とある不憫王子が狼獣人を拾った話

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とある不憫王子が狼獣人を拾った話

「リヒャルト……」
「甘えたってダメ」
「今日はちゃんとスキンするから」

 甘えた声を出しながらウルガスはリヒャルトの足にペニスを擦り付ける。昨晩散々リヒャルトのナカで擦ったというのに、少し休んだらすぐ回復するのだから狼獣人の性欲というのは恐ろしいものだ。尻に挿した途端にナカに種をばら撒く用意なんて出来ている。獣人の力で組み伏せればリヒャルトに抵抗なんて出来るはずもない。けれど彼がそうしないのはリヒャルトが怒っているからだ。本来性器を突っ込む予定のないβの穴から白濁をどろりと垂らしながら、ウルガスにピシャリと冷たい声を投げる。

「そういって前回もしなかっただろ。僕は妊娠しないけど腹は下すんだ。約束を守れないならもうしない」
 リヒャルトはそう告げるとプイッと顔を背け、そのまま布団を引っ張ってベッドの端へと転がっていく。ウルガスと交わるのもこれでもう七度目。性知識が一切なかった彼に自慰のやり方を教えてから早いものでもう一年が経過していた。手で擦るだけで顔を蒸気させるウブな少年はもういない。『一度だけ』ーーその言葉に惑わされて尻を貸したのがそもそもの間違いだった。発情期に押せばヤらせてくれると思い込んだウルガスが度々やってくるようになったのだから。教育を間違えたと気づいたところで後の祭り。そもそもリヒャルトには狼獣人の子どもを育てる資格などなかったのだろう。

「もう一回、もう一回だけ」
「ダメ」
「でもまだそわそわするんだ。こんなんじゃ部屋から出られないよ。他の人、襲っちゃうかもしれない」
「そういえば僕が処理してあげると思ってるんでしょ。ナカに入れさせてあげるんじゃなかった……。早く番探さないと」
「リヒャルトと番になる」
「だからβの僕じゃ番になれないって何度も言ってるだろ」

 リヒャルトはβだ。上にはαの兄とΩの兄が1人ずついる。αの兄は第一王子として将来は国王の座を継ぎ、傾国の美少年とまで呼ばれるΩの兄は北方の大国に嫁ぐことが決まっている。これといった才のないリヒャルトの役割といえば、優秀な女やΩの遺伝子を王家に取り入れるために、タネを付けて子を産ませること。万が一、兄が病に倒れた際には一時的に王座を守らねばならないがそんな役目が回ってくるはずもない。だからリヒャルトの役目は、存在価値は種馬であることだけだった。けれど十四になって少し経った頃、流行り病が原因で子を望めないと医師から告げられた。それはリヒャルトにとっての死刑宣告と同じことだった。

 それでも必死で努力をした。
 子を成せない代わりに何かしらの功績を残そうと一層勉学に励み、武術だって人の何倍も鍛錬を積んだ。けれどどんなに頑張ったところでリヒャルトはβーー才なき者でしかなかった。日に日に身体と頭にβの努力はαの才能には勝てないのだと思い知らされるだけ。メンタルはボロボロになりながら、リヒャルトは価値ある人間になるために前を向き続けた。

 けれど無意味だった。

「リヒャルトがΩだったら良かったのに」
 たまたま通りがかった部屋から漏れ聞こえのは父の声。それに兄達の短い肯定が続いた。その瞬間、ギリギリを保ち続けていたリヒャルトの精神はポキリと折れた。大量の本を抱えたまま、走った。どこへ行くのか自分でも分からずに走って走って。城から逃げ出したーーまでは良かったのだが、一人で外出をしたことがないリヒャルトはすぐに迷子になってしまった。

「ここ、どこだろう?」
 周りを見渡しても壁ばかり。闇雲に進んだ道が途切れてしまっていた。振り返っても道はあるが、鬱蒼としていてなかなか足を踏み出す勇気が出ない。迷ったと気づくと手の中の本がズシリと重くなっていく。城から飛び出した時は晴れていた空もどんよりと曇り、ポツリと雫を落とした。

「雨だ」
 そう呟くとざあっと降り始めた。雨宿りをする場所すらない路地でリヒャルトの身体は濡れていく。服はぴったりと身体に張り付いて気持ち悪い。けれど一番気持ち悪いのは自分が現実を突きつけられただけで逃げ出すような愚か者であることだ。期待されていないことなどとっくに知っていたくせに……。

 もしもここに誰かが通りがかったとしても、情けなくしゃがみこむ子どもが王子だなんて気付かないだろう。城の使用人だって気付かないかもしれない。リヒャルトは種無しで才能もないβだから。いっそこのまま雨と一緒に地面に吸収されてなくなってしまえばいいのに……。本を守るように丸まり、消えてなくなりたいと願った。

 そんなリヒャルトの前にとある少年が現れた。

「どこか痛いの?」
 銀色の頭の上にある大きな耳をピクピクと動かしながら、クリッとしたアイスブルーの瞳でリヒャルトの顔を覗き込む。

「いた、くはない……けど」
「痛くないなら良かった。人間は弱いからすぐ身体を壊すんだってよく爺ちゃん達が言ってたからさ、心配しちゃった」

 ニッと笑う少年はどこからどう見ても人間ではない。身体の後ろに見えるモッフリとした尻尾は獣人の特徴だ。それにおそらく彼はーー。

「なんで狼獣人がここに……」

 獣人の中でも一二を争う戦闘種族、狼獣人。群れのリーダーが主人と認めた相手に全員で仕えるほど群れ意識が高いことが特徴で、人里に降りてくることは滅多にない。ましてやまだ幼い子どもが群れから離れるなんてありえない。どこかに親や仲間がいるのか。群れの子どもを害したなんて思われたら、説明をする暇など与えられずに首元を掻っ切られてしまうだろう。死にたがっていたリヒャルトだったが、勘違いからの悲惨な死など御免である。首を両手で押さえながら辺りを見回した。

「どうしたの?」
「君、仲間は?  近くにいないの?」
「もう遠くに行っちゃった」
「でも狼獣人は群れで生活をする種族なんじゃ」
「??」

 少年はリヒャルトの言っていることが理解できないらしい。キョトンと首を傾げる姿は愛らしいが、同時に捨てられたことに気づかない哀れな子どもに見えた。自分よりも小さなこの子は群れから見放されてしまったのだろう。そう思うと途端にこの子は自分が守らねばいけないような思いが湧き上がった。彼を世話することで自分にも価値があると思い込みたいだけかもしれない。自分の気持ちもわからずに、リヒャルトは首から手を離すと彼へと手を伸ばす。

「行くところがないなら僕のところへおいで」
「いいの?」
「僕の部屋は広いから一人くらい増えても平気だよ」

 だからおいで、と繰り返せば彼はぱあっと笑顔の花を咲かせた。

 それがウルガスとの出会いだった。
 小さな手を取れば薄暗い道を怖がってたことなんて綺麗さっぱり忘れて、二人で城へ向かって進んでいった。城の外から見慣れぬ少年を連れて戻ってきた王子に門番はひどく焦っていたが、そんな彼にリヒャルトは繋いだ手を見せつけて「僕の子だよ」と告げた。


 今になって思うととても恥ずかしいことをしていたのだが、その数年後に二人でもっと恥ずかしいことをしているのだからどうしようもない。

 路地裏で出会った子どもはすでにリヒャルトの身長を越えているが、甘えた声は相変わらずだ。シーツごと包み込むようにリヒャルトにちょっかいをかけ続ける。


「庭師のジャコブはβだけど番がいるって言ってたよ」
「ジャコブにいるのは番じゃなくて奥さんな。番は配偶者になれるけど、全ての配偶者が番になれる訳じゃない」
「なんで?」
「番になれるのはΩとαの特権だから。だからジャコブも僕も番は作れないの」

 城に連れてきてから数年。
 ウルガスには人間の知識や常識を教えてきたつもりだが、やはり獣人と人間とでは感覚や考え方が異なる。セックスだってそうなのだろう。気持ちよければそれでいい。番だって、αである彼には必要なものだと何度も教えているのに理解してくれない。おおかたセックスをする仲くらいにしか思っていないのだろう。それならよく知ったリヒャルトでいいじゃないか、と。

「リヒャルトと番になれないなら番なんていらない」
 けれどウルガスがそう言ってくれる度に嬉しくなっているのだから、一番の問題はリヒャルトにあるのかもしれない。
 口ではダメだと言いながらなんだかんだで毎回身体を許してしまうのは彼が好きだから。好きになったところでβとαでは結ばれるはずがない。ナカで何度達したところで無駄撃ちでしかない。それにβの腹では子を孕むことだけではなく、彼を受け入れ続けることも出来ない。今だってリヒャルトは身体の限界を迎えているが、ウルガスはまだまだ性欲を持て余している。背中に感じる固さに申し訳なさすら感じる。

「そうは言ってもβの僕じゃウルガスの体力にも精力にもついていけないんだ。今はまだ抑制剤でどうにか出来てるけど、いつまでも薬で抑えてって訳にはいかないだろ」
「リヒャルトがΩになればいい」
「……なれるならとっくになってるよ」
 もしもΩだったら、彼が満足するまで付き合うことが出来たのだろう。結局、βはβ。価値なんてないのだ。瞳にはうっすらと涙が浮かぶ。

 けれどウルガスはそんな鬱屈とした空気を一瞬で跳ね返してみせた。

「じゃあなろう!」
「は?」
「Ωになりたいんでしょ?」
「それはまぁそうだけど、でもなりたいからなれるってもんじゃ……」
「俺がΩにしてあげる」

 耳元で囁かれた声にビクンと身体が跳ねた。まるで獣に狙われた獲物のように心臓がバクバクとせわしなく動く。強引にシーツを破かれ、露わになった身体を指先でなぞられれば、感じたことのない刺激が肌の上を走った。
「僕の番……」
 ウルガスはうっとりとリヒャルトの名前を呼ぶと思い切り首筋に噛み付いた。まるでΩと番うように容赦なく牙を立てる。血がドクドクと溢れ出すのを感じながら、リヒャルトはますます淫らな表情へと変わっていく。口の端からよだれを垂らし、ペニスを伝って蜜が落ちる。まだ挿入もされていないのにビクビクと身体を痙攣させるリヒャルトは自分からΩ特有の甘い香りが満ちていることに気付く余裕もない。ただただ目の前の愛する人を求めるだけ。ギュッと抱きしめ、甘えるように呟いた。
「ウルガスのタネをちょうだい」
 その言葉に応えるようにリヒャルトの穴にペニスをあてがったウルガスは身体を貫くように一気に根元まで差し込んだ。大きく跳ねたリヒャルトを支えながら、ナカに自らのタネを擦り付けていく。抜かれることなく何度も出された白濁はリヒャルトの腹へと溜まっていく。ポッコリと出たお腹をよしよしと撫でると、ウルガスは「まだまだ足りないよね。もっと出さないと」とリヒャルトの耳元で囁きながら腰を振る。身体の下の彼がすでに意識を手放していることなどお構いなしに、確実に自分の雌にするために何度もリヒャルトのナカで果てた。



 ワオーン
 ワオーン
 ワオーン
 ワオーン


 これは遠吠え?
 やけに近くで聞こえる声にリヒャルトの意識は浮上していく。目を開けばそこにいるはずのウルガスの姿はない。飲み物でも取りに行ったのだろうか。肌寒さを感じたリヒャルトは手を伸ばし、毛布を手繰り寄せる。ぴゅうっと風が吹いたことで窓が空いているのだと気づいた。ワオーンワオーンと未だ続く遠吠えはそこから聞こえていた。
 犬の遠吠えなんて初めて聞いたな~なんて考えていると、窓の外からウルガスが身体を滑り込ませた。

「あ、起きた?」
「どこ行ってたんだ」
「屋根の上。ちょっと報告に」
 報告ってもしかして今の遠吠えのことだろうか。同族同士でしか使えないだろう報告は、同族に番を求めての行為かもしれない。番なんていらないと言っていた彼だが、とことん交わって、リヒャルトは耐えきれないと判断したのかもしれない。そう思うとズキリと胸が痛んだ。一体何時間交わったのかは分からないが、その間にリヒャルトは何度も意識を飛ばしている。最中のことだって、ただ気持ちよかったことだけしか覚えていない。
 けれどウルガスの体力がまだまだありあまっていること、そしてリヒャルトの身体が精子と汗でべったりとしていることだけはわかる。

「いつも相手の身体には気を使えと言ってるだろう」
 小言を言いながら、同族ならそんな気遣いは不要かもしれないな……なんて考える。相手の身体を気遣えなんて、彼にとっては性欲を我慢しろと言われているのと同義なのだから。勝手に傷つくリヒャルトに、ウルガスはキョトンと首をかしげる。

「でも遠慮してたらリヒャルトがΩになれないかもしれないし」
「セックスしたところで人の性別が変わるわけないだろう……」
「変わるよ?」
「は?」
「αの狼獣人が番った相手は元の性別関係なくΩになる」
 そんなバカな話があるわけないだろう。そう言いたかったが、リヒャルトはこの数年で狼獣人と人間とでは常識が違うことを痛いほど実感していた。いささか信じられない話ではあるが、目の前の彼が嘘を吐いているようには見えなかった。種付けされた腹を撫でればポッコリと膨れている。普段なら早く掻き出さないと腹を下す!  と怒るところだが、今日くらいはもう少しだけゆっくりとしていたい。身体が落ち着いたら医師に診てもらおう。そう決めてリヒャルトは眠りの世界に溺れていった。


「Ω、ですね」
「本当に?」
「はい、確かにリヒャルト王子はΩになっています。性転換する獣人がいるのは知っていましたが、まさか狼獣人と番うことで性別が変わるなんて……正直初めて診るので、この先私だけで王子の体調を見ていけるかどうか」
「それなら問題ない。リヒャルトの世話は俺達群れで行う」
「群れって、ウルガスは追い出されたんじゃ……」
「俺は番探しのために群れを離れているだけで、追い出されていないよ?  仲間達には昨晩報告したから今頃こちらに向かっている」
「は?」
「群れ全体でリヒャルトの身の回りの世話をする。だから安心して俺の子を産んでくれ」

 番探しのために離れていただけ?
 ということは別に世話なんてする必要はなかったのでは?
 Ω化に続く衝撃的な事実にリヒャルトの頭は混乱してしまう。頭に大量のクエスチョンマークが浮かべるリヒャルトだが、そう長く思考に浸れる時間などなかった。


「侵入者だ!  陛下達を守れ!」
「クソッ、早すぎる」
「これが戦闘種族かよ……」
「歯が立たない。増援はまだか!」
「間に合いません!!」

 廊下が一気に騒がしくなったかと思えば、何事かと認識するまもなく医務室のドアはガタガタと音を立てて崩れていく。侵入者か、と気づいた時にはもう遅かった。まるでこの部屋に一直線に進んできたかのようだ。

 せっかくΩになり、好きな人と番いにもなれたというのに……。

 けれど良かったのかもしれない。Ωになったとはいえ、リヒャルトは三男だ。番がいる以上、優秀な男達のタネをもらうことも、有力な他国に嫁ぐこともできない。ここで真っ先に殺され、時間稼ぎをすることこそが王族として役に立てる唯一の方法かもしれない。

「何者だ!」
 立ち上がり、ドアの方向をキッと睨む。ドアを破壊した複数人の侵入者と対峙しーーリヒャルトは拍子抜けした。なにせ耳と尻尾のついた彼らはウルガスの前までやってくると一様に膝をついたのだから。

「お迎えにあがりました」
「は?」
「お前達、他の者はどうした?」
「巣の方で待機させております」
「そうか、なら行こう。リヒャルト」
「主人に巣って何⁉︎」

 リヒャルトの疑問に返答はなく、代わりにひょいっと身体を持ち上げられる。リヒャルトを抱きかかえたウルガスは他の狼獣人達の後ろを追うように窓から飛び降りると、巣と呼ばれる屋敷へと連れ込んだ。


 何が何だか分からないまま、リヒャルトは狼獣人達に世話を焼かれ、二ヶ月後に元気な子どもを三人も産んだ。そしてその後にやっと詳しい事情を聞くことができた。

 なんでも狼獣人達による『お迎え』は彼らの習性らしい。

 巣と呼ばれる屋敷を建てるのも。
 リーダーの番を巣の中心部に迎えて守るのも。
 悪気があったわけではなく、彼らにとっては当然の行為だったのだ。

 狼獣人達を追ってきた城の兵士達を介して彼らの習性が王家に伝わったことで、王子誘拐事件は騒ぎにならずに済んだ。また王家と狼獣人との話し合いにより、半年後には巣を城の中に移すことに決まった。

『なぜ陛下は僕を城に連れ戻そうとするんだろう?』
 巣の移動を聞いた時、リヒャルトは真っ先にその疑問が頭に浮かんだ。Ωになったとはいえ、彼らが望むようなことが出来る気がしない。特別な才能もなく、今後役立つ見込みのないお荷物王子など、そのまま狼獣人にくれてやればいいのではないか。そう考えて、自分を中心に考えるからおかしいのかと気づいた。
 国が欲しいのはお荷物王子ではなく、狼獣人の方だと考えれば納得がいく。
 リヒャルトの教育によりウルガスは戦闘種族の特徴を全て隠していた。性欲こそ抑えられなかったがベッドの外では大人しく、どこに行くにもリヒャルトの側を決して離れず問題を起こすことはなかった。
 けれど城に来た彼らは高い身体能力を発揮し、リヒャルト達を迎えにやってきた。ウルガスが群れのリーダーだと判明した以上、その番であるリヒャルトを迎え入れることは一つの群れを味方にすることとなる。国は大きな力を手に入れることになるだろう。出来損ないの一番下にしてはよくやったと認めてもらえるかもしれない。けれどリヒャルト自身の価値が認められる訳ではない。お荷物はお荷物のままでしかないのだ。

「城に戻りたくないな……」
 ウルガスの隣で寝転びながらポツリと呟いた。狼獣人達と彼らが作った巣は優しくて温かい。リーダーの番としてだけではなく、リヒャルトをひとりの人間として接してくれる。そんな彼らを利用したくはなかった。
 けれど無理な願いであることくらい理解しているのだ。いくら戦闘種族とはいえ、群れの人数は五十ほど。子どもだっている。一国が潰しにかかれば彼らとて無傷では済まないだろう。

「リヒャルトがそういうなら巣の移動止めようか?」
「いや、俺のわがまま一つで群れを巻き込むわけにはいかないし」
 だから忘れてくれ。そう続けたリヒャルトの身体をウルガスは優しく包み込んだ。

「わがままなんて誰も思わないよ」
「でも」
「俺達狼獣人にとって最も優先すべきは群れのリーダーで、俺が優先すべきはリヒャルトだから。リヒャルトの顔が見れないと死ぬって騒ぐ人間三人を振り払うくらい訳ないよ。実際、今も言いくるめてるし。彼らの気持ちも分かるけど、やっぱりリヒャルトの意思が大切なんだ」
「その人間三人って誰のこと言ってるんだ?」
「国王様と王子二人。他にも誰かリヒャルト不足で死ぬ奴いそうだけど、文句言ってきたのはこの三人だけだよ」
「Ωになったくらいであの人達が僕に興味を持つなんて……」
「何言ってるの?」
「そうだよな、ありえないよな」
 何を期待してしまったのか。ウルガスから愛してもらって、狼獣人達から優しくしてもらって。さらに家族からも、なんて都合が良すぎる。甘えるな、何をバカなことを考えているんだと自分を叱責した。けれどウルガスの口から出たのは思いもよらない言葉だった。

「あの人達はリヒャルトがβの時からよく見てたよ」
「は?」
「柱の影からとかリヒャルトが寝た後とか。写真もいっぱい撮ってたし、俺達が出会った時にも護衛をつけてたし、興味がないようには見えなかったけど」
「でも俺がΩなら良かったって!」
「Ωならリヒャルトの可愛さを受け継いだ子どもが見れるのにってやつ?  リヒャルトに子どもが作れなくなったのは、神がこれ以上天界に天使を送ることを拒んだからだって話なら俺も聞いた」
「は?」
「リヒャルトのアルバム整理しながら、天使成長記録部屋を増やすとかで今忙しいみたいだけど、帰りたくないなら俺はそれでも構わないと思ってる!」
「天使成長記録部屋って何⁉︎」
「リヒャルトのありとあらゆる記録を残した部屋で、俺とシタ時の映像も全部そこに……」
「なっ!」


 城に戻ってすぐに父と兄二人を問いただしたところ、彼らは自分達の愛情が全く伝わっていないことに目を丸くし、大量の涙を流した。そして三人に手を引かれて行った先で見た大量の写真にリヒャルトは思わずドン引きすることとなる。
 けれど一番驚いたのはリヒャルトが自らの役目だと思っていた『優秀な女性達を孕ませる』という行為は祖父がリヒャルトに伝えた偽りの情報であったこと。父と兄曰く「あのジジイ、たくさんの天使に囲まれたいがために嘘吹き込みやがって……リヒャルトの成長を見守る前に死んだのも天罰だ。ザマァ見ろ!」とのことだった。
 どうやらリヒャルトは長年、祖父の嘘を信じて悩んでいただけらしい。だがその嘘がなければあの路地に迷い込み、ウルガスと出会うことはなかったのだと思うと祖父を恨むことはできない。

「リヒャルト」
「どうした?」
「写真見てたらヤリたくなっちゃった」

 写真を見ながらこの時のリヒャルトは最高だのと話し合っている父と兄の側で、ウルガスはパンパンに膨れ上がったブツをリヒャルトの手に当てておねだりをする。最後に交わった日のリヒャルトの身体はΩとしては不完全な状態であった。けれど出産を経て、彼は完全なるΩへと変わった。

「……巣まで我慢しろ」
 番からアピールされただけで頬を赤らめ、尻を濡らす淫らな獣となったのだ。


※※※
(変態達に囲まれて育った)とある不憫な王子が(相手をΩ化することのできる)狼獣人を拾った(後にいろいろあってΩ化したら番と子どもが出来て幸せになる)話
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