世界最速の『魔法陣使い』~ハズレ固有魔法【速記術】で追放された俺は、古代魔法として廃れゆく『魔法陣』を高速展開して魔導士街道を駆け上がる~

葵すもも

文字の大きさ
4 / 50
第1章【追放編】

§004 上級魔導士

しおりを挟む
 思いっきり振りかざした拳には鈍い感触が残った。
 それもそのはず。俺は茂みから飛び出しざまに、男の顔面目掛けて渾身の右ストレートを見舞ってやったのだ。
 直後、ゴフッという低い音とともに、筋骨隆々の男の身体が大きく後ろに弾け飛んでいた。

「いってー」

 頬を押さえながら、尻もちをつく男。
 とりあえず先制攻撃は成功したみたいだ。
 戦闘をより有利に進めるためということで、武道の基礎を教わっていたのが功を奏したと言える。

「間に合ってよかった。怪我はないか」

 俺は男達から少女を庇うように立つと、後ろ背に少女に話しかける。

「は、はい……」

 力ない声に俺は一瞬少女を見やる。
 すると今にも泣き出しそうなのを必死に我慢して、神に祈りを捧げるように、胸の前で両手をギュッと握った少女の姿があった。

 俺とさして歳も変わらないであろう修道服を身に纏った少女。
 ここまで必死に男達から逃げてきたのか、服のいたるところが擦り切れており、所々に血痕が付着していた。

 もう少し早く駆けつけていれば……と罪悪感にも似た感情が沸き上がってくる。
 だが、ひとまずは目の前の敵に集中しなければならない。

 俺は男達に視線を戻す。

 相手は……三人。
 俺がぶっ飛ばした筋骨隆々の男を筆頭に、ひょろ長い男が二人。
 最初は盗賊かと思ったが、身なりを見る限りだと相手は魔導士だ。
 盗賊であれば適当に魔法でかく乱して逃げられると思っていたが、相手が魔導士となると初級魔法しか使えない俺は明らかに不利。
 しかも、この人数差だ。

 そうなると……俺が最優先すべき行動は……この子を逃がすことだろうな……。

 俺はこの少女のことを知らない。
 なぜ、どんな経緯で男達に追われているのかも知らない。
 だから、俺が命がけで守る義理なんてないのかもしれない……。

 でも……と思う。
 ハズレ魔法を与えられ、家を追放され、毎日無為な時間を過ごしている俺なんかよりはよっぽど価値のある人間のはずだ。
 まあ、俺だってさすがに死ぬのはごめんだが、結果としてそうなったのなら仕方ないと思えるぐらいには、心の整理はできているつもりだ。

「とりあえずここは俺が時間を稼ぐから君は逃げろ!」

 少女にそれだけ声をかけて、俺は男達と相対する。

「おうおう、いきなり飛び出してきて、グーパン見舞ってくるとはどういう神経してんだよコラ」

 先ほどまで尻もちをついていた筋骨隆々の男は怒りを顕わにしていた。
 頬を手で押さえながら、のそりと立ち上がる。

「こんな多勢に無勢で女の子を追いかけてる方がどうかしてるんじゃないのか」

 俺は男を挑発しながらも必死に周囲の状況を観察する。
 何か戦闘に使えるものはないか……逃げるにはどちらの方角が適切か……。

 周囲は森だらけで武器に使えそうなものはない。
 男達の後方には反り立った岩壁が見える。
 あちら側に逃げると行き止まりになる可能性もある。
 やはり少女が逃げたのを確認できたら、森に紛れて逃げるのが最適解だろう。

「口だけは一丁前だな。まあ、お前みたいな田舎者には『聖女様』の価値はわからないよな。それにケンカを売る相手を間違えるなよ。女の子を守ってヒーロー気分なのかもしれないが、オレたちは『上級魔導士』だぞ」

 その言葉を聞いて一瞬身体がすくむ。

 上級魔導士――国から一定程度の魔力を評価された者に付与される称号だ。

 自分が想像以上に劣勢であることを今更ながらに理解するが、最早引き下がるという選択肢はない。
 俺は姿勢を低くして臨戦態勢の構えに入る。

「マジでやる気みたいだな。口で言ってもわからねー田舎者には身体で教えてやるのが人生の先輩としての優しさだよな」

 男がそう言い終わらないうちに、俺はズザッと音を鳴らして男に向かって一直線に駆け出す。

「へぇ、なかなか速いじゃねーの。ま、魔導士相手じゃいくら速くても関係ねーけどな。おい、お前らいくぞ」

「「へい!!」」

 筋骨隆々の男の合図とともに、男達は散開して戦闘の陣形に入る。
 魔導士が戦闘をするときは、前衛、中衛、後衛に分かれるのが基本だ。

 なぜなら魔法の発動には『詠唱』を伴うから。
 初級魔法であれば短い詠唱でも発動可能なのだが、上級魔法になればなるほど長い詠唱を必要とする。
 そんな詠唱時間を確保するために考案されたのが、前衛、中衛、後衛に分かれる戦法、その名も『陣』だ。

 前衛は単発の魔法や身体強化魔法などによって相手の侵攻を阻止し、中衛は補助魔法によって前衛をサポート、そして、後衛が大規模な攻撃魔法によって相手を殲滅するという図式だ。

 相手の陣は筋骨隆々の男は後衛、ひょろ長い男が前衛と中衛だ。
 前衛と中衛の男は短い詠唱を繰り返しながら、小さな石の礫を打ち込んでくる。
 地属性の初級魔法だ。

 俺はすんでのところで石の礫を躱し、前衛の男に全力で拳を振るう。
 しかし、男の顔面を振りぬいたはずの拳がゴンッと音を立てて逆に弾かれてしまった。

 ぐっ、体を硬化する身体強化魔法――石の身体ストーンフォーム――か。
 やはり魔導士相手に素手で戦うのは無謀だったか。

「ガハハ、お前はオレ様に指一本触れることなく消し炭になるんだよ」

 そんな俺を見て、筋骨隆々の男は高笑いを上げる。
 そして、ついには不遜な態度を体現するかのように両手を広げて魔法の詠唱を開始する。

「大地に眠りし獄炎の精霊サラマンダーよ、その深淵の滾りをもって……」

 詠唱の開始と同時に地表から橙色の炎が立ち上り、それは次第に男の頭上で燃え盛る球体へと姿を変えていく。

「あれは……」

 俺はその詠唱に聞き覚えがあった。
 火属性の上級攻撃魔法――煉獄の陽炎ブレイジング・フレア――
 父が魔物との戦闘においてよく使っていた魔法だ。

 あんなもの食らったらひとたまりもない。
 何よりも先に詠唱を止めなければ。

 俺はそう思うと同時に後衛の男の下へ駆け出す。
 しかし、前衛の男の攻撃魔法が行く手を阻む。
 くそ、俺の足がもっと速ければ。この攻撃を躱せれば。

 そんな願いも虚しく、男は邪悪な笑みを浮かべる。

「ふ、時間切れだ。あばよ若造」

 男の声が響きわたる。

「――煉獄の陽炎ブレイジング・フレアぁぁああ――」

 ダメだ……間に合わない……。
 そう思って目を瞑った瞬間………………。

 …………ふとある光景が脳裏に浮かんだ。

 それは何千回、何万回と模写した『魔法陣』だった。

 コンマ1秒後。
 ドゴォォオオーーーン!という凄まじい轟音とともに、ベキベキと木々がへし折れる音が連続したのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります

桜井正宗
ファンタジー
 無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。  突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。  銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。  聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。  大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します

かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。 追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。 恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。 それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。 やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。 鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。 ※小説家になろうにも投稿しています。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...