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――12年前。
僕の家は、代々エクソシストの家系で、両親は町では有名なエクソシストだった。
ただ祓うだけではなく、悪行を働かぬために疳之虫の扱い方を人々に教える活動もしていた。
当時14歳だった僕は、疳之虫の種類の中で最も難易度の高い哭戎種を覚醒したばかりだった。
3匹の虫を手懐けるのはかなり困難ではあったが、両親の助力もあり、何とか乗り越えることが出来た。
そんな辛い経験を得て、両親の偉大さを知った僕は、将来2人のようなエクソシストになりたいと考えるようになった。
その旨を両親に伝えると、2人は喜び、エクソシストの知識や心構えを心身に教示してくれた。
そんなある日、弟のベンにも哭戎種の兆しが見えた。
庭で飼っていた鶏の首を折り、胸肉を貪っていたのだ。
ベンは僕の視線を感じてこちらに振り向き、赤く染まった口で、今まで見たことのない不気味な笑みを浮かべていた。
その時のベンの目は漆黒に染まっており、本当に血が繋がった弟なのだろうかと疑ってしまうほどだった。
両親が言うには、哭戎種の初期症状だと説明され、僕も最初はこうだったのかと、想像しただけでゾッとした。
そう考えると両親は相当苦労したのではと、改めて2人に感謝した。
話し合いの結果、しばらく様子を見ることとなった。
本来ならば、3歳の弟が哭戎種を手懐けるなど、ほぼ不可能に近いため、即刻祓うのが通例だ。
しかし、僕という成功例とベンの将来を真剣に考えた末、このようにまとまったのだ。
疳之虫は人間の潜在能力を引き出し、高めることのできる重要な要素でもあるので、未来のある弟にそんな特別な力を失ってほしくない。
そして、僕の時の経験を生かし、今回もきっと成功する、自分達の息子だからきっと乗り越えられると前向きに捉えていたのだ。
だが、それはあまりにも浅はかな決断だった。
ベンの疳之虫の進行速度が僕よりも速く、第2段階へ入った時には艾肯眼を開眼し、両親に牙を向いた。
2人は弟に制止を呼びかけるが、耳を傾けず、心を透視され、精神を揺さ振られた。
両親は動揺しながらも対処を試みるが、相手の話術に翻弄され、隙を与えてしまい、母は即死、父は致命傷を負ってしまう。
僕は恐怖で身動き一つ取ることができず、弟の姿をした獣は僕を嘲笑い、自宅を飛び出していった。
すぐさま父の元へ駆け寄り、誰が見ても救いようのない深い傷をどうにかしようと努める。
そんな僕の手を父は握り、ベンを救えと強く訴えた。
自分達の甘さが招いた結果であり、決して自分を責めるな。
それよりも、一刻も早くベンを追え。
ベンが他者を殺める前に、お前が弟を救うんだ。
残りわずかな命で、血を吐きながら語りかけてくる父に、僕は涙を流しながら出来ない、出来るわけがないと首を横に振る。
その時、父は襟を掴み、僕を引き寄せて呟いた。
すまない――。
それが、父の最後の言葉となった。
両親の過ち、早まった死期、そして弟への責任――、全てその一言に詰まっていた。
僕は大切な2人の亡骸に、声を張り上げて泣いた。
しばらくして落ち着きを取り戻し、覚悟を決めた僕は、両親の持っていた武器やお守りを身につけ、ベンを追跡した。
そして教会での激闘の末、僕は奴に心臓を引き抜かれて死んだ。
しかし、まだかろうじて脳は生きていたため、完全に霊圧が消える前に、僕の疳之虫が弟の心臓を奪いとった。
すると、相手の霊圧が一気に弱体化し、瓦礫の下敷となった。
僕はベンの心臓を移植し、教会の崩壊に巻き込まれる前に疳之虫で脱出することができたというわけだ。
「――あれ以来、僕は君が死んだとばかり思っていたが、まさか生きていたとはね」
「ゲッへッへッへッ、それはこっちのセリフだ。
心臓をこの手で握りつぶしたんだからなァッ!」
下品な笑みを浮かべる悪魔に対し、冷静を保つ。
あの後、僕はバイべリーまで逃げ延びたが、意識が戻った時には脳の後遺症により運動機能障害を患い、手足が困難になっていた。
これはさすがに哭戎種であっても回復にかなり時間がかかってしまった。
そして、エクソシストとして修行を積んで旅をしてきたが、まさかこんな形で実の弟と再会を果たすことになるとは…。
運命というものは、本当に残酷だよ。
「オレは、小僧が死なぬよう、常に霊力を集中させ、生命維持に徹していたんでな。
長い間、表に出ることは出来ずにいたのだが、最近、外部から霊力を得る機会が多くてな、そのおかげで疑似的に心臓を作り出すことに成功したのだッ」
「それはおめでたい話だね。
でも片腕がないのは痛手なんじゃないのかい?」
右腕を指摘するが、鼻で笑って済まされる。
「フッ! 些細なことを気にするでない。
すぐこの世を去る者が吐くセリフは、他にもあるだろう?」
相手の煽り文句に一切動じることなく過ごしていると、心層の奥で疳之虫が興奮し出したのを感じ取った。
分かってるよ、ただ、もう少し待ってくれるかい?
そう説くと活気が少しずつ収まりだした。
「…ベン、久しぶりだね」
「 あ?」
僕は微笑み、12年ぶりに再会した弟に呼びかける。
「唐突すぎて混乱してると思うけど、僕は君の兄なんだ」
「はッ! 無駄だッ!! もうこやつの体は俺の物ッ!!
何を言っても届かんぞ!!」
奴は高らかに笑って見せるが、僕は気にせず話を続ける。
「12年間、君が今までどう過ごしてきたのか、積もる話をしたいところだけど、少し待っててくれるかい?
大事な用事を済ませてしまうからさ」
「ガッハッハッハッ!!
あの怖がりだった小僧がこんな大口を叩くほどになったとはなッ!! 実に面白いッ!!」
気に障ったのか、奴の醸し出す空気が一変した。
相手の右腕から黒い旗が、左腕には槍が出現し、戦闘体制に入った。
「ベン、教えてあげるよ。
君が今、辿り着かなくてはならない境地をッ」
さあ、出ておいで――。
すると、待ってましたと言わんばかりに心層から飛び出てきた。
目の前に2匹の獰猛な犬が顕現し、奴に対して牙を剥き出し、威嚇し出した。
見た目はドーベルマンで1m程の大きさがあり、首輪と耳の形が2匹とも違う。
「ベン、紹介するよ。
垂れ耳の子が“チビ”で、右耳にピアスつけてる子が“チャコ”て言うんだ。
あと、もう1匹――」
その時、奴が槍を突いてきたが、寸前でチャコが刃先を噛みついて軌道を逸らした。
「あまり調子に乗るでないぞ、小僧」
無視し続けてムキになったらしく、それがきっかけでチビも応戦し、奴に飛びかかった。
奴は黒旗で払いのけるが、チビは軽快な身のこなしで壁に着地し、再び襲いかかる。
黒旗で盾を展開してチビを跳ね返し、槍で攻撃を試みるが、チャコの強靭な顎によって阻止されてしまう。
「ちィッ!!」
鬱陶しく感じてる間にも、チビが俊敏に背後に回り、爪で鋭い斬撃をお見舞いする。
「犬の分際でェッ!!」
チビに翻弄され、苛立ちを覚えた次の瞬間、霊力の弾丸が顔面に直撃した。
「ぐおッ!?」
何が起こったのか理解する前に何発も続いて炸裂し、咄嗟に黒旗で対応して身を守る。
犬達も一旦奴から離れ、僕のそばまで退避してきたのを機に、霊弾の雨も止んだ。
「――ッ!? 小僧ッ、それはッ!?」
奴は、改めて僕の姿を見て愕然とする。
なぜなら、僕の肩甲骨から2本の腕が伸び、その先には巨大な銃が狙いを定めていたからだ。
そして、驚くのはそれだけではなく、その2丁拳銃、以前どこかで見た記憶があった。
それは、つい最近ある人物の霊圧を読んで過去を知り、その際に目にしたものだった。
「なぜ、貴様が潜在種の…!?」
世話になったあの男が何人もの子供を殺し、その肉を食らってでも取り戻したかった所有物を、何故、この者が持っているのか。
答えは明白――。
「――分かったぞ、貴様の能力が」
奴は、苦し紛れの笑みを浮かべた。
僕の家は、代々エクソシストの家系で、両親は町では有名なエクソシストだった。
ただ祓うだけではなく、悪行を働かぬために疳之虫の扱い方を人々に教える活動もしていた。
当時14歳だった僕は、疳之虫の種類の中で最も難易度の高い哭戎種を覚醒したばかりだった。
3匹の虫を手懐けるのはかなり困難ではあったが、両親の助力もあり、何とか乗り越えることが出来た。
そんな辛い経験を得て、両親の偉大さを知った僕は、将来2人のようなエクソシストになりたいと考えるようになった。
その旨を両親に伝えると、2人は喜び、エクソシストの知識や心構えを心身に教示してくれた。
そんなある日、弟のベンにも哭戎種の兆しが見えた。
庭で飼っていた鶏の首を折り、胸肉を貪っていたのだ。
ベンは僕の視線を感じてこちらに振り向き、赤く染まった口で、今まで見たことのない不気味な笑みを浮かべていた。
その時のベンの目は漆黒に染まっており、本当に血が繋がった弟なのだろうかと疑ってしまうほどだった。
両親が言うには、哭戎種の初期症状だと説明され、僕も最初はこうだったのかと、想像しただけでゾッとした。
そう考えると両親は相当苦労したのではと、改めて2人に感謝した。
話し合いの結果、しばらく様子を見ることとなった。
本来ならば、3歳の弟が哭戎種を手懐けるなど、ほぼ不可能に近いため、即刻祓うのが通例だ。
しかし、僕という成功例とベンの将来を真剣に考えた末、このようにまとまったのだ。
疳之虫は人間の潜在能力を引き出し、高めることのできる重要な要素でもあるので、未来のある弟にそんな特別な力を失ってほしくない。
そして、僕の時の経験を生かし、今回もきっと成功する、自分達の息子だからきっと乗り越えられると前向きに捉えていたのだ。
だが、それはあまりにも浅はかな決断だった。
ベンの疳之虫の進行速度が僕よりも速く、第2段階へ入った時には艾肯眼を開眼し、両親に牙を向いた。
2人は弟に制止を呼びかけるが、耳を傾けず、心を透視され、精神を揺さ振られた。
両親は動揺しながらも対処を試みるが、相手の話術に翻弄され、隙を与えてしまい、母は即死、父は致命傷を負ってしまう。
僕は恐怖で身動き一つ取ることができず、弟の姿をした獣は僕を嘲笑い、自宅を飛び出していった。
すぐさま父の元へ駆け寄り、誰が見ても救いようのない深い傷をどうにかしようと努める。
そんな僕の手を父は握り、ベンを救えと強く訴えた。
自分達の甘さが招いた結果であり、決して自分を責めるな。
それよりも、一刻も早くベンを追え。
ベンが他者を殺める前に、お前が弟を救うんだ。
残りわずかな命で、血を吐きながら語りかけてくる父に、僕は涙を流しながら出来ない、出来るわけがないと首を横に振る。
その時、父は襟を掴み、僕を引き寄せて呟いた。
すまない――。
それが、父の最後の言葉となった。
両親の過ち、早まった死期、そして弟への責任――、全てその一言に詰まっていた。
僕は大切な2人の亡骸に、声を張り上げて泣いた。
しばらくして落ち着きを取り戻し、覚悟を決めた僕は、両親の持っていた武器やお守りを身につけ、ベンを追跡した。
そして教会での激闘の末、僕は奴に心臓を引き抜かれて死んだ。
しかし、まだかろうじて脳は生きていたため、完全に霊圧が消える前に、僕の疳之虫が弟の心臓を奪いとった。
すると、相手の霊圧が一気に弱体化し、瓦礫の下敷となった。
僕はベンの心臓を移植し、教会の崩壊に巻き込まれる前に疳之虫で脱出することができたというわけだ。
「――あれ以来、僕は君が死んだとばかり思っていたが、まさか生きていたとはね」
「ゲッへッへッへッ、それはこっちのセリフだ。
心臓をこの手で握りつぶしたんだからなァッ!」
下品な笑みを浮かべる悪魔に対し、冷静を保つ。
あの後、僕はバイべリーまで逃げ延びたが、意識が戻った時には脳の後遺症により運動機能障害を患い、手足が困難になっていた。
これはさすがに哭戎種であっても回復にかなり時間がかかってしまった。
そして、エクソシストとして修行を積んで旅をしてきたが、まさかこんな形で実の弟と再会を果たすことになるとは…。
運命というものは、本当に残酷だよ。
「オレは、小僧が死なぬよう、常に霊力を集中させ、生命維持に徹していたんでな。
長い間、表に出ることは出来ずにいたのだが、最近、外部から霊力を得る機会が多くてな、そのおかげで疑似的に心臓を作り出すことに成功したのだッ」
「それはおめでたい話だね。
でも片腕がないのは痛手なんじゃないのかい?」
右腕を指摘するが、鼻で笑って済まされる。
「フッ! 些細なことを気にするでない。
すぐこの世を去る者が吐くセリフは、他にもあるだろう?」
相手の煽り文句に一切動じることなく過ごしていると、心層の奥で疳之虫が興奮し出したのを感じ取った。
分かってるよ、ただ、もう少し待ってくれるかい?
そう説くと活気が少しずつ収まりだした。
「…ベン、久しぶりだね」
「 あ?」
僕は微笑み、12年ぶりに再会した弟に呼びかける。
「唐突すぎて混乱してると思うけど、僕は君の兄なんだ」
「はッ! 無駄だッ!! もうこやつの体は俺の物ッ!!
何を言っても届かんぞ!!」
奴は高らかに笑って見せるが、僕は気にせず話を続ける。
「12年間、君が今までどう過ごしてきたのか、積もる話をしたいところだけど、少し待っててくれるかい?
大事な用事を済ませてしまうからさ」
「ガッハッハッハッ!!
あの怖がりだった小僧がこんな大口を叩くほどになったとはなッ!! 実に面白いッ!!」
気に障ったのか、奴の醸し出す空気が一変した。
相手の右腕から黒い旗が、左腕には槍が出現し、戦闘体制に入った。
「ベン、教えてあげるよ。
君が今、辿り着かなくてはならない境地をッ」
さあ、出ておいで――。
すると、待ってましたと言わんばかりに心層から飛び出てきた。
目の前に2匹の獰猛な犬が顕現し、奴に対して牙を剥き出し、威嚇し出した。
見た目はドーベルマンで1m程の大きさがあり、首輪と耳の形が2匹とも違う。
「ベン、紹介するよ。
垂れ耳の子が“チビ”で、右耳にピアスつけてる子が“チャコ”て言うんだ。
あと、もう1匹――」
その時、奴が槍を突いてきたが、寸前でチャコが刃先を噛みついて軌道を逸らした。
「あまり調子に乗るでないぞ、小僧」
無視し続けてムキになったらしく、それがきっかけでチビも応戦し、奴に飛びかかった。
奴は黒旗で払いのけるが、チビは軽快な身のこなしで壁に着地し、再び襲いかかる。
黒旗で盾を展開してチビを跳ね返し、槍で攻撃を試みるが、チャコの強靭な顎によって阻止されてしまう。
「ちィッ!!」
鬱陶しく感じてる間にも、チビが俊敏に背後に回り、爪で鋭い斬撃をお見舞いする。
「犬の分際でェッ!!」
チビに翻弄され、苛立ちを覚えた次の瞬間、霊力の弾丸が顔面に直撃した。
「ぐおッ!?」
何が起こったのか理解する前に何発も続いて炸裂し、咄嗟に黒旗で対応して身を守る。
犬達も一旦奴から離れ、僕のそばまで退避してきたのを機に、霊弾の雨も止んだ。
「――ッ!? 小僧ッ、それはッ!?」
奴は、改めて僕の姿を見て愕然とする。
なぜなら、僕の肩甲骨から2本の腕が伸び、その先には巨大な銃が狙いを定めていたからだ。
そして、驚くのはそれだけではなく、その2丁拳銃、以前どこかで見た記憶があった。
それは、つい最近ある人物の霊圧を読んで過去を知り、その際に目にしたものだった。
「なぜ、貴様が潜在種の…!?」
世話になったあの男が何人もの子供を殺し、その肉を食らってでも取り戻したかった所有物を、何故、この者が持っているのか。
答えは明白――。
「――分かったぞ、貴様の能力が」
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