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俺と彼女と恋待つ時
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村川くんは本当に酔ってきてるみたいで、ふわふわとした陽気な顔で俺をジーッと見つめる。
「ですから広瀬さんが夏実ちゃんと指輪選ぶって話聞いた時も嬉しくなりましたし、昨日ジュンさんから『広瀬さんが家探しで困ってそう』って聞いた時も『なんか俺に出来る事あればいいな』って思ったんです」
「それで俺をここに呼んだって訳か」
酔っ払いの後輩に顔を見つめられるのってなんか微妙な気分になるなぁと思い、目をそらすと
「…………俺、ちょっと語ってもいいですか?」
と、今まで散々語っていたような気もするのに突然そんな了解を得てきた。
「別に、いいけど」
俺はグラスに残ったものを喉に流して目線を小皿の方に向け、視界の端でまだ俺の方を向き続けている村川くんの語りとやらに耳を傾ける事にした。
「広瀬さんも夏実ちゃんも普通の人だから、大丈夫だと思うんですけど……。
好きな人が居ない空間で待つ時間って、自分の想像以上に長く感じてしまうから……広瀬さんの探す家は、なるべく夏実ちゃんの見知った土地がいいんじゃないかなって、思うんです」
「うん?」
彼が何を言おうとしているのかが分からず、相槌なのか疑問なのか判断つかないような声が出てしまった。
多分、夕方に彼が夏実に渡した地域の賃貸物件情報の話なんだろうけど。
「夏実ちゃんは、10年も前から広瀬さんと一緒になりたいって思ってたんですよね?帰り道で夏実ちゃんから聞きました」
「そうだね、有り難い事に今も純粋な気持ちを持ち続けていてくれるみたいだけど」
「卒業後は専業主婦とかさせるんですか?」
「半年以上先だからそこまではまだ俺も考えてないけど」
「そうですか……」
村川くんは一回、大きく深呼吸をし真面目な表情で口を開いた。
「俺……昔、人の心が壊れるところを見た事があるんです。その人は家族を亡くして、唯一の繋がりだったきょうだいも遠くに行っちゃって、自分の家で1人待っていなきゃいけないっていう状況に置かれた女性でした。
たまたまその人の心が弱かった所為もあったんでしょうが、成人してても日中は大学行っててもその人は待つ事に耐えきれなくて心が壊れて……その人が掴んだ目の前のものまで絶望しかなくて……誰も助けられないところまで追い詰められたんです」
「…………」
彼が何を言おうとしているのかが分からず、相槌なのか疑問なのか判断つかないような声が出てしまった。
多分、夕方に彼が夏実に渡した地域の賃貸物件情報の話なんだろうけど。
「夏実ちゃんは、10年も前から広瀬さんと一緒になりたいって思ってたんですよね?帰り道で夏実ちゃんから聞きました」
「そうだね、有り難い事に今も純粋な気持ちを持ち続けていてくれるみたいだけど」
「卒業後は専業主婦とかさせるんですか?」
「半年以上先だからそこまではまだ俺も考えてないけど」
「そうですか……」
村川くんは一回、大きく深呼吸をし真面目な表情で口を開いた。
「俺……昔、人の心が壊れるところを見た事があるんです。その人は家族を亡くして、唯一の繋がりだったきょうだいも遠くに行っちゃって、自分の家で1人待っていなきゃいけないっていう状況に置かれた女性でした。
たまたまその人の心が弱かった所為もあったんでしょうが、成人してても日中は大学行っててもその人は待つ事に耐えきれなくて心が壊れて……その人が掴んだ目の前のものまで絶望しかなくて……誰も助けられないところまで追い詰められたんです」
「…………」
「男の俺がそうだったんだから、新しい環境で広瀬さんを待つ女の子は相当な覚悟がないと辛いんだと思うんですよ。……まして夏実ちゃんは歳も若いし。
会社近くの家を探したら、広瀬さんの帰宅時間はぐっと短縮されるけど夏実ちゃんがその間待つ時間は長くなりますよね?
俺やお姉さんと違って、夏実ちゃんは生まれてからずっと親御さんと一般的な家族関係を良好に結んでいたんだから、それだったら夏実ちゃんの見知った地域で家を探す方が精神的にも楽じゃないかなって。少なくとも寂しく感じにくくなるんじゃないかなって、俺は思います」
「なるほど」
別に村川くんは、夏実が必ず「そう」なるとは言っていないし、「それ」は彼だけが経験した単なる一例に過ぎない。
けれども、「それ」はかつて彼をも苦しめたトラウマで彼が好意を寄せる人間の誰一人として「そう」なって欲しくないのだという強い気持ちが言葉に表れているのだと知った。
「村川くんの言わんとしている事は分かるよ。相手を待つ行為はそのまま信頼に直結するからね」
でもその信頼は、一時の孤独によって蝕まれてしまう。
だから夏実に逃げ道を作ってやれと、彼はそう言っているんだろう。
「ですから広瀬さんが夏実ちゃんと指輪選ぶって話聞いた時も嬉しくなりましたし、昨日ジュンさんから『広瀬さんが家探しで困ってそう』って聞いた時も『なんか俺に出来る事あればいいな』って思ったんです」
「それで俺をここに呼んだって訳か」
酔っ払いの後輩に顔を見つめられるのってなんか微妙な気分になるなぁと思い、目をそらすと
「…………俺、ちょっと語ってもいいですか?」
と、今まで散々語っていたような気もするのに突然そんな了解を得てきた。
「別に、いいけど」
俺はグラスに残ったものを喉に流して目線を小皿の方に向け、視界の端でまだ俺の方を向き続けている村川くんの語りとやらに耳を傾ける事にした。
「広瀬さんも夏実ちゃんも普通の人だから、大丈夫だと思うんですけど……。
好きな人が居ない空間で待つ時間って、自分の想像以上に長く感じてしまうから……広瀬さんの探す家は、なるべく夏実ちゃんの見知った土地がいいんじゃないかなって、思うんです」
「うん?」
彼が何を言おうとしているのかが分からず、相槌なのか疑問なのか判断つかないような声が出てしまった。
多分、夕方に彼が夏実に渡した地域の賃貸物件情報の話なんだろうけど。
「夏実ちゃんは、10年も前から広瀬さんと一緒になりたいって思ってたんですよね?帰り道で夏実ちゃんから聞きました」
「そうだね、有り難い事に今も純粋な気持ちを持ち続けていてくれるみたいだけど」
「卒業後は専業主婦とかさせるんですか?」
「半年以上先だからそこまではまだ俺も考えてないけど」
「そうですか……」
村川くんは一回、大きく深呼吸をし真面目な表情で口を開いた。
「俺……昔、人の心が壊れるところを見た事があるんです。その人は家族を亡くして、唯一の繋がりだったきょうだいも遠くに行っちゃって、自分の家で1人待っていなきゃいけないっていう状況に置かれた女性でした。
たまたまその人の心が弱かった所為もあったんでしょうが、成人してても日中は大学行っててもその人は待つ事に耐えきれなくて心が壊れて……その人が掴んだ目の前のものまで絶望しかなくて……誰も助けられないところまで追い詰められたんです」
「…………」
彼が何を言おうとしているのかが分からず、相槌なのか疑問なのか判断つかないような声が出てしまった。
多分、夕方に彼が夏実に渡した地域の賃貸物件情報の話なんだろうけど。
「夏実ちゃんは、10年も前から広瀬さんと一緒になりたいって思ってたんですよね?帰り道で夏実ちゃんから聞きました」
「そうだね、有り難い事に今も純粋な気持ちを持ち続けていてくれるみたいだけど」
「卒業後は専業主婦とかさせるんですか?」
「半年以上先だからそこまではまだ俺も考えてないけど」
「そうですか……」
村川くんは一回、大きく深呼吸をし真面目な表情で口を開いた。
「俺……昔、人の心が壊れるところを見た事があるんです。その人は家族を亡くして、唯一の繋がりだったきょうだいも遠くに行っちゃって、自分の家で1人待っていなきゃいけないっていう状況に置かれた女性でした。
たまたまその人の心が弱かった所為もあったんでしょうが、成人してても日中は大学行っててもその人は待つ事に耐えきれなくて心が壊れて……その人が掴んだ目の前のものまで絶望しかなくて……誰も助けられないところまで追い詰められたんです」
「…………」
「男の俺がそうだったんだから、新しい環境で広瀬さんを待つ女の子は相当な覚悟がないと辛いんだと思うんですよ。……まして夏実ちゃんは歳も若いし。
会社近くの家を探したら、広瀬さんの帰宅時間はぐっと短縮されるけど夏実ちゃんがその間待つ時間は長くなりますよね?
俺やお姉さんと違って、夏実ちゃんは生まれてからずっと親御さんと一般的な家族関係を良好に結んでいたんだから、それだったら夏実ちゃんの見知った地域で家を探す方が精神的にも楽じゃないかなって。少なくとも寂しく感じにくくなるんじゃないかなって、俺は思います」
「なるほど」
別に村川くんは、夏実が必ず「そう」なるとは言っていないし、「それ」は彼だけが経験した単なる一例に過ぎない。
けれども、「それ」はかつて彼をも苦しめたトラウマで彼が好意を寄せる人間の誰一人として「そう」なって欲しくないのだという強い気持ちが言葉に表れているのだと知った。
「村川くんの言わんとしている事は分かるよ。相手を待つ行為はそのまま信頼に直結するからね」
でもその信頼は、一時の孤独によって蝕まれてしまう。
だから夏実に逃げ道を作ってやれと、彼はそう言っているんだろう。
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