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俺と彼女と恋待つ時
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しおりを挟む「お姉さんお疲れ様です。迎えに来ました」
店に着くと村川くんは勝手口に回って扉を開け、中に声を掛けていた。
狭い勝手口通路に3人ぞろぞろ行くのもどうかと思った俺は夏実と店の前で立って待っていると、割とすぐに村川くんと奥さんが勝手口から出て来る。
「閉店時間前だけど帰っていいって言われちゃいました」
「お姉さんが『ジュンさんに片付けやらせるから帰っていい』みたいな事言ったらしくて」
「ジュンさんったらタダ働きなの分かってて夕方から店に居たんですよ?だから私もやる事なくなっちゃって」
奥さんと村川くんが交互に話して説明するのを聞いて俺は驚く。
(夕方からタダ働き? 何やってるんだ先輩……暇人か?!)
「湊人、私達はお店に挨拶とかしなくてよかったのかな?」
俺の腕を軽く引っ張りながら不安げに俺を見上げる夏実に俺も「あ」と声を出したのだが
「あー、なんか別にいいみたいでしたよ。寧ろ早く帰った方が良いみたいで♪ 既に俺すら邪魔みたいな空気でした」
と村川くんが夏実の不安を取り除こうとイケメン笑顔を見せる。
「へぇ……そうなんだ」
(夫婦水入らずってヤツか。別に店の奥で良からぬ行為に励むとかそういう意味ではなく、ごく純粋な意味での)
「帰りましょっか」
奥さんも俺に微笑みかけて帰り道の方向を指差した。
マンションまでの徒歩十数分の距離を、前方に夏実と村川くん、後方に俺と奥さんで歩いて帰る事になってしまった。前方の2人は何やら楽しそうに喋っているみたいだけど、俺は俺で初対面の奥さんに何話したらいいのか分からず……
「奥さんって身長何センチですか?」
なんて意味不明な質問をしてしまう。
「153センチです!ですから彼とはちょうど30センチ差ですね。広瀬さんは185センチくらいですか?」
小柄な女性に身長を訊くなんて失礼か?と質問直後に後悔したが、奥さんは気さくに答えてくれた。
「あぁ、はい。まさにその身長です」
「広瀬さんと私が並ぶと身長差えげつないですよねー!」
「確かにそうですね」
「夏実ちゃん背が高いから羨ましいなぁ」
「夏実は160なんで俺とも結構あるんですよ身長差。外出る時はヒール高い靴履くんで」
「なるほど!私も彼との外デートの時は少し高いの履きますよ。それでも手を繋ぐほどまで身長差埋まりませんけど」
「夏実は俺とよく繋ぎたがります。なんか、そこは譲れないらしくて」
「夏実ちゃん可愛いですね!」
身長の話題で話が広がりそうな流れでホッとするも、手を繋ぐ為に夏実がヒールの高い靴を履く件りの話をする時は流石に俺もどんな表情しとけばいいのか迷ってしまい、加えて奥さんの「夏実可愛い発言」で更に俺の顔は微妙な表情になってしまう。
素直に喜べばいいのだろうが、どうしても初対面相手には自分の年齢が邪魔をしてしまうようだ。
「そっかぁ……じゃあ毎晩脚疲れちゃうだろうなぁ」
暗くなりかけの空を見上げながらぼやいた奥さんの言葉に俺は「えっ」と声を出した。
「やっぱりヒールの高い靴は足に負担がくるもんなんですか?」
夏実が「履き慣れてる」と言っていたから俺もそれ以上は気にかけなかったのだが……。
「私が普段立ち仕事してる所為かもしれませんが、結構疲れますよ。だから仕事の日は私スニーカーです」
奥さんがそう言いながら下を指差し、俺に奥さんの足元へ目を向けさせる。
「本当だ。っていう事はやっぱり夏実は無理してんのか……」
奥さんの足元から、前方を歩く夏実の足へと目線を移動し俺は肩をすくめた。
奥さんは俺の言葉にまた空を見上げながら
「うーん……無理っていうか、女の子はファッションの一つですからね。夏実ちゃんが好きで履いてるならそれで良いのかもしれないです」
と答える。
「それで、いいんですか?」
「はい、私はファッションに疎いので参考になるか分からないんですが多分女の子って男性……特に彼氏からファッションにケチつけられたくないもんなんですよ」
「ケチつける……か」
ふと、俺が夏実に「服装は大人っぽくしなくていい」と言った事がそのまま『ケチをつける』に当て嵌まるんじゃないかという不安がよぎった。
奥さんが俺の態度にどう感じたか分からないが
「でも、家に帰ったらオイルマッサージしてくれると嬉しいです♪」
という謎のフォローが入る。
「オイルマッサージ、ですか?」
「夏実ちゃんってあんなに綺麗な脚してるからセルフケアしてるかもしれないですけどね」
勉強面でも夏実は、俺と一緒に居ない時でも密かに努力するタイプだから意外とそこにも気を遣っているのだと思う。……俺は一度も見た事がないから、尚更そう感じる。
「ケアって、家に帰ってすぐにやるんですか?」
「帰ってすぐもいいですけど、自分でケアする時はお風呂の湯船の中とかお風呂上がりにしたりとかですかねー。私はクタクタに疲れた時は帰ってすぐにオイルマッサージしてもらっちゃいます!」
「してもらうって、彼がオイルマッサージするんですか?」
奥さんの手前「するんですか?」なんて口をついてしまったが、午後からの村川くんの動きを見る限り、寧ろ率先してやるんだろうなと想像は既にしている。
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