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第一世界 2章 魔国編

30,決闘

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 さて、決闘紛いのことをすることになったけどやる場所を決めるためにもギルドの受付さんに聞かないとね。

「すみません、今から使える訓練場か決闘場ってありますか?」

「えっと……」

 僕が聞くと受付さんがそう言って奥に入っていった。借りてる人がいないか確認してくれてるのかな?
 少し待っていると受付さんが戻って来た。あればそこでやるし無ければ適当なところで人払いしてからやるけどどうかな?相手さんが準備してる間に戦場は確定させておきたいんだけど。

「ありました!ギルドの地下訓練場が使えます。ですが今からだと30分後に予約が入っているので使用時間は最大でも30分無いですが大丈夫ですか?」

 30分?余裕余裕、見たところあの人達近接しかいないから火精蜥蜴サラマンダードレイクにも負けるんじゃないのってレベルだし。
 使用時間より地下訓練場とかいうロマン溢れる施設の方が気になる。地下堀抜いて訓練場作るとかさすがファンタジー。地球では出来ないことを平然とやってのける。

「僕は先に行って準備したいので彼らに訓練場で待ってると伝えてください。僕から言ってその場で決闘開始になったら被害が増えますから」

 自分で言え?だって極力話したくないんだもの。なんだか相手の方を見た受付さんの顔が引き攣ってた気がするけどまぁ気の所為ってことにしておこう。・・・・・・いや、気の所為じゃないなあれ。今度料理長のお菓子をお詫びに持っていこう。

 そして受付さんと別れてから訓練場に行こうと思ったけど場所がわからなかったから職員の人を捕まえて訓練場まで案内してもらった。
 訓練場に着くと案内してくれた職員さんはそのまま元の作業に戻っていった。

 それにしてもこの地下訓練場、上にある魔国王都のギルドより広い気がするんだけどどういうことなんだろう。そして一応柱で支えられているとはいえ訓練場の中には1本も柱は無い、これいつか天井が落ちてきたりしないのかね?

「地下訓練場っていつか天井が落ちてきたりしないのかね?」

「各国王都にあるギルドにのみある地下訓練場はかつて異世界人で初めてギルドという組織を作りこの世界の全ギルドを統括するギルド総本部の初代マスターになった方が自らの手で作ったそうですよ」

 異世界人で初代グランドマスターで空間魔法に高い適性を持つとかその人の一生をまとめたら本に出来そうだな。

「さらに訓練場全体に空間拡張と空間固定が付与されているらしくシェルターとしての用途も兼ねているそうです」

 シェルターとしての役割もあるのか。初代グランドマスター本当に優秀だな。ネロの話にでてきた世界中のギルドを統括してるっていう総本部にはその人の銅像とかありそう。


 ネロと話しながら待っているとようやくやって来た。5人パーティーで打剣さんは大剣、残りの4人は斧1人に槍1人、そして魔職と軽戦士か斥候職っぽい人が1人ずつ。物理系遠距離職がいないのが相手によっては問題になりそうだけどバランスは良い。

 打剣パーティの後ろから職員の人が歩いてきた。あの人たちはここのことを既に知ってたから案内は要らなかった?職員の人は審判役かな?
 相手さんは準備が終わったようでニヤニヤしながらこっちを見てる。克墨が居なくてよかった。どう考えてもあれは教育に悪い。

 と、思って彼らを視界から外しているとネロが裾を引っ張ってきた。

「ん?ネロどうした?」

「マオさん、私も参加しますね」

 ・・・・・・え、ネロも参加するの?まぁネロがアレ程度の相手に負けることは無いと思うけど……頭では問題ないとわかってても参加してほしくない気持ちの方が強い……過保護過ぎてもダメだし本人の意思を尊重するか。


 ネロが決闘に参加することについて色々考えていると審判役の人が話し始めた。

「それでは、これより決闘を開始します。ルールはどちらかが降参するか戦闘不能になるまで武器は刃引きなし、魔法の使用はありで回復薬は使用不可です」

 刃引き無しね。ネロが参加するのは許可しなければよかったかな。でもネロは魔職だし前衛で斬り合いするのは僕の方だから問題ない……のか?



「オラァッ!」

 開始と同時に斧の人が突っ込んで来て斧を横に振るった。斧が僕の立っているところに到達する前に加速して自ら前に出、ネロは後方に跳躍して躱していた。

「ネロッ!僕が前に出るから支援を頼む!」

 そう言って僕はさっき振るった斧を構え直している男に向かって走る。そして走る途中で2振りの短剣を取り出し両手に構えて斬り掛かるもそれは構え直した斧によって弾かれた。
 叢雲剣と神焔剣レーヴァテインだったら斧ごと斬れてそうだけどあの2振りは対人で使うにはまだ手加減が難しいから今回は無し。そもそもこれまでの僕が刃引きしてない武器を使った対人経験って手加減する必要が無いクズ相手か手加減する余裕が無いこの世界最強クラス相手しかないし。

「セェイッ!!」

 弾かれたところに槍持ちがその槍を突き出されるがそれは左手に持った短剣で逸らすことで回避する。

「『アラミタマ』『ニギミタマ』」

 短剣の名を呼びを先程まで使っていた短剣を新たな物に持ちかえる。取り出された2振りの短剣の名は黒と青の短剣がアラミタマ、白と赤の短剣がニギミタマ。
 この2振りは奈落に落ちてから奈落の魔物の素材を使って強化された短剣。蝕霊剣アラミタマは自分の短剣を、浄霊剣ニギミタマは黒牛鬼との戦いの中で渡された短剣を元にして強化されている。
 アラミタマが四元素の陰性である『破滅』『腐蝕』『破断』『崩壊』の力を、ニギミタマが陽性である『活性』『快癒』『守護』『誕生』の力を持ちそれぞれ魔力を消費することで性質を引き出すことが出来る。魔力を消費しなければ鈍器のような扱いも可能だから1番付き合いが長い武器ってこともあってこういう時に役立つ。

  槍を躱したところ で斧が振り下ろされる。が、それはニギミタマで受止めてからアラミタマをその斧に向けて振るう。そして当たる直前にアラミタマに宿る四元素陰性のうち水と土の性質、『破断』と『崩壊』を引き出す。
 そんな刃が店売り品より少し高そうなだけの斧に当たればどうなると思う?

 もちろん当たった箇所で斬れる。そして『崩壊』の効果で斬り飛ばされた部分は崩れて塵になる。そして武器が使い物にならなくなったことで棒立ちになった斧持ち(ここまで斧持ち斧持ち言っていたけど名前は知らん)を場外に蹴り飛ばす。受身が取れなかったのと棒立ちの相手を蹴ったからか予想外に上手く入ったのもあわさって蹴り飛ばした相手は気絶している。

 これであと残っているのは4人。ネロの方を見るとそこには相手魔職と魔法合戦をしている姿があった。ネロとやり合っている魔職と軽戦士を除くと残りは打剣と槍持ちの2人。あの2振りを使えば対人戦でも手加減余裕ってことは分かったしそろそろ魔法を解禁して終わらせようか。ネロも近接系相手に結構上手くやれてるみたいだしあっちは任せていいだろ。

「『駆け抜けるは稲妻、其は黄金の槍』」

 さすがに神器を元に考えた魔法を普通の人に向けて撃つと最悪炭化する可能性があるから詠唱文を削って威力を低下。

「『天を覆い地へ落ちろ、これより成すは神罰の具現』」

 ガントレットのように魔法陣が右腕を覆いそこから雷が溢れる。それは無秩序に周りに飛び散ることなく腕の周りで槍のように留まったままになっている。
 さて、詠唱が終わり魔法名を唱えるか腕を振り下ろせばそれだけで雷槍が飛んでいく今の状況。最後の加減をするために普段使うことが全くと言っていいほどないとあるスキルを使う。
 その名は、

「『覇王覇気』」

「「ッ!?」」

 距離が近いのと今対象になった2人を除いたネロとやり合っている2人はネロに集中してて僕に意識を向ける余裕が無さそうだから覇気の対象外。
 さぁてと、雷で覆われている右手を握って開いてを繰り返す。その間も覇気は継続中だから相手は動けない。今回の決闘は一方的に絡まれたことから始まったけど対人戦の練習になったから総合的に見ればプラスかね。

「『大神之雷霆ケラウノス』」

 勿論ここまで手加減に手加減を重ねて来たのにミスって直撃させた結果相手を炭化させてしまいましたなんてことにならないように雷槍の着弾位置まで気をつけて、思いきり投げる。

 投げた勢いのまま地面にぶつかった雷槍着弾の衝撃で地面を抉る。狙い通り相手より少し前に落ちた槍は落ちた瞬間弾け雷撃を辺りに撒き散らした。ネロが相手しているほうは雷撃の範囲外だったことでなんの影響もないが僕が相手していた2人は覇気で止められていた体に雷撃が直撃し吹き飛んでいった。
 これで僕の担当は終わり、危なくなった時に割り込むために武器は持ったままだけど今のところ手を出す気は無い。このままネロと残り2人の戦いを見ていよう。

 ネロの魔法が軽戦士に直撃したところでネロが自分の周りに障壁を張ると詠唱を始めた。さすが魔王陛下にも魔法関係を教わってるだけあって1人でも詠唱を可能にする手段はある。

「『風よ我が声を聞け』」

「『我は汝らの王の代行者』」

「『我が名において命じる』」

「『風よ我が意、我が声を聞き従え』」

「『吹き荒ぶ暴風、其は王の鉄槌』」

「『この一撃を以て我らを害す逆賊を討つ』」

 ・・・・・・風属性、しかも詠唱が長い。どうするかねぇ。とりあえず審判の人に被害がいかないように気をつけて見とくのは確定として。僕のケラウノスみたいに当たった相手が炭化して死ぬレベルの魔法ではないから放置?

「『地を走る疾風、其は王の尖兵』」

「『我に仇なす者を蹂躙し駆け抜けろ』」

「『天を呑む嵐、其は王の怒り』」

「『あらゆる邪悪を滅ぼす剣となれ』」

 ネロの周りで詠唱が進む事に勢いと風速が強くなってきていた風が前に向けて突き出されていたネロの手の前に集まる。

「『代行者たる我の裁定を受けよ』」

「『代行:風王審判』」

 そして集まり勢いを増して行った風が放たれた。それは魔法のダメージから立ち上がった軽戦士とその軽戦士に支援魔法をかけていた魔導師の2人に直撃した。
 風の塊に直撃した2人は体に無数の切り傷がついているが命に別状は無いみたい。
 それにしても、まさかネロがこんな魔法が使えるとは。さすがこの世界最強の一角の娘。




 決闘が終わってからそのまま冒険者登録を済ませてギルドから出た。
 一応ギルドの利用とか冒険者についての説明は受けたけどだいたいよくあるラノベの冒険者ギルドと同じシステムだったから割愛。ちなみにこれも異世界人が考案したシステムだとか言ってた。初代総ギルドマスターとは別人らしいけど。

 そしてギルド地下での決闘が終わってからネロがドヤっとしてる。それを見て僕はとある動物たちの村の村長の秘書をしている女性のドヤ顔を思い出した。

「ふふん、どうですかマオさん、私だって戦えるんですよ。だからマオさんだけ傷つくことは無いんですよ。これは私だけじゃなくて悠灯さんと克墨ちゃんも」

 うーん、ドヤネロ可愛い。なんか語彙力下がってるような気がするけどそこは気にしない。ネロだけじゃないのか。吸血鬼で普通死なないとしても傷を負うのは最小限に抑えるように気をつけよう。肉を切らせて骨を断つ作戦は自重。
 あとなんか僕の前で飛び跳ねてるけどどうしたのかな?僕的には目の保養になるしほっこりするから得しかないけど。

「むぅ……マオさん、少ししゃがむか頭を下げてくれませんか?」

「ん?はい、これでいい?」

 いきなりしゃがんでって言われたから傍から見て不自然じゃない程度に頭を下げたけどどうしたんだろう?

「よいしょっ(・・・ナデナデ・・・)」

 ・・・・・・ん?なんか頭に感触が……もしかして撫でられてる?頭を下げたせいで目線が下を向いてるからネロが撫でてるのか見えない。
 だから頭の位置を元に戻した。

「マオさん、まだ足りないんですけど?」

「うん、撫でるのは百歩譲っていいけどさすがにここでは恥ずかしいからやめて」

「それじゃあ帰ってから続きをしますね。悠灯さん程じゃないですけどこれでも私の方がマオさんよりお姉さんなんですからたまには甘えてもいいんですよ?」

 そうなんだよなぁ。人族より魔法族の方が平均寿命が長いからよく創作物であるエルフが人間基準だと見た目と年齢が合わないのと同じで見た目では僕の方が年上に見えるけど実際はネロの方が年上。
 だからネロがお姉さん感を出してくると見た目とのギャップで中々にクるものがある。

 この後城に戻ってから続きをやる時にはちゃんと自制出来るようにしないと。





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