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俺と彼女と幼馴染み
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「チョコレート、菜央ちゃんはどれを1番最初に食べたんだ?」
テレビ番組で紹介された名店のチョコレートなのだからどれも美味しいのは分かっているのだが、菜央ちゃんはこういう時どれが一番美味しいかを見分けるのが得意でそれを一番に食べたがる。だから、菜央ちゃんが真っ先に食べたチョコレートが最も美味しいチョコレートであると推察する事は、幼馴染の俺の知恵でもあった。
「えっと、お姉ちゃんが食べたのはこれとこれとこれ」
「なんだよ菜央ちゃん3つも食べたの?」
「お母さんが『3つくらい食べておきなさい』ってお姉ちゃんに勧めたんだよ。すぐに帰らなきゃいけなかったし、私やお母さんは後で食べれるから一個ずつにしたけど」
「ブフッ……」
その時思わず「カロリー摂取しすぎだろ」とその場に居ない人間へツッコミを入れようとしたんだが、
「…………そっか……それもそうだな。毎日菜央ちゃんは大変だもんな。チョコレートでお疲れ様の労いしてあげないとだな」
そういえば菜央ちゃんは夜も明けない内から仕事をして1時間半もの運転を経てきてくれたんだったと思い出す。
噴き出して笑ってしまったものの出かかったツッコミを無理矢理呑み込んだ俺は、菜央ちゃんの食べた種類の内一つを選んで指で摘んだ。
「あっ……そのチョコレート……」
すると夏実が「それ食べてみたかったのに」とでも言いたげな表情になったので
「はい夏実、口開けて」
菜央ちゃんが真っ先に口に放り込んだであろうものと同型のそれを、夏実の唇にプチュッとくっつけた。
「っ♡」
幼馴染の知恵たる予想は正解だったようで、夏実は遠慮する事なくそのままパクっと俺の指ごと口内に包み込む。
「フフッ」
その反則的な行動に俺は声を出して笑い、夏実の舌で指とチョコレートを離すまでその口内や舌の感覚を愉しんだ。
「ん……」
「……」
茶に濡れる唇から指を追い出されるところまでジッと見つめ……解放された指を己の舌で残滓を舐め取る。
「湊人のえっちぃ……」
頰をほんのり赤く染めながら口をもぐもぐし、俺を上目遣いする夏実の台詞に
「夏実の方がエッチだろ?」
とそのままそっくり返してやった。
「んむぅ」
「菜央ちゃんが2番目に食べたチョコは? 教えてよ」
「えっとぉ……コレ」
「コレね。確かに美味そう♪」
菜央ちゃんオススメ第2位のチョコレートを訊いてから改めてチョコレートを摘んで自分の口に放り込む。
チョコレートのなめらかさは確かに今までに俺が口にしてきたものとは別格で、口内にまったりと感じる余韻の長さにも驚いた。
「直くんが作ったチョコレートって、どれかなぁ?」
2つ抜けたチョコレートのアソートボックスを見つめながら夏実が呟く。
(「直くん」……か)
夏実は俺の気付かない間に、実家から遠く離れた兄のことを「お兄ちゃん」ではなく「直くん」と呼ぶようになっていた。
「うん…………そう、だな……」
俺は今、夏実に何て返答しようか迷っている。
車内での会話みたいに、知らないフリをしたり嘘をついたっていいのだが……。
「直くんがテレビに一瞬映った時もちゃんと作ってる感じだったもん。私はこの中のどれかは必ず直くんが作ったチョコレートだと信じてるんだ」
夏実が俺に向ける純粋な笑みに、俺も微笑みで返して
「もし、『全部』って言ったらどうする?」
と問い掛けてみる。
「え? 全部??」
俺の言葉に不思議な顔をする夏実に、俺はもう一つチョコレートを摘んでその唇に近付け
「いや、俺も知らないよ? でも、直くんが急いで俺の注文分を準備してくれたから……『直くんが休憩を惜しんでこれを作ってくれたのかな』とか想像しながら食べた方がより美味しく感じないかな~……なんて思っただけ」
……と、ほぼ正解を言ってるような言葉をわざと発する。
「直くんが急いでって……1か月前に注文したのが普通に届いたんじゃなかったの?」
当然そう返ってくる疑問点に、俺は
「晴美さんと菜央ちゃんには内緒にして」
と前置きして俺のスマホ画面を夏実に見せて説明した。
「えっ……」
「実はね、村川くん家に泊まりに行った日から数日間、直くんと直接連絡取ってたんだよ」
「本当に…………?」
俺の話を聞きながら、直くんと俺とのメッセージやり取りが表示されている画面を夏実は信じられないような表情で見つめる。
「後で俺は直くんにチョコレートの御礼と感想をメールで送ろうと思ってる。返事が返ってくる保証はないけど、その時に直くんのアカウントを夏実に教えていいか打診しようかと思うんだ……夏実はどうしたい? 直くんと連絡取り合いたいって思う?」
テレビ番組で紹介された名店のチョコレートなのだからどれも美味しいのは分かっているのだが、菜央ちゃんはこういう時どれが一番美味しいかを見分けるのが得意でそれを一番に食べたがる。だから、菜央ちゃんが真っ先に食べたチョコレートが最も美味しいチョコレートであると推察する事は、幼馴染の俺の知恵でもあった。
「えっと、お姉ちゃんが食べたのはこれとこれとこれ」
「なんだよ菜央ちゃん3つも食べたの?」
「お母さんが『3つくらい食べておきなさい』ってお姉ちゃんに勧めたんだよ。すぐに帰らなきゃいけなかったし、私やお母さんは後で食べれるから一個ずつにしたけど」
「ブフッ……」
その時思わず「カロリー摂取しすぎだろ」とその場に居ない人間へツッコミを入れようとしたんだが、
「…………そっか……それもそうだな。毎日菜央ちゃんは大変だもんな。チョコレートでお疲れ様の労いしてあげないとだな」
そういえば菜央ちゃんは夜も明けない内から仕事をして1時間半もの運転を経てきてくれたんだったと思い出す。
噴き出して笑ってしまったものの出かかったツッコミを無理矢理呑み込んだ俺は、菜央ちゃんの食べた種類の内一つを選んで指で摘んだ。
「あっ……そのチョコレート……」
すると夏実が「それ食べてみたかったのに」とでも言いたげな表情になったので
「はい夏実、口開けて」
菜央ちゃんが真っ先に口に放り込んだであろうものと同型のそれを、夏実の唇にプチュッとくっつけた。
「っ♡」
幼馴染の知恵たる予想は正解だったようで、夏実は遠慮する事なくそのままパクっと俺の指ごと口内に包み込む。
「フフッ」
その反則的な行動に俺は声を出して笑い、夏実の舌で指とチョコレートを離すまでその口内や舌の感覚を愉しんだ。
「ん……」
「……」
茶に濡れる唇から指を追い出されるところまでジッと見つめ……解放された指を己の舌で残滓を舐め取る。
「湊人のえっちぃ……」
頰をほんのり赤く染めながら口をもぐもぐし、俺を上目遣いする夏実の台詞に
「夏実の方がエッチだろ?」
とそのままそっくり返してやった。
「んむぅ」
「菜央ちゃんが2番目に食べたチョコは? 教えてよ」
「えっとぉ……コレ」
「コレね。確かに美味そう♪」
菜央ちゃんオススメ第2位のチョコレートを訊いてから改めてチョコレートを摘んで自分の口に放り込む。
チョコレートのなめらかさは確かに今までに俺が口にしてきたものとは別格で、口内にまったりと感じる余韻の長さにも驚いた。
「直くんが作ったチョコレートって、どれかなぁ?」
2つ抜けたチョコレートのアソートボックスを見つめながら夏実が呟く。
(「直くん」……か)
夏実は俺の気付かない間に、実家から遠く離れた兄のことを「お兄ちゃん」ではなく「直くん」と呼ぶようになっていた。
「うん…………そう、だな……」
俺は今、夏実に何て返答しようか迷っている。
車内での会話みたいに、知らないフリをしたり嘘をついたっていいのだが……。
「直くんがテレビに一瞬映った時もちゃんと作ってる感じだったもん。私はこの中のどれかは必ず直くんが作ったチョコレートだと信じてるんだ」
夏実が俺に向ける純粋な笑みに、俺も微笑みで返して
「もし、『全部』って言ったらどうする?」
と問い掛けてみる。
「え? 全部??」
俺の言葉に不思議な顔をする夏実に、俺はもう一つチョコレートを摘んでその唇に近付け
「いや、俺も知らないよ? でも、直くんが急いで俺の注文分を準備してくれたから……『直くんが休憩を惜しんでこれを作ってくれたのかな』とか想像しながら食べた方がより美味しく感じないかな~……なんて思っただけ」
……と、ほぼ正解を言ってるような言葉をわざと発する。
「直くんが急いでって……1か月前に注文したのが普通に届いたんじゃなかったの?」
当然そう返ってくる疑問点に、俺は
「晴美さんと菜央ちゃんには内緒にして」
と前置きして俺のスマホ画面を夏実に見せて説明した。
「えっ……」
「実はね、村川くん家に泊まりに行った日から数日間、直くんと直接連絡取ってたんだよ」
「本当に…………?」
俺の話を聞きながら、直くんと俺とのメッセージやり取りが表示されている画面を夏実は信じられないような表情で見つめる。
「後で俺は直くんにチョコレートの御礼と感想をメールで送ろうと思ってる。返事が返ってくる保証はないけど、その時に直くんのアカウントを夏実に教えていいか打診しようかと思うんだ……夏実はどうしたい? 直くんと連絡取り合いたいって思う?」
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