【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女と可愛い甘え

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「……」
「まぁ、所長代理様が今までも彼女に雑務を押し付けるような人でなくて良かったね。でもね、ほんの2年前まではそういう事を平気でやってた男なんだよ所長代理様は。
 もし森田さんが2年目でうちの部に所属されるのではなくそのまま大阪で営業事務してたらきっと今の鏑木さんの数倍の仕事を難なくこなしてるんだと俺は思うよ……矢野橋って名前の所長代理様、新人の頃から地味な作業が大嫌いだったから」

 森田さんが業務部に来たばかりの頃は身も心もボロボロで、我が社を辞めて他に転職した方がマシなんじゃないかっていうくらい精神的にやられていた。
 俺が彼女の教育係を任された時、メモを取る事から細かく教えなければなかったのもそういった背景からくるものだ。けれどもうちの主業務の一つである書類作成は、野崎さんよりも量をこなしている事が分かる仕事ぶりを転属初日から見せていた。
 矢野橋の行動をよく知る俺は、森田さんの取り組み方一つでそれが彼女に仕事でもプライベートでもどれだけ圧力をかけられていたかを理解出来る。
 森田さんは矢野橋とつるんで俺と野崎さんを貶した過去を持つのだが、本社も俺も野崎さんも森田さんを加害者とは思っていない。
 「森田さんは矢野橋から洗脳を受けていた」という考えを俺らが持つ所以ゆえんはその点にもあったのだ。

 だからこそ俺は今4次元の底で怒り狂っている。
 たった2年じゃ本質の変わらない矢野橋の事を。
 「洗脳」とも言える言動で大事な人材の身も心もボロボロにした矢野橋の事を。
 そしてそれをしておきながら、更に精神的に追い詰め薄ら笑う気味の悪さを……その男に同調する女の嗤いすらも。

「森田さんが事務に居たら私よりも仕事出来てたとか……そんなの仮定や想像の話じゃないですか。
 私は矢野橋さん含め営業部の方達から仕事の覚えの早さを褒められたり、取引先の社長さんとの会食に同席したりして既に信頼を得ています。実際、森田さんみたいな女性営業員では成し得なかった大きい物件情報を引き出して利益に繋げる事も出来てるんですから!
 自分のやるべき仕事をして営業の方達を私の力でサポート出来ているのは誇っていい事ですよね? 森田さんじゃ出来なかった事を私はやれているんですから!」

 鏑木さんはアルコールによる酔いもあってか、急に声を荒げて「森田さんと自分との違い」を他にも語り出した。
 誰が鏑木さんにその表現を使ったのかは何となく予想出来るが、何度も「森田さんは使えないが自分は使える人材だ」を繰り返した。

 使えるとか使えないとかそんな言葉、俺でさえも眉をひそめてしまうのに彼女はその口から全くのためらいもなくポンポンと出してくる。
 そういうところが矢野橋という男と一緒だと感じるし、現在矢野橋と付き合っている鏑木さんという女性はその男と性質そのものが通じ合っていて、洗脳されてた森田さんよりタチが悪いとハッキリ思った。

 同じ会社仲間を使える、使えないで振り分ける。
 ノーマルとアブノーマルで振り分ける。
 加えて、気に入らない人間を陰湿な方法で貶したり困らせようとする。
 ……そういう事を、俺だけじゃなく森田さんや狭山さんなど他の社員さんに対象の範囲を広げないでほしい。
 通常、こんな気持ちになる前に心の中だけでどす黒い気持ちを発散させて決して口には出さない俺も、今回ばかりは本気でイライラしてきた。
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