【完結】碧よりも蒼く

多田莉都

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第5章

冬の放課後 3

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「なんだよ、急に」

 僕は可能な限り、とまどいが伝わらぬよう、落ち着きながら伊藤に問いかける。

「いや……なんていうか……そうだな」

 伊藤はボールを足元に転がしたまま右手を顎に当てて考え始める。

「人のことを言う前にさ、オレのことを少し話してもいいかな?」
「ああ、うん」
「オレは小学校の頃からバスケやってたんだ。いわゆるミニバス。豊田市内では一番強いクラブチームで、五年からレギュラーだった」
「おお」
「小六のときは県でも上の大会とかに出てて、ちゃんと覚えてない大会の優秀選手とかなれたときもあった。南関東の大会とかも出たことはある。全国大会は出たことないけど、いろんな地方に選抜チームで遠征に行ったりもしてたんだ」
「すごいじゃん」

 バスケがうまいのは知っていたが、伊藤が小学校時代から活躍していたことを初めて知った。チーム自体は全国大会に出なくても、地域選抜みたいなチームで全国レベルに触れることがあることは、僕の周りでも野球やサッカーで何人かいた。そいつらは皆、「個」でもレベルの高い奴らだった。伊藤もそうなんだろう。

「中学は県大会のそこそこぐらいまでしか行けなかったけど、県選抜合宿とかは呼ばれたりしたんだ。その中で『あ、こいつはすごいな』って思う奴は当然のように活躍していく姿を見てきた。あ、別に小さな自慢話をしたいわけじゃなくて、『それなりに』レベルの高い人たちは見てきたってことを言いたいんだ」

「ああ、うん。んん? よくわからないけど、ああ、うん」

「オレ自身に人を見る目が全くないとは思わないし、実際に高いレベルも見てきたよってこと」

「あー、なるほど……んん?」

「動きを見てるとわかるんだよね、『あ、こいつうまい』って。ちょっとした足の動かし方とか身体の使い方だけでもね」
「あー、わかるかも。オレの中学にも運動神経いい奴がいたからね。甲子園常連校に推薦入学していった奴とか、『あ、こいつすごい』って思わされたしね」

 僕の言葉に伊藤は頷く。

「それで、オレは相沢の動きを見ていて思うんだ。『あ、こいつすごい』って」
「え?」
「体育のサッカーのときにパスを受け取るときとか、バスケのときに誰かに押されたときのバランスの取り方とか、相沢はサラッとやってるけど、身体の使い方がうまい。いや、うまいなんてものじゃないね、飛びぬけてる」
「それはただの買い被りだよ」

 僕は場を和まそうとおどけてみせたが伊藤は揺らがなかった。


「極めつけは体育大会かな」


 極めつけ、なんて言葉を漫画の中ではなく、実際に使う奴は初めてだな、と僕は思った。
 そして、ああ、また体育大会の話か、とも思った。
 体育大会以降、何人かにその話を振られそうになるたびにはぐらかしてきた。


「あのリレーの走り方は、普通のレベルじゃない」


 ここで、「あ、用事思い出した」って言って帰るのはまずいよな、と頭の中で考える。さすがに伊藤を放ってここで帰るという選択肢はない。

「何回か言わなかったっけ? あれは前を捕まえようとしたら実力以上のものが出ちゃったってだけだって」

「さっき、相沢はシュートのフォームのことを話してくれたけど」

 急に話題が変わったのか? と僕は少し戸惑った。


「ああ、うん」
「オレだって思ったよ。あの走るフォームは素人じゃない、しっかりと運動経験で積み上げられたフォームだって」

 いま僕は間が抜けたような顔をしていると思う。
 伊藤に突かれた部分に何も言い返すことができなかったからだ。

「なんでこいつが帰宅部なんだ? なんで外部クラブで運動しているとかじゃなくてファミレスバイトなんてしてrんだ? ってこの疑問が解決することはないね」

 走るフォームでそんなことを見抜かれるのか、と思いつつ、伊藤のシュートフォームを僕が無駄がないと思ったのと同じ考えはありえることだ、と自分の中で答えが出る。

 僕はひとつため息をつく。

「そうだなー……」
「ん?」
「話さないわけにはいかないのかな」

 僕は観念して、伊藤に僕の過去を話すことを決意した。
 入学して何ヶ月経ったのかわからないが、これからも伊藤と友達でいるために。

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