Vanishing Heart ――KEEP OUT――

嘉久見 嶺志

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「うわァァァァァッ!!」

突如、フレドリックが天を仰ぎ、右目を覆いながら絶叫し出した。

「おッ、おいッ!? フレッド!?」

「フレドリックさんッ!?」

リーダーの悲鳴に周囲は動揺し、急いで駆け寄っていく。 

「めッ、目がッ!! 目がァァァァァッ!!」

フレドリックが仰け反って倒れ込み、地面で悶え苦しんでいると、抑えてる右目から肉が焼けた匂いが漂い出す。

「このクソガキッ!! 何しやがッ――!?」

部下の1人が銃を抜き、ベンに振り向いた次の瞬間、異様な光景を目の当たりにした。 

それは、椅子に座って俯いている彼の右腕からが顕現し、そこからが無数に伸びて穏やかに揺らいでいた。 

「なッ!?」

繊維は、やがて束となり、篭手が形成されていくが、手は存在せず、そこから直角に伸びていく。 

先端は鋭利な冠頭、さらに霊力が編み込まれた漆黒の布が力強くなびいた。 

本人は、ゆっくり顔を上げ、両眼を開けると右目が怪しい眼光を放っていた。

「まさかッ――!?」

そう、ベンは、哭戎種の力を顕現したのだ。 

ベンは石突を地面に突きつけると、衝撃波が波生し、ギャングたちが一斉に吹き飛んでいった。

「うわァッ!!」

皆尻もちをついてる間に、ベンは椅子から立ち上がり、自身の右腕を改めて確認する。

球体が肘の役割となっており、そこから伸びる篭手は旗と一体化してトンファーのようになっている。

「…これが、オレの…」

自身の疳之虫に感動し、左手で右目をそっと触れて、倒れている彼らを見下ろした。

すると1人1人の不安、痛み、恐怖、様々な心情が手に取るように読み取れたのだった。

「なるほどな、これが艾肯眼ってやつなのか」

今まで出会ってきた者たちが持っていたあの瞳。

あの瞳に映る景色を自分も体感したことによって、世界観がガラリと変貌した。

「死ねやァッ!!」

ギャング達がこちらに銃口を向け、集中放火し出すと、右腕が咄嗟に前を向き、旗を高速回転し始めた。

銃弾は生地を貫通することなく、むしろ取り込まれていき、双方愕然としてしまう。

「右腕がッ、勝手にッ!?」

銃撃が止み、黒旗を軽く払うと無傷で立っているベンの姿にギャングたちは困惑する。

「なッ、何やってやがるッ!? 
早くあいつを殺せェッ!!」

フレドリックは、右目を押さえながら部下たちに命令すると、ガタいの良い男2人の片腕が鎧と化し、1人は剣、もう1人は鉤爪へと変わった。

「うおォォォォォッ!!」

男達が突進し、ベンに襲いかかるが、彼の黒旗は難なく防ぎ、さらに次々と繰り出される猛攻を全て捌き切る。

すると、剣腕を旗で巻き込み、そのまま引っ張って鉤爪の男に激突させる。 

「うわッ!」

そして、剣腕を離し、重なった2人を薙ぎ払うと、気づけば他のギャングたちの姿が消えていた。

「いつの間にッ!?」

この2人に集中している間に逃げられてしまったと悔んでいると、右腕が何やら黒旗を構え直し、豪快に胴斬りを繰り出した。 

すると、弧を描いた衝撃波を放たれ、広範囲に広がっていった。

「うぐッ!!」

「がッ!?」

その時、誰もいないはずなのに、複数の悲鳴が聞こえてきた。

先ほど消えたばかりの連中が突如姿を現し、皆地面に転がっていたのだ。

「なッ、なんで――ッ!?」

1人の部下が自身の手を見ながら焦っており、その様子であいつの能力だと確信した。

おそらく認識阻害の能力を持っており、VIPルームの時もその力で部下たちを隠していたのだろう。

ベンの右腕はまるで意志を持っているのではないかと疑うほど、次の行動に移り出した。

「おッ、おお!?」

黒旗を高く掲げ、大きく振り回し始めると、ギャング達に異変が生じた。

「なんだよコレッ!?」

特に分かりやすかったのは、剣腕と鉤爪の2人だった。

疳之虫によって形を成していた霊力が、徐々に霊子へと分解され、普通の腕に戻っていった。

やがて霊子は、なびいている黒旗に吸収されていったのを目の当たりにし、ギャング達は驚愕する。

「おッ、俺たちの霊力をッ!?」

しかも霊子を吸うたびに黒旗の生地が少しずつ大きくなっており、無力化されつつある部下達は、危機感を抱いた。

「まずいぞッ!! このままじゃ――」

その時、1発の銃声がベンに向かって放たれた。

しかし、当然のように右腕によって黒旗で防がれてしまう。

「あッ、ぶねェ…」 

これを機に霊子の吸収は中断されてしまったが、全自動といえど、ベンは、さすがに肝を冷やした。 

「――ざけやがって」

フレドリックは銃を手にし、恨みを堪えきれず、口から漏れ出ていた。

右目の周りは火傷を負い、皮膚が若干黒く焦げているが、艾肯眼の燈火はまだ消えていない。

「ふざけやがってェェェッ!!」

血管は浮き出し、怒号と共に右腕が疳之虫によって3倍も太くなった。

それは、黒くも毛深い筋肉質な腕、1本1本無骨な4本指が固い拳を作り、助走をつけてベンに殴りかかる。

黒旗に容易に防がれてしまうが、受けた反動までは威力を分散しきれず、若干後ろへと押される。

力任せの重い一撃が、ビリビリと全身に伝わっていき、足が悲鳴を上げる。

「許さねェぞッ!! クソガキィッ!!」 

フレドリックの猛攻を受け流していくが、ベン自身の体力が大幅に削られていく。

「テメェ如きにッ、やられるわけにはッ! いかねェんだよッ!!」

防戦一方のベンがついに膝をつき、好機と見たフレドリックは、右腕を高くかざし、思いっきり振り下ろす。

「ぐあッ!!」

ベンは、ズシンッと岩を受け止めたかのような錯覚を覚え、黒旗越しに叩きつけられる。 

「俺たちがどれだけ苦労したか分かるかッ!? 
愛する者を奪われたことがあんのかッ!?
か弱い女、子供は、力のあるやつに奪われたら最後戻って来ねェッ!!
 幸せだった時の、あの時の姿では戻って来なェんだッ!!
弱ければッ、力がなければ守れねェんだよォッ!!」

右腕を振り下ろすために感情が露わとなり、積年の思いが乗った拳は、身を以って響いてくる。

しかし、かえって隙も生まれやすい。

黒旗が瞬時に右腕を包み、肘を軸に高速回転し始めた。 

ビキビキッ、ゴキンッ。

「がァァァァァッ!!」

腕がねじれた拍子に骨が折れ、肩も外れてしまった。

フレドリックは、そのまま投げ飛ばされ、地面に倒れると、戦闘不能の右腕を目にし絶望する。

「あ"あッ、そッ、そんな…」

巨大な右腕は肩から手首まで何箇所も骨が折れて捻れたままピクリとも動かなかった。 

「はッ、これでお揃いだな…」

ベンは黒旗を杖代わりにして立ち上がり、呼吸を乱しながら気丈に振る舞う

「やりやがったなッ!! クソガキィッ!!」

鬼の形相でベンを睨んでヤケになり、左腕で銃を手にして撃ちまくる 。

だが、再度、黒旗が盾となり、全弾防がれてしまった。

相手が弾切れになった途端、ベンの右腕は大きく広げると、黒旗に異変が生じた。

生地の形状が徐々に曲線を描いていき、内側に鋭利な刃が生成されていく。

やがて、黒旗は等身大の黒鎌へと姿を変えた。

「しッ、死神ッ――!!」

「ひィッ!!」

ギャング達はベンのシルエットに恐怖を覚え、一斉に出口へと走り出す。

「待てテメェ等ァッ!!」

フレドリックが大声で制止を試みるが、誰も耳を傾けない。

すると、黒鎌が反転し、刃先がこちらを向いていることに気づく。

「まッ、待て――!!」

身の危険を感じたが、最後、手遅れだった。 

黒鎌を水平に振ると柄が一気に伸びて行き、逃げ惑うギャング達を黒刃によってまとめて刈り取られた。

ギャング達の動きが落ち着き、その場に立ちつくんだ。

皆目立った外傷はないが、やがて斬られた部分から霊圧が吹き出し、次第に1人ずつ倒れていった。

今立っているのは、ベンただ1人。

「やった、のか…?」

ギャング達は全員気を失っており、フレドリックも仰向けで動く気配がない。

宙に分散した霊子は、ベンの元へと向かいって吸い寄せられていく。

ベンの中へと入っていった霊子は、彼の一部となり、仄かな温もりによって全身の力が一気に抜けた。

気が緩んだと同時に、その場で崩れ落ち、眠気の波にのまれ、抗うことも出来ずに瞼を閉じたのだった。 



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