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可愛い彼女と俺の恋
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夏実が8歳の時に俺を王子様だと思い、以後俺を男として見てくれていた事。
幼い頃から言われていた「みなとくんのお嫁さんになりたい」を軽い気持ちで流してはいけなかった事。
それからたった今聞かされた、俺が夏実を好きでいるのか分からず彼女は一人思い悩んでいた事。
……それらがまた、俺の心を突き刺さし、次々と抉ってくる。
「なぁおっさん、なつこには言わねぇから教えてくれよ。
おっさんはいつからなつこを好きでいた? いつからなつこを女として見た?
…………なつこが告白してきた時、おっさんはどんな気持ちでそれを受けたんだ?」
「おっさんの、ちゃんとした答えを聞いてみたい。滉の為にも」
「それは……」
滉の強い眼差しに捉えられ、そこまで言われたのに……。
「それは夏実が告白してきた時に決まっているだろう」
答えられなかった。
言えなかった。
正確には何かを言おうとして……すんでのところで「ちゃんとした答えとはなんだ?」という問いが脳内を駆け巡り、想いを掻き乱して……。
当たり障りのない、俺の口から夏実に向けて初めて出た瞬間をそのまま返答するしかなかった。
「はあぁぁ~~~……やっぱそうかぁ」
俺の返答に茉莉はテーブルに頭や腕を伏せてがっかりした声をあげて
「……」
滉は黙って自分の鞄から予備校のテキストやノートを取り出し始めた。
俺は空になった皿やグラスを回収して立ち上がり、キッチンのシンクに一旦置く。
「2人が夏実にしてくれた事には感謝するよ。でも、俺はお前らから若い期待をかけられるような男じゃないんだ。実際、いつから夏実を女として見たかなんて俺自身気付かないくらいなんだから」
それから2人になるべく落ち着いた声でそう言って、棚から先月本屋で選んだ参考書などを取り出して2人の前に置いた。
「今から自習でもしとけ。俺の教え方は予備校レベルに達してないからお前らの身にならないだろう? 代わりに要らなくなったテキストやるから」
さっきの返答で2人を失望させたのなら、これらを持って帰るなどしてくれればいいと思った。
2人が俺に会う一番の目的が先程達成されたのであれば、これ以上長い時間居られるのが互いの為に良くないのだとも思うし。
「いやいやいやいや、おっさん!
私達がここに来たのはマジでおっさんに勉強教えてもらおうと思ったからだし。さっきの質問はおまけっていうか」
滉は黙ったままだったが、茉莉は顔をブルブルと横に振っている。
「はぁ? 俺素人だぞ?」
俺が勉強を教えられると夏実から聞いたのかもしれないが、だからといって予備校講師さながらのものが出来るとは思っていない。
ちゃんとその辺の事も茉莉や滉に伝わっていないのではないかと、茉莉の顔を見ながら顔を顰めた。
「素人でもなつこを成績上位にキープしてんじゃん。しかも理系クラスでさ。だからこっち座ってよ、早く早く」
「…………本気かよ……」
(これは完全に伝わってないな……知らねーぞどうなっても)
夏実の所為ではあるが、夏実に「俺は先生じゃなく素人である」と念押ししなかった俺も悪い。
仕方なく茉莉に言われるがまま、俺はその側に座った。
(っていうか、茉莉はちゃんと勉強する気だったんだな。滉はどう考えていたのか知らないが……)
「で? 俺は何教えりゃいいんだ?」
茉莉にそれを訊くとちょうど俺の得意とする科目だったのもあり、いつも夏実に教える感覚でテキストの隣に積み上げたノートの中から一冊取り出して開く。
「何これ。このノート凄くない?」
何気なく何冊もその場に置き、何気なくそこから教えようとする科目のノートを開いたら茉莉がビックリした声をあげる。
「え? 凄いって何が?」
「だから、ノートだって。まさか全科目網羅してるわけじゃないよね?!」
「ん? あぁ……これ? 全科目じゃなくて、夏実が今まで履修してきた科目の自習ノートだけど」
俺にとってはそれらが全て何気ない行動だったから自覚してなかったが、確かにこのノートの冊数は一見異様かもしれない。
「マジ?! どれも綺麗な字で分かりやすくまとめられてるんだけど!!」
茉莉は積み上げたノートを上から2冊手に取ると、パラパラめくり目を見開かせる。
「そりゃそうだよ。高校の内容なんて俺も12年振りだし、社会系に至っては変わってる部分もあるかもしれないし、夏実が一年の段階で志望校に選んだ大学の受験科目が俺の苦手科目なら、尚更俺も予習しないとやってけないから」
「マジ?? マジで言ってんのおっさん!! 本気でこの量勉強した上で夏実に教えてたの?」
「だから全科目じゃないって」
「それでもヤバいよ! ってかなんでそんな平然とした顔で居られるの??」
茉莉はノートを途中でパンッと閉じ、夏実が理系クラスに入ってからの履修科目のノートを急いで探して滉の前に差し出した。
「滉も見なよ! ヤバいから!」
「……」
興奮する茉莉に対して、滉は本当に興味無さ気に無視を決め込む。
「絶対滉に必要だってこれ!! ……ねぇおっさん! このノートもらっちゃっていい?」
茉莉は一旦、自分のテキストに視線を落としたままの滉から俺へと向き直ってノートを持って帰ってもいいか訊いてきた。
「こんなんで良ければやるよ。もう必要ないから」
受験しない夏実にはもう不要だし、学校の定期テストレベルならもう彼女に教える事は少ない。
9月に入ったら夏実との勉強手伝いはゆるくやるつもりでいたからこれらは俺にとって本当に不要な紙束でしかなかった。
「じゃあ持って帰る!! 全部ちょうだい!」
茉莉だけとにかく興奮してそんな事を言い出したもんだから
「全部って、茉莉は文系クラスだから要らないヤツ結構あるぞ?」
「いいの! 欲しいのっ!!」
皿に乗せた菓子を自分の方に寄せた時よりも嬉しそうに目を輝かせてきたからこっちもなんだか恥ずかしくなってきた。
幼い頃から言われていた「みなとくんのお嫁さんになりたい」を軽い気持ちで流してはいけなかった事。
それからたった今聞かされた、俺が夏実を好きでいるのか分からず彼女は一人思い悩んでいた事。
……それらがまた、俺の心を突き刺さし、次々と抉ってくる。
「なぁおっさん、なつこには言わねぇから教えてくれよ。
おっさんはいつからなつこを好きでいた? いつからなつこを女として見た?
…………なつこが告白してきた時、おっさんはどんな気持ちでそれを受けたんだ?」
「おっさんの、ちゃんとした答えを聞いてみたい。滉の為にも」
「それは……」
滉の強い眼差しに捉えられ、そこまで言われたのに……。
「それは夏実が告白してきた時に決まっているだろう」
答えられなかった。
言えなかった。
正確には何かを言おうとして……すんでのところで「ちゃんとした答えとはなんだ?」という問いが脳内を駆け巡り、想いを掻き乱して……。
当たり障りのない、俺の口から夏実に向けて初めて出た瞬間をそのまま返答するしかなかった。
「はあぁぁ~~~……やっぱそうかぁ」
俺の返答に茉莉はテーブルに頭や腕を伏せてがっかりした声をあげて
「……」
滉は黙って自分の鞄から予備校のテキストやノートを取り出し始めた。
俺は空になった皿やグラスを回収して立ち上がり、キッチンのシンクに一旦置く。
「2人が夏実にしてくれた事には感謝するよ。でも、俺はお前らから若い期待をかけられるような男じゃないんだ。実際、いつから夏実を女として見たかなんて俺自身気付かないくらいなんだから」
それから2人になるべく落ち着いた声でそう言って、棚から先月本屋で選んだ参考書などを取り出して2人の前に置いた。
「今から自習でもしとけ。俺の教え方は予備校レベルに達してないからお前らの身にならないだろう? 代わりに要らなくなったテキストやるから」
さっきの返答で2人を失望させたのなら、これらを持って帰るなどしてくれればいいと思った。
2人が俺に会う一番の目的が先程達成されたのであれば、これ以上長い時間居られるのが互いの為に良くないのだとも思うし。
「いやいやいやいや、おっさん!
私達がここに来たのはマジでおっさんに勉強教えてもらおうと思ったからだし。さっきの質問はおまけっていうか」
滉は黙ったままだったが、茉莉は顔をブルブルと横に振っている。
「はぁ? 俺素人だぞ?」
俺が勉強を教えられると夏実から聞いたのかもしれないが、だからといって予備校講師さながらのものが出来るとは思っていない。
ちゃんとその辺の事も茉莉や滉に伝わっていないのではないかと、茉莉の顔を見ながら顔を顰めた。
「素人でもなつこを成績上位にキープしてんじゃん。しかも理系クラスでさ。だからこっち座ってよ、早く早く」
「…………本気かよ……」
(これは完全に伝わってないな……知らねーぞどうなっても)
夏実の所為ではあるが、夏実に「俺は先生じゃなく素人である」と念押ししなかった俺も悪い。
仕方なく茉莉に言われるがまま、俺はその側に座った。
(っていうか、茉莉はちゃんと勉強する気だったんだな。滉はどう考えていたのか知らないが……)
「で? 俺は何教えりゃいいんだ?」
茉莉にそれを訊くとちょうど俺の得意とする科目だったのもあり、いつも夏実に教える感覚でテキストの隣に積み上げたノートの中から一冊取り出して開く。
「何これ。このノート凄くない?」
何気なく何冊もその場に置き、何気なくそこから教えようとする科目のノートを開いたら茉莉がビックリした声をあげる。
「え? 凄いって何が?」
「だから、ノートだって。まさか全科目網羅してるわけじゃないよね?!」
「ん? あぁ……これ? 全科目じゃなくて、夏実が今まで履修してきた科目の自習ノートだけど」
俺にとってはそれらが全て何気ない行動だったから自覚してなかったが、確かにこのノートの冊数は一見異様かもしれない。
「マジ?! どれも綺麗な字で分かりやすくまとめられてるんだけど!!」
茉莉は積み上げたノートを上から2冊手に取ると、パラパラめくり目を見開かせる。
「そりゃそうだよ。高校の内容なんて俺も12年振りだし、社会系に至っては変わってる部分もあるかもしれないし、夏実が一年の段階で志望校に選んだ大学の受験科目が俺の苦手科目なら、尚更俺も予習しないとやってけないから」
「マジ?? マジで言ってんのおっさん!! 本気でこの量勉強した上で夏実に教えてたの?」
「だから全科目じゃないって」
「それでもヤバいよ! ってかなんでそんな平然とした顔で居られるの??」
茉莉はノートを途中でパンッと閉じ、夏実が理系クラスに入ってからの履修科目のノートを急いで探して滉の前に差し出した。
「滉も見なよ! ヤバいから!」
「……」
興奮する茉莉に対して、滉は本当に興味無さ気に無視を決め込む。
「絶対滉に必要だってこれ!! ……ねぇおっさん! このノートもらっちゃっていい?」
茉莉は一旦、自分のテキストに視線を落としたままの滉から俺へと向き直ってノートを持って帰ってもいいか訊いてきた。
「こんなんで良ければやるよ。もう必要ないから」
受験しない夏実にはもう不要だし、学校の定期テストレベルならもう彼女に教える事は少ない。
9月に入ったら夏実との勉強手伝いはゆるくやるつもりでいたからこれらは俺にとって本当に不要な紙束でしかなかった。
「じゃあ持って帰る!! 全部ちょうだい!」
茉莉だけとにかく興奮してそんな事を言い出したもんだから
「全部って、茉莉は文系クラスだから要らないヤツ結構あるぞ?」
「いいの! 欲しいのっ!!」
皿に乗せた菓子を自分の方に寄せた時よりも嬉しそうに目を輝かせてきたからこっちもなんだか恥ずかしくなってきた。
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