
「瑞葵は俺の事抱きたい?」
瑞葵の手から、がちゃんと急須が落ちた。
整体院の戸締りをしながら、すっかり冬景色にかわった駅前を窓から見下ろす。
クリスマス商戦が始まっているからだろう。いたるところにサンタやトナカイが飾られている。先程、待合のテレビで初雪が降るかもと言っていた。
冬が来る。
大門はあまり冬が好きではない。暑いのは我慢できるが、寒いのは身に応える。筋肉質だからあまり寒さを感じなさそうだと言われるが、あまり重ね着をしたくない大門にとってはやはり冬は寒い。
あれはどうなんだろうと上の階にいる瑞葵を思い浮かべる。
大門と違い筋肉質ではない。ただ体をしなやかな筋肉が覆っている。柔らかい筋肉だ。
「……強情が」
大門が整体院の鍵を閉め階段を上がる。整体院の定休日の前日、瑞葵は大学からまっすぐにこのビルの三階にある自分の部屋に戻る。
最近、竹内が借りた部屋だ。その部屋を瑞葵は自分の部屋として使うようになった。
「……鍵くれりゃいいのに」
三階まで上がり玄関で頭を掻く。どうも、インターホンを鳴らすというのが慣れない。
なんというのだろう……。ひどく照れくさい。
だいたい、大門宛の封筒にここの鍵が入っていたのだ。それなら、鍵は自分の物だろうがとも思うが、部屋を借りたのは竹内だから大門も何も言えなくなる。
ままよ、といちいちおかしな覚悟をしてインターホンを鳴らすと、ぱたぱたと音がして、ガチャっと鍵が開けられ、扉が開く。
「おかえり」
この、おかえりも……。嬉しいんだが、照れくさい。
新婚さんだな。
涼風が先日そう言って大門をからかったが、まさしくそうなので、大門は口を押えて、小さくただいまと返事をした。
◇
テーブルの上に夕食が並んでいる。簡単な物しかできないと最初に言われたが、それでもきちんとした食事だ。涼風と二人暮らしをすることが決まった時に、有川に習ったらしい。
「でも、あいつは飯があって当たり前って顔するから、すごい、むかついて」
最近、瑞葵はよく話すようになった。以前は聞かれたことのみと言う感じだったが、涼風に言わせるとうるさいぐらいに小言をいうタイプらしい。
「んで、昼飯ずっと菓子パンにしてやったんだろ?」
ぐぅ、と瑞葵が箸を噛んで唇を尖らす。その顔がおかしくてくく、と笑う。
瑞葵はちょっと驚くぐらいの甘党だが、涼風はどちらかといえば辛党だ。その辛党の涼風が毎日、毎日、甘いパンばかりだったと愚痴をこぼしたのだ。
メロンパン、ジャムパン、クリームパン……パンの種類を聞いただけで、辛党の大門は頭が痛くなる。
「一年ちょっとか」
「それくらいかな」
執念深い。だが、二年に上がった夏前ぐらいから匠が昼飯を準備するようになったらしい。
「だが、すごいな」
「ん?」
大門が刺身を取りながら、聞いた話を思い出す。
「偶然が偶然を呼んだって、そう、うまくいくもんじゃないだろう」
まさか、涼風が生まれた日に、その家の裏で匠が土砂災害に巻き込まれ、生死をさまよった。
結果、匠の中になにか涼風にまじないをかけていた男の魂が入って、匠の魂と同化してしまった。その男は匠と同じ土砂災害に巻き込まれ命を落とした。
それが十六年後、まさか隣同士の高校と職場で出会い、恋仲になるなど、おとぎ話ここに極まれり、だ。
「まあ、涼風は一年、自分が張ったまじないのせいで、近づけなかったみたいだけどね」
大門がくくと笑う。一年、無駄にしたんだか、なんなんだか。
「でも、よかったんだよな」
大門が瑞葵にビールを注ぎながら頷く。瑞葵がそうか?と軽く眉をしかめるのを見て、だろうよと睨む。
「一年、早まられてみろ。俺はまだ整体院のめどもついていないし、ここは空き物件じゃなかっただろう」
瑞葵がグラスを口に当て、ぱちくりとなる。だが、すぐにまた、面白くないと言う顔をしたので大門はくくっと笑った。
「……涼風に感謝するのはいやだ」
振り回されているばかりの兄ちゃんとしては複雑なのだろう。大門が下を向いた瑞葵の顎を手を伸ばして持ち上げてやる。
「……絶対に、どこかで会ってたさ」
瑞葵は少し目を見開いて大門を見たが、ん、と小さく頷き、花みたいに笑った。
◇
今日は、どうしようか。
先に風呂に入った大門がベッドの上で目を細めて考える。瑞葵は今、風呂だ。
先日、久しぶりに昔バイトしていたSMバーに顔を出した。三年以上ぶりだった。
オーナーがちょうど豚を相手している最中だったので見学させてもらう。見学させてもらってやはり自分はSだなと強く思う。オーナーが手を振り上げるたび、おかしなぐらい気持ちが昂る。
何しに?とカウンターの中にいたMがおずおずと大門に聞いてきた。客に物を聞いたと、ここで働いていた時は、問答無用でプレイに引きずり出したが、今はどうやら少し緩いらしい。
だが、大門のきつい目にMはひっと悲鳴を上げて奥に引っ込んでしまった。
「怖がらせんじゃないよ」
「んなつもりはないです」
オーナーが汗だくで戻ってくる。これで六十過ぎているのだからすごいとしか言いようがない。
口に煙草を咥えたので、大門が足下にいた豚を蹴る。豚は飛び上がって慌ててオーナーの煙草に震える手で火を点けた。
「なんの用だ?ここにはもう、来ないかと思ってたが」
「一式揃えようかと」
一式とオーナーが口の中で呟き、くっ、と笑った。
「なんだ?M、見つけたのか?」
プライベートで?そりゃめでたいと足下の豚の背中でヒールをこね回す。豚がおかしな悲鳴を上げる。
「痛い方かい?それとも辛い方かい?」
「……辛い方っすね」
悲鳴がうるさいと口に靴先を突っ込めば、ぐふぐふと泣き出す。下肢を見てみれば喜んでいたので気にしない。
「M」
オーナーが声を掛けると、Mがすっ飛んできた。緊張した顔でただ頷く。ここでは、働くMは皆、『M』と呼ばれる。
「おもちゃ系をそろえてやんな」
あ、とオーナーにもう一つと指をあげる。
「二セット、いいですか」
「あん?」
そりゃなんだ?と目で聞かれたので、余計な世話焼きですと肩を竦めた。
◇
辛い方とオーダーしたが、さすがだとバッグの中を見て笑った。快楽漬けのグッズがぎっしりと入っていた。
それも、きちんと持ち運びに便利な二つのボストンバッグに入れて。代金を支払おうとしたら、開院祝いだと煙草を吸いながらオーナーが言った。礼を返せば、ふんと鼻で笑われる。
これで孫がいるというから恐ろしい。いや、関係ないが。
家に持ち帰り、バッグの中身を取り出して並べてみた。そして、ディルド、バイブ系と拘束具、器具系と分けた。
大門には用のないディルド系は再びバッグに戻す。ついでに外人サイズのゴムと粘り気が強いアナル用のローションも入れておいてやる。
おもちゃは使わないかもしれないが、ゴムとローションは必要だろうと言う親切心だ。
そして、もう一度、器具系を並べる。大門が好きな物ばかりだ。見ているだけで、ぞわっとする。
拘束具、器具系に消毒液、ゴム手袋……綿花も入れておく。他に何を入れようか。少し考えてアナルビーズを取り出しバッグに入れた。
まあ、あとは、おいおい……。
そのバッグが目の前にある。クローゼットにしまっておいた物を取り出した。
瑞葵のクローゼットだ。もし、瑞葵がいやなら捨ててしまうだろうと任せたのだが、ちゃんと、しまわれたままだった。瑞葵も中身は知っている。
いかがわしいというのは分かるのだろうが、いまいち、何に使われるのかわかっていないと言うところだろう。
「……何で遊ぶか」
手首を戒める拘束具。口を閉じられなくする開口器……これは嫌いだと言っていたな。口を閉じたまま喋られなくなるのはいいらしいが、口を開けたままなのはいやらしい。大門は瑞葵が嫌だと言った器具をバッグ戻す。
別に拘束具を使わなくてもいいか。
そう思っていたら、寝室のドアが開いた。瑞葵が顔を覗かして……ベッドの上を見て、ドアを閉める。
「……ん?」
今日はそんな気分じゃなかったか?大門が慌ててベッドから下りると、瑞葵はキッチンで水を飲んでいた。
「どうした?」
尋ねてきた大門に瑞葵がちらと視線を向ける。目元はきちんと赤いので、欲情はしているのだろうが……。
「何?」
ちゃんと言ってと大門が瑞葵の腰を引き寄せながら耳に囁く。綺麗に赤くなった耳を唇で啄む。
「……最近、ずっとあればっかりだ」
「え?」
あればっかりと言われて、ん?となる。あれというのはベッドの上の物のことだろう。そう言えば、もらってからなんだ、かんだと使っていたなと思い出す。
「あ、いやだった?」
いやだった?と聞かれた瑞葵はちょっと複雑そうな顔をした。いやではないのだろうが……。
「俺ばかり、なんか変になる」
おおっと、と大門が心の中で両手を上げる。瑞葵の言うとおりだ。と言うより、瑞葵を快楽漬けにしたくてしてる。ぐずぐずに溶けていく瑞葵が綺麗で手加減を忘れる。
「……大門はサドなのか?」
おや?と瑞葵を見直した。瑞葵の口から出るとは思わなかった単語だ。
「調べた?」
「……涼風が一応、調べとけって」
あの、くそったれが!大門が心の中で罵る。恩をあだで返しやがって!もう一つのバッグをあげた恩人に何してくれやがる!
「何で調べた?」
「……ネット」
便利な世の中になったもんだ……。そうか……と大門はキッチンのテーブルに腰を預けて考えこんだ。
瑞葵はそれを聞くまでは、ここから動かないと言う顔をしている。
「……俺が、サドだったら……瑞葵はどうする?」
大門の質問に瑞葵が困った顔をする。『サド』と言う言葉は分かってもだから……だから、どうしたとは言えないのだろう。
「俺は……その、マゾなのか?」
ん?と大門が顔を上げる。瑞葵がひどく困惑している。大門がサドと言うより、自分がマゾなのだろうかという疑念の方が強いらしい。
ふーんと心の中で笑みを浮かべる。自分の性癖に困惑している瑞葵はひどく加虐心をそそる。
この間見た豚と同列になるはずがない。
こんなに綺麗な存在なのに。
大門の手の中の……宝石なのに。
それなのに、大門は瑞葵をいじめたくて仕方がない。
「パソコン、持ってこれる?」
「え?」
いきなり、パソコンと言われ瑞葵が顔をしかめる。大学からの帰りなら、ノート型のパソコンを持って歩いていることを大門は知っている。
「俺も、そのサイト見たい。持ってきて」
良い子の瑞葵はよくわかっていないのに、甘えた大門の口調に素直に寝室に入って行った。
「本当に……可愛い」
大門の口端に笑みが浮くが、目は笑っていなかった。
◇
キッチンのテーブルの上にパソコンがある。
どのサイトを調べたのか、教えてと大門が瑞葵を椅子に座らせ、後ろから覗く。
瑞葵は少しぎこちなかったが、検索サイトを開き、そこにあった履歴から引っ張り出した。
「……ふーん」
だが、どうも検索が甘い。なぜだ?と思っていると、検索設定でセーフモードがかけられていた。お子様禁止だ。
有川もそこまでしないだろうから、おそらくパソコンが最初からこの設定だったのだろう。
これじゃあ、どうしようもない。眺めても、単語の説明ぐらいだ。
ふん、と大門が後ろからマウスを使って自分が知っているSMサイトを引っ張り出す。
瑞葵は椅子の上でもう固まっている。
「SMの世界も広い。俺が知っているのも全部じゃない」
それはそうだ。性癖など一人一人違って当たり前なのだから。
「Sがご主人様、女王様と言われることが多いが、実質、SはMの為に存在していると考えていい」
「……マゾの為に?」
「俺はあまりマゾという言葉は使わない」
俺は『M』と呼ぶと瑞葵の耳に囁くと瑞葵がびくっと跳ねた。サドは『S』と簡単に言う。
もともと、店がそうだった。オーナー、S、M。店で働くのはこう呼び、客は好きなように呼ばせてた。
「どういうのを想像してた?」
大門が瑞葵の顔の側で優しく聞く。瑞葵は真っ赤になりながら綺麗な指先で、ディスプレイの中の一枚の写真を指した。
そこには綺麗な女が鞭を持っていた。
大門が笑う。いかにもだ。大門に笑われて瑞葵が真っ赤になって俯く。その横顔が綺麗でかわいい。
「悪いが、俺はゲイだ。女はお断りだな」
今の写真は駄目だと言われ、また、瑞葵の指がさまよう。今度は、少し迷った後、ラバーで拘束されている男の写真を指さした。ガタイがいい。だが、Mなのだろう。尻に何本か赤い痕がある。
「……不思議だよな」
大門が今度は否定せず、その写真にカーソルを移動させる。クリックするとばらばらと何枚か写真が出てきた。
瑞葵がひっと小さく悲鳴を上げる。
「俺みたいにガタイが良くても……こうされて嬉しいって顔だろ?」
鞭打ちの最中。ヒールに踏まれている一枚。
舌を摘ままれている一枚。顔出しはNGだったのだろう。モザイクで見にくいが、大きく口を開けている写真で喜んでいるのが分かる。
「……い」
瑞葵が小さな声で何かを言った。何?と聞いてやると真っ赤な顔で目に涙を溜めて「痛いのは……いやだ」という。
「痛い事なんてしたことないだろう?」
そう言って思い出した。そういえば写真と同じ事を瑞葵にしたことがあった。
大門に関係ないという言葉を使った時だ。
「……痛かった?」
大門が指で舌を摘ままれている写真を指さして聞く。瑞葵は首を小さく横に振り「怖かった」と答えた。
「まぁ、怒ってたしな」
怒っていたと言われて、また瑞葵が震える。本当に怖かったのだろう。その顎を取り、キスをしてやる。瑞葵が体を捩らせてしがみついてくる。
舌を絡ませると積極的に絡ませてきた。
その仕草が可愛い。必死だ。
「も、いい……」
瑞葵がもう見ないとパソコンを押しやった。なんで?と聞くと怖いと言われる。
「SとかMのこと、知りたかったんじゃないの?」
大門がネットを切り、パソコンの電源を落としながら聞くと、瑞葵が首を横に振った。
「……大門がすることがいい。それ以外は……やだ」
瑞葵の言葉に一瞬唖然とする。言葉を理解する前に、大門の下肢に甘い蜜が熱を持って溜まる。
知らぬ間に口を押えていた。この綺麗でかわいい存在は……今、自分が言ったことを分かっているのだろうか。
「……寝室、行ける?」
少し掠れた大門の声に気づかず、瑞葵は、ん、と頷いた。
◇
ベッドの上で瑞葵がしがみついてくる。その体をまさぐりながら、キスをねだるだけしてやる。瑞葵が着ていたパジャマ はベッドの下だ。
「怖いの、は、や……」
キスの合間に瑞葵が必死に懇願してくる。うん、と聞いてやる。だが、しないとは絶対に言わない。言うはずがない。大門の口端に笑みが浮かぶ。だが、瑞葵は気が付いていない。
「痛いのも……やだ」
うん……と言いながら、陥没してない方の乳首を軽く摘まむ。瑞葵の顔を見ながら、どのくらいまでが限度かとゆっくりと力を入れていく。
「う……」
摘ままれた乳頭が潰されていく。やだ、と首を横に振るが、胸を大門に預けたままふるふると震えている。
「ひっ?!」
指先をぱちんと鳴らすようにして乳頭を一度、強く潰して弾いてやる。痛みが走ったのだろう、背を丸めた瑞葵がやだと泣く。それに吸い付く。
「……あ、う」
潰されてじんじんしている場所を、尖らせた舌先でくすぐってやると敏感になっている分、刺激が強い。
う、あと背中を震わせて大門の肩に縋り付く瑞葵に口を離して聞いてやる。
「痛いだけだった?」
瑞葵が口に腕を押し当て、うーっと唸る。痛いのとくすぐったいのが混在して気持ちが良いはずだ。
「も、いい……」
離れてと言われ許してやる。体も瑞葵から離して両手を上げる。
「……え」
大門がベッドの上で胡坐をかいて待つ。その顔を瑞葵がどうしたんだろうと涙が浮いた目で見つめる。
「次、どうしたらいい?」
大門の言葉に瑞葵がわからないとくしゃりと顔を歪ませる。幼子のようだ。
「どう……って」
「瑞葵が言ってくれたことを俺がする」
やだ、と瑞葵が両手をベッドについて肩を震わせた。流されるセックスに慣れてしまった瑞葵は自分からおねだりをした事がない。
言わせてみたい。
瑞葵が幾度も首を横に振る。大門は明日は休みだから幾らでも待てる。
「言って?教えて?キスがいい?それとも……ここ?」
大門が指を伸ばして瑞葵の半分勃ちあがった陰茎の先端を弾く。敏感な場所を弾かれ、瑞葵がや、とそこを押さえる。
「い、いじわる、だ」
「今更」
くすくす笑いながら、瑞葵が言い出すのを待つ。その時、ベッドの隣にある机の上でスマホが鳴った。
瑞葵が飛び上がる。大門が誰が邪魔しやがったと画面を見ると、匠とある。
なら、出ない。
スマホを机の上に投げると、いったん切れたが、今度は瑞葵自宅から電話がかかってくる。
画面を睨む大門に瑞葵が誰?と不安そうだ。それはそうだ。大人の時間だ。電話をかけてきて許される時間ではない。だが、瑞葵の自宅には涼風がいる。
大門はスマホを手に取ると、瑞葵の耳にして欲しい事考えててと囁いて、ベッドを下りた。
◇
電話の向こうで匠がうるさい。
『何、渡してんだ!』
何もくそもあるか。親切心だろうに、何、怒ってんだ?
どうやら、涼風に渡したバッグが見つかったらしい。だが、見つかって何の問題があるのかがわからない。
それに、涼風には一人で使うなと教えてある。おもちゃだが突っ込む以上、怪我をする可能性があるからだ。
だが、涼風は遊ばないだろとも思っていた。自分を可愛がってくれる匠のモノを見慣れていれば、日本の標準サイズのディルドもバイブもふーんで終わるだろう。
まぁ、準備が楽になるアナルプラグは使ってもいいと教えたが。
まだ、なんかぎゃんぎゃん言っている。いい加減、こちらもイライラしてくる。
早くベッドに戻り、瑞葵の口からおねだりを言わせたいのに。
「返すなら未使用品で返せよ」
返品するなら当たり前の事を言うと、ぐっ、と向こうで何かを言うのを堪えた。あれ?と思う。涼風、出したんだろうか?
それ以上、何か言う様子もなかったので、このまま切れと言ってやると、素直に切れた。
一体、何だったんだ?
スマホを見ながら考える。だが、緊急ではなかったのは瑞葵に伝えてやらないと、心配しているかもしれない。
「くそ……」
せっかく、色々言わせてやろうと思っていたのに。瑞葵が白けてしまったら、今日は普通のセックスで終わりかもしれない。セックスをしないという選択は大門にはない。
まぁ、寝てしまっていたら……仕方がないか。
これ以上、邪魔されないようにスマホはキッチンに置いておく。点けたままだった灯りを消して寝室に戻り、扉をそっと開けた時、くちゅくちゅと小さな水音がした。
◇
ベッドの上で瑞葵が一人でしていた。待ちきれなかったのだろう。体を丸め足を揃え両手でくちゅくちゅと陰茎を扱いている。
これはこれは。思ってもいなかった光景にしばらく扉の陰から様子を窺う。
「……あ、ん」
瑞葵は性に淡白だ。いや、淡白というよりあまり触れてはならないものという認識がある。貞操観念が強い。その瑞葵が精を吐き出すためだけではなく、気持ち良さの為だけに自分の陰茎をいじっている。
手を止めて、体をびくびくっと震わせるとふぅと小さく息を吐く。そして、またくちゅくちゅと音がし始める。
「んっ、……んっ」
薄暗い部屋に白い体が浮かぶ。大門は部屋に入り、そっと瑞葵の肩にキスをした。
「あ……」
瑞葵が濡れた目で大門を見上げ、見られたと泣きそうな顔をする。
その目に唇を落としてやりながら大門が手を瑞葵の手に重ねてやる。
「あ……や……んっ」
「一人ですると時もそうすんの?」
「……しない」
はぁと熱い吐息を零しながら大門の手の下でくちゅくちゅと音を立てる。恥ずかしいが、気持ちの良さに勝てないのだろう。
「電話……誰?」
「ぎっくり腰の患者。別のとこ、行くって」
ほうっと瑞葵が深い溜息を吐く。もしかしたら、何かあったのかと心配だったらしい。
まぁ、嘘だが、あっちはあっちでどうにかする問題だろう。
「……こっちは?」
重ねていた手を放し、後ろに回す。瑞葵がはっと大門の腕を掴んで体を強張らせた。大門の指が後孔に触れる。
「しな……い」
風呂で準備まではしてきたのだろが、後孔に触れるのは抵抗があるらしい。
「なんで?」
なんでと聞かれ瑞葵が首を横に振る。怯えが見える。
「気持ちいいの知ってるだろ?」
「だ……大門が、して」
ん?と瑞葵を見る。そう言えば、さっき何をされたいか考えててと言って外に出た。聞こえなかったふりをして、何?と優しく聞いてやる。
「……大門が……して」
ちゃんと言っていると瑞葵が大門をどうにか睨もうとする。その顔が可愛い。
「ん。してやる……足、開いて」
次から次に……色々言われているが、瑞葵はもう理解ができないのだろう。言われるがままに、ベッドの上でしどけなく足を開いた。
その間に体を入れ、瑞葵の腰の下にバスタオルを畳んだものを入れてやる。大門の目の前に絶景が現れる。
色が白いのに、ここだけはやはり大人の色だ。柔らかい双球に先程までいじられていた陰茎がぐしょりと濡れている。
手で足を広げさせると少し嫌がったので、陰茎を握りしめてやる。ぎゅうと力を入れていくと、怖いのかゆっくりとだが、足が開く。
「ひ、う……」
よくできたと内股を舐め上げ、足の付け根の柔らかい所を吸い上げる。そして、御褒美だと言うように、陰茎を口の中に入れてやる。
「あ……ああっ!」
ひっと瑞葵の腰が跳ねた。今までじらすような手淫で堪えていたのに、いきなり強い刺激を与えられたのだ。ひとたまりもない。
「あ、ぐ……ああっ!」
大門が舌を巻きつけぐっ、ぐっと扱き上げるように吸い上げる。喉奥で潰され、吸い上げられ瑞葵が体を仰け反らせて大門の喉に精を吐き出していしまう。躊躇いなくそれを飲み込む。
「ご……ごめ……」
大門は瑞葵の精液を飲むことに抵抗はないが、瑞葵はひどく嫌がる。自分が一度、大門の精液を口にして吐きそうになったからだ。甘党の瑞葵にはきつかっただろうと大門が笑う。
一度、吐精してしまったからか、瑞葵の体がぐたっと弛緩する。その間に大門が自分の指にローションを纏わせる。その時、床に落としたバッグが目に入った。そういえば、まだ、あれで遊んだことがなかったとアナルビーズを取り出す。
「……や、だ」
見ただけで何に使うのか分かったらしい。それはいやだと首を横に振るが、足を閉じようとはしない。
大門が瑞葵の目の前で、そのビーズにたっぷりとローションを塗る。
「やだ……」
「痛くない。怖くないだろう?」
丸いボールが先端から連なっているだけだ。根元は大きいが先端は小さい。大門がその先端のボールを瑞葵の後孔に押し当ててやる。
「だいも、んのがいい……」
「これで瑞葵の好きなとこゴリゴリしてやる」
想像したのか、あ、と瑞葵が小さな悲鳴を上げる。その悲鳴が耳に心地い。さらに、悲鳴を上げさせようとつぷっとボールを瑞葵の中に沈める。あ、あ、と瑞葵が続けざまに短い悲鳴を上げる。
「痛い?」
痛いわけがないと分かっていながら耳を噛みながら聞く。瑞葵は小さく首を横に振って、腰を微かに捩らせた。
逃げようとしている。
無駄な抵抗をする瑞葵を耳を舐めることで動けなくさせる。瑞葵の体を左腕で軽く拘束し、右手でアナルビーズの取っ手を握る。
「ひ、う……」
瑞葵の目が大門の右手から離れない。何をされるのか分かっているのに、動けないという顔を大門が舌で舐め上げる。
なんて、おいしいんだろう。
「して、いい?」
瑞葵に選択権などない。それなのにさらに追い詰める。瑞葵が怯えながらも小さく頷く。
なんて、かわいんだろう。
「あつ、ああっ……、あっひっいっ!」
最初から手加減などしない。陰茎の裏を潰す勢いでビーズを動かす。あまりの刺激に瑞葵が悲鳴を上げ、体を跳ねさせる。それを左腕だけで戒める。
「いやっ!いやっ!強いっ……だいもっ、強いぃっ!」
とうとう足までばたつき始めた。体は跳ねるだけ跳ねるのに、可哀そうにさっき射精した陰茎は先からとろとろと濁った精液を跳ね散らすだけだ。前立腺の刺激が強すぎて射精がずっと続いている感じだろう。
「後ろだけで達ってみるか?」
「ひっ……やっ、あれ、やっ!」
「なんで」
「怖いっ!」
叫ばれて笑う。怖い事はしないでとそう言えば言っていたなと笑う。
「気持ち良すぎて、怖いんだろ?」
瑞葵が唸る。それは怖いうちに入らないと囁くと、瑞葵がふえっと嗚咽を上げる。ぐちゅぐちゅと次第に右手を激しくしていく。びくびくと瑞葵が喉を仰け反らして震えだす。
「あ……あ……も、うっ、……うっ、わ……あっ」
大門の腕に瑞葵がしがみつき爪を立てる。その痛みに顔をしかめながらも、瞬きもできずに瑞葵の顔を覗き込む。
大門の下肢が痛いほど張りつめる。プレイでは考えられない事だ。
瑞葵が体を突っ張らせた。声も上げられない。瑞葵の下肢に力が入る寸前、一気にビーズを抜き取る。
追い打ちをかける。
息すら止めて。
瑞葵は大門の腕の中で激しい快楽に堕ちた。
◇
後は優しく抱いてやった。泣きじゃくる瑞葵をあやしながら、ぐずぐずに溶けた瑞葵の中に押し入り、思う存分瑞葵の体を味わう。
どこもかしこ蕩けている。
怖いほどの快楽を与えられた後、優しく抱かれ瑞葵も腕を絡めて大門の体を貪る。
「大門……だけでいい……」
もう、自分が何を言っているのか分かっていない。
「大門が……いい」
腰を瑞葵の下肢に打ち付けながら、かわいい事を言う瑞葵にキスをやる。
「もっ、と……」
体をくねらせ、もっとと大門を奥にねだる瑞葵に汗を散らし大門が瑞葵の望むままに奥に先端を叩き付ける。
「あー……」
瑞葵がうっとりと目を閉じて体の中で大門を味わう。おいしいと喜ぶ。
大門が瑞葵の陰茎を握りしめてやる。自分と一緒に達かせようと扱き上げる。
「あ、はっ……」
瑞葵が嬉しそうに体を跳ねさせた。その薄く笑みを浮かべた瑞葵の顔を見下ろしながら、大門も笑みを浮かべて体を震わせる。瑞葵の最奥で精を吐き出す。
二人でしばらく物も言えずにベッドに崩れ落ち……。瑞葵がそろそろと腕を上げ、荒く息を吐く大門を抱きしめた。
◇
瑞葵を送ってきた時、まだ、匠がマンションにいた。大門が昨日の電話はなんだと顔をしかめると、向こうは向こうで顔をしかめた。
だいたい、涼風は瑞葵と違い性に奔放な所がある。そういう事を楽しめるなら、楽しんだもん勝ちだろうと思うが、意外に匠の方が頭が固いのかもしれない。やれやれだ。
ところが、涼風が面白いことを言った。下腹……ちょうど臍の下の辺りを押さえ、ここなんだと聞いたのだ。
腹痛でトイレに籠っていたから、そこが痛いのかと聞けば、どうやら昨夜、そこまで匠のが入ってしまったらしい。
思わず、煙草を探してしまう。
それは、それはと言うしかない。涼風は気持ちが良いとかのレベルではないと言ったが、その通りだろう。しかも、匠の一物でそこをこじ開けられれば、意識が飛ぶ。
まあ……そこは当人同士で話し合う事だが……。ただ、後ろでばかり達く癖がつくと、陰茎から射精がしにくくなるとは教えてやる。
大門は抱いている人間が陰茎から堪えきれずに精液が飛び出すのを見るのが好きなので、後ろにはこだわらないが。
「どうした?」
リビングで人数分のお茶を準備していた瑞葵が廊下での騒ぎに首を傾げる。大門は肩を竦め、痴話げんかだと答えて、そう言えばと瑞葵の肩を抱く。
「瑞葵は俺の事抱きたい?」
瑞葵の手から、がちゃんと急須が落ちた。
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