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「――さて」
親友との電話を済ませ、手に持っていたタバコを口にする。
気が付けば周りに柄の悪い連中が群がっていた。
数は30弱――。
サンダーやレブル、ドラッグスター等のアメリカンバイクに跨っており、長電話する余裕があると思っていたが、予想より早く駆けつけてくれたようだ。
ここは市街地の中でも自然がわずかに残っている場所の一つ五百淵と呼ばれる溜め池である。
池の周囲を桜の木によって覆われており、春になると満開の桜を見に訪れる者が多い人気スポットなのだ。
散歩したり、ランニングする者もおり、地元の人達にも愛されているが、それは、あくまで陽が昇っている時の話である。
夜になると駐車場にはバイクが止まり、柄の悪い連中のたまり場と化す。
中でも隅で輪になっている場所が一段と空気が重い。
特に異色を放っているのは、ツーブロックで刈り上げており、金混じりの黒髪を後頭部に結っている。
サングラスをかけ、左耳にピアス。
華奢な体だが、程よく肉付きがあり、黒のタンクトップにモノクロのチェックシャツをだらしなく着ている。
黒のズボンには金のチェーン、そしてスニーカーを履いている。
少年は、遊佐 陽。
16歳にしてチーム我武者羅の総長であり、福島で5本の指に入るほどの実力と噂されている不良なのだ。
見渡すと駐車場はバイクと不良達で埋まっており、通行人もなるべく視線を合わせずに素通りしていく。
いつもなら週1でここに集まり、和気藹々と談笑しているところだが、今回は異様な緊張感があたりを圧し、ピリついていた空気が制していた。
なぜなら、この場にいる者達は皆、緊急招集を受けたからである。
「失礼しますッ」
一人の少年が幹部達の前に出てきた。
視線に囲まれる中、少年は手を後ろに組んで深く頭を下げる。
「おう、どうだった?」
「はいッ、やはり、会津の族が絡んでいるみたいです」
事の発端は、昨晩、敵対していた族が何者かによって壊滅しされたという情報が飛び込んできたのだ。
ほとんどの奴等が病院送りにされ、幸い死人は出ておらず、会津勢力との抗争があったのではと、SNSでささやかれていた。
チーム同士の抗争なんてものは日常茶飯事なのだが、今回の件に関してはいつもと異なるものだった。
それは、やられたものは皆、体を斬り刻まれていたのである。
特に今回襲われたチームは、気性が荒くい無法者を束ねて暴れ回っており、手に追えないことで有名だった。 過去に不良だけでなく、一般人も巻き込んで30人近くもの被害者を生んだ。
我武者羅も何度かやり合ったことはあるのだが、返り討ちにする度に逃げられており、いたちごっこが続いていたのだ。
「なんとか病院に忍び込んで、意識のあるやつに事情聴取したところ、そいつらが乗っていたバイクはすべて“会津”ナンバーで、頭らしきやつが刀を所持していたと――」
「刀ァ!?」
部下の話に幹部達はざわつき、他のやつらにも伝播していく。
「そして、“命が欲しければ、自分たちの下につけ”と脅迫され、抵抗した結果、この様だと――」
部下の報告に驚愕する一同だったが、1つ疑問が生じた。
それは――。
「たかが刀一本でやられたってのかッ!?」
そう、潜在種は、疳之虫の中でも上位の耐久力を持つ戦闘に特化した存在であり、日本で最も多い種族なのである。
全身を霊力でまとっているため、常人よりも優れた身体能力を持つ者達が刀だけでやられるとは到底受け入れ難かった。
「おいおい、ヤクザかよ。
今時いねェぞ」
「…ん?」
その時、聞き覚えのある声が耳に入り、大勢が一点に注目する。
「司!?」
「よッ!」
「佐島さんッ!?」
いつの間にか幹部の中に紛れ込んでいた佐島に、周囲は困惑する。
「佐島さんッ!! ご苦労様ですッ!!」
「 ご苦労様ですッ!!」
幹部達は慌てて立ち上がり、佐島の前で深く頭を下げると、全員も釣られて挨拶をし出した。
「いーっていーって、そんなかしこまらなくても」
「いえ、そういうわけには…」
突然の登場に戸惑う中、遊佐が呆れた視線を向けていた。
「なあ、あの人何者なんだよ?」
部下の1人が小声で隣に尋ねる。
「おまッ!? …ああ、そうか。
お前、最近入ったばっかだもんな」
周囲に悟られないよう配慮しながら説明する。
「佐島司さん、遊佐さんの幼馴染みであり、“拳客”の二つ名で通ってる。
不良の中には、郡山最強の王の1人、山王と呼ば呼ぶ奴もいるくらいだ」
「マジか!?」
「ちなみに、うちの総長も山王だぞ」
「まッ、マジかよ。
そんなスゲェ人だったとは…」
「ただ、本人は1匹狼を気取りたいらしく、我武者羅に所属していないが、暇な時こうして時々遊びに来る自由人だ」
「へェ~」
新入りの中で、佐島への株が上がった瞬間だった。
「おいそこォッ!! 静かにしろやッ!!」
「さッ、サーセンッ!!」
先輩に指摘され、とっさに謝罪する新入りだった。
「お前何しに来たんだよ。
集会だッ言ったろォ?」
「つれねェなァ、オレも耳寄りの情報を持ってるっつうのによ」
佐島の発言に周りがざわつきだす。
「何!?」
「マジすかッ!? 佐島さんッ!?」
「おう、――あッ、悪ィな」
タバコを取り出すと、そばにいた幹部がライターをつけたので軽く礼をする。
「実は、オレも最近会津の奴等とやり合ったんだけどよ――」
――会津には、自然現象を主に対応している裏組織ってのがあるみたいでよ。
その組織は、神聖な土地を瘴気から守る除霊集団らしいんだけど、少し前から疳之虫を扱う者を見つけ次第、武力行使で取り締まるようになったんだと。
「――そんな漫画みたいな話…」
会津の実情を知った我武者羅一同、言葉を失う。
「まあ、さっきの話にも出たように、中には組織とやり合うために兵隊を集めをしてる奴もいるみたいだし、いずれは――ッ!」
周りが動揺する中、聞き慣れない排気音がこちらへと近づいてきたのだった。
親友との電話を済ませ、手に持っていたタバコを口にする。
気が付けば周りに柄の悪い連中が群がっていた。
数は30弱――。
サンダーやレブル、ドラッグスター等のアメリカンバイクに跨っており、長電話する余裕があると思っていたが、予想より早く駆けつけてくれたようだ。
ここは市街地の中でも自然がわずかに残っている場所の一つ五百淵と呼ばれる溜め池である。
池の周囲を桜の木によって覆われており、春になると満開の桜を見に訪れる者が多い人気スポットなのだ。
散歩したり、ランニングする者もおり、地元の人達にも愛されているが、それは、あくまで陽が昇っている時の話である。
夜になると駐車場にはバイクが止まり、柄の悪い連中のたまり場と化す。
中でも隅で輪になっている場所が一段と空気が重い。
特に異色を放っているのは、ツーブロックで刈り上げており、金混じりの黒髪を後頭部に結っている。
サングラスをかけ、左耳にピアス。
華奢な体だが、程よく肉付きがあり、黒のタンクトップにモノクロのチェックシャツをだらしなく着ている。
黒のズボンには金のチェーン、そしてスニーカーを履いている。
少年は、遊佐 陽。
16歳にしてチーム我武者羅の総長であり、福島で5本の指に入るほどの実力と噂されている不良なのだ。
見渡すと駐車場はバイクと不良達で埋まっており、通行人もなるべく視線を合わせずに素通りしていく。
いつもなら週1でここに集まり、和気藹々と談笑しているところだが、今回は異様な緊張感があたりを圧し、ピリついていた空気が制していた。
なぜなら、この場にいる者達は皆、緊急招集を受けたからである。
「失礼しますッ」
一人の少年が幹部達の前に出てきた。
視線に囲まれる中、少年は手を後ろに組んで深く頭を下げる。
「おう、どうだった?」
「はいッ、やはり、会津の族が絡んでいるみたいです」
事の発端は、昨晩、敵対していた族が何者かによって壊滅しされたという情報が飛び込んできたのだ。
ほとんどの奴等が病院送りにされ、幸い死人は出ておらず、会津勢力との抗争があったのではと、SNSでささやかれていた。
チーム同士の抗争なんてものは日常茶飯事なのだが、今回の件に関してはいつもと異なるものだった。
それは、やられたものは皆、体を斬り刻まれていたのである。
特に今回襲われたチームは、気性が荒くい無法者を束ねて暴れ回っており、手に追えないことで有名だった。 過去に不良だけでなく、一般人も巻き込んで30人近くもの被害者を生んだ。
我武者羅も何度かやり合ったことはあるのだが、返り討ちにする度に逃げられており、いたちごっこが続いていたのだ。
「なんとか病院に忍び込んで、意識のあるやつに事情聴取したところ、そいつらが乗っていたバイクはすべて“会津”ナンバーで、頭らしきやつが刀を所持していたと――」
「刀ァ!?」
部下の話に幹部達はざわつき、他のやつらにも伝播していく。
「そして、“命が欲しければ、自分たちの下につけ”と脅迫され、抵抗した結果、この様だと――」
部下の報告に驚愕する一同だったが、1つ疑問が生じた。
それは――。
「たかが刀一本でやられたってのかッ!?」
そう、潜在種は、疳之虫の中でも上位の耐久力を持つ戦闘に特化した存在であり、日本で最も多い種族なのである。
全身を霊力でまとっているため、常人よりも優れた身体能力を持つ者達が刀だけでやられるとは到底受け入れ難かった。
「おいおい、ヤクザかよ。
今時いねェぞ」
「…ん?」
その時、聞き覚えのある声が耳に入り、大勢が一点に注目する。
「司!?」
「よッ!」
「佐島さんッ!?」
いつの間にか幹部の中に紛れ込んでいた佐島に、周囲は困惑する。
「佐島さんッ!! ご苦労様ですッ!!」
「 ご苦労様ですッ!!」
幹部達は慌てて立ち上がり、佐島の前で深く頭を下げると、全員も釣られて挨拶をし出した。
「いーっていーって、そんなかしこまらなくても」
「いえ、そういうわけには…」
突然の登場に戸惑う中、遊佐が呆れた視線を向けていた。
「なあ、あの人何者なんだよ?」
部下の1人が小声で隣に尋ねる。
「おまッ!? …ああ、そうか。
お前、最近入ったばっかだもんな」
周囲に悟られないよう配慮しながら説明する。
「佐島司さん、遊佐さんの幼馴染みであり、“拳客”の二つ名で通ってる。
不良の中には、郡山最強の王の1人、山王と呼ば呼ぶ奴もいるくらいだ」
「マジか!?」
「ちなみに、うちの総長も山王だぞ」
「まッ、マジかよ。
そんなスゲェ人だったとは…」
「ただ、本人は1匹狼を気取りたいらしく、我武者羅に所属していないが、暇な時こうして時々遊びに来る自由人だ」
「へェ~」
新入りの中で、佐島への株が上がった瞬間だった。
「おいそこォッ!! 静かにしろやッ!!」
「さッ、サーセンッ!!」
先輩に指摘され、とっさに謝罪する新入りだった。
「お前何しに来たんだよ。
集会だッ言ったろォ?」
「つれねェなァ、オレも耳寄りの情報を持ってるっつうのによ」
佐島の発言に周りがざわつきだす。
「何!?」
「マジすかッ!? 佐島さんッ!?」
「おう、――あッ、悪ィな」
タバコを取り出すと、そばにいた幹部がライターをつけたので軽く礼をする。
「実は、オレも最近会津の奴等とやり合ったんだけどよ――」
――会津には、自然現象を主に対応している裏組織ってのがあるみたいでよ。
その組織は、神聖な土地を瘴気から守る除霊集団らしいんだけど、少し前から疳之虫を扱う者を見つけ次第、武力行使で取り締まるようになったんだと。
「――そんな漫画みたいな話…」
会津の実情を知った我武者羅一同、言葉を失う。
「まあ、さっきの話にも出たように、中には組織とやり合うために兵隊を集めをしてる奴もいるみたいだし、いずれは――ッ!」
周りが動揺する中、聞き慣れない排気音がこちらへと近づいてきたのだった。
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