婚約破棄されたポンコツ魔法使い令嬢は今日も元気です!

シマ

文字の大きさ
31 / 92
龍人の村編

閑話 学園の掃除 side アラン

しおりを挟む
「アラン殿、君の報告書はじっくり読ませて貰った。私は実に不愉快な気分だよ」

 王弟殿下に呼び出され訪ねてみれば、開口一番にこう言われた。不愉快ってなんだよ。私にどうしろって言ってだよオッサン!
 言いたい事は腹の中に収めて、改めて王弟殿下と視線を合わせるとニヤリと左端の口だけを上げて笑っていた。

「私は前々から掃除をしたいと思っていたんだ。君には協力して貰いたい」

「私の様な若輩者に出来る事など少ないと思われますが、誠心誠意お手伝いさせて頂きます」

 私の返答をお気に召したのか悪どい笑顔で頷いた殿下は、部屋の角に控えていた騎士を呼び何かを指示する。指示が終わると俺に向き直り机の中から一枚の紙を差し出した。

「これは何かあった時の誓約書だ。君には重大な任務を頼みたい」

 誓約書の内容を確認すると“この部屋で見聞きした事を漏らさない”や“何が起きても責任は問わない ”なんて物騒な事が書いてある。これにサインさせると言う事は……

「私に何をさせる気ですか?」

「……黙ってサインはしないか。当然だな気にいったよ。君には自白魔法を容疑者全員に掛けて貰いたい」






 難しい自白魔法を使えだの自白の裏付けを手伝えだの。この数日、王弟殿下の使い走りにされて疲労困憊だったが、学園のゴミを消し去る事に成功した。学園長は辞任とニールセンさんへの損害賠償。不当な授業をした講師は全員、懲戒解雇と一部の命を危険に晒す様な事をした傍に者は騎士団へ突き出した。

「学園長は今頃、自宅で慌てているだろうな」

 そう言ったのは王弟殿下。学園長が辞任で済んでいたのは、この人が裏で手を回したからだ。講師はニールセンさんが魔力・知力共に高い事への個人的な嫉妬や妬みが多かったが、学園長は彼女の件以外にも不正入学斡旋に授業料滞納者への強制売春等、様々な罪が明らかになり被害者は数えきれない。

「あのクズ豚はどうでも良いですが、売春被害者の生徒達へのケアや不正入学者への対応はどうお考えでしょう」

「く、く、君もなかなか言うね。確かに元学園長より生徒達だな。不正入学者は再度、入試を受けさせ合格者は入学を許可し不合格は在籍抹消」

 在籍抹消とは元々、入学すらしていなかった事にされるという事か。まぁ、妥当だな。そう思って黙って頷くと、続けて滞納者への対応が記載された書類を渡された。

「被害者生徒はカウンセリングや通院治療費の保証。学費滞納者は成績評価で奨学金支給や教科書等の現物支給が決定した。後それとは別に学費半額免除制度を設ける」

 魔法関連の専門書は高価な物が多い。現物支給だけでもかなり助けになるはずだが線引きが難しい。王弟殿下と話し合い奨学金支給には返還義務があるものと無いものの二つを設けて試験させる。学費免除は親の経済状況の確認等、不正防止策を幾つか決め書類を纏め終わる頃には日が落ちて暗くなっていた。はぁ、ムカつくクソ殿下のせいで今日も残業じゃないか。

「おや、ご不満のようだなアラン殿。私の元で働けば講師より給料が上がるし出世も望めるのに」

 残業続きで不満が顔に出ていた私に、王弟殿下の茶化す様な言葉に苛立ちを覚えこめかみを押さえた。

「出世しなくて良いので、早く帰らせて下さい」

「は?……欲の無い事だ」

「そうですか。お分かり頂けたなら帰らせて下さい」

「噂通りの男だな。よし!明日は来なくて良い。しかし、明後日は朝から必ず来てくれ」

 俺は学園の講師であって王弟殿下の補佐官でも側近でもないんだが?どうせ言っても笑って話を流すと考えて私は、了承の返事だけすると書類に視線を戻した。



 そして、改めて朝から出向した私は、朝イチで王弟殿下より渡された辞令を読んで机の上に叩きつけた。


『辞令』

アラン・ホールズを本日付けで王弟クロード・ルーランドの補佐官に任命する



「これはどういう事でしょうか?」

「君の仕事ぶりは実に優秀だ。学園内も理解している」

「だから何だと言うのですか。取り消して下さい」

「期間は一年間だけだ。学園の掃除の後始末に付き合って貰う」

 執務室の大きな椅子に座って腕を組む王弟殿下は、真っ直ぐに私の目を見つめ返してくる。その目には強い決意が読み取れた。何が何でも改革させる気ですか。それは良いことですが巻き込むなよ!

「ニールセン令嬢が帰って来る時には、穏やかな学園生活がおくれるだろうなあ」

「何が仰りたい」

「君は彼女の様な生徒を二度と出さない為に必要な人材だと私は確信している」

 二度と出さない為と言われてしまえば断る選択肢は無い。覚悟を決めた私は一年の時限的処置として受け入れる事にした。

「さて、先ず君には不正入学者への意志確認と試験問題の作成を頼む」



オッサン、それは私一人でやる仕事じゃないだろうが!!


 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

妹に全て奪われて死んだ私、二度目の人生では王位も恋も譲りません

タマ マコト
ファンタジー
第一王女セレスティアは、 妹に婚約者も王位継承権も奪われた祝宴の夜、 誰にも気づかれないまま毒殺された。 ――はずだった。 目を覚ますと、 すべてを失う直前の過去に戻っていた。 裏切りの順番も、嘘の言葉も、 自分がどう死ぬかさえ覚えたまま。 もう、譲らない。 「いい姉」も、「都合のいい王女」もやめる。 二度目の人生、 セレスティアは王位も恋も 自分の意思で掴み取ることを決める。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

その人、聖女じゃなくて聖女『モドキ』ですよ?~選んだのは殿下ですので、あとはお好きにどうぞ~

みなと
ファンタジー
「お前は慎みというものを知るべきだ! 俺は、我が腕の中にいるアルティナを次代の筆頭聖女に任命し、そして新たな我が婚約者とする!」 人を指さしてドヤ顔を披露するこの国の王太子殿下。 そしてその隣にいる、聖女として同期の存在であるアルティナ。 二人はとてつもなく自信満々な様子で、国の筆頭聖女であるオフィーリア・ヴァルティスを見てニヤついている。 そんな中、オフィーリアは内心でガッツポーズをしていた。 これで……ようやく能無しのサポートをしなくて良い!と、今から喜ぶわけにはいかない。 泣きそうな表情を作って……悲しんでいるふりをして、そして彼女は国を追放された。 「いよっしゃああああああああああああ! これで念願のおば様のところに行って薬師としてのお勉強ができるわよ!!」 城の荷物をほいほいとアイテムボックスへ放り込んで、とても身軽な状態でオフィーリアは足取り軽くおばが住んでいる国境付近の村へと向かう。 なお、その頃城では会議から戻った国王によって、王太子に鉄拳制裁が行われるところだった――。 後悔しても、時すでに遅し。 アルティナでは何の役に立たないことを思い知った王太子がオフィーリアを呼び戻そうと奮闘するも、見向きもされないという現実に打ちひしがれることになってしまったのだ。 ※小説家になろう、でも公開中

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...