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【side:愛奈】私の気持ち、彼の気持ち
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「愛奈を、先輩に渡したくない!」
鮫嶋くんは力強くそう言ったあと、私の顔を見つめた。
なんだかこうやって顔を合わせるのも、久しぶりな気がする。
私の涙の痕が残っていたのかどうかはわからない。だけど、彼はその痕を拭うように私の頬を撫でた。
「俺、すんげーめちゃくちゃなことしてるかもしれない。嫉妬したり、不安になったり、自分がなにをすればいいのかもわかんなくなる。愛奈に笑ってほしい、幸せでいてほしい、そばにいたい……。色々な考えでどんどん頭がいっぱいになっていくんだ」
「鮫嶋……くん」
わかっちゃうの、その気持ち。私も、ずっとそうだったから。鮫嶋くんのことを考えると自分が嫌いになったり、怖くなったり、マンガみたいにキラキラした感情ばかりじゃなくなっちゃうの。
「俺、頭もそんなに良くないからどうしたらいいのかわかんない。だけど、はっきりしたことがひとつだけあるんだ。俺、愛奈に泣いてほしくない。愛奈のことが、好きなんだ。自分勝手でごめん」
「ううん、私こそごめんなさい。前にもちゃんと話し合おうと言ったばかりなのに。私も、鮫嶋くんのことが――」
「はいはい、そこまでにしといてもらえへんか?」
会話を遮ったのは、玲央先輩だった。先輩は、鮫嶋くんの前に立つ。
「熱い展開のところ悪いんやけど、ぼくも愛奈ちゃんのこと好きやから。不安にさせるようなことばっかりしてたら、すぐにかっさらっていくからな」
先輩を爪を立てるような仕草で鮫嶋くんに伝えた。おどけたような動きだったけど、表情は笑っていなかった。鮫嶋くんは苦虫を噛んだ顔をして、先輩を睨んでいた。
「ま、きょうのところは退散するわ。これ以上言ったら、愛奈ちゃんに嫌われるかもやし」
玲央先輩はふっと私に視線を向けた。私はとたんに、先輩が悲しそうな表情をしているのに気づいてしまった。
「先輩、ごめんなさい。話まで聞いてもらったのに」
「いいんよ。恋愛なんて、みんな自分勝手なもんやから。そいつも、ぼくも、愛奈ちゃんもそれでいいねん」
小さく笑うと、玲央先輩は踵を返して校舎の方へ戻っていった。
先輩の背中が見えなくなる。きっとなにか言わないといけないのに、言葉が出てこない。
さっきまでのお互いの言葉が、繰り返し頭のなかによぎった。
……私も、鮫嶋くんに気持ちを伝えたい。
「ねえ――」
やっと声を出せたと思った瞬間、授業が終わるチャイムが鳴り響いた。
「やべ、授業のこと忘れてた。愛奈、とりあえず教室に戻ろう!」
そう言うと、鮫嶋くんは私に手を差し出す。私は一瞬だけ戸惑う。
だけど、その手をぎゅっと掴んでみることにした。鮫嶋くんの手は、少し汗ばんでいた。私と同じように。
教室に戻ると、私たちはすぐに先生に呼ばれる。
「ご苦労さん。白魚はもう落ち着いたか?」
「はい。いきなり教室を出てすいませんでした」
「いや、大丈夫だ。それより草間が探してくれてたから、あとで礼だけ言ってくれ」
「飛鳥ちゃんが?」
飛鳥ちゃんの席を見ると、呆れた顔をしているがどこか安心したような表情をしていた。先生はひとつ咳をして、私たちの視線を自分に向けさせた。
「それとな、これ」
先生は教壇の上に束になった紙をふたつ置いた。
「これ……兎沢が作った台本?」
「ああ、兎沢がベル役を降りたいって言ってな。私の代わりはどうしても愛奈ちゃんにしてほしいから、これをふたりに渡してくれって。教室のみんなもそれでいいそうだ」
「そんな……それで、桃ちゃんは?」
「ちょっと体調が悪いからって早退した。まぁ、その、色々あるよな。若いんだから。とにかく、ふたりとも劇の主役は頼んだぞ。それじゃ、帰りのホームルームを始めるから、席に戻れ」
まだ聞きたいこともあったけれど、ここで話を伸ばすわけにもいかない。
台本を受け取って自分の席に戻る。すぐに、飛鳥ちゃんにコソコソ話をした。
「ごめん、心配かけたよね?」
「本当に心配したんだからね。まぁ、見つけたときにはすでに鮫嶋くんとくっついてたから? 私は退散しましたけどね」
飛鳥ちゃん見てたんだ! 見られていたのを知っちゃうと、顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「そ、それは」
「いいってば。またその話はドーナツでも食べながらゆっくり聞かせてね。言っとくけど、愛奈のおごりだからね!」
「は、はい。もちろんです!」
私がそう言うと、飛鳥ちゃんはぷっと吹き出して笑っていた。つられて私も声を殺して笑う。
今日、きっと鮫嶋くんと話をする。私の本当の気持ちも、鮫嶋くんの本当の気持ちも知ることになる。
心臓はまだ、トクトクと鳴っていた。
鮫嶋くんは力強くそう言ったあと、私の顔を見つめた。
なんだかこうやって顔を合わせるのも、久しぶりな気がする。
私の涙の痕が残っていたのかどうかはわからない。だけど、彼はその痕を拭うように私の頬を撫でた。
「俺、すんげーめちゃくちゃなことしてるかもしれない。嫉妬したり、不安になったり、自分がなにをすればいいのかもわかんなくなる。愛奈に笑ってほしい、幸せでいてほしい、そばにいたい……。色々な考えでどんどん頭がいっぱいになっていくんだ」
「鮫嶋……くん」
わかっちゃうの、その気持ち。私も、ずっとそうだったから。鮫嶋くんのことを考えると自分が嫌いになったり、怖くなったり、マンガみたいにキラキラした感情ばかりじゃなくなっちゃうの。
「俺、頭もそんなに良くないからどうしたらいいのかわかんない。だけど、はっきりしたことがひとつだけあるんだ。俺、愛奈に泣いてほしくない。愛奈のことが、好きなんだ。自分勝手でごめん」
「ううん、私こそごめんなさい。前にもちゃんと話し合おうと言ったばかりなのに。私も、鮫嶋くんのことが――」
「はいはい、そこまでにしといてもらえへんか?」
会話を遮ったのは、玲央先輩だった。先輩は、鮫嶋くんの前に立つ。
「熱い展開のところ悪いんやけど、ぼくも愛奈ちゃんのこと好きやから。不安にさせるようなことばっかりしてたら、すぐにかっさらっていくからな」
先輩を爪を立てるような仕草で鮫嶋くんに伝えた。おどけたような動きだったけど、表情は笑っていなかった。鮫嶋くんは苦虫を噛んだ顔をして、先輩を睨んでいた。
「ま、きょうのところは退散するわ。これ以上言ったら、愛奈ちゃんに嫌われるかもやし」
玲央先輩はふっと私に視線を向けた。私はとたんに、先輩が悲しそうな表情をしているのに気づいてしまった。
「先輩、ごめんなさい。話まで聞いてもらったのに」
「いいんよ。恋愛なんて、みんな自分勝手なもんやから。そいつも、ぼくも、愛奈ちゃんもそれでいいねん」
小さく笑うと、玲央先輩は踵を返して校舎の方へ戻っていった。
先輩の背中が見えなくなる。きっとなにか言わないといけないのに、言葉が出てこない。
さっきまでのお互いの言葉が、繰り返し頭のなかによぎった。
……私も、鮫嶋くんに気持ちを伝えたい。
「ねえ――」
やっと声を出せたと思った瞬間、授業が終わるチャイムが鳴り響いた。
「やべ、授業のこと忘れてた。愛奈、とりあえず教室に戻ろう!」
そう言うと、鮫嶋くんは私に手を差し出す。私は一瞬だけ戸惑う。
だけど、その手をぎゅっと掴んでみることにした。鮫嶋くんの手は、少し汗ばんでいた。私と同じように。
教室に戻ると、私たちはすぐに先生に呼ばれる。
「ご苦労さん。白魚はもう落ち着いたか?」
「はい。いきなり教室を出てすいませんでした」
「いや、大丈夫だ。それより草間が探してくれてたから、あとで礼だけ言ってくれ」
「飛鳥ちゃんが?」
飛鳥ちゃんの席を見ると、呆れた顔をしているがどこか安心したような表情をしていた。先生はひとつ咳をして、私たちの視線を自分に向けさせた。
「それとな、これ」
先生は教壇の上に束になった紙をふたつ置いた。
「これ……兎沢が作った台本?」
「ああ、兎沢がベル役を降りたいって言ってな。私の代わりはどうしても愛奈ちゃんにしてほしいから、これをふたりに渡してくれって。教室のみんなもそれでいいそうだ」
「そんな……それで、桃ちゃんは?」
「ちょっと体調が悪いからって早退した。まぁ、その、色々あるよな。若いんだから。とにかく、ふたりとも劇の主役は頼んだぞ。それじゃ、帰りのホームルームを始めるから、席に戻れ」
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「いいってば。またその話はドーナツでも食べながらゆっくり聞かせてね。言っとくけど、愛奈のおごりだからね!」
「は、はい。もちろんです!」
私がそう言うと、飛鳥ちゃんはぷっと吹き出して笑っていた。つられて私も声を殺して笑う。
今日、きっと鮫嶋くんと話をする。私の本当の気持ちも、鮫嶋くんの本当の気持ちも知ることになる。
心臓はまだ、トクトクと鳴っていた。
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