夢で逢いましょう

待井 月

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「ミオ……」

声に出す前に、喉が締めつけられるような痛みが襲った。
言葉が喉元で、まるで鋭い刃物に刺されたかのように止まる。

名前を告げることは、呪いだ。
彼女をこの夢の牢獄に閉じ込め、もう二度と現実の世界に帰れなくする呪い。
それを、僕は心の底から怖れていた。

だけど、彼女は待っている。
瞳をキラキラさせて、知りたいと願っている。
それは当然のことだ。
僕だって、知られたい。呼んでほしい。
でも、僕は知っている、ここで永遠を過ごす地獄を。

名前を呼んだ瞬間から、逃げ場は消える。

「笑っていなきゃ……」
僕の顔は笑顔で満たされているけれど、
内側の心はもうズタズタだった。
冷たい暗闇に押しつぶされそうで、声をあげて叫びたいけれど、
誰にも聞こえない。
誰にも助けを求められない。

僕の手が、震えている。

「教えてしまったら、君は……」
そんな言葉が、無意味にこぼれていく。

「ああ、どうしよう……」
心の中で何度も叫びながら、
無意識に頭を振って、笑顔を作る。

「今日もよく来てくれたね。嬉しいよ、ミオ」
声は震え、笑顔はかすかに歪むけれど、
彼女はそれに気づかない。

この痛みを、僕は誰にも見せられない。
見せたら壊れてしまう、そんな弱い自分を。

「名前……教えたい」
「でも教えられない」

その狭間で揺れ続けている。

ギィの冷たい言葉が耳に響く。
「教えたら、彼女は戻れなくなるよ?」

それでも、この手を伸ばしそうになる。

名前を伝えたら、僕は彼女の世界のすべてを奪うことになる。
けれど、名前を教えないままにしておくのもまた、限界だった。

それにもうすぐミオはここに来れなくなる。

「もう少しだけ、待っててくれるかな?」
震える声でそう言いながら、
目を閉じて息を整える。

この先、僕たちはどうなるのだろう。
誰かに救いを求めたいけれど、
それを許される場所は、もうない。

だけど、今はまだ、君の笑顔のそばにいよう。

それだけが、僕の唯一の救いだから。
弱い僕の、唯一。
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