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【番外編】彼氏が30歳になった(side夏実)
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しおりを挟む待ちに待っていた7月13日の朝が来た。
「あとはハムエッグ焼くだけ……っと。じゃあおじちゃんおばちゃん、みなとくんの部屋へ行ってきますっ!」
私は今から、彼氏の部屋へ「おはようの挨拶」をしに行く。
「いってらっしゃいなっちゃん」
「人生初の寝起きドッキリね♪ 楽しそうだわ~♪」
みなとくんのご両親、おじちゃんとおばちゃんは私をほんわかとした表情で優しく見送ってくれる。2人とも60歳だけど、気持ちが若くてほんわかとしたカップルさんみたいで私の憧れだ。
お隣さんで家族ぐるみで仲良しという事もあって、中学生の頃から私の恋に応援してくれている人達なのでありがたい。
私は広い居間を出ると、2階へ続く階段をゆっくり上がっていった。
みなとくんとは今日で恋人2周年記念を迎えるのに、そもそもみなとくんとは私が赤ちゃんの頃からのご近所付き合いなのに、私は一度もみなとくんの部屋へ足を踏み入れた事がなかった。
(今までも、こうして寝起きドッキリしておはようの挨拶しても良かったんだけど、みなとくん真面目キャラだから叱られそうなんだよね……でも今日なら良いよね! だって今は私達にとって特別な誕生日の朝なんだから!!)
緊張しながら部屋の引き戸をゆっくりと開けてみると
(ふあぁ……男の人の匂いで充満っ!!)
今まであまり嗅いだ事のない汗みたいな匂いが私の鼻へ一気に入ってきた。
(お父さんのお酒臭い加齢臭とまではいかないけど、これが男の人の寝室の匂いなんだなぁ……)
エアコンの空気で冷やされている所為か、嫌な感じは全くなく、いつも使っているフレグランスの香りも相まって爽やかな感じがするし、嗅いでいたら緊張とは違うドキドキが高まってきた。
「おっ……お邪魔しまーす」
私は小声を出しながらみなとくんの部屋中に入り、後ろ手で引き戸を締める。
引き戸の小さなカタンという音が、心臓の音をドキドキからバクバクに変え、呼吸も速くなった。
「みなとくーん……みなとくーん」
8畳間の部屋に入ってすぐ目に飛び込むのは、彼が横たわるセミダブルベッド。
私が生まれた頃には既に身長が平均から飛び抜けていた彼がかれこれ18年も愛用しているという立派なベッドだ。
(私とほぼ同じ年愛用しているベッドにみなとくんがゴロンと横になってタオルケット掛けてる……なんか余計にドキドキバクバクするんだけど)
それだけで変な妄想を働かせてしまうのは、私がこの恋を拗らせてるって事なのかもしれない。
(今日でみなとくんは30歳、私だって18歳になるんだもんっ! 普通の……どこにでもいるカップルみたいに、私もみなとくんと唇も舌も繋がる濃厚なキスを……!!)
私はベッドに乗っかって、四つん這いになり赤ちゃんみたいにハイハイをちょこっとだけして……横たわる彼に覆い被さる体勢をとった。
(みなとくん、体がおっきいから完全に覆い被せらんないけど、これってちょっとエッチな漫画みたいな展開のヤツー!!!! 嬉しい!!!! 嬉し過ぎるよー!!!!)
私は親友の茉莉ちゃんからこの前貸してもらった漫画のワンシーンを思い出しながら、眠る彼の耳たぶにそっと唇を近付けてみた。
「ふーっ……」
歳下彼氏の眠りを優しく起こす為の耳元フーッ。
「んんぅん……」
くすぐったいのか、歳下どころか12歳も歳上のみなとくんは唸り声をあげて、大きな身体を横向きから仰向けへとゴロンと寝返りし、うっすらと睫毛を動かす。
「みなと……」
私は彼の名を呼ぼうとしたんだけど、「くん」付けしようとしたその手間で心臓がドクンと大きく波打ち息が苦しくなった。
「ん?」
みなとくんはまだ寝ぼけているみたいだ。
ドキドキバクバクで苦しくなった息を私は整え、ニコッと微笑み顔を作って
「みなとくん」
と、ちゃんと呼んでみる。
「いつも可愛いな、夏実は」
薄目を開けたみなとくんは、かっこいい王子様みたいな微笑み顔で手を伸ば私のロングヘアをサワサワと優しく撫でてくれた。
「っ……」
それだけでもう、キュンキュンして、もっともっと私に触れてほしいっていう欲求が高まって
「ねぇ、今日から湊人って呼んでいいんだよね?」
ドキドキバクバクキュンキュンしまくっている私は、勇気を出して彼に確認してみた。
ーーー
『7月13日になったら夏実は18歳になるだろう?それでもこんな30歳の俺をまだ好きで居てくれるなら、普通のカップルみたいな事をいっぱいしよう』
ーーー
それは彼なりの「それまでは我慢だぞ」っていう私への窘めでもあったんだけど、逆にその言葉があったから今日という日を待ち侘びたんだし希望が持てたんだ。
(普通のカップルみたいに、私も彼を呼び捨てで呼んで、対等な立場に……!)
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