あやかし担当、検非違使部!

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一章 その名は検非違使部

検非違使部(3)

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また京香の心情を悟ってか、真緒はくすぐったそうに頭をかく。

「かっこつけた言い方したけど、俺が勝手に作っただけの組織だよ。『警察』より『検非違使』のほうが、なんとなく強そうだろ?」
「はあ…」

男の子のこだわりが今一つ理解できず、京香は曖昧な反応をする。しかし真緒は、改めて真剣な顔つきになった。

「でも、逢坂さんを守りたいのは本心。検非違使部は妖怪のために動くのが仕事だ。俺たちは二日前に依頼を受けてね…『〈大蛇〉の妖気を抑えてほしい』という内容の」

京香の脳裏に沼の主として君臨する巨大な白い蛇が浮かぶ。が、真緒の指す大蛇は化け物蛇とは異なっていた。

「〈大蛇〉というのは仮の名前。『蛇に睨まれた蛙』の蛙のように、近くにいるだけで身体がすくむから、妖怪たちの間でそう呼ばれていた。妖気は妖怪の放つ気配のことだけど、さっき茜が言ったように妖力の制御は簡単で、妖気を封じ込めるのは容易たやすい。だから妖力に差のある妖怪同士も、何てことなく同じ空間で暮らしている」

そこまで語って、真緒は慎重な様子でややまつ毛を伏せた。

「つまるところ、妖怪間のマナーを破った妖怪が現世にいるから注意してほしいと頼まれたんだ。まず俺はこの身で〈大蛇〉の妖気を感じようとしたわけだけど…驚いたよ、昨日教室に踏み入った瞬間に、ゾクリとさせられたからね」

寒気を感じたらしいのに、真緒は唇の片端を少し持ち上げる。
京香には彼が、怖さを面白がっている風に映った。京香を怖いと言った時もそうだった。

「〈大蛇〉はクラスメイトの誰かだ。でも、妖気が強すぎて絞ることができない。そこで俺は、自分も妖気を放つことで皆の反応を窺うことにした。そしたら正体はすぐにわかったよ——」

真緒は目線を真っ直ぐにして、京香を正面から見つめる。何を言いたいのか、既に瞳が語っていた。

「逢坂さん、俺に怯えていたあなたが〈大蛇〉だ」

察しがついても、いざ口にされると信じ難くて京香は息を吞む。
それと同時に、真緒はふっと柔らかい笑い方をした。

「難しいだろうけど、どうか怖がらないで。俺も同じなんだ。人間だけど、この身体には妖力が宿っている」

彼はそっと自身の胸元に手を乗せた。

縁遠かった人が、「同じ」と微笑んでとんでもない秘密を明かしている。
この状況が、京香にとって何より幻のようだった。
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