ある侯爵家のメイドの話

よもぎ

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ある侯爵家のメイドの話

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ねぇシャーリィ知ってる?
この家、もう長くないみたいよ。
私は今日の勤務が終わったらメイド長に辞めるって伝えるつもり。
紹介状をもらえる内に辞めたほうがいいわよ。

え?なんで、って……知らないの?
うちのご長男ってば、王女殿下の婚約者だったのに、子爵令嬢と不貞をしてシンジツのアイがー!とか叫んで婚約破棄を宣言したらしいわ。
それで王家が激怒してるのよ。
だから、降格ならまだいいけど、家の取り潰しも有り得るって聞いたの。
兄が王宮で働いてるから確かな情報よ。

私?持参金になるだけの貯金はあるし、兄の紹介で文官の一人に嫁ぐわ。
法衣貴族で爵位は低いけど堅実な方みたいだし安全だわ。
シャーリィはそういう伝手がないんでしょう?だから話したのよ。
他の子たちはまだなんとかなるかもしれないから。
シャーリィの家のことはよく知らないけど、仕送りなんてしてるくらいだからお財布事情はよくないんでしょう?
そこに帰ったってまた勤めに出されるでしょうし、そういう時に紹介状がないのは不便じゃない?
もし帰ってから就職活動を、っていうのがイヤなら探す間はウチにいたっていいわ。
ね、だから一緒に辞めましょ。


そう。よかった。
ところでシャーリィの身の上って聞いたことなかったわ、どこの家なの?

え!?

ブロンズ家って言ったら、例の子爵令嬢の……ええ?
え……うん、…………そう……。
再婚相手の連れ子が姉なんて苦労したのねぇ。
しかも元浮気相手だなんて。
絶対その連れ子って実姉よね?いわゆる腹違いというやつ。
シャーリィもそう思ってたの?
……そう。目の色が同じなのね。色合いが全く同じなら……ねぇ。
そんな家帰りたくないわよね、やっぱりウチに来なさいな。
なんなら兄にねだって、同じ文官仲間で嫁入り先を探してもらうわ。

嫁入りがダメでも私と一緒に家事をやって暮らしていくっていうのもありよ?
シャーリィってすごく細かいところまで丁寧に仕事をするじゃない?
どの家でも大事にされるとは思う。

けど今は……ちょっとね。

紹介状をもらえとは言ったけど、よくよく考えたら沈む船から逃げ出したって思われるかもしれないし。
ほとぼりが冷めるまではウチにいるのも悪くはないわね。
私がワガママ言ってハウスメイドにしたって言えばいいんだもの。
ね、そうしない?新婚の家にいるのは気まずいかもしれないけど、気にするなら住み込みじゃなくて家も面倒見るわ。
王都の治安がいい地帯でも、探せばいい条件なのにお手頃な家ってあるものね。

よかった。
じゃ、仕事の再開ね!



----

ヘルミーネは優しい。
最初に顔を合わせた時からずっと。

ランドリーメイドになって、二人で組んで仕事をするようになってからは、なぜだかよく飴をくれた。
だからどうして?と聞いたら、そんな痩せっぽちなままじゃ体に悪いじゃない!とふくれっ面をして、賄いもおかわりしたほうがいいと怒られたんだったっけ。
その日の晩の賄いの時、料理人に「この子にはたくさん盛ってあげてよ、こんなちっちゃいのよ?」って言ってくれて。
あれから、ちょっとだけ背が伸びたわ。

人によっては遠慮ない言い方がキツくて嫌って人もいる。
でも私はあれくらいハッキリ言ってくれるほうが分かりやすいし、ヘルミーネは嫌なこともいいこともちゃんと伝えてくれるから。

それに、きつく言い過ぎたかしらって後で悩んでるのも知ってる。
ヘルミーネは出来る仕事の範囲が多いから、つい新人メイドにコツを教えたりしちゃうんだけど、その時の自分の言い方をすごく考えてる。
けど世話焼きだからついつい口を出してしまう。
そういう、放っておけないところが好き。


ヘルミーネとはずっとメイド仲間でいられると思っていた。
結婚する、という話を聞いてさみしくなったけど、誘ってくれて嬉しかった。

別に家に執着なんてない。
あそこは最初から「家」じゃなかった。
ヘルミーネのいるところが私の家。
だから、お給料なんて気にしない。
連れてってくれればそれでいい。


優しいヘルミーネ。
あなたは、いつまでも私のことを素直で可愛い小さなシャーリィだと思っていてね。
私は、あの家の血をひいているから、早熟なのだと思うの。
だって、こんなにもあなたが好き。


他の男に抱かれるんだっていいわ。
それでも「女」で一番可愛がってもらえて、頼られるのは私でしょう?
だからいいの。
私もヘルミーネもどちらもが結婚したとしても、きっと私はヘルミーネの心をつなぎとめる。

だって、私に優しくしてくれるのはヘルミーネだけだもの。
私のことを見てくれて、優しくしてくれて、一緒にいてくれるのはヘルミーネだけ。
友情とか、同情とかでいいの。
私と同じ愛は望まない。

でもね、裏切らないでね。

私、そうなったらきっとあなたを殺してしまう。
そうして私が好きだったヘルミーネを永遠にする。
だから、ヘルミーネ。

これからも、ずっと一緒にいてね。



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