[完結]貴方なんか、要りません

シマ

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嫉妬

 キャスバル殿下の告白を聞いても、私は驚いただけだった。真っ赤な顔で告白した彼に、申し訳ない気持ちとお断りを言わなかった事への後悔しか無い。昔から私の心を独り占めしている大好きで遠い人は、約束通り帰りも迎えに来てくれた。

「……大公様……」

 馬車乗り場で私を待っていた大公様の回りには、上級生の女子生徒が集まっていて一生懸命に話掛けていた。腕を組んでいる彼の腕に、一人の生徒が触れた瞬間に感じた胸の痛みに泣きたくなった。彼に触れないでと強く願っても、私には嫉妬したり束縛する権利はないのに。
 私に気付いた彼が、生徒を掻き分け真っ直ぐ歩いてくる。私だけを見ているこの瞬間は奇跡なのだと、自分に強く言い聞かせた。

「お疲れ様。さぁ、帰ろうか」

 笑顔で労いの言葉をくれた大公様は、エスコートの為に私に手を差し出す。その手に自分の手を乗せて馬車に乗り込む。足元にネロとシェリーが座ると馬車はゆっくり走り出した。

「今日の授業は何をしたんだい?」

「授業で……」

 話しかけられた事に驚いたけど、珍しく大公様が目を細めて綿菓子の様に笑った。魔法の授業で習った事や、大公様が通っている頃から勤めているおじいちゃん先生の話をしながらも、殿下の告白の話はしたく無かった。きっと、私のエゴ。この話を聞いた大公様の反応を、態度を見たくないの。はっきりと言われるのが怖いから……
 だから、楽しい話だけをしていると、大公様が私の目を真っ直ぐに見詰めていた。

「あの……何か?」

「無理に笑ってるけど何かあった?」

 眉を下げ心配そうに私の顔を覗きながら言われた、その言葉に心臓が跳ねた。

「ちょっと疲れただけで大丈夫です。心配し過ぎですよ」

 そう言って誤魔化した私は、気まずくて視線をネロへ移す。どうして気付いたの?……いいえ、勘違いしては駄目よ。だって、大公様は私を妹の様に、家族の様に見ているのだから。

「ロゼッタ、私は頼りないか?」

 大公様の言葉に驚いて視線を戻すと、悔しそうな表情をしている。

「そんな事は無いです」

 突然の質問に驚いて直ぐに否定した私の手を正面から握りこんだ彼は、怖いくらい強い意思の宿る瞳で見詰めてきた。ナニこれ……大公様のこんな瞳……知らない。

 大公様が私の手を痛みを感じる程の強さで握り締める。その痛みと視線の強さに、身体の奥からゾクリと震えて何も言えなくなった。震えて黙ったままの私を見ていた大公様は、何かを堪える様に目を閉じてから深く息を吐き出した。

「間もなく婚約は破棄される。その後、私の話を聞いてくれないか?」

 そう言った大公様は見ている私まで切なく成る程、苦し気で何かを瞳の奥に秘めている様に見えた。

「は……い」

 やっと出た言葉は、かすれた一言だけ。私の返事を聞いた大公様は、ゆっくりと手を放して自分の膝の上に置いた。私は未練がましく、家に帰り着くまでその手を見詰め続けた。

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