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ぎくしゃく
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一週間が経ったけど、心はいつも曇り空のようだった。
鮫嶋くんとも、なんだかぎくしゃくしている気が……する。
鮫嶋くんがどうかはわからないけれど、私は彼とどう話したらいいのか、接したらいいのか、なんだかわからなくなってきている。以前はどうやって話していたっけ。どんな距離だったっけ。
一緒にいるのにそんなことばかり考えて、会話も続かない。
それに加えて、会話が広がりやすくなるいきもの係の仕事のときは、いつも桃ちゃんが来るようになってしまった。
「愛奈ちゃん、メダカの餌? あたしにもやらせてぇ!」
……ほら、こんな風に。
「うん。いいよ」
そう言って餌を渡すと、彼女は水槽を大きな瞳で覗き込む。
「鮫嶋くん、この子ってお腹大きくなってない?」
「ん? ああそれは……」
いつの間にか、ふたりの世界になってしまう。
私は一歩後ずさって、自分の席に戻っていった。
飛鳥ちゃんが私の席に来ると、ひそひそ声で話をする。
「ちょっと愛奈! このままでいいの?」
「いいのって……なにが?」
「だから、兎沢さんがいきもの係の仕事とってるじゃん。鮫嶋くんにぐいぐいいってるし」
「でも、私にそのことを止める権利なんてないし」
飛鳥ちゃんは大きなため息を吐いた。
「あのさ、今の状態で愛奈はいいの? 苦しくないの? 嫌だったら嫌って言わないとだし、取られたくないんだったら自分だって行動しなきゃだめ!」
「でも、桃ちゃんも悪いことをしてるわけじゃないし、なにも言えないよ……」
桃ちゃんはときどき鮫嶋くんと一緒にいるために嘘をつく。でも、それを怒ったり、注意したりするレベルでないように思える。そのことを咎めるのも、なんだかおかしいような……。
「ああいう女は計算高いんだって! 可愛いんだから性格ぐらい悪くないとおかしいわよ!」
「それはさすがに偏見がすぎるよ……」
飛鳥ちゃんはまるで私のかわりに怒ってくれているようだった。私が中途半端なことをしているから、心配をかけている。そう思うと、また心は暗く深く沈んでいった。
どこにぶつけたらいいのかわらない色々な感情が、今にも溢れそうに渦巻いている。
今日はいきもの係の仕事がない日だ。最初からずっと流れのままに、鮫嶋くんと一緒に帰っているのだけれど……それでいいんだろうか。もしかしたら、私と帰るのを嫌がっていたりしないかな。
あんなに可愛い桃ちゃんみたいな子からアプローチされているんだもん。
私の存在が、迷惑になっていたら……。はっきり、ズキリとした痛みが胸に走る。
鮫嶋くんが、桃ちゃんのことをどう思っているのか聞いてみた方がいいのかもしれない。
帰りのホームルームが終わると、いつものように鮫嶋くんが私のところにくる。
「愛奈、帰ろうぜ」
「う、うん……」
帰り道、それとなく聞いてみよう。スクールバッグを肩にかけた瞬間、私たちの間に入るように桃ちゃんがきた。
「桃ちゃん、今日はいきもの係の仕事はないよ?」
しまった。なんだか桃ちゃんを拒否しているかのような言い方になってしまっただろうか。
傷つけていないか心配をしたけれど、桃ちゃんはいつもと同じように可愛く微笑んでいた。
「ごめんね。放課後、ちょっと鮫嶋くんに相談したいことがあって……いいかな?」
……聞かれても、実際に断ることなんてできないのに。
「うん、わかった。鮫嶋くん、私先に帰ってるから」
「あ、愛奈……」
鮫嶋くんの言葉を最後まで聞くこともできずに、私は教室から出てしまった。
校舎を出ると、空は私の心のなかを鏡で映したかのような曇天。
なんだか雨が降りそうな気配だった。
「鮫嶋くん……傘持ってたかな」
私はスクールバッグのなかにいつも折り畳み傘を入れている。
桃ちゃん、相談があるって言ってたから、ふたりきりで話をしたいことがあるんだろう。
ちょっとした相談ぐらいなら、そんなに長い時間がかからないよね。
私は校舎の玄関が見える、ウサギ小屋の前でふたりを待つことにした。
30分ほど経っただろうか。もにゅもにゅとしたウサギの口元を見ても、なんだか時間が長く感じた。
屈んで小屋を覗いていたので、少し足がしびれてる。
立ち上がって校舎の方を見ると、いつの間にか校舎の影にふたりの姿があった。
あそこで話をしているのかな?
さすがに盗み聞きをしたり、ふたりの間に割って入ることはできない。
ウサギ小屋の影から、ただふたりを見守る。
なにやら話をしているようだ。校舎の壁に鮫嶋くんはだるそうにもたれかかっている。
ふたりの距離は近い。桃ちゃんはもじもじを体を動かしてから……
――鮫嶋くんの手を両手で握った。
まるで頭を叩かれたような衝撃が走る。
ぐらっとするような感覚に、意識が飛んでしまうかと思った。
見たくないもの……だと思っているのに、目が離せない。
呆然としていると、桃ちゃんがこちらを見た。
桃ちゃんは私に気づいたようだった。
……少し、嗤っているように見える。
桃ちゃんは鮫嶋くんの手を離したかと思うと、鮫嶋くんの腕に絡みつくように自分の自分の体を摺り寄せた。
鮫嶋くんはどんな、顔をしているだろう。
ここからだと、わからない。わかってしまうのが怖い。
自分の心音が低い音を立てながら、激しくなっていく。
その締め付けられる衝動から逃げたくて、私は学校から飛び出した。
遠くで鮫嶋くんの声がしたけれど、私の足は止まれなかった。
鮫嶋くんとも、なんだかぎくしゃくしている気が……する。
鮫嶋くんがどうかはわからないけれど、私は彼とどう話したらいいのか、接したらいいのか、なんだかわからなくなってきている。以前はどうやって話していたっけ。どんな距離だったっけ。
一緒にいるのにそんなことばかり考えて、会話も続かない。
それに加えて、会話が広がりやすくなるいきもの係の仕事のときは、いつも桃ちゃんが来るようになってしまった。
「愛奈ちゃん、メダカの餌? あたしにもやらせてぇ!」
……ほら、こんな風に。
「うん。いいよ」
そう言って餌を渡すと、彼女は水槽を大きな瞳で覗き込む。
「鮫嶋くん、この子ってお腹大きくなってない?」
「ん? ああそれは……」
いつの間にか、ふたりの世界になってしまう。
私は一歩後ずさって、自分の席に戻っていった。
飛鳥ちゃんが私の席に来ると、ひそひそ声で話をする。
「ちょっと愛奈! このままでいいの?」
「いいのって……なにが?」
「だから、兎沢さんがいきもの係の仕事とってるじゃん。鮫嶋くんにぐいぐいいってるし」
「でも、私にそのことを止める権利なんてないし」
飛鳥ちゃんは大きなため息を吐いた。
「あのさ、今の状態で愛奈はいいの? 苦しくないの? 嫌だったら嫌って言わないとだし、取られたくないんだったら自分だって行動しなきゃだめ!」
「でも、桃ちゃんも悪いことをしてるわけじゃないし、なにも言えないよ……」
桃ちゃんはときどき鮫嶋くんと一緒にいるために嘘をつく。でも、それを怒ったり、注意したりするレベルでないように思える。そのことを咎めるのも、なんだかおかしいような……。
「ああいう女は計算高いんだって! 可愛いんだから性格ぐらい悪くないとおかしいわよ!」
「それはさすがに偏見がすぎるよ……」
飛鳥ちゃんはまるで私のかわりに怒ってくれているようだった。私が中途半端なことをしているから、心配をかけている。そう思うと、また心は暗く深く沈んでいった。
どこにぶつけたらいいのかわらない色々な感情が、今にも溢れそうに渦巻いている。
今日はいきもの係の仕事がない日だ。最初からずっと流れのままに、鮫嶋くんと一緒に帰っているのだけれど……それでいいんだろうか。もしかしたら、私と帰るのを嫌がっていたりしないかな。
あんなに可愛い桃ちゃんみたいな子からアプローチされているんだもん。
私の存在が、迷惑になっていたら……。はっきり、ズキリとした痛みが胸に走る。
鮫嶋くんが、桃ちゃんのことをどう思っているのか聞いてみた方がいいのかもしれない。
帰りのホームルームが終わると、いつものように鮫嶋くんが私のところにくる。
「愛奈、帰ろうぜ」
「う、うん……」
帰り道、それとなく聞いてみよう。スクールバッグを肩にかけた瞬間、私たちの間に入るように桃ちゃんがきた。
「桃ちゃん、今日はいきもの係の仕事はないよ?」
しまった。なんだか桃ちゃんを拒否しているかのような言い方になってしまっただろうか。
傷つけていないか心配をしたけれど、桃ちゃんはいつもと同じように可愛く微笑んでいた。
「ごめんね。放課後、ちょっと鮫嶋くんに相談したいことがあって……いいかな?」
……聞かれても、実際に断ることなんてできないのに。
「うん、わかった。鮫嶋くん、私先に帰ってるから」
「あ、愛奈……」
鮫嶋くんの言葉を最後まで聞くこともできずに、私は教室から出てしまった。
校舎を出ると、空は私の心のなかを鏡で映したかのような曇天。
なんだか雨が降りそうな気配だった。
「鮫嶋くん……傘持ってたかな」
私はスクールバッグのなかにいつも折り畳み傘を入れている。
桃ちゃん、相談があるって言ってたから、ふたりきりで話をしたいことがあるんだろう。
ちょっとした相談ぐらいなら、そんなに長い時間がかからないよね。
私は校舎の玄関が見える、ウサギ小屋の前でふたりを待つことにした。
30分ほど経っただろうか。もにゅもにゅとしたウサギの口元を見ても、なんだか時間が長く感じた。
屈んで小屋を覗いていたので、少し足がしびれてる。
立ち上がって校舎の方を見ると、いつの間にか校舎の影にふたりの姿があった。
あそこで話をしているのかな?
さすがに盗み聞きをしたり、ふたりの間に割って入ることはできない。
ウサギ小屋の影から、ただふたりを見守る。
なにやら話をしているようだ。校舎の壁に鮫嶋くんはだるそうにもたれかかっている。
ふたりの距離は近い。桃ちゃんはもじもじを体を動かしてから……
――鮫嶋くんの手を両手で握った。
まるで頭を叩かれたような衝撃が走る。
ぐらっとするような感覚に、意識が飛んでしまうかと思った。
見たくないもの……だと思っているのに、目が離せない。
呆然としていると、桃ちゃんがこちらを見た。
桃ちゃんは私に気づいたようだった。
……少し、嗤っているように見える。
桃ちゃんは鮫嶋くんの手を離したかと思うと、鮫嶋くんの腕に絡みつくように自分の自分の体を摺り寄せた。
鮫嶋くんはどんな、顔をしているだろう。
ここからだと、わからない。わかってしまうのが怖い。
自分の心音が低い音を立てながら、激しくなっていく。
その締め付けられる衝動から逃げたくて、私は学校から飛び出した。
遠くで鮫嶋くんの声がしたけれど、私の足は止まれなかった。
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