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【番外編】私と王子様の、夏の夜(side夏実)
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『イヤホン付けた? 俺の声、よく聞こえる?』
「うん」
『俺の声はどう聞こえる? ちゃんと、エッチに聞こえる?』
私の「王子様」は、10年経っても変わらない。
本人は「おっさんになった」とか「若くない」とか言い訳するけれど、私はそんな言い訳してほしくないって思ってしまう。
私にとって初恋の片思い相手だった「みなとくん」が、彼氏になって……「湊人」になってイチャイチャする関係に変化しても、私に語りかけてくる落ち着いた低い声は当時と全く変わらないって感じるから。
「イヤホンマイクにしなくたってぇ、湊人の声はエッチだよぅ」
あっ、そうだ。全く変わらないわけでもないんだった。
最近湊人の声がエッチに感じるようになったのは少しの変化かな?とも思う。
湊人と一緒に住む部屋が決まったし、家具や家電も揃った状態ではあるけれど、私がまだ未成年の高校生だから平日の夜はこうして彼と離れ離れで過ごさなきゃいけない。
寝る前に電話だけするという状況であっても、こうしてイヤホンマイクを装着して湊人の声を聞いていると、裸で私を抱き締めて耳にそっと囁いてくれているような錯覚に陥り、私は既にエッチな気分でいっぱいになっちゃっている。
『こうして電話するの、楽しいんだけどまだ慣れないなぁ……まだ3回目くらいだからかな……』
「うん、まだ3回目だもんね」
『夏実は今、ドキドキしてる?』
「勿論すっごくドキドキしてるよ。湊人もしてる?」
『俺もしてる』
言葉で確認しなくたって、ドキドキの空気感は充分伝わっている。
でも敢えてちゃんと言葉として……彼の声として聞きたいっていう気持ちがあった。
イヤホンから伝わる湊人の声は、吐息と共にかけられる私への優しい気持ちが……無機質な機械を通してもちゃんと再現されて伝わってきていて。
低音が人体と共鳴するように私の血流を良くしてドキドキもさせるし、筋肉をほぐして心地よい気分にもさせる。
「もう『好き好き攻撃』、始めてもいい?」
ドキドキ感が高まった私は、2回目の電話の時に湊人とふざけながらやった遊びをまたしていいか訊いてみた。
『いいよ。夏実の好き好きは、俺も聞いてて幸せな気分になるから』
「んもぅ……そんなかっこいい事言われたらキュンキュンしちゃうよぅ。湊人好きぃ♡」
『フフッ……俺も夏実が可愛すぎて好き。』
「好きー♡好き好き♡」
『俺も夏実が好き。大好き。』
「やぁん♡大好きは私の方が先に言いたかったのにぃ♡」
『前回だって言っただろ?早い者勝ちだって。』
「やっぱり悔しいよ~~~。」
「好き好き攻撃」とは、単にお互いの事を「好き、大好き」って言い合うだけのくだらないやり取りなんだけど、案外湊人も気に入ってくれているから嬉しいし結構ノリノリでやってくれる。
『好き』
「好きぃ♡」
『好き、好き』
「やぁん♡ 大好き大好き♡♡♡」
『じゃあ……大好き大好き大好き大好き』
スマホを耳に当てるんじゃなくて、イヤホンマイクを使った会話ってどうしてこんなにもドキドキが高まって興奮して脳内がお花畑みたいになるんだろう?
これってもしかして、滉くんがあの時言っていた「低い音は人間の体を震わせて、緊張をほぐしたり血液の流れを良くする効果が有る」ってヤツなのかな?
確かにイヤホンから聞こえる優しい王子様みたいな低音ボイスは私の体全体に響いていて、血流がドクドク鳴る感覚もあるし私の心を熱くさせている。
ーーー
『肩車してもらったからおっさんを王子様と思うなつこはやっぱりちょっと変だ。
低い声に単純に魅せられたのなら、理論的にも都合がつくのに』
ーーー
私は何度も滉くんに私の王子様エピソードを話しているっていうのに、未だに滉くんは納得がいってなくて「声の低さで好きになったんだよ」と勝手に結論付けてくる。
確かに湊人の声は私に特別感を与えるし、聞いていると筋肉が緩んで、リラックス出来て、それと同時に血液の流れをよくして、エッチな気分にもなって、快感に似た心地良い気分を生み出す。
「湊人が好きぃ……大好きぃ♡ 好きで好きでたまんないよぅ♡」
『俺も夏実が好き。好き、好き……大好きっ』
比べて私の声は彼より高い。
滉くんのあの話によれば、高い音は人間の頭を震わせて脳を活性化したり意識を目覚めさせたりする効果があるって事になるんだけど、そうするとリラックスしている私とは真逆になるから彼を眠れなくさせてるんじゃないかっていう不安に駆られた。
「ねぇ、湊人。無理してない?」
『えっ?』
10年前の青ざめた王子様の顔を思い出した私は、「好き好き攻撃」を一方的にやめて
「だって……湊人は、幼い私に付き合ってくれてるだけなんでしょう?」
声を震わせ、目から涙を流す。
『ちょっ……!! どうしたどうした? 俺が不安にさせちまったか? 俺の好きの言い方が悪かったか?』
私の反応に湊人は焦っているようで、「自分が悪い」って自分自身を責めるような言葉を漏らした。
「ううん……なんか……子どもっぽい事を湊人にさせちゃったかなぁって、反省しちゃった」
それが逆に罪悪感を生んで、私の涙が止まらない。
10年前のテーマパークへ湊人を無理矢理運転させたり、苦手な人混みの中に何時間も座らせちゃったりしたあの思い出が蘇って……今もなお私は彼に無理ばかりさせていると反省する。
『反省なんかしなくていい。俺はいつも楽しく夏実と過ごせてるんだから』
「えっ?」
すると、イヤホンマイクから聞こえてきたのは、10年前茜空を見上げながら聞いた彼のセリフと全く同じもので……。
『結構楽しいよ、夏実とこうしてるの』
「……」
青ざめた王子様が精一杯私に向けてくれた笑顔の言葉だった。
『イヤホン付けた? 俺の声、よく聞こえる?』
「うん」
『俺の声はどう聞こえる? ちゃんと、エッチに聞こえる?』
私の「王子様」は、10年経っても変わらない。
本人は「おっさんになった」とか「若くない」とか言い訳するけれど、私はそんな言い訳してほしくないって思ってしまう。
私にとって初恋の片思い相手だった「みなとくん」が、彼氏になって……「湊人」になってイチャイチャする関係に変化しても、私に語りかけてくる落ち着いた低い声は当時と全く変わらないって感じるから。
「イヤホンマイクにしなくたってぇ、湊人の声はエッチだよぅ」
あっ、そうだ。全く変わらないわけでもないんだった。
最近湊人の声がエッチに感じるようになったのは少しの変化かな?とも思う。
湊人と一緒に住む部屋が決まったし、家具や家電も揃った状態ではあるけれど、私がまだ未成年の高校生だから平日の夜はこうして彼と離れ離れで過ごさなきゃいけない。
寝る前に電話だけするという状況であっても、こうしてイヤホンマイクを装着して湊人の声を聞いていると、裸で私を抱き締めて耳にそっと囁いてくれているような錯覚に陥り、私は既にエッチな気分でいっぱいになっちゃっている。
『こうして電話するの、楽しいんだけどまだ慣れないなぁ……まだ3回目くらいだからかな……』
「うん、まだ3回目だもんね」
『夏実は今、ドキドキしてる?』
「勿論すっごくドキドキしてるよ。湊人もしてる?」
『俺もしてる』
言葉で確認しなくたって、ドキドキの空気感は充分伝わっている。
でも敢えてちゃんと言葉として……彼の声として聞きたいっていう気持ちがあった。
イヤホンから伝わる湊人の声は、吐息と共にかけられる私への優しい気持ちが……無機質な機械を通してもちゃんと再現されて伝わってきていて。
低音が人体と共鳴するように私の血流を良くしてドキドキもさせるし、筋肉をほぐして心地よい気分にもさせる。
「もう『好き好き攻撃』、始めてもいい?」
ドキドキ感が高まった私は、2回目の電話の時に湊人とふざけながらやった遊びをまたしていいか訊いてみた。
『いいよ。夏実の好き好きは、俺も聞いてて幸せな気分になるから』
「んもぅ……そんなかっこいい事言われたらキュンキュンしちゃうよぅ。湊人好きぃ♡」
『フフッ……俺も夏実が可愛すぎて好き。』
「好きー♡好き好き♡」
『俺も夏実が好き。大好き。』
「やぁん♡大好きは私の方が先に言いたかったのにぃ♡」
『前回だって言っただろ?早い者勝ちだって。』
「やっぱり悔しいよ~~~。」
「好き好き攻撃」とは、単にお互いの事を「好き、大好き」って言い合うだけのくだらないやり取りなんだけど、案外湊人も気に入ってくれているから嬉しいし結構ノリノリでやってくれる。
『好き』
「好きぃ♡」
『好き、好き』
「やぁん♡ 大好き大好き♡♡♡」
『じゃあ……大好き大好き大好き大好き』
スマホを耳に当てるんじゃなくて、イヤホンマイクを使った会話ってどうしてこんなにもドキドキが高まって興奮して脳内がお花畑みたいになるんだろう?
これってもしかして、滉くんがあの時言っていた「低い音は人間の体を震わせて、緊張をほぐしたり血液の流れを良くする効果が有る」ってヤツなのかな?
確かにイヤホンから聞こえる優しい王子様みたいな低音ボイスは私の体全体に響いていて、血流がドクドク鳴る感覚もあるし私の心を熱くさせている。
ーーー
『肩車してもらったからおっさんを王子様と思うなつこはやっぱりちょっと変だ。
低い声に単純に魅せられたのなら、理論的にも都合がつくのに』
ーーー
私は何度も滉くんに私の王子様エピソードを話しているっていうのに、未だに滉くんは納得がいってなくて「声の低さで好きになったんだよ」と勝手に結論付けてくる。
確かに湊人の声は私に特別感を与えるし、聞いていると筋肉が緩んで、リラックス出来て、それと同時に血液の流れをよくして、エッチな気分にもなって、快感に似た心地良い気分を生み出す。
「湊人が好きぃ……大好きぃ♡ 好きで好きでたまんないよぅ♡」
『俺も夏実が好き。好き、好き……大好きっ』
比べて私の声は彼より高い。
滉くんのあの話によれば、高い音は人間の頭を震わせて脳を活性化したり意識を目覚めさせたりする効果があるって事になるんだけど、そうするとリラックスしている私とは真逆になるから彼を眠れなくさせてるんじゃないかっていう不安に駆られた。
「ねぇ、湊人。無理してない?」
『えっ?』
10年前の青ざめた王子様の顔を思い出した私は、「好き好き攻撃」を一方的にやめて
「だって……湊人は、幼い私に付き合ってくれてるだけなんでしょう?」
声を震わせ、目から涙を流す。
『ちょっ……!! どうしたどうした? 俺が不安にさせちまったか? 俺の好きの言い方が悪かったか?』
私の反応に湊人は焦っているようで、「自分が悪い」って自分自身を責めるような言葉を漏らした。
「ううん……なんか……子どもっぽい事を湊人にさせちゃったかなぁって、反省しちゃった」
それが逆に罪悪感を生んで、私の涙が止まらない。
10年前のテーマパークへ湊人を無理矢理運転させたり、苦手な人混みの中に何時間も座らせちゃったりしたあの思い出が蘇って……今もなお私は彼に無理ばかりさせていると反省する。
『反省なんかしなくていい。俺はいつも楽しく夏実と過ごせてるんだから』
「えっ?」
すると、イヤホンマイクから聞こえてきたのは、10年前茜空を見上げながら聞いた彼のセリフと全く同じもので……。
『結構楽しいよ、夏実とこうしてるの』
「……」
青ざめた王子様が精一杯私に向けてくれた笑顔の言葉だった。
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