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1、ガチムチダンディ
しおりを挟むうほっ。
うほっ。
うほっうほっ。
うほっ。
うほっ。 うほっ。
うほほーーーい。
うほ。
ああ……ダメだ……。
頭がおかしくなりそうだ……。
村中のあちこちこちあちそこらかしこから、うほうほとハッテン音頭が聞こえてくる。
これが可愛い女子の声ならいくらでもガマンできる。というか、全然ウェルカムだから土下座してでも聞かせてほしい。
だが、聞こえてくるのは可愛さから最も遠い男の声。
百歩譲って、もし美少年ならガマンしよう。でも違う。
だって
この村には
ガチムチダンディ
しか
いないのだから
……なんでこんなことになってしまったんだろう……。
俺はここに至るまでの経緯を、陰鬱な気持ちのまま思い出すことにした。
…………
……
その瞬間のことは、よく覚えている。
暴走トラックが俺目掛けて突っ込んできたのだ。
『……あ、これ死んだな……』
妙に頭は冷静で、そんなことを考えるくらいの余裕があった。
身体は微動だに動かないのに、景色はスローモーションで、運転席で居眠りしている小汚いおっさんの顔までハッキリ見えた。
こんなところで、こんなおっさんに殺されて死ぬのか……。
悔しいし情けないしやるせなかったけど、もうどうしようもない。
ただ、童貞のまま死ぬことだけが心残りだった。
ごめんな……俺のサオとタマよ……。
22年間使ってやれなくて……。(※マスタベは別腹)
来世じゃ必ず……幸せにしてやるからな……。
こうして、俺は人生にピリオドを打った……はずだった。
気が付いたら、俺はひとりで森の中にいた。
……ここどこ? トラックは?
しかし、ゆっくり考える時間はなかった。
見たことも無い変な動物が襲い掛かってきたからだ!
熊と鹿を掛け合わせたような生物だった。
こんな生物知らない。聞いたことも無い。
ソレは、俺を見るなりグルルと威嚇するように唸って、そのまま飛び掛ってきた。
電光石火とでも言うべき俊敏な動きで、一瞬にして俺の目の前にまで迫ってきたのだ。
今日はなんて日だ……。
トラックに引かれて、こんな化け物に襲われて……。
「伏せろ!!」
声の通りに動けたわけじゃないが、迫り来る化け物に気圧されて、へたんと尻餅をついたのだ。
そんな俺の頭の上をかすめるようにナニカが飛んできて、そのまま化け物に激突した。
そのナニカは……鎖のついた鉄球のようなものだった。
さすがの化け物も堪らなかったんだろう。ふらふらとした足取りで、森の奥へと消えていった。
……助かった。
この鉄球はいったいどこから……?
さっきの声の人物が投げて助けてくれたのか?
「大丈夫か?」
後ろの草むらをかきわけながら、その人物が姿を現す。
その人は、ひとことで言うなら……ガチムチマッチョなナイスミドル。
鍛え上げた筋骨隆々な肉体美を誇る、口髭を生やしたおじ様だった。
しかし、ひとつだけ疑問がある。
なんでこの人、こんな森の中で上半身裸なんだろう……。
……いや、深く考えちゃいけない。そんな気がする。
「……ありがとうございました」
「はっはっは。礼にはおよばんよ。 しかし、そんな軽装で森に入っちゃダメじゃないか」
服装に関してこの人にツッコまれるのは心外だ。少なくとも俺は服を着てるのだから。
しかし、助けてもらったのは事実。『あなたこそ半裸じゃないですか』って言葉をぐっと飲み込んだ。
「シカクマくらいだったからまだいいが、クマザルが出てきたら一環の終わりだよ」
さっきの化け物、シカクマって名前なのか。そのまんまだな。
てことは、クマザルってのは、猿と熊の化け物?
「だいたい、なんで君はそんなにモヤシのように細いのかね? ちゃんとプロテイン飲んでる?」
「いや、ていうか、ここどこですか? 気が付いたらここにいて、さっぱり訳わかんないんですけど……」
俺の言葉に、ガチムチダンディは目をぱちくりさせて少し考えると、手をぽんと叩いて口を開いた。
「ああ、そういうことか。 おかしいと思ったんだ。モヤシだし、服を着てるし。そういうことなら納得だ。大丈夫。君みたいのたまにいるらしいから。私も見るのは初めてだがね」
「あのー……どういうことですか?」
「えっと、その、アレだ。異世界転生ってやつだね」
「…………はい?」
え? なに言ってんのこの人?
頭大丈夫??
「村に行けば詳しい人もいるだろう。付いてきなさい」
「え? あの?」
「ここは『ガッチムーチカントリー』 君のいた世界とは異なる世界だ」
続く
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