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俺と彼女の可愛い主張
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しおりを挟む土曜日の朝8時半。
電車に乗って夏実が家にやってきた。
「湊人会いたかった♡」
俺が出迎えるなり、夏実は嬉しそうな声をあげて俺にとびついてきたから
「俺も会いたかった♡」
「夏実は相変わらず可愛いな」と思いながら優しく抱き止める。
「ごめんね湊人眠くない?来る時間早過ぎたかな?」
一応昨夜のメールで来る時間帯を予告済みだったにも拘らず、こうして「迷惑な時間ではなかったか?」と確認してくるところがまた可愛い。
「全然。俺と夏実の仲だし、もっと早くても良いくらいだよ」
俺はそう返答して可愛い夏実を愛おしくキュッと抱き締めてやった。
そもそも盆休みの勉強会なんか、今より30分も早かったのだから俺にとって夏実がやってくる8時半なんて充分常識的な時間帯ともいえるし、なんだったら日が昇る前の薄明るい時間に来たって俺は怒らないと思う。
しかも「俺と夏実の仲」だなんて、昨夜にいきなり訪ねてきた滉のセリフと被っているじゃないか。あの時は滉を「都合のいいガキだ」と呆れたものだが、それと全く同じ表現を使用する上に夏実には何時でも来ていいと感じるあたり、恋愛真っ只中の脳というものは実に都合良い作りになっているのかと呆れてしまった。
「土曜日だし、もっと早く来たら湊人寝てるかもしれないでしょ? 私また湊人の寝起き襲っちゃうかもよ?」
俺の胸に頭をグリグリ押し付けながら、夏実が可愛らしくも意地悪げな声で俺にそんなことを言ってきたけれど
「もう恥ずかしいとは思わないから平気♡」
そう言い返してハグしてる身体ごと左右にユラユラと揺らす。
確かに2度、夏実が眠る俺の寝込みをキスで襲ってきた事があり、その時は朝の生理現象やまだらに伸びた汚らしい髭面を見られてしまうのに抵抗があったのだが、2週間のお試し同棲を経た上での現在では恥ずかしいなんて言ってられず、ただただ今は枯渇していた夏実成分を嗅覚や触覚から取り入れる為ならば汚らしい中年姿でもなんだって晒してやろうという心境までになっている……とはいえ、今日に限っては既に身支度を整えて髪型も服装も夏実好みのスタイルへと完璧に仕上げてきた訳だけど。
「湊人は朝ごはん食べた? 駅のパン屋さんでちょっと買ってきちゃった♪ 食べる?」
そういえば夏実を抱き止める時に俺の腰から尻にかけて生温かいものが入ったポリ袋が当たる音と、香ばしい焼きたてパンの香りがしているなぁとなんとなく感じていた。
「そういう夏実もまだ食べてないんだろ? 俺も食べてないから一緒に食べようか」
俺は夏実の顔を見下ろして笑顔をつくり、腕の中の彼女の表情を幸せにさせ……さっきよりも一層ギュウッと強く抱き締める。
「ちょっとぉ、そんなに強く抱き締められたら動けないよぅ」
少々困ったような声で俺に呼び掛けてきたが
「いいんだよ、夏実は動かなくて」
正直、夏実と1ミリも離れたくないので仕方がない。
「やん♡」
「ほら、靴だけ脱いで」
俺は夏実の耳にそっと優しく指示をして、夏実が素直に靴を脱いだのを確認すると、両腕を夏実の尻の下辺りで組んでグッと持ち上げた。
「きゃあ!」
お姫様抱っことは違う、18歳の縦抱っこに驚いた夏実は可愛い声を出して目線を俺の両目とピッタリ合わせる……というか、縦抱っこの状況的に 意図せずそうなったともいえるのだが。
「夏実」
「キスしよう」の意味で愛する者の名前を呼んで、そっと口付ける。
要は、単純にこれがしたくて縦抱っこをしただけだった……本当にそれ以外の理由は何もない。
「んふぅ♡」
「んっ♡」
「っふ……ぅん♡」
んの音と口吸いの音とを交互に響かせ、俺は抱っこしたまま夏実をキッチンまで運び、トースターの前でそっと降ろしてやると
「本当に会いたかった……会いたすぎて苦しかった」
俺は素直な気持ちを彼女に伝えて、またハグをして可愛くヘアアレンジされた夏実の頭を優しく愛おしく撫でた。
「んぅ♡ 気持ちいい♡」
「フフッ」
夏実が買ってきてくれたパンの香りが空腹の胃を刺激するものだから、抱き締めやキスから物理的に離れなければならなくなるのは寂しくもある。
とはいえ、1週間振りだからこうして見つめ合うだけでも幸福感で満たされるし
「一応パンは焼きたてなんだけどトースターであっため直した方がいいよね?」
「そうだな。俺は飲み物用意するから夏実はあっためるのよろしく」
こういうちょっとした役割分担を言い合うのもやはり1週間振りだから、余計にワクワクドキドキしてきてそれがまた心地良い。
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