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学園復帰編
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私は腕の中で震えて泣いているミューを抱き締めていた。契約のお陰か微かだけどミューの感情が伝わってきていた。
嫌わないで
見捨てないで
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
何度でも謝るから
独りにしないで
叫びにも似たミューの感情は聞いているだけで涙が滲む。小さい頃。まだ、両親の愛情を求めていた私も同じ事を考えていた。
魔法が使えなくてごめんなさい
勉強が出来なくてごめんなさい
頑張るから
私を見て
話しを聞いて
私を抱き締めて
独りにしないで
同情なのか自分と重ねたからか分からないけど、今この手を離したらミューは何処かに消えてしまいそうな気がして彼女の涙が止まるまで抱き締めた。
どれくらいの時間が過ぎたのか分からない。五分かもしれないし一時間かもしれない。落ちついたミューの涙が止まった事を確認してから腕の力を抜いた。
「ルナ嬢、傷の手当てをしよう」
いつの間にか着替えたリュカ様が戻って来ていて心配そうに顔を覗き込んでくる。その後ろにはアラン先生一人しかいなかった。あれ?いつの間にいなくなったのかしら。
「ソフィア様とカイト団長は?」
「二人は陛下の先に元へ行きました。ニールセンさんは手当てをしてから来る様にと」
取り乱したミューを連れて人の多い場内に行くのは危険と判断した二人は、報告する事もあるからと先に向かう事にしたらしい。私はミューを抱えたままアラン先生に回復魔法を掛けて貰った。
私が回復している間にリュカ様は、場内に残っている人達に片付けの指示を出している。騎士様と魔法使い様に別れて動きだす人達を眺めていると、多くの人が私と目を合わさないように俯いていた。
そっか……リュカ様やアラン先生が今まで通りに接してくれるから気付かなかったけど、今、私は警戒されたり恐怖する対象なんだ……魔力が多いだけなのに。
「ルナ嬢?」
徐々に俯いていく顔を下から覗き込んできたのはリュカ様。驚いて固まる私に手を伸ばした彼は壊れ物を触る様にそっと頬を撫でた。
「まだ痛みが?」
「い、いえ!大丈夫です」
リュカ様の手の温もりを感じて何故だか泣きそうなった私は、慌てて首を横に振って誤魔化した。
「まだ顔色が悪いな……団員達のせいか?」
どうして
どうして……この人は私が隠したい事に気付くのかしら
「どうかしたのですか?」
何も答えない私の変わりにアラン先生がリュカ様に問い掛け、彼らの怯えた様な態度が気になったと言う。その言葉を聞いてアラン先生も眉間にシワを寄せて周囲に視線を向けた後、呆れた様な表情で大きなため息を吐き出した。
「ニールセンさん、小者の戯れ言など木々のざわめきと同じですよ」
「それでは木々に申し訳ない」
「あぁ、それもそうですね。己の修練不足を反省しない未熟者達ですからね」
……アラン先生が毒舌になった。リュカ様も否定しないで頷いているし……何これ……二人共、こんなキャラだったかしら?
「はい、治療は終わりましたよ」
「へ?あ、ありがとうございました」
二人の会話に唖然としている間に傷は塞がり、ミューも落ちついたので陛下の元へ移動する事になった。
訓練場にいる人達が左右に分かれた所をリュカ様を先頭に歩いて行く中、黙って見ている人達に混じって深々と頭を下げている人がいた。
「そういえばアラン。お前、何時までルナ嬢の事を"ニールセン"で呼ぶんだ?」
「あ、籍を抜いたのでしたね。では、私もルナ嬢と呼んでも構いませんか?」
「はい」
さっきの訓練場の事に触れず違う話しに肩の力が抜けていく。リュカ様の案内で進んだ先には、ドアの前に騎士が立っていて彼らは私達に気づくと部屋の中に連絡してドアを開けてくれた。
「失礼します。ルナ嬢をお連れ致しました」
リュカ様に背中を押されて前に進むと奥のテーブルを囲んで陛下と王弟殿下が並んで座っていて、ソフィア様達も一緒にいた。
陛下に促され全員が着席すると、最初に長い間、呪具に気付かなかった事や学園の不正を謝罪し頭を下げられた。陛下に何て言えば良いか分からずに私が慌てていると王弟殿下も頭を下げたので泣きそう。ど、どうしたら頭を上げてくれるの?謝罪は受け入れたのに、どうしてそのままなのよ!
「お前達、気が済んだならさっさと頭を上げな。ルナが困ったいるだろう」
「すまない。困らせたかった訳じゃないんだよ」
先に頭を上げたのは王弟殿下で、頬を人差し指で掻きながら苦笑していた。陛下も続けて顔を上げると、大きなため息を吐き出した。
「本当にすまなかった」
陛下は最後にもう一度謝罪の言葉を口にすると、この話しは終わりとなり卒業証書を受け取った。
「卒業……したんだ」
ポツリと自分の口から漏れた言葉はそれだけ。嬉しいとか喜びの感情はなく何だか表現しにくいモヤモヤがあった。
嫌わないで
見捨てないで
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
何度でも謝るから
独りにしないで
叫びにも似たミューの感情は聞いているだけで涙が滲む。小さい頃。まだ、両親の愛情を求めていた私も同じ事を考えていた。
魔法が使えなくてごめんなさい
勉強が出来なくてごめんなさい
頑張るから
私を見て
話しを聞いて
私を抱き締めて
独りにしないで
同情なのか自分と重ねたからか分からないけど、今この手を離したらミューは何処かに消えてしまいそうな気がして彼女の涙が止まるまで抱き締めた。
どれくらいの時間が過ぎたのか分からない。五分かもしれないし一時間かもしれない。落ちついたミューの涙が止まった事を確認してから腕の力を抜いた。
「ルナ嬢、傷の手当てをしよう」
いつの間にか着替えたリュカ様が戻って来ていて心配そうに顔を覗き込んでくる。その後ろにはアラン先生一人しかいなかった。あれ?いつの間にいなくなったのかしら。
「ソフィア様とカイト団長は?」
「二人は陛下の先に元へ行きました。ニールセンさんは手当てをしてから来る様にと」
取り乱したミューを連れて人の多い場内に行くのは危険と判断した二人は、報告する事もあるからと先に向かう事にしたらしい。私はミューを抱えたままアラン先生に回復魔法を掛けて貰った。
私が回復している間にリュカ様は、場内に残っている人達に片付けの指示を出している。騎士様と魔法使い様に別れて動きだす人達を眺めていると、多くの人が私と目を合わさないように俯いていた。
そっか……リュカ様やアラン先生が今まで通りに接してくれるから気付かなかったけど、今、私は警戒されたり恐怖する対象なんだ……魔力が多いだけなのに。
「ルナ嬢?」
徐々に俯いていく顔を下から覗き込んできたのはリュカ様。驚いて固まる私に手を伸ばした彼は壊れ物を触る様にそっと頬を撫でた。
「まだ痛みが?」
「い、いえ!大丈夫です」
リュカ様の手の温もりを感じて何故だか泣きそうなった私は、慌てて首を横に振って誤魔化した。
「まだ顔色が悪いな……団員達のせいか?」
どうして
どうして……この人は私が隠したい事に気付くのかしら
「どうかしたのですか?」
何も答えない私の変わりにアラン先生がリュカ様に問い掛け、彼らの怯えた様な態度が気になったと言う。その言葉を聞いてアラン先生も眉間にシワを寄せて周囲に視線を向けた後、呆れた様な表情で大きなため息を吐き出した。
「ニールセンさん、小者の戯れ言など木々のざわめきと同じですよ」
「それでは木々に申し訳ない」
「あぁ、それもそうですね。己の修練不足を反省しない未熟者達ですからね」
……アラン先生が毒舌になった。リュカ様も否定しないで頷いているし……何これ……二人共、こんなキャラだったかしら?
「はい、治療は終わりましたよ」
「へ?あ、ありがとうございました」
二人の会話に唖然としている間に傷は塞がり、ミューも落ちついたので陛下の元へ移動する事になった。
訓練場にいる人達が左右に分かれた所をリュカ様を先頭に歩いて行く中、黙って見ている人達に混じって深々と頭を下げている人がいた。
「そういえばアラン。お前、何時までルナ嬢の事を"ニールセン"で呼ぶんだ?」
「あ、籍を抜いたのでしたね。では、私もルナ嬢と呼んでも構いませんか?」
「はい」
さっきの訓練場の事に触れず違う話しに肩の力が抜けていく。リュカ様の案内で進んだ先には、ドアの前に騎士が立っていて彼らは私達に気づくと部屋の中に連絡してドアを開けてくれた。
「失礼します。ルナ嬢をお連れ致しました」
リュカ様に背中を押されて前に進むと奥のテーブルを囲んで陛下と王弟殿下が並んで座っていて、ソフィア様達も一緒にいた。
陛下に促され全員が着席すると、最初に長い間、呪具に気付かなかった事や学園の不正を謝罪し頭を下げられた。陛下に何て言えば良いか分からずに私が慌てていると王弟殿下も頭を下げたので泣きそう。ど、どうしたら頭を上げてくれるの?謝罪は受け入れたのに、どうしてそのままなのよ!
「お前達、気が済んだならさっさと頭を上げな。ルナが困ったいるだろう」
「すまない。困らせたかった訳じゃないんだよ」
先に頭を上げたのは王弟殿下で、頬を人差し指で掻きながら苦笑していた。陛下も続けて顔を上げると、大きなため息を吐き出した。
「本当にすまなかった」
陛下は最後にもう一度謝罪の言葉を口にすると、この話しは終わりとなり卒業証書を受け取った。
「卒業……したんだ」
ポツリと自分の口から漏れた言葉はそれだけ。嬉しいとか喜びの感情はなく何だか表現しにくいモヤモヤがあった。
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